聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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Q ロスヴァイセさんのことどう思ってるんですか?
A 「他人とはわかってるんだけど、あそこまで似てると流石に複雑。…まあ普通にいい人だしちゃんと幸せになって欲しいとは思うよ。」




会談 

 

「本題に入ろうや。」

 

 真夜中の駒王学園の会議室。3大勢力のトップが会談をするためだけに内装まで改装されたそこで、アザゼルが切り出した。普段の飄々とした雰囲気はなりを潜め、その顔には本気と緊張が浮かんでいる。

 

「和平だ、和平。天使も悪魔も、まさかその算段をしてねえとは言わせねえぞ?」

 

 アザゼルのその言葉にサーゼクスとミカエルの放つプレッシャーが跳ね上がった。超級の人外たちの放つ圧力は並の存在ならばそれだけで死にそうな程に重く、そして濃い。瞬き一つすら躊躇われるほどの緊張の時間が流れる。

 

「…そうだな。私としても悪魔という種族を未来に繋ぎ、そして前に進めていくために和平を考えている。─次の戦争をして仕舞えば、悪魔は滅ぶ。私としてもそれだけは避けたい。」

 

 その中で口を開いたのはサーゼクスだった。この場にいるトップたちの中で最も若く、そして強い悪魔は自分の理想のために和平を選ぶ。その言葉にアザゼルが机の下で小さくガッツポーズを決め、期待と祈りを込めた目でミカエルの方に視線を向けた。

 

「…そうですね。実のところ私も和平を考えています。」

 

 そんなアザゼルに小さくため息をついて、ミカエルもまた続いた。3大勢力のトップ全てが和平を考えている。その事実にサーゼクスが顔に喜色を浮かべ、アザゼルが一瞬安堵したかのように肩を撫で下ろした。

 

「ですが」

 

 ゆっくりと手のひらを組みながらミカエルが言葉をさらに続けた。彼にとってはここからが本番。

 

「条件があります。この条件が呑めないのなら和平はありません。」

「…おいおいミカエル。いいのか?俺たち2派閥が手を組んだらそっちがやべえんだぞ?」

「何を考えているのかは分かりませんが、コカビエルの件を引き起こした原因である貴方に拒否権はありませんよ。」

 

 ニコリと微笑むミカエルにアザゼルは本気で冷や汗を流した。マジだ。ここまで言うってことはマジでこの熾天使はやる気だ。

 

(念のために色々考えといてよかったぜ…)

 

 アザゼルはこの場において自分の役割を調停者(バランサー)だと即座に定義した。それはそもそもコカビエルの件で強く出れない上に、一番戦争を望んでいないのが自分だと理解しているが故に。そして最高戦力であるコカビエルを失ったという武力面での痛手も大きい。

 

「まずは堕天使陣営。あなたたちは最近神器(セイクリッド・ギア)の研究をしているようですね。」

「…ああ。俺は神の如き強者(アザゼル)であると同時に『解き明かす者』だ。そんな俺があんな面白い物放置するわけねえだろ。」

「ええ。ですからその研究成果と回収した一部の神器の譲渡、そしてこれから私たちと共同研究をすることを求めます。特に『神器システム』に直接関わる研究があればそれを優先的に。そのためなら天界への立ち入りこそできませんが、『システム』の限定開示も行いましょう。」

 

 その条件にアザゼルは思いっきり眉を顰めた。いくらなんでも条件が緩すぎる。どころか好条件、と言ってもいい。神器を持っていかれるのは痛いが、研究を進められるのは、そして一部とは言え『システム』に関われるのはあまりにも利益が大きい。

 

「…そんなことでいいのか?俺が『システム』を作り替えるとかは思わなかったのか?」

「ええ。まあ確かに貴方ならやりかねないとは思いますが、私が開示するのは『システム』の中でも神器に関わる部分のみ。そこを作り替えられたところで大元の動きは変わりませんから。そしてそれ以上に、神器で苦しむ人を減らせることのメリットの方が大きい。」

 

 なるほど、とアザゼルは小さく頷いた。確かに神器は人生を歪めることがある。最近ではその事例も多く、神器のせいで歩けなくなったり命を落とす事例まで確認されている。それを減らすため、という理由なら3大勢力で最も神器の研究が進んでいる自分たちに便宜を図るというのも理解できる。

 

