聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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駒王町 ①

 

 祓魔師(エクソシスト)の任務に国境はない。それは極端な話、東はアジアの東の島国から西は新大陸(アメリカ)の西海岸、北は永久凍土の残る土地から南は希望峰まで、そこに闇の眷属(ミディアン)ありとわかれば本当に世界中のあらゆる場所に派遣される。

 

「だからってこれは無いと思うんだ。」

 

 空港の中にある教会関係者専用のラウンジで白瀬は煙草を片手にエスプレッソを啜りながらぼやいた。

 

「まだ言ってるの?今回の任務は名誉なことなのよ?」

「というかまずは煙草をやめろ。」

 

 そんな白瀬にイリナが眉を潜め、ゼノヴィアが煙草を取り上げた。間髪を容れずに灰皿に押し付けられた煙草を見て、白瀬の口から情けない声が上がる。

 

「ああっ俺の煙草…!」

「…我々は神に仕える身、というかそれ以前にまだ未成年だろう。ほら、残りの分も出せ。」

「無理ぃ…」

 

 元気の源であるニコチンを奪われてノータイムで白瀬は机に突っ伏した。そんな友人の情けない姿に2人のなんとも言えない残念なものを見るような視線が刺さる。

 

「…大丈夫なのか、これ。()()()()だぞ?」

「夜が心配ね…ねえ、本当に大丈夫?」

「いや、マジで無理…メンタル保たない…」

 

 はあああああああっと信じられないくらいに大きなため息が漏れた。

 

「君らは専門外だし知んないかもしれないけどさ、神秘って古い方が強いのよ。」

 

 それは絶対の法則。新しい方が進歩していく科学とは全くの対極に位置する、神秘の法則。

 

「いやそのくらいは知ってるが。」

「…じゃあ聞くけどさ?相手何歳よ?」

「…聖書に載ってるくらいよね。」

「だね?じゃあこっちは?」

 

 3人の間に嫌な沈黙が降りた。分かってはいたが直視したくない現実を突きつけられ、全員の眉間に深い皺が刻まれる。

 

「─でもするしかないのよね。」

 

 命に替えてでも。イリナはそう続けた。

 

「…そうだな。確かに死にたくはないが、それでもやるしかない。」

「いや、覚悟決まりすぎでしょ君ら…これだからエクスカリバー持ちは…」

 

 それに賛同したゼノヴィアに、白瀬は呆れたような声をあげた。そんな彼を一瞥してゼノヴィアが椅子から立ち上がる。

 

「いや、お前の聖剣も一応エクスカリバーだろうに。というかそろそろ行くぞ。」

「そうね。駒王までも道のりなら私がわかるわ。」

 

 ゼノヴィアに続いてイリナも椅子をガタリと鳴らして立ち上がった。それに対して白瀬ははしたないなあ、と言いながらも立ち上がり─途中で恐る恐る2人を呼び止めた。

 

「ねえ2人とも。まさかその格好で行こうとしてないよね?」

 

 そう問いかける白瀬の格好は白いワイシャツに黒のスラックス、そして眼鏡に青いネクタイというぱっと見ではどこかの高校生に見える格好。それに対して2人の格好は─黒いピチピチのボンテージに白いローブだった。一体どこのコスプレ衣装かと言いたくなる格好である。

 

「何を言っているんだキヨシ。」

「そうよ。なに当たり前のこと言ってるの?」

 

 そんな白瀬に2人は胸を張った。そのせいで歳の割に大きなそこがたゆんと揺れた。

 

「ああ、だよね?教会関係者しかいなかった今までならともかく流石にその格好で公衆の面前には─」

「「この格好でいくが(けど)?」」

 

 ただでさえ人の少ないラウンジに沈黙が降りた。具体的に言えば白瀬は絶句し、ゼノヴィアとイリナは何を当然のことをと言わんばかりに首を傾げた。

 

「…そっか。そっかあ。」

 

 たっぷり10秒ほどの時間が空いた後、白瀬はどうにか言葉を絞り出した。

 

「まずは買おうか。服。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…教会からの使者、ですか?」

「ええ。それも聖剣使いの使者が、よ。この間連絡が来たの。」

 

 駒王学園の旧校舎、オカルト研究部部室。この町を牛耳る悪魔であるグレモリー眷属の本拠地であるそこで、リアス・グレモリーはその整った眉根を顰めた。

 

