HELLSINGは紛うことなき名作ですが欠点が2つ在ります。
10巻までしかないことと読んでいたら自然とお口が悪くなることです。
あと10分。スマホでも弄っていればあっという間に溶けていくだけの時間で戦火の火蓋は切られるのだと、
「……っ!」
ギリ、と奥歯を食いしばる。どうしたらいい、この状況はいったいどうやったら打破できる?眼前に敵がいるまま、白瀬は思考の渦に囚われる。剣の火が消え、その目から殺意が消え失せる。それは殺意よりも、動揺が勝ったから。そのザマを堕天使が嗤い、そして失望する。所詮はただの人であったと、意気込みだけの愚図であったと定義する。
「キヨシ!」
そんな動きを止めた白瀬の胸ぐらが突然に掴まれた。普段はどちらかというとゼノヴィアと白瀬に振り回されることの多い彼女の行動に、白瀬が目を丸くする。
「キヨシ、なに悩んでるの!?」
「イリナ…?」
「私たちはどう教わった!?」
動きを止めた2人にコカビエルがいくつもの新たな魔獣を召喚し、差し向けた。そのほとんどがゼノヴィアとデュランダルに吹き飛ばされていくが、そのうちの一体が2人に迫る。大口を開けて、久々の人間の味を味合わんと、血肉を平らげんと牙を剥く。
その魔獣がまさに2人を噛みちぎろうとしたその時、魔獣が2つに割れた。縦に、血飛沫をあげて、真っ二つに。人の身よりも遥かに大きな魔獣の目から光が失われ、血飛沫をあげながら大地に倒れる。
それを斬ったのはイリナだった。日本刀の形に変えた
「『そうあれかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す』!」
「っ!!」
「私はそう教わった!いつだってそうしてきた!今だってそうする!それに、ゼノヴィア!」
「ああ!」
魔獣の群れを紙切れのように吹き飛ばしながらゼノヴィアが応えた。
「まだ魔法陣は消えていない。
それは絶望の中においてのたった一筋の光明。蜘蛛の糸よりも細い希望の道筋。
「この術式が完成する前に
ゼノヴィアの目が告げている。
往けと。迫り来る死の予兆に怯える人ではなくただひたすらに神罰の代行者であれと。そう告げている。
「…ああ、そうかい。なら往くしかない。」
「そうだ!行け、往けキヨシ。お前が往け。」
「ああ。往くさ。往くとも!」
彼らは僅かな希望に賭けた。その目は殺意に煌々と燃え、その剣は闇夜を照らさんと再び光を灯す。
「すまないイリナ。すまないゼノヴィア。俺は俺としての在り方を失うところだった。俺は今、人ではなくただ震えるだけの肉塊に成り下がるところだった。」
いい目だとコカビエルは感心する。そうだ、久しく忘れていた。人間とはこうだ。絶望の中にほんの僅かな光を見つければ、どこまでも食い下がるモノだった。
「戻ったならそれでいい。あと9分。その間に
「了解した我が戦友。我が兄弟。我が親愛なる隣人よ。必ずやこの身に代えても成し遂げよう。」
その言葉を最後に白瀬は聖剣を手に駆け出し、魔獣の群れへと飛び込んだ。
「ああ。素晴らしい。これだから人間は素晴らしい。」
人間は愚かだ。弱く、矮小で、吹けば飛ぶような、瞬きするほどの刹那にしか生きられない存在。それは紛うことなき事実。だが、ごく稀にこういう者がいる。僅かな命を燃やし尽くし、その生き様をもって己の存在を示す者がいる。
「お前達は狂信者だ。素晴らしい狂信者だ。だから死ね。これが試練だと宣いながら死んでいけ。」
コカビエルはその敵でありながらその在り方にほんの僅かな敬意を示した。だからこそコカビエルは、
「「「「─────!!!!」」」」
亡者が声なき声を叫ぶ。その目は流した血の涙で赤く染まり、全身は爛れ、己が過ちを悔い続ける摩耗した魂はもはや人の理解できる言葉を話すことはない。ただひたすらに自らの魂の欲するままに声を上げる。
無数の亡者がコカビエルへと突貫する白瀬へと向かっていく。屍人の軍勢が砂埃を上げながら足を引き摺り、身の毛もよだつような咆哮を上げながら迫っていくその様はまさに死の河。その群れの中に白瀬が走っていき、
「
その中の一体に、白瀬の投擲した
「爆ぜろ亡霊が!」
