藤丸立花は夢を見た。
それは、最後の日の夢だった。
─────
聖堂の扉は閉ざされ、その中にいるのは数十人の騎士、かけがえのない仲間たち。
《ふ、副総長!これ以上は……》
『……俺が求めるのは、我らが罪の証。動かぬ証拠だ。それがなければここから動くことなどできん』
そう返答をしつつも、限界は悟っていた。
きっと彼らに正義などなく、ただ目障りな騎士たちを皆殺しにするためにいるのだと。
《アラン・エル・ブラー!配下の騎士を連れて今すぐに投降しろ!貴様には悪魔崇拝の容疑がかけられている!》
聖堂の扉を叩きながら怒鳴りつける声が聞こえる。
『断る!我らは潔白だ!我らに罪科があると言うのなら、その証拠をここに持って来るが良い!』
《…っ黙れ!すぐに扉を開けろ!》
『断る!』
外からの罵声を、さらに大きく堂々とした声で打ち消した。
彼らの声が一瞬詰まったのは、正義がどちらなのかわかっていたからなのだろう。
すると、扉が先ほどよりも強く叩かれ始める。
教会の鉄の扉はいまだに耐え続けているが、この状態を今日一日保てれば奇跡と言っていいだろう。
《破城鎚を持ってこい》
扉の先から聞こえた声に、周囲にいた騎士たちがざわめき出す。
覚悟を決める時が来た。
『……松明を一本用意しろ。裏口から出て扉を施錠し、奴らが聖堂に入り切るのを息を潜めて待て。奴らが聖堂に入り切ったら、後ろから扉を閉めて塞げ。いいな?』
《……しかし──》
『良い、俺の身は案じるな。ここが俺の死地だ。元から覚悟は決めている』
嘘だ、覚悟など決まってはいない。未練など数えきれないほどある。
それでも、俺が自らを騎士と名乗るのならば、ここで命を捨てなければならない。
〝立派な騎士に〟それは俺の親友であり、常に胃を痛めている可哀想な総長との幼き日の約束なのだから。
背後で扉を開ける音が聞こえ、足音が遠ざかっていく。
扉の施錠を外すと、すぐにフィリップ四世の配下が流れ込み、火の付いた松明を掲げる俺を囲む。
《武器を捨てろ、お前は終わりだ》
『……そうだな。終わりだ、お望み通り捨ててやる』
松明から手を離す。
それと同時、聖堂の扉が外から閉まる。
《……っ!貴様ァ!》
舞い散る火の粉。
鎧を焦がすような熱。
俺と、おそらくジャックすらも襲ったであろう国王の手下を、この手で燃やしてやった。
我が心に通り過ぎたのは、一抹の喜び。
ここに俺は、怪物と
剣を引き抜き、一番近くにいた者の首を切り裂く。
『……ク、ハハハ…………』
ナニカが壊れる、音がした。
『ハハハハハハ──!!』
なんと愉快。
なんと爽快。
ただ、怒りのままに斬る。
ただ、怒りのために殺す。
友を、そして俺を騙した者たちに呪いあれと祈り、剣を振るう。
王には傷にすらならないであろう、小さな復讐。
しかし、ここまで胸のすくモノだとは思わなかった。
ただ笑う、嗤う、嘲笑う。
『あぁ、王に呪いあれ!我らを貶めた全てに呪いあれ!地獄の淵で命乞いをするがいい──!!ハハハハハ!!』
俺が、生の最後に見出したのは、炎。
怒りを燃やすこと、その炎のままに殺すこと。
愚かにも、それを選んだ。
笑いは悪魔のもの、笑いは嘲り、笑いは誘惑。
俺はそれを受け入れた。
あぁ、俺は、きっと──
「俺はきっと、最後まで騎士として在るべきだったのだ」
────────────
「……は──、」
彼の言葉を最後に、私は汗まみれで目を覚ました。
最後の言葉はきっと、今の彼の心そのものなのだろう。
彼の後悔なのだろう。
なら、私はそれを尊重するべきだ、と思った。
少し彼と話をしよう。そう考えて、デジタル時計に表示された午前4時の時刻を見て、もう一度寝てからにしようと考えを改めるのだった。