シャーレの先生だ、よろしく頼む   作:桜花=サン

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アリウスへ

 

月光が闇を優しく照らす深夜、私は足音を立てないように物陰から物陰へ移動する

トリニティ自治区に存在しているカタコンベ。私はそこへ足を運び、アリウス自治区へ向かっていた

気配を殺しつつ慎重に進んでいく

ザッ、ザッという足音が微かに聞こえ、聞こえた方向から姿が見えないであろう場所へ身を潜める

近付いてくる足音が、止まった

 

「………此方の近辺、異常無し。帰還する」

 

アリウスの生徒だ。周囲の巡回警備をしていたのだろう。無線で他の生徒へ連絡をしていた

この時期の入口の変化パターンは全て私の頭に入っている

だが、何かしら異常が起きた時点で…マダム、いや、ベアトリーチェは変化パターンを変更するだろう

つまり、アリウスの誰にも、今、ここに潜入している私の存在を知られたくはない

……ミサキ、いや、姫ならあるいは………

…ミサキは正直厳しいか…姫も、単独行動するとは思えない。希望的観測はやめておこう

引き返していくアリウスの生徒をこっそりと追いかけ、アリウス自治区への入口に到着した

うん、私の記憶はしっかり合っていたようだ

ちなみに、シッテムの箱は持ってきていない

アロナにこれを知られると色々と面倒そうだ

説明できていない事は多いし、そもそも説明をして良いのかすら分からない

…それより、意識を戻そう

ここからどうやって自治区に入り込むか、それが問題だ

強引に突破は正直、厳しいだろう

武器は護身用に、と渡された拳銃に、隠し持っているナイフ一本だけ

制圧は可能だとしても、危険性が高すぎる上に、勘付かれてはなんの意味も無い

ふむ……抜け道を使うか…

今日ならばまだ残っている筈だ

一旦その場を離れ、その抜け道に向かった

 

到着したこの抜け道は、私の世界にも存在していた、何者かが作った道だ

結局犯人は見つからなかった為、発見から数日後に厳重に封鎖されたのだが…まだこの時期では発見されていない

この抜け道が発見された事により、入口のパターン変更が行われた記憶が残っている

半分賭けだったが…なんとかなったようだ

今回の目的は、アリウスの現状を把握しておく事だ。何かしら元の世界と違う部分があり、選択を誤ればかなりまずい

……だが、正直衝動的に来てしまった、というのも否定は出来ない。そう、上手く事を運びたいのなら、元の世界の先生のようにしているのが結果が分かっていて、一番安定するのだろう

そして、ベアトリーチェに見つかる可能性はかなり高くなってしまうというリスクもある

その場合の逃走プランは考えているが…今の状況から目をつけられるとかなり厳しくなるだろう

それでも、私は諦められなかった。どうにかして、皆が傷付かず…というのは高望みだろうが、せめて傷付く人が少なくなる方法を模索できないだろうか…

立ち止まり、そう考えていると……

 

「ひっ!」

 

「あっ」

 

……抜け道からヒヨリが出てきた

ばったり鉢合わせた私とヒヨリは、数秒間見つめ合い…

 

「お、おしまいです……」

 

ヒヨリは気絶した

……大方、何か追加の食料でも探しに来たのだろうな…

放置して、気絶したヒヨリが見つかるとまずい

その辺りの物陰に身を隠し、起きるまで待とう…

ヒヨリを抱え、身を潜める事ができる場所まで移動した

周囲を警戒しつつ、待つこと数分

ガバっと、ヒヨリが飛び起きた

 

「ここは……!あっ、さっきの…もご」

 

少々声のボリュームが大きかったため、急いで口を塞ぐ

 

「もう少し静かに。私は……君に、特に危害を加えるつもりも無い。そこは、安心してくれ」

 

コクリコクリと首を縦に振るヒヨリ

手を離し、抑えていた口を開放する

すると今度はしっかり小声でブツブツと喋りだした

 

「ひ、ひぇぇ……もう終わりです…そう言って油断させてきっとこの後、尋問だったり…拷問だったり…もっと酷い事をされるんですね…」

 

