聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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聖剣 ①

 

 そこは薄暗く光の入らない、それでいて煌々と光を放つ数多の機械と豪華な調度品が乱雑に並べられた部屋だった。その部屋に男の笑い声が響く。

 

「ふははっ…。」

 

 男は目の前のモニターを見て笑う。彼の目の前にあるモニターには、首を落とされ灰も残らないほどに焼き尽くされたフリードの姿が映っていた。喜劇には程遠いそれをみて、5対10枚の羽を持った男は笑う。

 

「まさか、まさかこんなことが起ころうとはな。なかなか運命というのは面白い。」

 

 男はそう言ってモニターに映る1人の少年を見つめた。いや、正確には少年の持つ剣を見た。

 

「ふむ、コカビエルよ。何が面白いのだ?フリードが死んだんだぞ。」

「フリードか。あいつのことなど今となってはどうでも良い。」

 

 男─聖書にも記された堕天使、コカビエルは隣にいた老人に応じた。その姿は非常に上機嫌に見える。

 

「どうでもいい?あいつが負けて死んだせいで天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)は回収されたというにか?」

「ああ。回収されたあのエクスカリバーの欠片すらもどうでもいい。」

 

 老人の咎めるような声を気にせずコカビエルは続けた。

 

「そんな顔をするなバルパー。一つ昔話をしてやろう。エクスカリバーについてだ。」

「…私が今までどれだけの年月をエクスカリバーに捧げてきたと思っている?

エクスカリバーはアーサー王の使っていた最強の聖剣。かつての大戦で7つに砕け、そして新たに7振りの聖剣として作り直されたものだ。」

「そういうことではない。そもそもエクスカリバーとはなんなのか、ということだ。」

 

 コカビエルはぎしりと音を立てて椅子に深く座り直した。

 

「あれはな。聖書の神などが造ったものでも、ましてや人間の錬金術師が造ったものでもない。この星が、世界の意思が創り上げた正真正銘の『神造兵装』だ。」

「世界の意思、だと…?」

「そうだ。人の無意識の集合体、と言ってもいい。我々の暮らすこの世界がよくありますようにと。世界が人々の希望で満ち溢れますようにと。世界そのものがその願いを受け、さらには天に輝く星々の加護を受けて作られた希望の剣だ。」

 

 だからこそエクスカリバーには多くの権能があるのだとコカビエルは語る。

 

「人外は人間より速い。なら使い手にはそれに対抗する速さを与えよう。

人間より硬い。なら使い手がそれを破壊できる一撃を使えるようにしよう。

剣では抗えない形をしている。ならば剣以外の、使い手が好きな形を取れるようにしよう。

物理的に破壊しても蘇る。ならば聖なる力をもって魂を消滅させよう。

幻術を使われて戦いにならない。ならばそれに同じ幻術をもって対抗できるようにしよう。

強大な人外を相手に真正面からでは戦えない。ならば不意を討てるように姿を消そう。

強大な人外には1人では戦えない。ならば人外と戦うための軍団を統率できるカリスマを授けよう。

アレはそうやって作り上げられた、人々が希望を手に入れるための剣だ。」

 

 当時を見てきたように、いや実際に見ていたのであろう堕天使はそう語る。

 

「聞けば聞くほど興味深い話だな。だが、星の意思とやらで作られた聖剣はなぜ砕けたのだ。それほどの聖遺物(レリック)ならば大戦で砕け散るわけもなかったろうに。」

「それは簡単だ。要は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけだ。」

 

 老人が理解できない、というように眉を顰めた。その様子を見て小さく笑いながらコカビエルは続けた。

 

「あの大戦で多くの悪魔と堕天使が死んでいった。つまり人類にとっての脅威、というものがこれまでに比べて格段に少なくなった時代が到来したわけだ。そうなると必要になるのは強大な“一”ではなくある程度に強く、多くの敵を相手取るための“数”。その方が人類にとって求められたわけだ。今の人間どもの戦場に一騎当千の英雄ではなく無数の兵士の方が求められるようにな。」

