聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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Q なんでみんな武器持ってたの?
A 祓魔師にとっては武器を含めて正装だとみんな思ってる。




大号令 ①

 

「よろしいですかな。」

 

 色めき立つ祓魔師(エクソシスト)たちの先陣を切ったのは1人の巨漢。彼のしわくちゃなその顔からは男が相当な年齢を重ねてきたことがわかる。だが、その鍛え上げられた鋼のような体躯からは衰えというものが一切感じられない。

 

「勿論です、ヴァスコ・ストラーダ司祭枢機卿。」

 

 彼の名こそヴァスコ・ストラーダ。現代最強の祓魔師の1人にして最高の不毀の聖剣(デュランダル)使いの呼び声も名高い生ける伝説。引退後も多くの祓魔師を育て上げた実績を持つ、全ての祓魔師たちの憧れにして目指すべき背中でもある戦士。

 

「お聞かせ願いたい。我らが神が崩御されたとのことですが、それはなぜなのでしょうか。」

「あのお方が天地創造に勝るとも劣らない難行を成したからです。」

「難行、とは。」

「『獣』の封印。そう言えば分かるでしょうか。」

 

 ミカエルが告げた言葉に聖堂内がざわめいた。彼らにとって『獣』とはただ一つの存在そのものを指す。だが、それが事実なのだとしたらとんでもないことであると、誰もがそう確信していた。

 

「あの『獣』はとてつもなく強かった。故に殺すことができず仕方なしに封印へと対処を変えたのです。ですがその封印ですら、並大抵の難行ではありませんでした。あのお方が全身全霊をもって封印を終えた際には御主は随分と消耗されていました。休息が必要であったほどに。ですが─」

「大戦が起こった、ということですね。そして我らが神は休まれることなく戦線に立ち、そして身罷った。」

「その通りです。もしも『獣』の封印さえしていなければあのお方は今もなお健在であったでしよう。」

 

 そう告げたミカエルが目を伏せる。そんな彼の心中を察してかしばらく無音が続く。そしてミカエルが再び前を向いた時、別の男が声を上げた。

 

「私からも、よろしいですか?」

「もちろんです、エヴァルド・クリスタルディ助祭枢機卿。私にお答えできることならば。」

 

 次に口を開いたのは黒髪の中年男性だった。

 彼もまた、最高のエクスカリバー使いとして教会の戦士たちの道導となっている人物。多くの祓魔師たちに悪魔祓いとしての知恵と技術を授けた神の戦士。

 

「神が身罷った。仮にそれを認めるとするのならば我々に対しての加護はなんなのでしょうか。」

「それは便宜上『システム』と呼ばれるものです。御主が身罷る前に最後に残された、神の愛そのもの。『システム』は信仰心を拠り所にし、信仰によって力を授けています。あなた方の使う法儀礼武器や【神器(セイクリッド・ギア)】もこの『システム』によるものです。」

「…神の愛では、ないと。」

「いいえ。神の愛です。あれは最後に地上に残された神の愛そのものです。そこだけは間違いありません。」

 

 怒涛の真実に聖堂内からはもはや会話すら起きない。ただ啜り泣く声やうめく声だけが響いていた。

 

「もう一つ。神は復活されるのか、否か。」

「…わかりません。ですが、いつかはまた我々の前にお姿を現してくれると、私はそう信じています。」

 

 ミカエルのその返答に、クリスタルディは黙礼した。その目尻には涙が浮かんでいる。そして、周りの雰囲気がどん底まで沈むなか、まだ被害が少なかった青年が手を上げた。

 

「…私からも、お伺いしたいことが。」

「勿論です、祓魔師(エクソシスト)白瀬清司。」

 

 手を上げたのは白瀬だ。いくら聖剣に適合したと言えど、若輩の身でありながら行ったその行動に周りがざわめいた。そんな周りの目線も気にせず白瀬が問いを投げかける。

 

「大天使ミカエル様。貴方は先ほど悪魔と堕天使(ミディアン)と和平を結ぶと仰いました。」

「ええ、そう言いました。」

「貴方は我々に連中を殺すなと言うのですか?仲良く手を繋いで生きていけと、積年の恨みを忘れて生きていけと、そう仰るのですか!?」

 

 ギリ、と歯を食いしばりながら白瀬が問うた。ミカエルはその問いを聞いて一度目を閉じ、

 

真逆(まさか)。」

 

