聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

3 / 22





聖女 ①

 

『アルジェントさんって優しいですよね。』

 

 あれは2年か3年くらい前、まだアーシアが教会から聖女と呼ばれていたころの話だ。欧州(ヨーロッパ)のとある教会の中庭で白瀬とアーシアは話していた。

 

『俺たちみたいな祓魔師(エクソシスト)だけじゃなくて近所の爺さんから子供(ガキンチョ)まで無償(タダ)で癒すとかマジの聖女じゃないですか。普通できるからってそこまでやりませんよ?』

 

 その時の白瀬は祓魔師の任務で上級悪魔と交戦して死にかけ、そしてアーシアの元に担ぎ込まれて来たのだった。それはあと少しアーシアの手当てが遅れていれば死んでたほどの大怪我であり、神器による治療が行われて1週間以上経った今も静養を余儀なくされていた。

 

『…それくらいしか、私はできませんから。』

『その“それくらい”に俺たちは助けられてるんですよ。』

 

 物憂げに目を伏せてアーシアに、苦笑いしながら白瀬は右手を開閉した。その右手は戦闘中に聖剣の制御をしくじったせいで炭化寸前の大火傷を負っており、痕の1つも残らないほど綺麗に治癒された今でも若干の違和感が残っているらしい。

 

『…1つ、聞いてもいいですか?』

『なんです?』

『戦うのって、怖くないんですか?』

 

 それはアーシアの素直な疑問だった。教会のなかで自分よりも年上の聖職者や教徒たちに聖女として大事にされてきた彼女にとって、同年代の祓魔師というのは新鮮なものだった。だからこそ、祓魔師である彼の覚悟を踏み躙るようなその言葉が口から漏れ出して来たと言える。

 

『そんなの怖いに決まってるじゃないですか。』

 

 だが、白瀬はその言葉になんでもないことのように答えた。

 

『え……?』

『俺たちが戦うのは人ならざるもの(フリークス)。人語を介しながらも尋常ならざる膂力をもち、有り得ざる異能を持つ存在。生物としてなら圧倒的に俺たち(ヒューマン)の上位互換。…そんなのに恐怖を感じないわけないでしょう。』

 

 ゴソゴソとポケットをまさぐって煙草とライターを取り出しながら彼は続けた。吸っちゃダメですよ、と言うアーシアの声を無視して煙草を口に咥え、火をつける。

 

『…けど、怖がるのは俺たちだけで十分です。アルジェントさんみたいな、戦えない人にそんな思いをさせないために俺たちは命懸けて戦うんですよ。』

 

 虚空に紫煙を吐き出しながら白瀬はそう言った。それこそが若く、そして優秀な祓魔師の持つ本音だった。

 

『…アルジェントさん。あなたは優しい。とても優しくて、そして甘い。だからこその、忠告です。』

 

 白瀬はアーシアを向いて告げる。その目はアーシアが今までに見たことないほどに真剣だった。

 

『絶対に化け物(フリークス)に関わっちゃだめですよ。…そうしたら優しいあなたは絶対に利用されてしまう。骨の髄までしゃぶりつくされ、無惨に捨てられてしまう。』

 

『…あなたは陽の当たる場所で、人に愛されて生きてください。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの話をしよう、アーシア・アルジェント。」

 

 駒王学園にあるオカルト研究部部室。教会勢力とグレモリー眷属一味の会合が行われている中で、白瀬はそう言った。

 

「……っ!」

 

 そして話題に上がったアーシアが体を竦ませる。かつて『聖女』と呼ばれていた彼女は今や『魔女』にして『悪魔』。─祓魔師の怨敵だ。

 

「アーシア・アルジェント?…あの『魔女』のか?」

「魔女…あの噂になってた『元』聖女の?悪魔と堕天使も癒せるっていう。」

「……。」

 

 ゼノヴィアとイリナにジロジロと見られながら言い寄られ、アーシアがさらに身を縮ませる。

 

「お前らふざけ「落ち着け、2人とも。」……っ!?」

 

 その様子に一誠が怒鳴り声をあげようとした時だった。その声が予想外の人物によって遮られる。

 

「…すみません、アルジェントさん。」

「いえ、私は…」

「確かに悪魔になった以上貴女は『魔女』だ。…俺たちは貴女をそう呼ぶしかない。」

 

 咥えていた煙草のフィルターを噛みちぎらんほどの強さで噛み締めながら白瀬は言った。

 

「だけど、その前に謝らせて欲しい。…申し訳ない、俺は貴女の異端認定を取り消せなかった。」

 

 そう言ってアーシアに頭を下げる白瀬に、その場の全員が驚愕の目を向けた。だがそれも無理もない。彼は祓魔師で、彼女は悪魔。というかそれ以前にアーシアの異端認定を行ったのは教会の上層部である。この男は、そこに噛みついたと言うのだ。

 

「抗議、してくれたんですか?」

「ええ。とは言っても俺だけじゃなくて貴女に治療された何人かの祓魔師と一緒にですが。…結果は変わりませんでしたがね。」

「…待て、キヨシ。それは本気で言っているのか?」

 