「だからこそ、大戦でエクスカリバーは自ら砕け散り7つの聖剣として生まれ変わったというわけか…。」

「その通りだ。」

 

 コカビエルの言葉にぶつぶつと呟きながら老人が考えを巡らせる。エクスカリバーの信奉者とも言えるこの老人にとっては今の話は千金に値するものだったのだろう。

 

「話はまだあるぞ。エクスカリバーは星の意思によって作られた聖剣。だが、実のところ星の意思によって造られた聖剣というのはもう一振り存在する。」

 

「司るものは『希望』ではなく『力』。『理不尽を覆すだけの力』とも言えるだろう。」

 

「受けた加護は星ではなく太陽。人々に希望を与えるためではなく、ただひたすらに『人類の敵を殺すためだけに造られた聖剣』だ。」

 

 そこまで言ってコカビエルはモニターを叩いた。

 

「これさえあればもはや欠片となったエクスカリバーなどいらん。この街を破壊し、これから始まる大戦争の幕開けには十分に過ぎるというものだ。」

 

 両手を広げ、コカビエルは高らかに笑う。今自分の目の前にあるのは世界最高の神秘を宿し、現在までその神秘性を保持し続けた聖遺物。これさえあればようやく自分の理想が叶うのだと。その思いを胸にして。

 

戦争を!一心不乱の大戦争を引き起こすのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで無事聖剣(エクスカリバー)の1本目を回収できましたことに…乾杯!」

「「乾杯!」」

 

 昼下がりのサイゼ。値段良し、味良し、そして3人にとって慣れ親しんだイタリア料理ということで聖剣使いトリオは軽く打ち上げを行っていた。

 

「…ぷはあ!いやーひと仕事終えた後のジュースはうまい!」

「そうだな。あ、イリナ。そのエスカルゴとってくれ。」

「はいはい。にしても無事にすんでよかったわね。…まあだいたいキヨシがやってくれたからだけど。」

「…確かにな。だが次はおそらくコカビエル本人が来るだろう。キヨシ、お前はどうするつもりだ?」

「ここ年確あるから神の血(ワイン)飲めないんだよねー。残念。」

「話聞いてる?」

「というかこいつほんとに聖職者か?」

 

 むごむごと口にピザを詰め込む白瀬に2人がジト目を向ける中、それを気にせず白瀬はメニューを手に取った。

 

「そういやこないだ間違い探ししてなかったね。みんなやろうぜ。」

 

 そう言って片手にピザを、片手に間違い探しを持った白瀬の頭を2人は同時にしばいた。

 

「話を聞け。」

「…はい。」

 

 割と目の座ったゼノヴィアに睨まれて、白瀬は渋々メニューを元の場所に戻した。持っていたピザも皿に置いてジュースで口を湿らせる。

 

「んで?どうやってコカビエルに対抗するかって話だよね?」

「聞いてはいたのか。」

「一応ね。ただ…正直打つ手はほぼないと思ってる。」

 

 その白瀬の一言にゼノヴィアは瞠目し、イリナは眉を顰めた。

 

「前も言ったけど相手は超級の神秘を宿した堕天使。年齢がうん千年を超えるコカビエルに、数百年前だか千年前だかに折れて作り直されたエクスカリバーでは対抗できない。」

「じゃあゼノヴィアの聖剣(デュランダル)なら?」

「無理だね。相手はデュランダルを持った猊下と戦って生き延びてるような怪物だ。同じデュランダル使いとしてまだ未熟なゼノヴィアではまず無理だと思う。」

 

 そう言って白瀬は腕を組んだ。そんな彼に2人が口々に案を出していく。

 

