『無辜の怪物:C++』
彼のスキル欄に刻まれた文字。
しかしその片鱗など少しも見せない彼について、ダ・ヴィンチちゃんに聞くと彼女は、彼の最期とその後を語った。
テンプル騎士団がフィリップ4世によって逮捕されようとしたその時、彼と数人の騎士たちは罪の証拠を要求するとともに聖堂に籠城した。
彼らは破城槌を用いて扉を破ろうとしたフィリップ4世の手勢を前に扉を開いた。
しかし、聖堂の内部にいたのはアランと騎士たちではなく、アランただ一人。
裏口から出た騎士たちが聖堂の扉を閉めると同時、彼は聖堂に火をつけ、アランと王の手勢数十人は全員が炎と煙で死に絶えた。人々はこれを彼の付けた炎ではなく、彼の怒りが招いた悪魔の炎だと噂した。
そうして彼は、後世にてテンプル騎士団の冤罪が晴れるまでの間人々の間で、〝総長ジャック・ド・モレーの親友であり、それに唆されて悪魔の道へと堕ちた末に怒りで身を焦がした背信者〟であると、テンプル騎士団の邪悪の一つとして語られた。
ダ・ヴィンチちゃんが手元の端末を操作して表示したのは、現代に残っていたその聖堂の焼け跡。
呪いが宿ると恐れられた結果、誰一人として触れることなく残された瓦礫の山の写真だった。
「その後、ジャック・ド・モレーの裁判の場ではその親友である彼は悪魔に取り憑かれていたものとして扱われた。真偽は定かではないが、彼の生まれた日は6月6日の6時、獣の数字を背負っていたなんて話も上がった。おそらく彼の無辜の怪物の要因とはそこだ。後世で与えられた悪魔憑き、もしくは悪魔崇拝者としてのイメージ。そして、モレーと共に死して国を呪った者としての烙印だ」
その時、ダ・ヴィンチちゃんと二人きりだったはずの部屋に、鉄の鎧が軋む音が鳴り響く。
慌てて後ろを振り向くと、そこにはやはり件のセイバーのサーヴァント、アラン・エル・ブラーが兜を外し、こちらを見つめていた。
「話は最後以外ほとんど聞いておりませんが、私は正気だ。悪魔憑きなどではなく、私は私としてここにある。信じてください、我がマスター」
「何も君を疑ったわけじゃない。彼女はただ、もう少し君を理解したくて私に聞きにきたんだよ」
「それは……、出過ぎた真似をしました。どうかお忘れください」
ダ・ヴィンチの言葉を聞き、立花にそう言うと彼は霊体化してその場から姿を消した。
「少なくとも、彼がああやって騎士として振る舞っているうちは安心していいはずさ。私の見立てだけど、彼は自分が騎士であることにかなり執着しているみたいだからね。……それこそ、囚われていると言っても過言じゃないほどにね」
「……はぁ、ホントなんであんなのになっちゃったんだろうね?」
「……今日の私の工房は不法侵入者が多いなぁ」
ため息と共に現れたのは、ジャック・ド・モレー。
彼女は少しの間を空けて、再度深くため息を吐く。
「昔のアイツはさぁ、もうちょっと感情的で生真面目で……あんな鉄人騎士みたいな感じじゃなかったんだよ?それがサーヴァントになったらあれって……」
「──それはきっと、負い目なんだと思うよ」
「どういうこと?」
立花の言葉に、モレーは首を傾げた。
「だって──」
教えようとした立花の口をダ・ヴィンチが塞ぐ。
「こればっかりは、君自身が気がつくべきだ。理由とかじゃなくて、しっかりと自分の尺度で理解をすべき、彼と君の問題だ。だから、まぁ応援しているよ」
ダ・ヴィンチはそれ以上何も言わず、モレーも得られるものはないと悟りその場を去った。