聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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Q.
白瀬の弱点は?
A.
白瀬の強みにして弱点は対闇の眷属(ミディアン)に特化したスキル構成そのもの。なので聖なる力と炎が効かない相手だと苦戦する。




駒王町 ②

 

 夜の駒王学園。一般の生徒たちが既に帰宅し、人気のなくなったそこでリアス達は教会の使者を待っていた。念のために学園の各地にソーナ達にも待機してもらい、いざという時の態勢は万全にしてある。

 

 それでもリアスの顔に浮かぶ緊張は隠せない。彼女が思い返すのは先日の戦い。そこで披露された教会戦士の圧倒的な戦闘力。一般的な祓魔師(エクソシスト)の数段上をいくそれにリアスは警戒をしていた。

 

「教会の使者って誰が来るんですかね?」

 

 その緊張の中で一誠が呟いた。その顔は恐ろしいほどに真剣だった。

 

「俺的にはこの間の女の子がいいんですけど。可愛かったしスタイルも良かったし。」

「…イッセー?」

「イッセーさん?」

 

 真剣な顔から飛び出した場の空気を読まないその発言にリアスとアーシアが若干キレた。そこには『自分以外の女を見るんじゃねえよ』という意味も込められている。

 

「いいイッセー。相手は教会なのよ?例えどんなに可愛くても相手は私たちの敵、仲良くなるなんて不可能なのよ?」

「すすすすみません部長!」

 

 慌ててリアスに謝る一誠に、それを微笑ましく見守る他の眷属。ある意味でいつも通りの空間に、突然扉を叩く音がした。

 

「…!どうぞ。」

 

 その音にリアスが再び顔に緊張を宿し、身構える。それを待っていたかのように扉が開き、教会の使者が姿を現した。

 

「‥あなたは!」

「先日ぶりだ、女侯爵(グレモリー)。壮健そうでなにより。」

 

 扉をくぐって現れたのは先日にも会った眼鏡をかけた祓魔師。コカビエルにトドメをさし、その後行方不明になっていた聖剣使い。おそらく死んだのであろうと予想されていた男が、白瀬清司が飴を咥えながらそこにいた。彼は肩に小さな鞄をかけ、紙袋を手にそこに堂々と立っている。

 

「…生きていたのね。」

「死に損なったもんで。…そんな顔をしないでいただきたい。ちゃんと脚もついて…まあ片脚だけはついてる。」

 

 驚愕するリアス達に鼻を鳴らして白瀬が部室内へと歩いてくる。半袖のシャツから覗く傷一つない腕にも、その服の下にも一切の仕込みが見当たらない。どうやら戦う気は本当にないらしい。

 

「それで、何の用?教会勢力(あなた)が私に用があるなんて、またエクスカリバーが盗まれたとでも言うの?」

 

 リアスのその発言に白瀬は一度目を瞑り、手に持っていた紙袋を差し出した。都内でも有名な和菓子屋の店名が書かれたそれに、リアスが目を丸くする。

 

「これ、なに?」

「先日は世話になったから、所謂心ばかりの品ですが、というやつだ。認めたくはない─本当に認めたくはないがお前達があの術式に対処していなければ俺はコカビエルを打倒できなかった。教会の祓魔師(エクソシスト)として大っぴらに贈り物などはできないからこのくらいしかできないが、俺からの謝辞と思ってくれ。」

「あ、そう…これ、私が食べたいと思ってた店のやつじゃない。」

「しかも季節限定の高い奴ですわ…これを、私たちに?」

 

 思ったよりなんの悪意も敵意もない贈り物に悪魔達がどよめく。その様子に白瀬は一つため息をついて本題の方に、つまり木場の方を向いた。周りの眷属達と違ってこの男だけは敵意を孕んだ目で白瀬の方を睨みつけている。

 

「それからこの間襲いかかってきた優男のお前。」

「…なにかな。」

「お前、『イザイヤ』か?」

「「「「!!」」」」

 

 白瀬の口から飛び出したその名前に木場が、リアスが、朱乃が、そして小猫が反応した。彼女らは木場が悪魔に転生する前からのリアス眷属。その名前の意味をよく知っている。一方でその名前を知らない一誠とアーシアは首を傾げていた。

 

「お前、何でその名前を…!」

「祐斗、落ち着きなさい!ここで戦ってはダメよ!」

 

 激情に駆られて魔剣を生み出す木場をリアスが制止する。以前の惨劇をもう繰り返さないために。その様子を白瀬はじっと見ていた。

 

「…その反応で分かった。お前、『聖剣計画』の生き残りなんだな。」

「だったらどうする?僕を始末しにきたのか?」

「お前に託すものがある。」

 