「盗む。」

「俺ならエクスカリバーなんて大事なものは幾重にも結界張ってその中に保管するか手元に保管して盗まれないようにするね。」

「奇襲をかける。」

「そもそも戦おうとしてる時点でアウト。」

「相手のアジトごと破壊する。」

「多分結界かなんかで防がれて終わり。」

「…毒を盛る。」

「どうやってだよ。」

 

 割と案が出尽くして2人が口を閉ざしたところで、白瀬がこめかみを揉みながら苦々しく口を開いた。

 

「一応、俺が神器発動しながら聖剣の真名解放すればワンチャンあるとは思う。ただその場合は…。」

「駒王、焼け野原になるわよね…。」

「下手したらコカビエルより被害を出しかねんぞ…。」

 

 全員が頭を抱えた。ゼノヴィアとイリナは純粋に力不足。白瀬はワンチャンあるが周りの被害が予測不可能。場合によってはこの被害のせいで3大勢力間の戦争を引き起こしかねない。

 

「いやでも君らが全力で結界を張ってくれたらちょっとは被害が少なくなる、と思うんだけど。」

「私は結界術使えないぞ。」

「私も。」

「…これだから最近の聖剣使いはさあ!結界術なんて祓魔師(エクソシスト)にとって基礎の基礎じゃないかよぉ!」

 

 酔った上司みたいなことを言って白瀬は思いっきりジュースを一気飲みした。なお白瀬は最初から聖剣使いだった2人と違い祓魔師(エクソシスト)上がりの聖剣使いなので普通に使える。

 

「ちくしょう!なんで俺はいつもこんな任務なんだ!しかも今回味方が脳筋アホの子2人とかどんな試練だよ!」

「ちょっと?どういう意味?」

「その言葉の通りだよちくしょー!こうなったらヤケじゃあ!ドリンクバー制覇してやらぁ!」

 

 そう叫んで白瀬はドリンクバーの方へと歩いて行った。なんか去り際に“白瀬スペシャル”とか聞こえた気がしたけどきっと気のせいだろう。うん、多分。イリナはそう結論づけて辛味チキンをつまんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜の駒王町。人通りのない道をグレモリー眷属の【騎士(ナイト)】である木場は彷徨っていた。

 

「…くそっ。」

 

 思い出されるのはつい先日のこと。自分から教会の聖剣使いに襲いかかったにも関わらず、何もできず一方的にただの銃剣に打ちのめされたあの日の記憶。

 

『神器も聖剣も使ってない俺に負けるくらいには君弱いんだからさ、頼りになるみんなに守られて大人しくしてなよ。』

 

「………っっ!」

 

 ガン、と拳を電柱に叩きつける。その衝撃で電柱がへこみ、大きく揺れたがそんなこと気にしていられなかった。

 

「……僕は。」

 

 聖剣が憎い。聖剣使いが憎い。みんなの命を奪った原因の聖剣が憎い!だから僕は復讐しなくちゃいけないのに。

 

「僕はなんて弱いんだ…。」

 

 そう呟くと、僕の目から涙が零れ落ちる。何度も何度も電柱を殴りつけ、声にならない声をあげる。辛くて、悲しくて─だから、僕は気づかなかった。

 

「ほう、あの赤髪の小娘の眷属か。」

「…え?」

 

 その声は後ろから聞こえた。慌てて振り向いた瞬間に、相手に顔面を掴まれる。ただそれだけで全身が言うことを聞かなくなる。

 

「ちょうどいい。」

 

 相手の声が聞こえるたびに恐怖が走り、背中に氷柱を突っ込まれたような感覚に陥る。死ぬ。殺される。思考ではなく、本能でそう思った。

 

「手土産が欲しかったところだ。」

 

 意識を失う直前に最後に見たのは5対10枚の黒い羽だった。





違うんだよ。別に木場くんが嫌いとかじゃないんだ。けど絶妙にいじめやすい場所にいるんだよ彼。でもイケメンの曇り顔からしか取れない栄養素もあるし仕方ないよね。

そしてエクスカリバーに対する捏造設定。HSDDの二次創作では割と『エクスカリバーの名を与えられた普通の聖剣』と見做しているのも多い気がしますが、『砕け散ったのが本物のエクスカリバーだった場合それはどういう理由でなのか』に対するこの二次創作なりの100%捏造設定です。Fateとのすり合わせともいう。


