聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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法王庁 ③

 

「我らが御主の逝去とこれからの展望。これを明かさずしてこれまで戦ってきた悪魔と堕天使(ミディアン)との和平をなさない訳にはいかないでしょう。」

「…ええ。ですが、どのようにしてなさるおつもりで?」

「私が、熾天使(セラフ)筆頭にして天界軍軍団長であり、全ての祓魔師(エクソシスト)を守護する者である私が直接伝えます。そうでなければ彼らは納得しない。いえ、そうでなければ私としてもこれまで戦ってきた戦士たちに申し訳が立ちません。─ガブリエルを、御主の言葉を伝える役割を担ったあの伝令(メッセンジャー)を呼んでください。彼女の口を通じて大号令をかけます。」

 

「カトリック、プロテスタント、正教会。それ以外にも全ての分派の神の戦士を集めるのです。…そこで全てを明かします。」

 

「次の聖戦のために。我らが責務のために。」

 

 

 

 

 

 

 

 ─どうしてこうなった。

 

 白瀬とロスヴァイセは2人揃って電車の中で頭を抱えていた。他の乗客がたのしそうにしているなかで並んで座った2人が頭を抱えている様はかなり異質だ。実際周りの乗客からはこれからこの2人は決めに行くのかと好機の目で見られている。

 

「…あの。」

「…はい。なんでしょう。」

 

 そして頭を抱えながらも2人の顔はともに赤く染まっている。そのせいで周りの乗客の誤解も加速するのだが、それを知る由もない。

 

「いいんですか?いくら宿がないと言っても初対面である私を部屋にあげて…」

 

 そう、今2人が向かっているのはヴァチカンから離れた場所にある白瀬の自宅であった。恋愛感情はないとは言え振った相手と振られた相手で、である。そりゃまあ2人とも複雑な気持ちにもなるというものだろう。

 

「…ロスヴァイセさん。ご自身でどう思われているのかは分かりませんが今の貴方は紛れもない北欧(アースガルズ)の神使なのです。そのあなたを1人夜の街に放り出すわけにはいきません。そんなことをして仕舞えばそれこそ俺たちの沽券に関わります。」

 

 そもそもの原因は喫茶店での勧誘を断り、別れ際になってロスヴァイセがこう言い出したことが原因だった。話が終わり、互いに連絡先を交換した直後にロスヴァイセがこう言ったのである。

 

『実はまだ今夜の宿がないんですが、近くにいいホテルを知りませんか?』、と。

 

 その言葉に白瀬とイリナが固まった。今は夏。観光シーズン真っ盛りではないとはいえ、サマータイムを狙って多くの観光客で賑わう季節である。そんな時期に観光地であるヴァチカン近隣のホテルに空室があるだろうか?ないのである。

 

『ないよ…ホテルないよぉ…!』

 

 その言葉に今度はロスヴァイセが固まった。慌てて3人で宿を探すも、残っている部屋はえぐいくらい高い部屋がマジでやばそうな部屋かの2択である。安い部屋は見るからにヤバそうだったので高い部屋でいいじゃないか、と提案したのだが高すぎると経費で落ちない、と世知辛い理由でロスヴァイセに却下された。その際に経費の概念あるのかアースガルズ、と2人が驚いたのは別の話である。

 

『…仕方ない。ウチの連中から探そう。』

 

 白瀬はとりあえずゼノヴィアに電話をかけた。任務中なのか出なかった。

 次にある程度の情報を伏せてグリゼルダに電話をかけた。施設の子どもの世話があるし空き部屋がないと断られた。他にも何人かに連絡したが軒並み断られた。というかほぼ全員教会の宿舎住みなので断られた。

 

『…イリナはどう?』

『私もプロテスタントの宿舎だから無理。』

 

 女性陣は全滅だった。こうなっては仕方ないと白瀬は最後の切り札(ジョーカー)を切った。彼ならば、己と双璧をなすあの快男児ならばどうにかしてくれるかもしれない、と淡い期待を抱いて白瀬は電話をかけ、

 

『あ、もしもしデュリオ?頼みがあるんだけ…え、あ、ごめん。』

 

 ノータイムで謝罪に移行した。

 

『その、ごめん。マジごめん。俺がバカだった。本当に申し訳ない。…はい。その、日本に帰らなきゃなんない事情ができましてですね…。申し訳ない…。はい、お土産買ってきます。…ごまた●ご?分かりました。1人1箱買ってきます。…はい、それ以外にも買ってきます。はい。…マジでごめん。次そっちが休み取る時俺が代わるから…。』

 

 怒涛の謝罪の末に切れた電話を下ろした白瀬は死んだ目をしていた。何があったのかと不安そうな目で見る2人の視線に気がついて、白瀬は死んだ目のままグッと親指を上げた。

 

『大丈夫です。俺が急に休みとったせいでデュリオ(同僚)に皺寄せがいったことを死ぬほど怒られただけですから。』

 

 イリナは何が大丈夫なのかと問い詰めたくなったがやめた。そんなイリナの内心も知らず白瀬は『普段怒らない奴が静かに怒るとまじ怖いんだよな』とか言っている。

 

『ていうかキヨシ。』

『なに?』

『キヨシって一人暮らしでしょ?ロスヴァイセさんにはキヨシの家に泊まってもらえばいいじゃない。』

 

 イリナが落とした爆弾に当然白瀬は抵抗した。曰く他所様を泊めるような部屋じゃない、ベッドが足りない、最近掃除できてない、そもそも初対面の、しかも女性を泊めるのはダメだろ、などなど。1人の人間として当然の理論武装をもって抵抗した、のだが。

 

『あの…それなら私、白瀬さんのお部屋でお願いしたいです。』

 