まぁ、正直…暗闇の中でばったり出くわした仮面の人…だなんて信用できるはずも無い

 

「…ちょっと空腹が酷いので食べられるものでも採集しようと出てきただけなのに……辛いですね…苦しいですね……」

 

…なるほど、合点がいった

この頃、ヒヨリが何処かから、食べられる野草などをちょっとだけ取ってくる、なんて事があった

この抜け道を使い、少しだけ外に出て、見つけていたのだろう

 

「……こんなものしか無いが、食べるか?」

 

私が取り出したのは、栄養を取ることに重点を置いたお菓子

 

「毒ですか…?それとも最後の晩餐ってやつですかね…うわぁん!折角なので頂きます……」

 

素直に受け取りつつも、恐る恐る口を開け、お菓子を齧る

 

「……!」

 

一口食べると、目を輝かせて更に食べ進めた

…懐かしいな。アリウスに居た頃も、こうしてヒヨリに食料を分けたりしていた

こうも喜ばれると渡した側である私まで嬉しくなってしまうものだ

一瞬、頭を撫でようと手が伸びかけるが、意識して抑える

今のヒヨリにとって私は恐怖の対象だ。下手に触れて警戒を強めたくはない

 

「あ…あの……一つ、聞いても…いい…ですか?」

 

お菓子を食べ終わり、少しだけ警戒を解いたように見えるヒヨリは、私にそう喋りかけてきた

 

「答えられる範囲の質問なら答えよう」

 

「あなたは……どうして…これをくれたんですか?口封じにしては、甘いと思うんですけど…もっと脅して……痛めつけて、従わせればいいじゃないですか。アリウスの大人は……いつもそうしていましたし…」

 

握った拳に少々力が入る

 

「…私は…アリウスを助けたい。そのための第一歩として…今日、ここまで来た。そろそろ戻ると良い。君の仲間達が、友人達が、心配するだろう?私と出会った事は報告してくれても構わない。ただ、1つ…覚えていてくれ。私は君達をいつか絶対に救いに行く。苦しんでいる生徒を助けるのが、大人の…【先生】の責務だからな」

 

「……」

 

「一旦、お別れだ。また会おう、ヒヨリ」

 

「……えっ!?」

 

訳が分からないと困惑するヒヨリを置いて、私は踵を返し、歩き出す

少々、時間を使いすぎた。正直…目的は果たせなかったし…状況は悪くなってしまったが……

ヒヨリと話せた事は…嬉しかった

そして…恐らく悪くなる状況も…まだ、想定の範囲内だ

月がもうすぐ姿を隠し、太陽が昇り、また1日が始まる

闇夜を駆け、日が昇る前にシャーレへと戻ってきた

今日は、アビドスにも行く予定だったな

一日ぐらいの徹夜なら普段とそう変わらないし、もう慣れきっている

アリウスの事を考えていると、脳裏にはっきりと浮かんでくる、刻みつけられたあの言葉

 

【Vanitas vanitatum et omnia vanitas】

 

全てはただ、虚しいもの

全部……全部、嘘だったと分かっても、私の根底にはずっと根付いていた

だが、私にはもう自分自身で見つけ出した答えがある

 

『んん……むにゃ…?んぁ…あっ…先生…おはようございます…ふあぁ…』

 

シッテムの箱を取りに部屋へ戻ると、画面にはアロナが寝起きの瞼をごしごしと擦りながら起き上がっている姿が見えた

 

「おはよう、アロナ。まだもう少し寝ておくか?」

 

『いえ、もう目はバッチリ覚めました!本日も、全力で先生をサポートします!アビドスに行く予定、でしたよね!ナビの準備も万全です!』

 

にっこりと笑うアロナ。本当に頼もしい限りだ

 

「あぁ、宜しく頼む。さて、今日も先生として、仕事を始めようか」

 

花のパヴァーヌ編一章を飛ばしてエデン条約編を進めて良いか(パヴァーヌ編は一回飛ばすことになったらエデン条約編の後に一章、二章と続けてやります)

  • だめです!!!!!!!!!!!!
  • いいよ!!!!!!!!!!!!
  • 本編の順番通りがいい!!!!!!!!!
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