【ある祓魔師の記憶 ②】
 
 ミンミンと鳴いていた蝉も夜になれば突然おとなしく黙り込む。代わりにコオロギだかなんだかのなぞの虫がうるさくし始めるのだが、蝉ほどの爆音を奏でないだけマシだろう。
 少年はその時間に、学校の宿題に手をつけていた。現在彼の父親は海外に出張に行っており、不在。学校もそのために少年が一時的な一人暮らしをしていることを知っているため心配されているのだが、心配をかけたくないのが少年の本音だった。

「ねえねー少年ー。暇ー。遊ぼー?」

 …実際は一人暮らしではないのだが。そんな思いを邪魔するように気の抜けた声とともにべちゃっと生暖かいなにかが少年の背中にもたれかかってくる。

「…宿題してるからもうちょい待って。」
「えー、つまんなーい。」

 少年が背中にひっついてきた少女にそっけなく返すと、少女は少年の後頭部に額をぐりぐりと押し付けてきた。長い白髪がふわりと落ちてきて少年の鼻腔をくすぐる。

 ─柔らかくて、いい匂いがする。

 頭に浮かんだそんな思いを振り払うべく少年は強引に少女をひっぺがした。少女の口からぬわあああみたいな悲鳴が上がる。

「乱暴だ!DVだ!」
「なにそれ。」
「そっか子どもには早かったか!」

 少年はため息をついて騒ぎ立てる少女の方を向いて─大きくため息をついた。

「別になんでもいいけどさ。…羽、出てるよ。」
「え?あー…」

 少年にそう指摘されて少女はバツの悪そうな顔をした。その背中には2枚の、悪魔の象徴である蝙蝠の羽が羽ばたいている。

「出してないつもりだったんだけど、どうしても夜は出ちゃうんだよねぇ…。」
「早くしまって。それ出てたら悪魔の気配が濃くなるんだから。」
「うん…。」

 しょげた少女が羽を消すのを確認して、少年は再び机に向かった。

「あっ…。」

 その様子に少女が力無い声を漏らした。そんな少女の方を見ずに少年がぽつりと呟いた。

「もうちょっと。」
「え?」
「もうちょっと待って。宿題、もう少しで終わるから。」

 …これはデレというやつか?少女の頭の中にそんな益体もない思いが浮かんで、

「…うん。待ってる。」

 少女は花のような笑みを浮かべた。



(ほんと変な子だよね。)

 机に向かう少年の後ろ姿を見ながら悪魔の少女は思う。

 最初に会ったのは夜の港。自分を無理矢理悪魔にした元主のところから逃げ出して、人間界に来たはいいけどそこでもまた逃げ続ける日々。しかも途中で堕天使の領地に入ってたらしくて悪魔からも堕天使からも追われる日々。

 そして西へ逃げて逃げて、最後に辿り着いたこの町で。

『─何やってんの。悪魔のお姉さん。』

 少年に、出会った。

 それから藁にも縋る思いで少年に事情を話して、悪魔になんてなりたくなかったのに無理矢理悪魔の駒を埋め込まれたこと、人間に悪いことなんてしてないことを伝えて─今は彼の家に匿ってもらっている。

(あたしを匿ってるってことがバレたら少年もやばいくせに。)

 彼は祓魔師の息子だ。そんな立場で悪魔を匿うなんて、普通はできない。しちゃいけない。なのに、してくれた。

 人間じゃなくなったあたしを『人間』として見てくれた。

 それが、たまらなく嬉しい。

(君に会えてよかったよ、少年。)

 心の中でそう思って、少女は微笑んだ。



 
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