聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

14 / 22


Q . 白瀬の好みのタイプは?
A . 銀髪長身歳上巨乳美人。初恋が彼を狂わせた。





法王庁 ②

 

「和平、ですか。」

「ええ。我々教会陣営は悪魔、堕天使陣営との戦いを中断。彼らと足並みを揃え、次に起こるであろう脅威に備えることとします。」

 

 ミカエルは憂いを帯びたようにも、苦渋を味わっているかのようにも見える表情でそう言った。そしてその発言を聞いた女性天使はミカエルの言葉にしばらく沈黙した。

 

「……認められません!」

 

 その沈黙の果てに女性天使は叫んだ。そんなこと許されてたまるものかと。そんなことはあり得てはならないのだと。

 

「我々は神の御使い。主の命に従って人を導き、そして全ての悪を滅する存在です!そのことを貴方が、熾天使(セラフ)筆頭にして天界軍の先駆けである貴方が!忘れたとでも言うのですか!?その誇りを、その在り方を失って零落するとでも言うのですか!?」

 

 その言葉をミカエルは真正面から受け止めた。彼はその言葉を逃げることなく受け止めて、俯いた。

 

「─私だってしたくないですよこんなこと。」

 

 俯いたままミカエルが呟く。その言葉にハッとした女性がミカエルを見ると、彼は俯いたまま体を震わせ、血管が浮き出るほどに拳を握りしめている。

 

「こんなこと私だってしたくない。何が楽しくて悪魔と堕天使(ミディアン)どもと手を取り合わなくてはならないのですか。なんで私の戦友を、部下を殺した連中を裁いてはならないのですか。どうして私が、熾天使(セラフ)である私たちが目の前にいる下郎を滅してはならない時代を作らないといけないのですか。」

「………。」

 

 ミカエルが震えながら言葉を絞り出す。これは彼にとっても苦渋の判断だった。

 

御主(あるじ)がまだあの戦いで身罷っていなければ、私はこのような結論に達していなかったでしょう。ですが、あのお方は身罷った。それ故に私は、天界軍の軍団長である私が天界代表の代行になった。その私が、最も多くの神敵を屠ってきた私が連中との和平などという唾棄すべき行為に及んだ理屈は2つあります。」

 

 ミカエルがそう言って指を一本立てた。

 

「一つ。コカビエルが死んだ。いや、あの聖剣使いの手によって殺されたこと。」

 

 指を立てたままミカエルが語る。

 

「認めたくはないですがあのコカビエルは強い。星を読み、天体にすら干渉することの可能なあの堕天使はすこぶる強い。堕天使の時間である夜に本領を発揮する星の力にかつて神の下にいた証である聖なる力。最古の堕天使としての確かな能力(スペック)に百戦錬磨の戦闘経験を持つ、間違いなく堕天使陣営で3本の指に入る強者。そのコカビエルが死んだ。つまり、『天界陣営にコカビエルを殺せるほどの戦力がいる』ことが3大勢力間に広まったのです。」

 

 交渉とは舐められたら終わりだ。もし彼がいないまま和平交渉に挑んでいれば、戦力として精鋭ではあれど決定力に欠ける教会勢力は発言力が低くなるだろう。

 だが今ならばどうか。現役を退いたとはいえ史上最強最高の2人の聖剣使いに上位神滅具(ロンギヌス)使い、次代の不毀の聖剣(デュランダル)使い、そして太陽の聖剣(ガラティーン)使い。世界中に散らばる百戦錬磨の祓魔師(エクソシスト)たち。上級悪魔や堕天使にも太刀打ちできる、戦力として申し分ない者たちがゴロゴロと揃っている。この戦力はいかに堕天使と悪魔といえど無視はできない。

 

「だからこそできることを為します。これは今でなければならない。和平という餌をちらつかせながら剣で脅せる機会など今しかないのですから。」

「…なにをなさるおつもりですか?」

「撤廃を。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の完全撤廃を為します。そしてその果てに待つ、我々の悲願である全ての闇の眷属(ミディアン)の殲滅を。」