 全身から金色の光を放ちながら、目をかっ開いて答えた。その迫力に堂内全ての者が息を呑む。

 

「我々は戦争を継続します。形を変えた戦争を。直接的な戦争ではなく、戦争のための見えざる戦いを行います。」

「見えざる、戦い…?」

「はい。表向きでは和平を結び、奴らと手を取り合います。ですが、その裏で力を蓄えるのです。次の戦争のための、次の聖戦のための、次の決戦のための準備を。」

 

 拳を握ってミカエルは力説する。

 

「今の我々教会陣営は強い。数千年の歴史の中でも1、2を争うほどに。あの堕天使(コカビエル)を打ち倒したほどに。そんな我々を奴らは無視できない。そして連中にも()()()()()()()()()()。ならば必ずこの話に乗ってきます。そこで私は為してみせます。」

「為すとは、なにを!何を為して見せると言うのですかミカエル様!」

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の撤廃を!あの無辜の民草の人生を狂わせた呪物を必ず!必ず撤廃してみせます!」

 

 その言葉に全員がハッとした顔をした。悪魔の駒。あれに人生を狂わされた教会の戦士たちは多い。

 それは白瀬とて例外ではない。彼はミカエルの言葉に、何かを堪えるように唇を噛んでいた。

 

「悪魔の駒の撤廃を為し、奴らの戦力を削ぎます。奴らは増える速度が蛞蝓よりも遅い。だからこそあの忌々しい駒を作り上げたのでしょうが、和平を結べばそれを使う必要がないと、そう言ってやります。そうすれば奴らの数はまるっきり増えなくなる。」

「…その後は、どうなさるおつもりで?」

 

 黙った白瀬の代わりに尋ねたのはある男の祓魔師だった。そしてその質問が来ることも予想していたのだろう、ミカエルが即答する。

 

「他の連中の戦力を削ぎ、同時に戦力を蓄えます。奴らの中で問題が起きた時に、できるだけ力になるのです。奴らが我々を頼らざるを得ない状況を作り出すのです。そしてその裏で、次の決戦の準備を行うのです!戦士を鍛え、武器を揃え、策を練る。そうして連中が油断しきったその時に初めて、戦火の号砲を響かせるのです。」

 

 拳を握ってそう言うミカエルだが、突然に苦い顔になった。

 

「ですが、これはいつまで続くかわかりません。10年、20年では効かないかもしれない。100年、200年の話になるかもしれません。つまり私は、私がやろうとしていることは、紛れもなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この中には連中に大切な人を奪われ、復讐のために剣を取った方も多くいるでしょう。その方から私は生きる意味を奪おうとしている。それは否定できません。ですが、どうか、」

 

 ミカエルが体を震わせた。彼は声を震わせながら、全ての戦士に訴える。自らよりも格の劣るただの祓魔師に、懸命に。

 

「どうか、我々の悲願のために。私についてきてはくださいませんか…!」

 

 ミカエルの声は静まり返った聖堂内に響き渡った。

 

「ミカエル様。一つお伺いします。」

 

 その静寂を切り裂いて1人の男が前に出た。ミカエルもまた、その男と顔を合わせて相対する。

 

「貴方は我々についてこいと仰った。連中と手を組み、仮初の平和を作り上げ、その裏で牙を研げと。」

「はい。そう言いました。」

「その果てに。その果てに、我々は、我々の後進たちは勝利できるのですか?連中を一切合切鏖殺できるのですか?我々の大願、闇の眷属(ミディアン)の殲滅は成し遂げられるのですか?」

 

 そう尋ねる男からは異様な迫力を感じさせた。そしてミカエルはその視線を、その気迫を真正面から受け止めて大きく頷いた。

 

「必ず。必ず成し遂げます。何年、何十年、何百年かかろうと。絶対に。このミカエルが、あなた方の後ろを歩む神の戦士達と共に。」

「そうですか…。」

 

 その言葉を聞いた男は目を閉じて頷いた。そしてその場で膝をつき、堂々と言い放つ。

 

「ならば私は、この身はミカエル様の命に従いましょう。いずれ来る決戦のための静かなる戦いに身を投じることを誓いましょう。」

 

 男の言葉に祓魔師たちがざわついた。そしてその直後、我も我もと各所から声が上がる。

 