「続いて悪魔陣営。ここに私たちが要求するのは現状一つです。」

「なんだろうか、ミカエル。」

 

 サーゼクスはこの時若干事態を楽天的に考えていた。それはミカエルがアザゼルに出した条件がかなり緩いものであり、それなら自分たちにも同じようなことが要求されるだろうと踏んだからである。だが、その予想は。

 

「『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の撤廃。私が貴方たちに求めるのはそれだけです。」

 

 いとも簡単に覆された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そう言えばキヨシ。』

「どしたゼノヴィア。」

 

 同時刻、ヨーロッパ辺境。任務を終えた白瀬がすぱすぱと煙草を吸いながらスマホを耳に押し当てていた。電話の相手はヴァチカンにいるゼノヴィア。

 

『これからのことだ。もう決めたか?』

「…んー、決めたっちゃ決めたんだけど。」

 

 これから、と言うのは文字通り和平後の身の振り方についてだ。表面的には和平が行われるため、役目を失った祓魔師たちの任務の数が減るのが決定づけられている。そのため多くの祓魔師は一応別の生き方、というのを持つのが推奨されていた。

 

『ほう。キヨシは何をするんだ?教会の施設を手伝ったりとか?』

「いやー、無理無理。それは向いてないよ俺。」

『じゃあ何をするんだ?学生とかするのか。』

「まあ日本に帰って学生するのもありっちゃありだったんだけどね。正直これからどうするのかはよくわからないってのが本音かな。」

 

 もっともそれはあくまで対外的に、という話であり実際は条約の隙をつこうとする闇の眷属(ミディアン)を葬る秘密組織を作り上げることになっている。それはこれまでよりも数を減らしながらも質を絶対的に高めた組織。

 

 和平という看板の裏で牙を研ぎ続ける、裏切り者の集まり。ただその身を神の力として、神罰の代行者として捧げた者たちによる、公的には存在しない秘密組織。

 

 その組織こそ【法王庁第十三課(イスカリオテ)】。

 

 時代の流れに逆らって作られた、正真正銘の戦闘組織。天使長ミカエル直属の組織であり、彼の命令に従って如何なる汚れ仕事にも参加する狂信者の群れ。教会若手最高戦力の1人でもある白瀬はそこへの加入が決定づけられていた。

 

「俺よりゼノヴィアだよ。ゼノヴィアって学校とか行ったことないんじゃなかった?」

『そうだな。勉強自体はシスターに教えて貰っていたが、これを機に行ってみるのもいいかもしれない。』

「いいじゃん、青春しなよ青春。まあ、こんなこと言ったところで…」

 

 ゆっくりと煙を吐き出して続けた。

 

「和平がうまくいかなきゃ全部おじゃんなんだけどね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『悪魔の駒』の、撤廃…?」

「ええ。和平にあたって私が貴方たちに求めるのはこの一点のみ。」

 

 別に呑めない条件じゃないでしょう、とミカエルがサーゼクスを睨みつけた。その眼光をサーゼクスが真正面から受け止め、逆に睨み返す。2人の間で火花が散った。

 

(予想通り、と言うべきかね。和平なんてやろうとしてんのならやっぱあいつなら言うよな。)

 

 その2人の視線から外れたアザゼルが高速で頭を回転させる。アザゼルにとってここまでは予想をしていた。決して容易くは呑めない条件を突きつけられて悪魔と天使の間で諍いが起こることも。だからこそ、自分が間に立つ必要がある。天使と同じく神の部下であったこともあり、悪魔と同じく神に逆らった者である自分が。

 

「ミカエル、それはできない。今や『悪魔の駒』は冥界になくてはならない物だ。」

「おや、それはどうしてです?あの駒が世界各地で問題を起こしているのは知っているのでしょう?」

「確かに一部の非道な者がそのような行いをしているのは確かだ。だが、ほとんどの悪魔は契約の元に眷属契約を結び、そして自身の眷属を大事にしている。」

 

 そりゃ情愛の一族(グレモリー)くらいだろ、と言いたくなったのをアザゼルはグッと堪えた。この状況で言ってはならないことくらい理解はしている。

 そしてその発言を聞いたミカエルはギリ、と歯を噛み締めると手元に魔法陣を展開させた。最近の熾天使の使う魔法の光が会議室内を照らし、2人がその行動にまさか武力行使かと目を見張る。