 ロスヴァイセのその言葉に折れた。決して昔を思い出したとかその顔に弱いとかではない。決して。これは人助けなのだ。絶対に。

 

 かくして2人は電車に乗って白瀬の自宅に移動しているのである。電車を降り、歩いている途中でロスヴァイセがあることに気がついて口を開いた。

 

「あの、白瀬さんって一人暮らしなんですよね。」

「はい。うちの隊にも宿舎はありますけど俺はそこに入ってませんね。」

「なんでですか?ここよりは近いんじゃ…」

「…まあ、大した理由じゃないんですが。」

 

 白瀬は苦笑いをして言った。

 

「禁煙なんです。うちの宿舎。」

「……未成年ですよね?」

「ははっ。さて、明日も早いし急ぎましょう。それから明日からの宿予約しといてくださいね。明日の昼間に準備を済ませたら夜には俺日本に出発するんでヴァチカンにいませんから。」

 

 ロスヴァイセの詰問するような目線から逃げるように白瀬は歩調を早めた。その後ろからロスヴァイセも早歩きで追いかける。

 

「誤魔化さないでください!いいですか、未成年の喫煙は健康に─」

「あーあーきこえなーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教会からまたメールが来たわ。」

 

 駒王学園オカルト研究部。誰も寄りつかない旧校舎にあるソファに腰掛けてリアスは頭痛を堪えながら言った。その隣には朱乃と、まだ気を落としたままの木場が座っている。

 

「教会、ですか?なんのために?」

「この間のコカビエルの件でしょうか…?」

 

 リアス達悪魔と教会は長年敵対関係にある。前回はコカビエルの件で連絡が来たが、今回もまた何かあったのだろうか。眷属たちが不安になって尋ねるが、リアスは首を横に振った。

 

「いいえ。今回は全く内容の分からなかった前回とは違ってちゃんと目的を書いてたわ。この間の戦いでの御礼と、あとは何かは伏せられていたけど渡したいものがあるって。ただし─」

 

 リアスがそこで一度区切って木場を見た。

 

「─その相手は祐斗よ。一応向こうから手出しは絶対にしないって書かれていたわ。…まあどこまで信頼していいかはわからないけれど。」

 

 その言葉を聞いて木場の目が動揺に揺れた。コカビエルとの戦いの前に木場は白瀬にのされた上にコカビエルによって重傷を負い、戦いそのものに不参加だったためになぜ自分なのかが解せない。それ以上に、彼の中ではまだ教会勢力に、そして聖剣に対する復讐が燻っていた。

 

「…とにかく。教会から誰が来るのかはわからないけど日時と場所はこっちが指定したわ。明後日の午後7時。一般の生徒が帰った後にこの部室に来るよう向こうには伝え済みよ。だからその日は依頼はおやすみするよう頼むわね。それから─」

 

 リアスは覚悟を決めた表情で愛すべき眷属全員の顔を見回して言った。

 

「─念のために戦う準備だけはしておいて頂戴。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─和平だ。俺たちが生き残るには和平しかねえ。」

 

 真っ暗な、それでいて幾つもの機械が煌々と光る部屋で1人の男が頭を抱えながらそう呟いた。

 

「コカビエルが死んだ以上堕天使(うち)は俺の号令があればどうにかなる。悪魔連中もあのサーゼクスの方針的に和平には反対しないはずだ。だが、問題は天使ども(あいつら)だ。」

 

 旧友であるコカビエルの暴走による勢力間の関係図の見直し。そのことに男は頭を悩ませていた。

 

 賠償はいい。コカビエルの暴走は元はといえば間違いなく自分たちの責任だ。求められるのが金か技術かはわからないが要求された分には応えるつもりがある。だが、そこからが問題だ。男はこの機会に勢力間での和平を為すつもりでいる。何千年も殺し合ってきた間で、だ。

 

 現在の3大勢力は一言で言えば()()()()()だ。世界の各神話からは3つで一つの勢力と見做されておきながら内部では全力で殺し合う。それではダメだ。このままではただでさえ忌み嫌われている自分たちは各神話の連合に殺されかねない。それだけはなんとしてでも避けなければならない。

 

「教会勢力なあ…あのミカエルが和平に応じる、かあ?」

 

 男の脳裏でかつての同僚でもある熾天使(セラフ)の顔が浮かぶ。男にとってのミカエルは万を遥かに超える天界軍を率い、その先頭で悪魔や堕天使を殺してきた男。神命とあれば命を捨てることも厭わない、今もなお続く狂信者(エクソシスト)たちの源流にもなった狂信者。神に仕える神の力そのもの。

 

「…何もなければ無理か?だが、あいつらが和平には応じざるを得ない理由があれば…」

 

 武力を持って迫るのは無理だ。それができないほど現代の教会エージェント達は強いし、何より禍根が残る。手を取り合おう、と言っておきながらそんなことをすれば交渉などできはしない。

 

「だが、理由、なあ…あ。」

 

 あったわ、と男が膝を打った。だが、それはあくまで天使達ににとっての都合がいい理由。悪魔にとっては到底飲めないであろう条件だが…堕天使陣営にとっても都合がいい。なにせそれは自分たちが世界の各神話に嫌われている理由の一つでもあるのだから。

 

「─悪魔の駒(イーヴィル・ピース)。こいつを餌に天界から和平を取り付けてみせる。」

 

 奇しくもミカエルと同じ結論に至った男はそう言って6対12枚の黒い羽を揺らした。

 

 

 





この後のお泊まりは風呂上がりのぽかぽかロスヴァイセを見て白瀬が自分の目を潰そうとしたりどっちがベッドで寝るかで揉めたり結局押し切られての初めての男性のベッドにロスヴァイセが眠れない夜を過ごしたくらいで本当に何もなかった。




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