 

 ミカエルはそう言い切った。その目には揺るがない戦意の炎が揺らめいている。

 

「ですがまずは無辜の民を悪魔などという化生に変えるあの玩具を。かくあるべしと生み出された生き様を歪め、不幸の連鎖を生み出すあの憎き駒を消し去ります。そのためならば私は悪魔にでも頭を下げましょう。お願いします(プリーズ)とでも言ってやりましょう。」

 

 和平を餌に悪魔の駒などいらないだろうと唆してやるのだ。

 悪魔はなかなか数が増えない?大丈夫、戦争なんて起こらないから。平和ならどんなに子供の数が少なくてもいつかは増えるでしょう?だから戦力の補充なんて最低限で充分。そんなの冥界の悪魔達で賄えますよ。転生悪魔、そっちでも問題になってるんでしょう?もうやめた方がいいですよ。他の神話からも睨まれてますよ、貴方達。そんなの嫌でしょう?だからもうやめましょうよ。それにこれからは数より質の時代。今いる悪魔たちを大事にしていきましょう。そうやって悪魔よりも悪魔らしい囁きをしてやるのだ。

 そして悪魔達が数という名の牙を抜き、我々のことを味方だと勘違いしたその瞬間に背後(うしろ)から一撃を喰らわせてやろう。神罰という名の断罪の刃を、我々の本懐を遂げて見せよう。

 

「2つ目。下手すればこれが本来の目的と言えるかもしれません。…とはいえこれに関しては私も念の為の備えにしておきたいのですが。」

 

 2本目の指を伸ばし、眉間に皺を寄せながらミカエルが言った。

 

「『星の造った聖剣。その使い手が現れた時は用心せよ。あれが動くときは必ず時代も動く』。大戦前の本当に大昔の頃、なのでまだアーサー王も騎士ガウェインも、聖剣の使い手がだれも現れていなかった頃ですね。その頃に私が御主から拝聴した言葉です。まあ雑談のついでに、といった流れでしたが。」

 

 昔を思い出しながらミカエルが語る。女性はその言葉にじっと耳を傾けていた。

 

「その当時は何を言っているのか分かりませんでしたが…その後の急速な神秘の消滅、その最後の砦であったブリテンの滅びに星の聖剣が関与したことで、というかその中心にいたことでこの言葉は急に信憑性を帯びました。」

 

 その後太陽の聖剣の方は騎士ガウェインの遺体が教会に弔われたことで教会勢力が接収。アーサー王の死後に湖に返還された星の聖剣の方は人界のために振るう、という約束で湖の精霊から天界に譲られた。そして使い手が現れなかった太陽の方は安置され、逆に多くの人の手に渡った星の聖剣の方は大戦で砕け、7振りの聖剣として生まれ変わった。

 

「ですが、御主が言うにはあれらは本来『闇に属するものを屠る聖剣』ではないようなのです。むしろそれは付随効果のようなもので、本来の目的は別にあり、」

 

 つまりその剣は『対闇の眷属(ミディアン)特攻』の武器ではなく。

 

世界の外から来る敵(フォーリナー)を排除するための武器であると。」

 

 『対人類の脅威』特攻の武器。それこそが星の聖剣たちの真の正体。

 

 悪魔や堕天使もまた『人類の脅威』であるがゆえにその特攻範囲に入ってしまうだけで、本来の主目的は世界の外(フォーリナー)に対抗するための武器である。聖書の神はミカエルにそう告げていたのだ。

 

「まあ私も世界の外、についてはほぼ何の情報もないのでこれに関してはなんとも言えませんが…実際に星の聖剣使いがいる以上、念の為に備えて戦力を減らすわけにはいきません。そのために彼にも再生者(リジェネレーター)手術を受けてもらいましたし。」

「…あれ、未完成の技術だったはずでは?」

「本来ならば再生にかなりの体力を持っていかれるのでそうですが、彼はガラティーンを起動すれば動く炉心である【聖者の数字】を持つのでデメリットをある程度踏み倒せるのですよ。」

 

