聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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今回方言翻訳サイトを利用しました。
地元の方、全然違うと思えば教えていただけたら幸いです。




魔剣 ①

 

 あの男が嫌いだった。教会の全ての剣士を過去のものにしたあの男が。

 

 生まれは平凡。そこそこ優秀なだけの祓魔師の息子として極東の田舎で生まれただけの、なんの英雄の血も異形の血も引いていない、本当に純粋な人間。近代になるまで苗字も無かったような、そんな平凡な家系の生まれ。

 

 なのに、あいつは選ばれた。

 

 突然ヴァチカンに現れたそいつは1500年もの間誰もできなかった聖剣の真名解放を為し、一夜にして教会最強の聖剣使いに名乗りを上げた。それから始まるただの若手祓魔師の、人界に仇なす上級悪魔や堕天使を次々に屠っていく快進撃は教会にとってまさに希望の光。

 

 だけど、光が差せば影ができる。この場合、それが僕だった。

 

 伝説の武器は当然、強大な力を持つ。そしてその力は使い手にも影響を及ぼすことがある。例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()。あの聖剣の場合は、焔。使い手足りえない者が無理に真名解放をしようとすると、あの聖剣は容赦なくその不届者を焼き尽くしてきた。故に、彼があの聖剣の使い手に選ばれた時にはまた無駄死にする奴が出るのか、という思いだった。

 

 なのに、なのに!あいつには祝福しかなかった!

 

 全ての聖剣の頂点に座する太陽の聖剣。

 太陽の加護にも等しい神器。

 それを使いこなせる本人の資質。

 

 その全てが歯車のように噛み合い、彼の道を照らしている。彼は焔に身を焼かれることもなく、ただひたすらに神罰の代行者としてあり続けた。そのあり方は、教会の研究機関の目も奪いさった。過去の研究などやめたと言わんばかりに、彼の身体について研究をしようとした。

 

 そして機関に見捨てられたのが僕だった。

 

 龍殺しの魔剣に選ばれておきながらその全力を使えない不完全な成功作。それが僕に貼られたレッテル。勿論直接言われた訳じゃない。だけど、明らかに減ったテストや投薬が、そして機関に蔓延った雰囲気がそれを雄弁に物語っていた。

 

 ふざけるな。

 

 何度そう叫んだかわからない。親に祝福されて生まれてきたお前が、試験管の中で生まれ、身を裂かれるような実験と気の狂いそうな投薬に耐えた僕を超えるなんてあり得てたまるか。何度も何度もそう叫んで、その激情に身を委ねて剣を振るった。

 

 だけど、次第に奴は僕の足元に近寄ってきていた。教会最強の剣士。僕を僕たらしめる要素の一つを簒奪せんと企んでいる。その現実から目を逸らして、僕は必死に彼と会わないように逃げ回った。だけどついに、彼と顔を合わせる日が来た。来てしまった。

 

 …そいつが嫌な奴だったらよかった。自分は聖剣に選ばれたんだと、それを鼻にかけて偉ぶる奴ならそれでよかった。それなら素直に嫌いになれただろうから。

 

 なのに、そいつは『普通にいい奴』だった。普通に挨拶をして、僕のことを尊敬できる先達だと、同じ教会の戦士として頼もしいなんて言って、それから普通に別れの挨拶をして去っていった。彼には僕を見下している様子なんてかけらもなかった。そのことが僕を余計に苦しめた。彼は僕のように剣士の位列なんて気にしていなかった。僕にとって何より大事なことは、彼にとって取るに足りないことだった。

 

 勝てない。その思いが僕の中に広がっていく。それは気づけばドス黒い澱となって僕の心を歪めていく。

 

 勝てない?あり得ない。僕はジークフリート。あの大英雄シグルドの血を引く、現代の英雄。魔剣グラムにも選ばれた。バルムンクも、ノートゥングも、ダインスレイブも、ディルヴィングも使えるんだ。神器だって亜種という形で発現させた。そんな僕が、たったの聖剣一本しか使えないあいつに負けているはずがない。