「内容はざっくり言えば『交渉したいから席を設けて』くらいのものよ。交渉内容については全くの情報なし。」

「ついでに言えばこの連絡はメールで来ましたわね。」

「メール!?教会が!?」

 

 リアスの情報を捕捉する彼女の女王(クイーン)─姫島朱乃に、兵士(ポーン)である兵藤一誠は驚いた。

 

「そりゃメールくらい使うわよ、教会サイドって人間多いもの。」

「いやそうじゃなくて、アドレスあるんですか?この部活。」

「部活宛てではなく理事長に届きましたわね。この学園自体が悪魔の影響下にあることを理解した上での行動でしょう。」

 

 そう語る2人の顔は固い。だがそれも仕方ないだろう。現在悪魔と教会、そして堕天使の3つの勢力は対立状態にある。そんな中で急に接触を図られたら緊張の一つや二つはするものだろう。

 

「そ、そうなんですか…。で、いつ来るんですか?来週くらい?」

「明日よ。」

「明日ぁ!?」

 

 驚愕する一誠に、リアスは頷きながら頭痛を誤魔化すようにこめかみを揉んだ。

 

「ええ。ただでさえ祐斗の様子がおかしいのに、こんな問題まで起こるなんて…タイミングが悪いわね。」

 

 ため息と共にリアスはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、女侯爵(フロイライン)。」

 

 その翌日の放課後、まだ日暮れ前の時間。グレモリー眷属の本拠地であるオカルト研究部部室には白瀬達ヴァチカンの聖剣使い3人の姿があった。3人ともに祓魔師らしくない、ぱっと見どこかの高校の制服に見える服装をしている。

 

「時間をとっていただき感謝する。…ところで、吸っても?」

 

 その3人の真ん中で豪華なソファに堂々と腰を下ろした白瀬がポケットから煙草を取り出しながら尋ねた。そこには悪魔に対する恐れなどは一切感じられない。ただただ自分たちの方が上だと、そう言わんばかりの態度だった。それに対してリアスが思いっきり嫌な顔をする。

 

「ここは禁煙よ。」

「おや残念だ。どうやら悪魔(ミディアン)にもつまらない嫌煙家がいるらしい。」

「御託はいいわ。用件はなに?」

 

 リアスと白瀬が静かに睨み合う。そしてリアス以外の眷属達はと言えば、部室内に満ちる聖剣の放つ聖なるオーラに圧倒されていた。夏だというのに一誠の肌には鳥肌が立っている。そんな彼や他の眷属達を気遣うかのようにリアスは睨みながらも話を促した。

 

「んー…どこから言ったらいいものか…」

(くっそ…ムカつくぜ…!)

 

 剣呑な雰囲気のリアスを欠片も気にせず、白瀬はのんびりと顎を撫でた。彼は今リアスを見定めている。自分の主をあまりにもバカにしたその様子に一誠の頭に血が昇る。

 そんな中で、白瀬の隣に座っていたイリナが口を開いた。

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン、及びプロテスタント側、正教会側の保管していた聖剣エクスカリバーが盗まれました。」

「ちょ、イリナ?いま俺が話してたんだけど?」

「いいじゃない、どうせ話すんでしょ?」

「いやそうだけど…雰囲気ってあるじゃん?」

 

 急に白瀬の纏う雰囲気が変わった。先程までの偉ぶった態度から、年頃の少年のものへと。そのあまりの変わりようにグレモリー眷属全員が呆気に取られてしまう。

 

「いや、確かに今のお前は気持ち悪かった。普段通りで話してくれ。」

「え、ひどくない?俺頑張ったんだよ!?頑張って悪魔の前で虚勢張ってたんだよ!?」

 

 更にはゼノヴィアからの追撃。気持ち悪い、とまで言われた白瀬はもはや半分涙目であった。

 

「…あの、もういいかしら。」

「あ、すみません。ていうか、ここまで大丈夫です?そこの2人…人?悪魔成り立てですよね?着いてきてます?」

 

 毒気を抜かれたのか、リアスの口調も柔らかい。それに白瀬があっさり返して─再び空気が固まった。

 

「待って。どうして2人が成り立てだって知ってるのかしら?」

「どうしてって…調べたからですが。アルジェントの方は元々知ってますし。」

 

 火のついてない煙草を咥えて、なんでもないことのように白瀬は返した。いや、事実彼にとっては事前に相手の方を調べるなんてのはなんでもないことなのだろう。何を不思議がっているのかわからない、と言った雰囲気だった。

 