 つまりなんだ、と女性が考える。

 

 太陽の聖剣の真名解放→神器起動、全能力増加→戦闘中に負傷→体力を消費しながら回復→その体力を神器の持つ太陽の加護が補充→以下ループ

 

「…………。」

 

 これはひどい。なんだこれは、相手にまともに戦わせる気がないじゃないか。女性は頬をひくつかせた。

 

「実質永久機関が完成しました。これで今年の天界技術賞は私のものです。」

「何言ってるんですかミカエル様!?」

 

 したり顔でそう言い切ったミカエルに女性天使が大声でそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先程は失礼しました。私こういう者でして。」

 

 ヴァチカン近くの喫茶店でロスヴァイセは目の前に座る白瀬とイリナに名刺を差し出した。2人はそれを受け取り、目を凝らす。

 

北欧(アースガルズ)…」

戦乙女(ヴァルキリー)課…」

 

 常識的に考えれば到底信じられない、厨二病的な何かと思わざるを得ない肩書き。されど、その名刺が本物であると証明している。なぜか。その名刺に書かれているのは2人の知らない言語。なのに、なぜか内容が読める。何かの魔術が行われている証だった。

 

「ルーン文字…?」

「はい。ご存知なのですか?」

「内容はさっぱりですが…そう言うものがある、くらいは。」

 

 初めて見た、と白瀬は名刺をまじまじと見た。名刺に展開されている幾つもの魔術基盤。自己証明のためだけにこんなことをするのは世界中全ての神話勢力を探してもおそらく魔術に秀でた北欧くらいだ。他のところはここまでしない。

 

「えっと…それでなんでキヨシのところに?」

「そうでした。白瀬さん、私が貴方に用事があると言ったのは、その…」

「…勇士(かれし)、ですか。」

「はい。」

 

 顔を赤らめながらロスヴァイセは頷いた。その様子を見たイリナがちらっと白瀬を見ると、彼の方も顔を赤くしている。何なんだろう、ブラックコーヒーが欲しくなってきた。そう思いながらイリナはさっき頼んだカフェラテの入ったカップを傾けた。

 

「私たち戦乙女(ヴァルキリー)は勇士の魂をヴァルハラに運ぶ存在。それは私も例外ではありません。まあ最近は勇士の数が減ったせいで碌に仕事ができなくて隅っこに追いやられてオーディン様のお付きもやってたんですが…」

「「オーディン、様?」」

 

 ぴたりと2人の動きが止まった。その大神の名は聞き流すことなんてできないほどの超ビッグネーム。戦争と智慧を司る北欧の主神。その名前を聞いた瞬間に2人が顔を寄せ合い、小声で囁き合う。

 

(待って?今この人オーディン様のお付きって言った!?ガチエリート中のエリートじゃないの!?)

(絶対そうだ!なんでそんなVIPがヴァチカンまで来てるんだよ!?おかしいだろ!俺らみたいな木っ葉祓魔師が相手していいお方じゃないって!)

 

 2人の頭からは職場の隅っこにいた、と言う発言が抜け落ちていた。ひそひそと小声で会話する2人をロスヴァイセは不思議そうに見つめている。

 

(やばいやばい!私さっき思いっきりタメ口聞いちゃったんだけど。)

(やーい国際問題!)

「なんですってぇ!?」

「馬鹿、声がでかい!すみませんすみません!この子ちょっとアホの子なんです!」

 

 イリナが大声を上げたことでびくつくロスヴァイセに白瀬が必死に頭を下げた。その様子にロスヴァイセが少し笑った。

 

「ふふっ…」

「…あの、何か粗相でもしてしまったのでしょうか…。」

「違います違います。その、聞いていたより2人とも普通の方だと思いまして。ヴァチカンの戦士はその…異教の方に厳しいと聞いてましたから。」

「あ〜…」

 

 それを聞いた2人の脳裏に普段のヴァチカンのヤバい奴らの様子が浮かぶ。そして再び顔を見合わせ、

 