 

 僕があいつに会ったのは、そんな思いを抱えて血反吐を吐きながら魔剣を振るっていたある日のことだった。

 

『初めまして、俺は曹操。英雄の子孫を集めている者だ。』

 

 凄まじいまでの神気を放つ槍を携えた男が、僕の同志になる曹操がひょっこり現れた。そいつは僕に手を伸ばして、笑いながら言った。

 

『俺と来ないかジークフリート、現代の龍殺しよ。俺と一緒に、世界をひっくり返そう。』

 

 曹操はあいつを選ばなかった。ただ聖剣に選ばれただけのあいつじゃなくて、大英雄の血を引く僕を選んでくれた!誰もが目をくれなくなってきた僕に、こいつだけは声をかけてくれた!

 

 僕は喜んでその手を取った。教会を裏切り、魔剣を持って彼と共に飛び出した。そこには後悔なんて全く無かった。ただ自分の居場所を見つけたことの喜びでいっぱいだった。

 

 仲間を得た。敵を倒した。修行して、強くなった。曹操と僕の作った輪が広がり、いつのまにか周りは僕を見てくれる目で溢れていた。そこで僕たちは語らい、友と喜びを分かち合って過ごしていた。いつか世界をひっくり返そうと、みんなで夢を分かち合った。

 

 なのに、そいつは。

 

『彼には、『現代のガウェイン』には俺たちの元へきて欲しいものだな。』

 

 また僕の前に現れた。しかも最古の堕天使コカビエルの討伐という偉業をなして。そしてあいつは、曹操のお眼鏡にかなってしまった。あいつが、ついに。

 

 嫌だ、やめてくれ。そう叫べたらどんなに楽だっただろう。だけど、僕の英雄の子孫としてのプライドがそれを許さなかった。その時僕は、楽しそうに笑う曹操を眺めることしかできなかった。

 

 その日の晩、僕は泣いた。どこまで行ってもあいつは僕の前に現れる。僕の居場所を奪いに来る。あいつがいる限り、僕は陰であり続ける。そんなのは、嫌だ。絶対に、嫌だ!あいつが憎い!あいつが怖い!

 

 必死に声を押し殺して泣いて、泣いて泣いて。夜通し泣き続けた僕はふっと思いついた。

 

 あいつが死ねば曹操はあいつを見ることはない。

 

 そのことに思いついて、僕は笑った。そうだ、あいつが死ねばいいんだ。あいつを殺せばいいんだ!僕が!この手で!

 

 コカビエルを倒した?関係ない。所詮あれは太陽と聖剣の力による相性勝ち。龍を倒すには至らない。それに僕には禁手も、蛇だってある。負けるものか。絶対にあいつを殺してみせる。あいつを殺して、僕は僕の居場所を守ってみせる。その決意を抱いたとき、魔剣たちが震えた。僕の決意に応えてくれるように。ああ、そうだ。僕の勝利は望まれている。

 

 僕があんな英雄の贋作に負けるはずがない。だって僕は、英雄の子孫(ジークフリート)なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔剣グラム、かあ…。」

 

 北欧のとある国際空港で白瀬はペラペラと北欧神話を流し読んでいた。祓魔師として活動する際にある程度ヨーロッパ各地の伝承とかは叩き込まれているが、念の為の確認というやつである。

 

 魔剣グラム。教会内ではその強さから魔帝剣とすら称される最強の魔剣。世界でも稀な太陽の性質を有していながら魔剣として成立した、世界最強の龍殺しの一つ。大英雄シグルドの父王の剣が折れた後にシグルドによって鍛え直されて愛剣になり、そして魔龍ファブニールを葬ったとされる。

 

 その後はシグルドの死後に流れに流れて教会の管理下に置かれたらしいが。今回の北欧神話勢力との協調にあたって返還されることが決まったらしい。それは別にいい。ただ、なんで自分が回収に行かねばならんのだ。

 

(そもそも回収しろって簡単に言うけどさ。)

 