「私も、私もついていきます!」

「連中と手なんか組みたかねえが、やってやろうじゃないですか!」

「私の代で戦いを終わらせられないのは残念ですが、それでもミカエル様がそう言ってくださったのなら。」

「任せてください!現代兵器と神秘の融合、為してみせます!」

「なら戦闘機に法儀弾を積もう!連中をカモ撃ちにしてやるぜ!」

「私は誇り高き聖ステパノ騎士団が一番槍!いずれ来る決戦のために我が技を繋ぎます!」

 

 そこには悲観など感じられない、『次』を見出した人の姿があった。

 人の一生は短く、そして何も成せぬまま終わる者が多い。そして彼らはその一生を、いつ来るかもしれない決戦のための土台になることを選んだ。誇りを持って、次の世代に悲願を持ち越すことを願った。

 

「皆さん…」

 

 その様子にミカエルの目に涙が浮かぶ。そんな彼に、歩み寄ってきたストラーダが声をかける。

 

「今の一時の気の昂りで言っているものも多いでしょう。神の不在、悪魔と堕天使との和平。全てが衝撃的だったはずです。一度眠り、目が覚めた時に泣き腫らすものも多いでしょう。ですが、それでも。」

 

 ストラーダは穏やかに微笑んだ。

 

「貴方が我々を信じて全てを明かし、そして必ず成し遂げると言ってくださった。天界軍の軍団長である熾天使の貴方が我々に直々に約束してくださった。それだけで彼らは動くに足りるのですよ。私も含めて、ね。」

「…ええ。本当に、本当にありがたい話です。」

 

 グッとミカエルは自身の眼を擦った。擦った後の目はギラギラとした闘志と決意に燃えている。

 

「だからこそ、私は必ず成し遂げます。まずは次の会談で、必ず。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか面白いことになっとるわい。」

 

 北欧(アースガルズ)にある世界を見渡す高座(フリズスキャールブ)にて、智慧と戦争を司る大神(オーディン)はニヤニヤと笑いながらそう言った。

 

「…オーディン様。いったい何を見ているのですか?」

「戦争じゃ、戦争。まあ今はその前段階じゃがな。」

 

 ロスヴァイセの後任である戦乙女(ヴァルキリー)の質問にオーディンは答えた。

 

「戦争の前段階、ですか?」

「応とも。戦争の前段階。要は戦争のための戦ということじゃな。」

 

 戦争に勝利を授ける神はそう言って笑う。

 

「人の戦争、まあわしらみたいな戦神の絡まん戦争、というのは事前に何をどのくらいやったのかがモノを言う。いざことが起こる直前になって初めて慌てるなんてのは愚の骨頂。相手に一切悟らさずにじっくりじっくり飯を用意して武器を揃えて兵を鍛えて策を練って、それで初めて戦を起こして戦場で命を散らす。戦争ってのはそう言うものよ。まあ当然じゃな。戦場なんてのはどっちも命を賭けて武器を振るうもの。なら、当然足場がしっかりしとる方が勝つに決まっとる。」

 

 数多の戦争を見届けてきた大神の言うことを戦乙女は黙って聞いていた。

 

「あいつらとうとう次の戦争に打って出た。安心せい、今日明日の話ではない。10年後、20年後でもない。100年200年後にやる気じゃ。他の連中が準備しとらん間にことを済ませ、相手の気が緩み、人の技術が人外を凌駕したその瞬間に全てを賭けて首を奪りに行く気じゃ。」

「それを、オーディン様は見たのですか?」

「いいや、何も見とらん。じゃがの、そんなモン()()()()()()()。あそこまで大々的に兵士集めてまでミカエルの小僧が大演説ぶちかまそうとしとるんじゃ。そんなの見て仕舞えばそれに気付かん戦神などおるまいて。」

 

 隻眼を歪めて大神は笑う。それを見た戦乙女はここにきて思い知った。

 普段こそ助平な好好爺であれど、このお方は間違いなく北欧を統べる我らが主神なのである、と。

 

「まああの小僧が何をしようとわしらは静観するとしようかの。あれはどこまで行っても所詮は世界中巻き込んどるだけの兄弟喧嘩。ならそこで疲弊したところを掻っ攫う方がわしらに利があるじゃろうて。」

 

 笑いながらオーディンは顎髭を撫でた。その頭の中ではこれから変わっていくであろう世界の様子をいくつも思い浮かべていく。

 

「まあその前にあいつらが何をするか、じゃろうの。まあ間違いなくわしらに接触はしてくるじゃろうが。」

 