 だが、実際に現れたのは武器ではなく紙束。そしてミカエルは魔法陣の中に現れた大量の紙束を掴み上げた。

 

「サーゼクス。これが何か分かりますか。」

 

 持った紙束をサーゼクスに突きつけてミカエルが言う。

 

「…何かの資料かい?」

「御名答。ですが、『何かの資料』ではありません。『悪魔の駒によって生じた被害、及び眷属悪魔になった後はぐれ認定された悪魔による被害』を教会がまとめ上げた資料です。」

「っっ!!」

 

 痛いところを突かれたサーゼクスの顔が歪む。そんな彼をさらに睨みつけてミカエルが更に口を開く。

 

「資料はまだあります。まだまだあります。資料になっていない被害もいくらでもあります。その上で聞きましょう。『悪魔の駒』を悪用しているのは本当に『一部』ですか?『ほとんど』の間違いではなく?」

 

 その剣幕と明らかにされた事実にサーゼクスは何も言い返せない。

 

「そもそも他種族を勝手に悪魔にできる力を、プライドしか能のない悪魔にばら撒いたのがおかしいのです。そして今もなお、自分勝手にその力を振りかざすせいで罪のない民が犠牲になっている。これを止めずして、我ら教会陣営は、人の味方であると決めた勢力はあなた方と手を組むことは絶対にできません。」

「…だが、悪魔は戦争で数が減った上に産まれる絶対数も少ない。滅びを回避するにはこれしかなかったんだ。」

 

 サーゼクスも苦々しい顔でどうにか反論を絞り出すが、ミカエルが一刀の下に切り捨てる。

 

「戦争で悪魔は数が減少した?生まれる数が少ないから仕方ない?─舐めるな。そんなのどこも一緒ですよ。何を勝手に免罪符を手にしたかのように言っているのです。」

 

 机を力強く叩いてミカエルがサーゼクスを思いっきり睨みつける。その顔は憤怒に染まり切っていた。

 

「─分かりますか?『悪魔になんてなりたくなかったのに無理矢理悪魔にされた』『家族のもとに帰りたいが家族から自分の記憶を消された』、と泣きながら転生悪魔に助けを求められた信徒の気持ちが。藁にもすがるような気持ちで逃げ出してきた元人間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としか言えない苦しみが。神の名を呼びながら自分の手で死んでいく悪魔を見て心が壊れた祓魔師は数え切れないほど多い。この連鎖を断つためには『悪魔の駒』を消し去るしかないのです。」

 

 その発言を受けてサーゼクスは完全に沈黙した。その後押しをするかのようにアザゼルも口を開く。

 

「…まあ、俺も『悪魔の駒』の撤廃には賛成だな。」

「…アザゼル?」

「ただでさえ他所の神話連中に攻め込まれないようにって風潮なんだ。今回の和平だって最終的にはそれが目標でもあるしな。そんななかで数を減らした他所の希少種族を悪魔にできる『悪魔の駒』は劇物でしかねえ。」

 

 天界はかつて異教徒弾圧を行っていたし、自分たちは神器狩りを行っている。だが、それの対象は基本的に人間。もっとも異教徒弾圧の方は他所の神話勢力を削いだという面で神に影響を与えたが、現在では行われていない。だが、『悪魔の駒』が適用されるのは人間に止まらない。下手すれば半神にだって適用が可能だ。アザゼルが気にしているのはそこだった。

 

「アザゼル、だが!」

「話を聞けよサーゼクス。だがな、ミカエル。─完全撤廃、は無理だ。」

 

 サーゼクスを制止しながらアザゼルはそう言った。そのどっちつかずとも取れる発言に2人の顔が困惑に染まる。

 

「無理、とは?」

「お前も知ってんだろ。『悪魔の駒』は悪魔にだって使える。他種族だけじゃなくてな。使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。いくら手を組んだと言っても内政干渉が御法度なのは分かるだろ?」

「…っ!」

 

 その言葉にミカエルの顔が歪み、サーゼクスの顔が救いを得たかのように晴れる。そんな2人の顔を見てアザゼルは手を叩いた。

 

