「ねー?少し話さない?」
「……構わない、久しぶりに腰を据えて話そうじゃないか、モレー」
食堂にて、モレーに唐突に話しかけられたアランはそう言うと自らは席を立ち、モレーと自分の分の水をコップに入れて運んでくる。
「最近どう?カルデアには慣れた?」
「あぁ、同じフランスのよしみでアントワネット王妃やジャンヌ・ダルクさんとも仲良くさせてもらっているよ。ジャンヌ・オルタも中々に面白い御仁だった」
「…………そういうとこ、アンタの才能だよね」
「?」
かつての親友の口からポンポンと吐き出される女性の名前に不機嫌そうな顔をするモレーを前に、アランは首を傾げた。
「わかんないなら別にいいよ」
「……そうか」
「ねぇ、まだ──」
「俺は騎士でいるつもりだ」
「……それは、私の為?」
「─────」
モレーとアランの間に、少しの沈黙が流れる。
沈黙は何よりも雄弁に、モレーの質問への答えを示していた。
二人の会話はそこで途絶えた。
フランスに極小特異点が発生し、特異点が存在する時間に最も近い時期に生きていたモレーとアランがマシュと立花に同行することとなったのはそれから数日後のことだった。
「マシュも一緒なら、実質ダブルデートじゃない?」
「……友情と愛情を履き違えている、もう少し考えて話せ。──マスター、こちらです」
軽い漫才のような空気を繰り広げつつ、マシュと立花の二人に市街地を案内するモレーとアラン。
その街は、フィリップ四世のテンプル騎士団に対する弾圧に反対し、最後まで弾圧が行われることのなかった街であり、アランの配下の騎士たちが逃げ延びたその場所であった。
「あらアンタ、テンプル騎士の……?いいわ、ウチの宿に泊まっていきなさい。お仲間も一緒でいいさ、アランさんにはえらく世話になった」
アランの鎧を見た町民の老婆のその言葉で宿を得た立花たち。
特異点の探索は当初予想されたよりも随分とスムーズに進んだ。
……聖杯が見つかるまでは。
極小の特異点だったこともあり、聖杯の使用者は低級の怨霊で、聖杯が隠されていたのも浅い洞窟の奥だった。
「マスター、あちらです。アレがこの特異点の核となる聖杯です。早期の回収を──」
そう言ったアランの横を通り過ぎて、モレーが聖杯へと近づいてゆく。
「モレー、何を──っ!」
「〝聖杯よ、この者の憤怒に解放を!〟」
「─────っ、お前……!」
立花とモレーの間を阻むように立っていたアランが苦しみ出すと同時に、その鎧の隙間から炎が噴き上がる。
マシュが立花とアランの間に入り盾を構えると同時にカルデアから通信が入る。
『アラン君の霊基が急速に変貌してる、おそらく、聖杯の力とジャック・ド・モレーの堕落の叙任の効果だ!霊基……セイバーからアヴェンジャーに近いパターンへ変質中。警戒して!」
「……、血迷ったか、モレー……!」
「安心して、アラン。私は正気だよ?」
苦しむような仕草を見せるアランをモレーは抱きしめる。
「……私の為に我慢してくれてたんでしょ─────もう、必要ないから」
アランの鎧の隙間から吹き出す炎に紫色が混じり始める。
モレーの能力と聖杯の魔力がアランを変質させる最中、跪いた彼にモレーが歩み寄る。
しかし、モレーの眼前を剣が一閃する。
「……寄るな!──お前がなんと言おうと、今の俺は騎士としてのオレだ。マスターへと危害を加えるのならば、お前であろうと斬るぞ」
無理矢理に立ち上がり剣を構えるアランは、兜越しでもわかるほど強い意志が宿った瞳でモレーを睨みつける。
「怖い怖い、それでこそテンプル騎士団副総長だね?……でもさ、そんなのはもう昔の話なんだよ、私たちは死んだ。私の死も君の死も、お互いに責任は無いの、気負わなくたっていいんだよ」
地面から生えた触手のようなナニカがアランの手足に絡み付いて、彼を跪かせる。
モレーが彼の兜を胸に抱きしめると同時、二人の姿はその場から掻き消えた。