 そう言って白瀬は肩にかけていたバッグを外し、木場へと差し出した。それを横から朱乃がひったくるようにして受け取り、確認をする。いくつかの魔術防御こそされてはいるが、攻撃的要素は含まれていない。それを確認して朱乃は木場の手にバッグを握らせた。

 

「これ、は…」

 

 手に持ったバッグの中身が何かわかったのだろう。バッグを持った木場が体を震わせた。

 

「そうだ。そのバッグには『聖剣計画』で亡くなった者たちより抽出された因子が、魂の残滓が入っている。」

 

 淡々と白瀬がそう告げる。その言葉を木場は震えながら受け止めていた。

 

「先日の一件の後でバルパーを始末した際に押収したものだ。そしてこの魂は俺たち教会が送るのではなく生き残りであるお前に託すべきであると、俺たちはそう判断した。」

 

 木場の目から涙が落ちる。他の眷属達が黙ってその様子を見守るなか、白瀬は木場から目を逸らさずに言った。

 

「すまなかった。あの一件は間違いなく俺たちの罪だ。…本当にすまない。」

「…すまない、だって?」

 

 木場が勢いよく白瀬の胸ぐらを掴みあげる。涙を流しながら、怒りに顔を真っ赤にして白瀬を睨みつける。必死に怒りが爆発するのを堪えているのだろう、手はブルブルと震えていた。

 

「…僕たちは、みんなは生きたかった。」

「ああ。」

「地獄のような実験に耐えた。耐えて耐えて耐えて、どうにか希望をつないで生きていたんだ。」

「…ああ。」

「だけどお前達が殺した!笑いながら、毒ガスで!僕たちを、殺したんだ!」

「…すまない。」

「………っっ!!」

「祐斗っ!」

 

 我慢の限界がきた木場が思いっきり白瀬を殴った。骨の砕ける鈍い音がして白瀬が吹き飛び、受け身も取らずに壁にぶつかって地面に落ちた。殴った木場は、地面に突っ伏して叫びながら涙を流す。その背中を小猫がさすっている。

 アーシアは白瀬に駆け寄ろうとしたが、血を流しながら白瀬はそれを制止した。逆戻しのように傷を修復させながら、荒い息を吐いて口を開く。

 

「構わない。俺はこいつに殴られる、いや、斬られる覚悟はしていた。それだけのことを俺たちはしている。」

 

 ノロノロと立ち上がった白瀬は地面に突っ伏す木場に声をかけた。アーシアは2人のその様子を心配そうに見守っている。

 

「それともう一つ伝えることがある。『聖剣計画』だが、お前以外にもう1人生き残った者がいた。」

「…え?」

 

 信じられない発言に木場は勢いよく顔を上げた。それを見た白瀬は一つ頷いて続ける。

 

「名前はトスカ。今は神器の暴走で昏睡状態ではあるが、彼女は生きている。」

「トスカが、彼女が、生きているのか…?」

「ああ。今は教会の真っ当な治療施設に入院している。」

 

 その言葉を聞いて木場の目からさらに勢いよく涙が溢れる。よかった。たった1人でも生き残ってくれていた。歓喜に震える彼の背中を小猫が優しくそっと撫でる。彼女もまた、離別を経験した者であるから。

 

「僕はトスカに、会えるのか…?」

「昏睡状態だから今は無理だ。だが彼女が目を覚まし、お前が悪魔になったことを知ってなお会いたいと言うのであれば、必ずそのための場所と時間は用意する。絶対に。神に誓ってだ。」

 

 それを聞いて全員が目を見開いた。祓魔師の『神に誓う』という言葉は重い。それは文字通り神に身を捧げた者が、己の存在全てである神に誓うという証。間違っても本来は悪魔に対して使っていい言葉ではない。

 

「いいの?悪魔が人と触れ合うのを許して。」

「構わない。これは俺たちの責任だ。」

 

 そう尋ねたリアスに白瀬はそう言い切った。その瞳には一切の迷いが見受けられない。

 

「『聖剣計画』。あの唾棄すべき計画を行ったのも、この男が神を見かぎり悪魔になったのも、彼女が目を覚まさないのも全て、全て俺たちが原因だ。償いなどできようもないほどの悪行をなしたんだ。ならせめて、せめて一時の再会くらいは叶えないといけないだろう。」

 

 白瀬は瞑目して続けた。

 

「例え相手が悪魔であろうとも、慈悲をかけるべき相手は存在する。今回がまさにそれだ。そんな者を見捨てて神の信者が名乗れるか。」

 

 そういって白瀬は踵を返した。扉を開け、去って行こうとするその背中にリアスが声をかける。

 

「あら、もう行くの?お茶くらいは出すわよ。」

「結構。欧州(ヨーロッパ)お前たち(ミディアン)が暴れるせいで俺たちは大忙しだ。2週間の休暇を申請して結局取れた休みが4日間だけなくらいにはな。」

 