 悔やむようにそう言う白瀬のその肩を掴んでゼノヴィアが尋ねた。それに対して白瀬は黙って首肯する。

 

「…なぜだ!?彼女は神に逆らって悪魔を治療したんだぞ?」

「そうだね。それは事実だ。」

「なら、どうして!」

「…彼女が治療した悪魔は1体。けど今までに癒してきた人は100人を、200人を優に超えるんだよ、ゼノヴィア。」

 

 善人が気まぐれに起こした悪行ってやつだよね。今まで咥えていた煙草を携帯灰皿に放り込んで、新しいものを取り出しながらそう言った。

 

「…お前、アーシアを助けようとしてたのか?」

「できなかったけどね。損得勘定抜きにしてもアルジェントさんには恩があるんだよ。」

「そうかよ…。」

 

 一誠は黙り込んだ。アーシアは教会から異端として切り捨てられ、堕天使に利用されていた過去をもつ。だけど、ごく少数であれど教会に彼女の味方はいたのだと知ってしまった。だからこそ彼は怒りのやりどころに困っている。

 

「…アルジェントさん。貴女に聞きます。」

「…なんですか?」

「悪魔への転生。それは貴女の意志によるものですか?」

 

 その質問にグレモリー眷属全員が息を呑んだ。なにせアーシアが悪魔になった時、彼女は一度死んだ状態だったのだから。

 

「…いいえ。」

 

 それに対してアーシアは正直に答えた。その瞬間、教会3人組がピクリと身体を震わせ、グレモリー眷属たちは驚愕の目でアーシアを見る。

 

「でも、後悔はしてません。私は、悪魔になって良かったと思ってます。」

「…そうですか。それなら、よかった。」

 

 微笑んで言ったアーシアに、白瀬も薄く笑った。少なくとも彼女は笑えているのが今の彼にとって最大の救いであった。

 

「…まあ仮にも祓魔師(エクソシスト)の身で悪魔に転生したことをよかったとか言っていいのかは知りませんけど。」

「…普通駄目、ですよね。」

「まあそこは考えないことにしましょう。あとはアルジェントさんの追討命令が出ないことを祈るばかりですね。」

 

 その言葉にアーシアの顔が曇るのに見ないふりをして白瀬は紫煙を燻らせながら立ち上がった。少しズレたメガネを指で押し上げ、大きく煙を吐く。

 

「それじゃあやることも終わったことだしここらでお暇としよう。帰るぞ2人とも。」

「…そうね、もっとイッセーくんとも話したかったけどそろそろ帰ろっか。」

「邪魔したな。」

 

 口々にそう言って聖剣使いたちが立ち上がる。リアスたちはそれを黙って見送った。それはきっと、次に会うときはきっと互いに敵なのだろうということが薄々わかっていたからだろう。

 

 そして白瀬が部室の扉に手をかけたとき、

 

「「「ッッッ!?」」」

 

 ガキン、という金属同士がぶつかり合う甲高い音と火花が響いた。

 

「もう帰るのかい?」

 

 その音の出所の片方はグレモリー眷属の騎士(ナイト)、木場祐斗。彼が神器(セイクリッド・ギア)である『魔剣創造(ソード・バース)』で生み出した剣を片手で3人に向けており、

 

「…随分なご挨拶だな、悪魔(フリークス)。これがお前たちの総意と言うことでいいのか?」

 

 瞳孔の開き切った白瀬がそれをどこからともなく取り出した銃剣(バヨネッタ)で受け止めていた。手に持った銃剣からは聖なる光の残滓が漏れ出し、グレモリー眷属たちの肌を焼く。

 

「ちょ、ちょっと祐斗!?何やってるの!?」

 

 自身の眷属の凶行にリアスが驚き、全力で止めにかかる。駒王の地を預かるものとして、なにより眷属たちの『王』として彼女には教会陣営とことを構えるつもりはかけらもなかった。

 

「止めないでください、部長。ようやく現れたんです。」

 

 聖なる光に肌を焼かれながらも、怒りに目をぎらつかせながら木場は剣をずらさなかった。

 

「僕は待っていた。エクスカリバーを使う者をエクスカリバーを叩き折れる日が来ることを。それが今来たんだ。」

「…おい女侯爵(グレモリー)。これはお前たち全員の敵対表明ってことでいいんだな?」

「いいわけないでしょ!祐斗!やめなさい!」

「部長は下がっていてください!」

 

 あーらら、と口に咥えていた煙草をぴこぴこ動かしながら白瀬は器用にため息をついた。なんでかは知らないがこの優男はエクスカリバーに、ひいては自分たちに敵意があるらしい。

 

 まあそれならそれで別にいいが。

 

「…そうかい、それは助かる話だが。ってことはそいつらはともかく、」

 

 敵意を隠そうともしない祐斗の魔剣を強引に銃剣で弾き飛ばして、白瀬が吠えた。

 

「お前は俺の敵ってことでいいんだよなあ!?」

 

 その言葉の刹那、木場の全身に無数の銃剣が突き刺さった。

 

 






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。