「アーシアの、知り合い…?」

「まあ、2、3回顔を合わせただけですが。まあそれは置いておきましょう。とにかくエクスカリバーが3本盗まれました。ここまではいいですね?」

「え、エクスカリバーって1本じゃないのか?」

 

 首を傾げて尋ねた一誠に答えたのはイリナだった。

 

「イッセー君、エクスカリバーは大昔の戦争で折れたの。」

「今はこのような姿だ。」

 

 ゼノヴィアがそう言って側に置いていた物体から布を取り外した。それだけで、先程までとは桁違いの聖なる気が満ちる。

 

「私の持っているエクスカリバーは─」

「これは元々のエクスカリバーが折れた後、その欠片から作った聖剣ってことですね。で、今俺らの元にあるのはこれと…」

「私のね。」

 

 ゼノヴィアが話そうとした時に、それを強引に白瀬が遮った。それからすぐにイリナの方へと話を振り、イリナが懐から長い紐を取り出した。それはすぐにウネウネと姿を変え、一振りの日本刀へと姿になる。

 

「私の方は…って睨まないでよキヨシ。」

「いや、イリナは口が軽いからね。正直聖剣についてベラベラ話さないか不安だったんだよ。」

 

 イリナに咎められた白瀬はあっさりと白状したら肩をすくめた。それを見てリアスが口を開く。

 

「…あくまでそちらの情報は教えないつもり?」

「そりゃそうでしょう。俺たちは教会と悪魔。殺したり殺されたり、死んだり死なせたりする関係。わざわざ情報を与える必要がないんですよ。」

 

 非難するようなリアスに対して白瀬はさらりと言い切った。

 

「ああまた話が脱線した…。奪ったのは堕天使、『神の子を見張る者(グリゴリ)』です。」

「その中でも幹部のコカビエルだな。」

「コカビエル…!?あの大戦を生き残った、聖書にも記された堕天使じゃない!」

 

 コカビエル。あまりにもビッグネームすぎるその名を聞いて一誠以外の眷属達が驚いていた。

 

「先日からこの町に神父─いや、祓魔師を秘密裏に潜り込ませていたのだが悉く始末されている。」

 

 ゼノヴィアの告げたその事実にリアスは息を呑んだ。その様子に白瀬の目が若干細くなる。

 

(あ、まじで気が付いてなかったんだこの女悪魔。やけに悪魔の妨害が少ないなとは思ってたんだけど。)

「私たちの依頼─いや、注文とは堕天使との戦いにこの町の悪魔が介入しないことだ。」

「要は一切関わらないでってことね。」

 

 一瞬思考の海に沈んでいた代償と言うべきか、ゼノヴィアとイリナはめちゃくちゃストレートに要望を告げていた。それを聞いたリアスの目がいきなり吊り上がる。

 

「…随分な言い方ね?それとも…もしかして私たちが堕天使と手を組んで聖剣をどうにかすると思ってる?」

「まあ可能性としてはゼロではないでしょ?敵の敵は味方、ってね。」

 

 そう返して白瀬はゆっくりと脚を組んだ。

 

「はっきり言えば、教会は悪魔も堕天使も欠片も信用しちゃいない。確かに聖剣を盗んだのは堕天使だ。でもそこに悪魔が関係してない保証はない。何せ聖剣がなくなって教会が弱体化すればどちらにも利があるからね。」

「だからこそ言わせてもらおう。─堕天使コカビエルと組めば我々はあなた達を完全に消滅させる。たとえそれが魔王の妹でもだ。─と、私たちの上司よりだ。」

「…なるほどね。」

 

 怒りからか震え始めたリアスが、教会3人組を睨みつけて口を開いた。

 

「私を魔王の妹と知っていると言うことは相当上の方に通じていると言うことね。ならば、言わせてもらうわ。私は堕天使などとは手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

 堂々とリアスは言い切った。そしてそれを聞いた白瀬は静かに頷いた。

 

「じゃあそう言うことで、確かにエクスカリバーの件は伝えましたんで。あとは…あなたの話をしよう。」

 

 そう言って白瀬は1人の少女の方を向いた。彼女は金髪の、最近悪魔になったばかりの少女。かつて教会では聖女と呼ばれていた神器使い。

 

「─アーシア・アルジェント。」

 

 





白瀬 
 神器の影響で朝型、と言うより夜が苦手。
 昔アーシアには怪我を治してもらったことがあるので顔見知り。
 友達ではない。
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