 そう言って扉をくぐり、扉が完全に閉まる直前になって声が響いた。

 

「そいつを頼んだぞ、リアス・グレモリー。」

 

 その言葉を最後にパタリと扉が閉まり、足音が次第に遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後の深夜。ヴァチカンにあるサン・ピエトロ大聖堂は深夜であるにもかかわらず多くの人々が集まっていた。

 その場に集った彼ら彼女らは皆修道服に身を包んでいる。それだけならばただの教会の行事だと思うだろう。だが、彼らは皆()()()()()()()()。ある者は剣を腰に差し、あるものは拳銃をガンベルトに入れ、またあるものは斧槍(ハルバード)を堂々と持ち、またあるものは身の丈よりも大きな十字架を担いでいた。そんな聖職者など、本来いるはずもない。

 

 彼らは皆Aランク以上の祓魔師(エクソシスト)。命を賭して人外と戦う、神の先兵。人外との戦争における最前線を駆ける戦士達である。

 

 熾天使(セラフ)ガブリエルの号令を受けて集まった彼らはこれから何が起こるのかを知らない。ただ、何かが起こる、ということだけは薄々勘付いていた。

 

「ガブリエル様の号令なんて、これから何が起こるんだろうね。」

 

 カトリックの戦士達が集まった一角で白瀬は隣に立つゼノヴィアに尋ねた。尋ねられたゼノヴィアも、首を横に振って答える。

 

「わからない。まさか、本格的に戦争をするんだろうか。」

「かもね。…そうなったら命がいくつあっても足りないや。」

「まったくだ。」

 

 2人して薄く笑った直後、聖堂内に聖なる光が満ちる。人間が行使する聖なる力とは桁違いのそれに、全員が息を呑んだ。そして光が収まると、壇上に1人の青年が現れる。

 

 光り輝く金色の髪に、6対12枚の金の羽。その身から溢れ出す場を支配するほどの聖なる光。

 

 熾天使(セラフ)の筆頭。大天使ミカエルがそこにいた。

 

「ミカエル、様…。」

 

 場内の誰かがつぶやいた。その呟きを皮切りに聖堂内でざわめきが起こる。ある者は堪えきれずに泣き出し、あるものは目の前の存在を目の当たりにした歓喜に喜んだ。

 

「皆さん静粛に。」

 

 ざわめく聖堂内にミカエルの声が響く。マイクも何も使っていないはずなのによく響いたその声は、一瞬で祓魔師たちのざわめきを鎮めた。それを確認してミカエルが頷き口を開く。

 

「神の戦士の諸君。多忙な中で今宵はよくぞ集まってくださいました。皆さんの献身に神もお喜びでいらっしゃるでしょう。」

 

 その言葉に全員の目に涙が浮かぶ。報われている。俺たちは今報われている!

 

「今宵皆さんにこの場に集まっていただいたのは、ある真実とこれからの我々の在り方についてお伝えするためです。」

 

 真実?これから?涙を浮かべながら全員が次の言葉を待つ。ただし、白瀬とゼノヴィア、そしてイリナだけは真実、という言葉に息を呑んだ。彼らには一つだけ、弩級の心当たりがある。

 

「まず、真実についてです。─我らの御主(あるじ)はかつての大戦で逝去されております。」

 

 ミカエルの口から放たれたその言葉に、場が固まった。呼吸の音すら聞こえないような沈黙が続き、そして絶叫が起こる。そんなわけあるか、神が身罷ろうはずがない、そんなことを言うお前はミカエル様じゃない!など、無数の罵声と慟哭が聖堂内を支配する。

 ミカエルはその全てを受け止め、叫声が落ち着かないままに次の爆弾を投げた。

 

「そして我々は!我々天界勢力、及び教会勢力は!」

 

 ミカエルは遠目からでもはっきりとわかるほどに顔を歪めて続けた。

 

「我々の怨敵である悪魔、及び堕天使と和平を結び!戦闘行為を中断します!」

 

 投げつけられた爆弾に聖堂内が爆発する。武器を持った各々が得物を構え、ミカエルの元へと殺到しようとした。それは自分たちの生涯全てを否定するかの如き所業。そんなことを俺たちが許してなるものか。そう思った全員が立ち上がろうとして、

 

「よろしいですかな。」

 

 1人の大男の発言に動きを止めた。周りの者たちの機先を制したその発言に、全員が少し冷静になる。その男はそれほどに宗派問わず全ての祓魔師たちからの信頼を得た人物であった。

 

「勿論です、ヴァスコ・ストラーダ司祭枢機卿」

 

 ミカエルもまた、その男の問答を真正面から受けてたった。

 

 激動の夜が、今始まる。

 

 

 





「あの人から、姉様と同じ雰囲気が…?」


いつになったら会談に入れるんだろうねこれ。

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