 側から見ればただの内輪揉めであそこまで力を削がれた連中の集まり。そいつらが血を吐きながら手を取り合ったのなら次に取る手は限られる。─確実に他所に攻め込まれないように手を打ってくる。そうしなければ自分たちが滅ぶ故に。

 それに関してなにか言うつもりはない。自分は最前席でその様子を見届けてやろうではないか。

 

「じゃがまあ、条件の一つでも出してやるとしよう。」

「条件、ですか?賠償のような?」

「違う。『人』を見せてもらおう。」

 

 ぎしりと音を立ててオーディンが座り直した。

 

「わしらはな。俗に言う大神、というやつは未知が好きじゃ。可能性ってやつが好きじゃ。なにをしでかすかわからんやつってのが好きじゃ。」

 

 それは大神であることの弊害。神格が上がれば上がるほど全知全能に近づいていく彼らはことが起こる前から全てがわかりすぎる。それ故に退屈しているのだ。

 

「その退屈を吹っ飛ばすのが俗に言う『英雄』ってやつでの。あいつらが次は何をしでかすんか、どんな奇想天外なことをやらかすのか、どんな大偉業を成し遂げるんかを楽しみにしとるわけじゃ。うちらだとそうじゃな─」

 

 オーディンが手を振ると手元にある男の姿が現れた。その姿を見て戦乙女が息を呑む。それは、その男は北欧どころかその生き様をもって世界に名を轟かした大英雄。

 

「─シグルド。全ての戦士の王にして、戦乙女と心を通わせ、龍を屠り、悲劇の下に散って行った大英雄よ。あいつが生きとった頃は奴が何をするのかをわしは毎日ハラハラしながら見守っとったわい。」

 

 昔を思い出しながらオーディンは語る。あの頃は勇士に満ちていたと懐かしむ。

 

「そのシグルドが使っとったのが魔剣グラム。世にも珍しい太陽の力を宿した魔剣にして全ての魔剣の頂点。担い手の死後にシグルドの墓に埋葬され、その後はどこの誰とも知れん墓荒らしに盗まれてわしらの下を離れたんじゃが…」

 

 その後は人の手に渡り、流れに流れて教会勢力に辿り着いたらしい。それについてオーディンはとやかく言うつもりはない。なにせ最初に墓を荒らしてグラムを奪ったのは別に教会の者ではないのだから。

 

「不可侵協定を申し出てくるとするのなら、その条件にあれをそろそろ返してもらうとしよう。無論そこにも条件をつけて、じゃ。」

 

 グラムが魔剣の頂点とするのならば、それに対抗するかのように聖剣にも頂点がある。太陽の魔剣があるとするのならば太陽の聖剣も存在する。そして奇遇にも時を同じくして両者に担い手が出揃った。

 

 世界が生み出した聖剣使いと人の業が生み出した魔剣使い。

 対極の生まれをしていながら両者の剣が司るのは共に『太陽』。

 

 神代の頃には組まれるはずもなかったであろう戦いを見せてもらおう。

 

「なに、神々の戦士(エインヘリヤル)に相応しい勇士ならばこの程度でくたばるわけもないしの。」

 

 己の企みをいつ向こうに突きつけてやろうかと笑っていたところでオーディンはふとあることに思い至った。

 ─どうせならばロスヴァイセも連れて行ってもらうか、と。なんか思ったより好感度高そうじゃしいけるじゃろ、と。

 

「ときに今ロスヴァイセはどうしておる。アースガルズに帰ってきておるじゃろう。」

「はい、毎日なんか、その…くねくねしてます。」

「…くねくね?」

「はい。くねくねです。顔真っ赤にして。」

 

 2人の間に嫌な沈黙が流れた。数秒して手のひらで目を覆ったオーディンは空を仰いだ。

 

「これじゃから生娘戦乙女(ヴァルキリー)は…。」

 

 仮にも戦乙女ともあろうものが、絆すどころか絆されてどうする。その嘆きはお付きの戦乙女にしか聞こえなかった。

 

 






真実を明かされ雌伏の時を歩み始めた教会陣営。熾天使だから、というだけでなく『祓魔師を守護する者』としての役割を持ち、神話の時代より戦い続けてきたミカエルだからこそ持っていたカリスマによる結果です。これから彼らは牙を研ぎ続けます。
まあ衝撃の事実にこれからしばらく全員塞ぎ込みますが。

そしてジーク君出番だよ。てかなんで白瀬お前木場きゅんの出番ばっか奪ってしまうん?剣士で被ってるから?

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