その言葉の直後、銃剣が爆発を起こす。その爆発は幾多もの亡霊を巻き込み、濁った血飛沫をあげ、肉片を辺りに撒き散らしながら辺りにクレーターを作り出す。
「う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
爆発でできた隙間を縫うように白瀬が駆けていく。聖剣は使えない。聖剣の力を元にした奴の術式がある限り、己の聖剣の力は術式を加速させてしまう。使えるのは最後の一瞬、コカビエルの首を獲るその瞬間だけだ。
腐った肉片を踏みつけ、全身を赤く染めながら白瀬は走る。自身に絡みつく亡者の身体を引きちぎり、脳天を叩き割り、爪で皮膚を切り裂かれ、髪を引きちぎられ、肉を食いちぎられながらコカビエルへと迫っていく。ただひたすらに、前へ。
あと僅か、あと僅かな亡者の壁をぬければコカビエルの眼前に辿り着く。そこまで来て、白瀬は“流星”を見た。
「───糞、が!糞が糞が糞がぁ!」
自身に迫る数十もの光槍。その全てが全て別の不規則な軌跡を描き、光の尾を引いて白瀬を殺そうと放たれる。それは流星のようであまりにも美しく、そして残酷な光景であった。光槍は白瀬の前にいた亡者を次々に消滅させていき、その勢いのままに次々に白瀬に直撃、爆発した。
「ははははははは!!」
「どうした
煙の中に向けてコカビエルは語りかけた。彼は確信していた。この程度で奴は死なない。それを裏付けるように、炸裂音と同時に煙の中からいくつもの銃弾がコカビエルへと襲いかかる。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
立ち上がる間も惜しいと片膝で立ち、全身から血を流しながら白瀬が吼える。手に持った拳銃から放たれた幾つもの聖法儀弾が、ただ真っ直ぐに、堕天使を撃ち殺すために突き進む。
「いい、いいぞ
だが、その凶弾は堕天使には届かない。コカビエルに当たる直前、彼の権能によって軌道を曲げられた
─万物を星に見立てることでその軌跡を操るコカビエルにとって、飛び道具は一切の効果を持たない。そして星を知りその力の一端に干渉することのできるコカビエルと聖剣を知り尽くしたバルパー、この2人が作り出した術式により
「…なんてザマだ、
煙が晴れ、初めて知った事実から目を背けるためコカビエルはそっと目を閉じた。目を閉じる直前に最後に見た白瀬の姿は、まさに満身創痍。腹には光槍で開けられた穴が空き、全身は死の軍勢を突破した傷で赤く染まり、そして、彼からは左脚の膝から下が失われていた。そこから滝のように血が流れ、地面を赤く染め上げる。
「なんてザマだ。満身創痍にも程がある。まるで襤褸雑巾だ。使い道があるだけ襤褸雑巾の方がまだマシだぞ。」
戦場での片脚。その価値を知らぬコカビエルではない。もはや勝敗はついた。コカビエルは戦いが終わってしまうことを寂しいと、そう感じていた。
「…何言ってやがる
だが白瀬の目は、まだ終わっていない。震える手で銃剣と聖書を取り出し、銃剣を左脚の傷口に思いっきり突き刺した。銃剣を己の失われた左脚の代わりにするために!
「たかだか左脚が千切れただけじゃねえか。腹の穴が三つに脚の一本。そんな傷にも入らねえかすり傷が増えただけじゃねえか。勝手になに終わった気になってやがる。」
聖書の
「この身は神の代理人にして神罰の地上代行者。この身は神の意志に背く人界の敵を一切合切葬り去る者!」
脚を手に入れた白瀬が立ち上がり、右手に聖剣を、そして左手に銃剣を握りしめた。その2つを交差させ、世界で最も物騒で敬虔な十字を作り出す。十字を刻んで、鮮烈に笑う。
「さあ行くぞ
コカビエルもまた、一本の光の槍を作り出して構えた。その顔は殺意によって作られた笑みが浮かんでいる。
「ならば来い、かかって来い!能書なぞいらん!早くかかって来い!
「ああ行くとも!」
白瀬が両手の武器を構えてコカビエルの元へと飛び込んだ。神器も聖剣も使えない今、彼を支えるのは
「
コカビエル
神の星、という意味の名を持つ堕天使。
天文に関する知識を持ち、それを人に教えるため人と交わったため堕天したとの逸話がある。ついでに配下に十万単位の霊の軍勢を擁する。
勝てるかこんなの。