 ぺらりとページを巡りながら白瀬が恨み節を内心で溢す。

 

(流石にジークさんがどこにいるのかくらいはっきりさせてから命令出して欲しかったな。)

 

 おまけに相手はあのジークさんだからねえ、とため息をつく。突然ヴァチカンを離反した上に数々の魔剣を持っていったあの人は間違いなく現行最強の魔剣使い。力と速さなら自分の勝ちだが、技量はこちらを上回っているだろう。そんな相手に『あ、グラム返してちょ』とか気軽に言えるはずもない。下手すりゃ斬られる。いくら再生すると言っても限度はあるのだからそれは避けたい。というか避けないと死ぬ。

 

「俺別にあの人嫌いじゃないし、戦いたくないんだよなあ…どうにかあの人説得して北欧に向かってもらえないかな。」

 

 自分の任務は最終的に魔剣グラムを北欧に届けること。そこに使い手の有無は問われていない。ならそれはそれでありだろう。そう決めて白瀬は思いっきり伸びをして、腕時計を見た。時刻は10時半前。北欧の協力者との待ち合わせ時間は11時だからまだ時間がある。さてなにをして時間を潰そうか。

 

「もう来てたんですか。随分早いですね。」

 

 そんなことを考えていた白瀬に声がかけられる。その声にえ、と間抜けな声を漏らした。それは先日聞いた声だったから。慌てて振り向くとそこには初恋の女性(ねーちゃん)にそっくりな美女。

 

「え、え?ロスヴァイセさん?ロスヴァイセさんが北欧の協力者、なんですか?」

「はい。私がオーディン様の命を受けて白瀬さんの魔剣グラム回収の補佐に回ることになりました。これでも攻撃系魔法は得意ですから任せてください。」

「…まじですか。」

 

 意外すぎると白瀬が呟いた。見た目は優しげなお姉さんなのに、攻撃系魔法が得意とは意外性があるにも程がある。というかこう言うところは全く戦えなかったあの人と似てなくて助かる。

 

「さて、予定よりはちょっと早いですが、出発しましょう。時は金なり、と言いますからね。」

「そうしましょう。…ところでロスヴァイセさん。」

「なんですか?」

 

 白瀬の言葉に歩き出そうとしていたロスヴァイセが足を止めて首をかしげた。そこで初めて気になっていたことを聞く。

 

「出発、はいいんですが。グラムの場所分かってるんですか?」

「え?」

「いえ、ミカエル様からは『北欧の方と協力して探せ』と言われていたもので。」

「………え?」

 

 固まったロスヴァイセを見て、白瀬は思いっきり天を仰いだ。

 

「…もしかして、場所をご存知でない…?」

「…オーディン様にはそんなこと何も聞いてない、です。」

 

 顔を見合わせた2人の顔が揃って青くなる。まずい、このままだと世界中からたった1人の人間を探すとかいう超高難易度の任務になってしまう。

 

「…どうすっぺこれ。」

「… ほんなこてどうしよう。」

 

 あまりのことに互いの地元方言が飛び出したが、2人はそれを気にする余裕もなかった。いくら北欧といえど夏だと言うのに寒々しい風が吹きぬける。

 

 かくして2人の任務が幕を開ける。世界中のどこへ行ったのかもわからない魔剣を探すという超高難易度任務が。

 

「高難易度の理由がおかしい!こんなことならまだコカビエルを倒す方がよっぽど楽ですよこれ!何年かかるんだよ!さよなら俺の青春!俺の10代!」

「あの糞助平爺!また私に無茶振りしましたね!?命の危機が去ったと思えば今度は婚期の危機ですか!?」

 

 2人が怨嗟の声を撒き散らす様子を、覗き見していた主神は爆笑しながら見ていた。

 





実はジークフリートに嫌われている白瀬。面識は1回しかないので白瀬に嫌われている自覚はない。
当時の評価としては力の白瀬、技のジーク。白瀬はゼノヴィアのことを笑えないくらいには力こそパワーを地で行く脳筋ゴリラ。

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