「てなわけでだ。俺が提案するのは間をとった折衷案。『悪魔の駒』を悪魔以外に使用することの禁止ってところだな。破ったときの処罰はおいおい決めていこうや。どうだ?」

「…確かにまだそちらの方がマシだ。だが、悪魔の数はどうしたらいい。大戦で減った数はまだ元には戻っていないぞ。」

「そんなの気にしなくていいだろ。なにせこれから起こるのは和平だ。お前みたいな若造には分からんかもしれんが、戦争みたいなよっぽどのことが起こらなきゃヒトってのは基本増えていくもんだからな。ただでさえ悪魔は死ににくいんだ。これからはゆっくり数を増やしていきゃあいいんだよ。」

 

 その説得を受けて顎に手を当てながら考え出したサーゼクスから目線を外して、アザゼルは拳を力強く握りしめるミカエルの方に目線を向けた。

 

「お前はどうだ、ミカエル。悪い話じゃあないと思うが。」

「…アザゼル。やってくれましたね。」

「おいおいそんな怖い顔するなよ。協調ってのはな、ある程度落とし所が必要なんだ。お前が俺たち(ミディアン)を憎むのも分かるが、堕天使には堕天使の、悪魔にも悪魔の生き方がある。それを無理矢理押さえつけて自分のやり方だけ貫いてみろ。そんな張りぼての和平なんて3日で崩れるぞ。」

 

 ため息をつきながらアザゼルが語る。実のところこの3人で最も血の気が多いのがミカエルであることを知っているが故にこの展開を予想していたアザゼルにとっては最初からここが落とし所であると決めていた。

 

「でもお前らにとってもデメリットはないだろ?これで『悪魔の駒』による被害者は格段に減る。教会の祓魔師の戦死も無くなるだろうしな。それに悪魔だって『悪魔の駒』を使ったゲームに支障は出ない。むしろ他所じゃなくて悪魔内に住むいろんな種族に視点がいくだけ内部の活性化に繋がるんじゃねえか?」

 

 気がつけばアザゼルの独壇場となっていた事態に2人が苦々しく彼を睨みつけるが、アザゼルはどこ吹く風とそれを受け流した。

 

「てな訳でだ。細かいところは今から決めていくとして、」

 

 アザゼルは不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「和平といこうや。」

 

 

 

 

 

 

 

 この日を持って3大勢力間での和平が実現することになる。

 白瀬たち教会陣営としては今までのような無制限の討伐は無くなったものの、人界に仇なすものの討伐自体は制限付きで認められた。また、堕天使陣営との『神器』に関する共同研究。これは教会で保護された神器使いたちにとっては朗報と言えた。

 そして『悪魔の駒』の悪魔以外への使用の制限。これについては悲願への第一歩と喜ぶ者と完全撤廃ができなかったと悲しむ者で分かれた。だが、それでも前には進んだと、全員がその思いは共通していた。

 

 その後3大勢力の連名で各神話勢力へと協調声明が出される。そこに真っ先に応えたのは北欧であった。条件付きであるとは言え北の大神の二つ返事に各勢力のトップ全員が困惑し、そしてすぐさま返答がなされる。

 

「祓魔師白瀬。貴方を呼んだのは他でもありません。貴方の十三課(イスカリオテ)としての初任務です。」

「なんなりと。」

 

 ミカエルは自身の前で片膝をつく白瀬に命令を下した。それを毅然として拝命する白瀬に、ミカエルが一つ頷いて続けた。

 

「魔剣グラム。元教会の戦士であるジークフリートが持ち去ったそれを奪還してください。」

「…承りました。」

 

 その命令を受けて白瀬はどこへいるかも分からないジークフリートを探すハメになる。

 

「また伝説の剣の奪還かよちくしょう…!」

 

 そんな嘆きをヴァチカンに残して。




 
結果としては
 堕天使陣営(コカビエルの賠償含む)
  ・神器研究の結果の共有
  ・保管している神器の払い下げ
  ・これ以降の神器の共同研究に対する協力
 悪魔陣営
  ・悪魔以外への駒の使用禁止
 教会陣営
  ・原則としての悪魔、堕天使との戦闘の禁止
  ・天使主導の他所への布教禁止
みたいな感じ。

この会話の直後ちゃんと旧魔王派は来たしヴァーリも離反した。
ちなみにリアス達とかもいる。ただトップ間の会話に入ってはこれないだけで。教会陣営は原作通りミカエルとお付きの天使のみ参加。これは全責任をミカエルが負うためでもある。

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