「間違ってはないんですよね、それ。」

「…え?」

「その、我々は日本出身なので他の人たちに比べたら多神教とかその辺りに全然馴染み深いと言いますか…寧ろ故郷だと俺らの方がマイナー寄りですし。」

「たまにいるわよね。異教徒死すべし、って各地の教会に来る観光客にブチギレてる祓魔師。」

 

 その言葉にカップを持ったままピシリとロスヴァイセが固まった。そしてダラダラと冷や汗を流す。

 

「…もしかして、私、他の人だったら今頃…」

「あ、でもでも!そこまで異教徒ぶっ殺みたいな奴は最近は減ってきてますから!今時そんなの流行りませんし!」

「そうそう!観光客だってバンバン受け入れてるし!時代はグローバル化よグローバル化!」

「はは、あは…。」

 

 必死にフォローするももう遅い。ロスヴァイセはカラカラと乾いた笑いを浮かべ、おばあちゃん、とか呟いている。やべえやらかした、と2人がとりなし続けた結果、ロスヴァイセが正気を取り戻したのはそれから数分後のことだった。

 

「…大変お見苦しいところをお見せしました。」

「いえ、全面的にこちらのせいなので…寧ろこちらこそ申し訳ありません。」

「こちらこそ…いえ、この話はやめにしましょう。話を戻すと、貴方に会いに来た理由です。」

 

 コホン、と咳払いをひとつしてロスヴァイセが姿勢を正した。それに釣られて白瀬も背筋を伸ばす。

 

「白瀬さん。先日のコカビエルの討伐、お見事でした。神話にも書かれた堕天使に対してあれだけの戦いを見せ、片脚を失い、全身を負傷しながらも歩みを止めず、最後には太陽の聖剣の真名解放を持っての決着。遠見の魔術越しにではありますが、私もオーディン様に見せていただきました。はっきり言って現世でこれほどの戦いが行われるとは思ってもいませんでした。」

「…あれ、見られてたんですか。」

 

 ロスヴァイセの言葉に白瀬が苦い顔をした。あれは自分だけで勝ったのではない。コカビエルが本来であれば蹂躙など容易かったものをわざわざ自分との戦いに応じ、邪魔だと切り捨てたはずの悪魔達が場を整えたからこそ最後の決着に繋がっただけのもの。それを自分の功績のように言われるのは分不相応だと思っていた。

 

「はい。まあリアルタイムで見てたのはオーディン様だけで、私が見たのはリプレイみたいなものですが。とにかく、その一戦でオーディン様が貴方を認め、勇士として迎えたいとのことです。」

「……へ?」

 

 ロスヴァイセが言った言葉に白瀬が変な声を上げて固まった。勇士?誰が?

 

「あの、北欧の勇士ってことは…」

「勿論神々の戦士(エインヘリヤル)としてです。私たちの間では戦士に与えられる最高の名誉ですよ。」

 

 開いた口が広がらない、とはこのことか。白瀬の隣で話を聞くイリナもまた驚きに身を固まらせていた。その様子をちらりと見た白瀬は一度大きく深呼吸して、言葉を紡いだ。

 

「─かの大神の勧誘。一個の人間としてはあまりにも畏れ多く喜ぶべきなのでしょうが…ですがすみません。その話、お受けできません。」

 

 白瀬は頭を下げた。この男は死後の安寧など求めていない。求めるのはただ一つ。黙示の日まで辺獄(リンボ)で己の罪をそそぐことのみ。だから北の大神の勧誘は受けられない。それが名誉だと知っていても。

 

「俺はあなたの勇士(かれし)にはなれません。俺は勇士でも戦士でもなくてただの祓魔師(エクソシスト)ですから。」

「…やっぱり、そうですよね。」

 

 ロスヴァイセもその返事は予想していたのだろう。白瀬の返答を聞いても少し寂しそうに笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 





ミカエル様穏やかに戦争準備中。
平和とは戦争と戦争の間のことを指す、を地でいく天使軍軍団長にしてエクソシストに加護を与える熾天使。教会上層部にお告げを通して白瀬に再生者手術をするよう命じたのもこの方。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。