「…アリウスについては、ハナコは知っているだろう?」
「アリウス分校…かつてトリニティの連合に反対した分派の学園……ですね」
ハナコの言葉に頷き、更に説明を続けるアズサ
「アリウスはトリニティを憎んでいた。アリウスの自治区は過酷で…それは全てトリニティのせいだ…と教えられていた。でも、ある日を境にそれは無くなって、トリニティを憎む生徒達は減っていったんだ。……一部を除いて」
「…長く教えを受けていた、上級生達…そしてその上級生達が率いる過激派…のようなものでしょうか」
再び核心を突く事を言うハナコを褒めつつ、アズサは続ける
「……あぁ。流石だな、ハナコ。彼女らは、今までの事がまやかしで、偽物だと認められなかった。もう、立ち止まれなかったんだ。以前…爆破事件があった事はヒフミ達も知っているだろう。それに私が巻き込まれたのも話した筈だ」
ヒフミがハッとした様子でその時の記憶を思い出す
「そういえば、会ったばかりの頃は今の先生みたいに包帯を巻いていましたね…?」
「うん、それだ。来たばかりで、眠れなかった私は夜中にトリニティを散策していたんだが…そこで、アリウスの生徒達…数は三人だな。その三人を見かけたんだ。彼女達が過激派だということは知っていたからこっそり話を聞けば、ティーパーティーの一人、百合園セイアを襲撃する、という目的での侵入だった。私は慌てて後を追い、襲撃の現場に乱入して百合園セイアを守ろうとしたが…彼女達は自分の事すら気に留めず、その場にいた全員を巻き込んで自爆した。その三人は回収されたのか、姿を消していたし…百合園セイアもどうなったのか不明で、今現在も姿を見せていない…こんな事をするぐらいには、一部のアリウス生徒は苛烈なんだ」
「で、でも、それって一部だけなんでしょ?他の皆はどうしてるの?止められないの?」
「最近になり、アリウスの生徒会長が過激派に加担…いや、過激派を率い始めた。誰も、彼女には逆らえない。彼女は…恐ろしいからな……」
コハルの言葉に苦虫を噛み潰したような顔でそう返すアズサ
「さっきも言ったが、私は元々トリニティとアリウスの和解の為に送り込まれた。だが…過激派達の百合園セイア襲撃で全てが狂ったんだ。和解の道が遠のき、生徒会長もその日を境に…そして明日の朝、桐藤ナギサを襲撃しようとしている…という事だと思う」
ヒフミは急な情報の波に混乱し、コハルはフリーズしてしまっている
ハナコは冷静に情報を噛み砕き…理解していた
「……なるほど…いえ、待ってください、明日の…朝…?それでは試験が…!」
「…あぁ。私はナギサを守る為に試験は…受けられない。でも、皆は普通に試験を受けてほしい。ナギサを守りきれればきっとお願いの一つぐらいは聞いてくれる筈。それぞれの試験の結果で退学させるか否か決める事にしたり…とかな。勿論、再試験させてくれるのならそれが良いが…もしもの話だ」
「……そこまでするのは、その目的を任されたから、ですか?」
ハナコの言葉にアズサは首を横に振る
「任されたから、というのも勿論ある。でも、これは私自身の願いでもあるんだ。ナギサがアリウスに襲撃され、居なくなれば…アリウスとトリニティの溝が更に深まり、和解は遠い夢になるだろう。私の大切な人達に安寧は…幸福は…訪れる事は無くなる。それだけじゃない。ナギサが居ないとエデン条約は締結されない。そんな事になれば、キヴォトスの混乱は更に深まり……その時、アリウスのような学園が生まれないとは思えない…」
「……だから平和の為に…という事ですか?……とっても甘くて、夢のようなお話ですね。今回の条約と同じぐらい、虚しい響きです」
「は、ハナコちゃん……?」
珍しく、ハナコも感情の整理が追いついていないのだろうか
いつものような余裕のある笑みではなく、何処か焦っているような…?複雑な表情で淡々とそう言うハナコ
ヒフミはあわあわとしていた
「……いつか言った通りだ。…皆のことを、その心を、その信頼を…裏切ってしまうかもしれない、と。私が百合園セイアを守りきれなかったから、桐藤ナギサは私を怪しんで…皆を怪しんで、こんな状況になっている。…本当にごめん、私の事を恨んで欲しい。全て私がもたらした状況だ…だから、せめてもの罪滅ぼしの為に私は明日、全力で戦う」
………似なくて良い所まで似るのは家族だからなのだろうか。……そうなのだろうな
姫達から『アズサとサッちゃんって似てるよね』とよく言われていた事を思い出す
「それは違う、アズサ」
「…先生?」
「原因は、信じられなかった事だ。もっと皆が皆を信じていたら、今のような事にはならなかった。あぁ、理想論だ。けど、それがもし出来ていたら…もっと良い未来があった筈。アズサはよく頑張った、必要以上に自分を責める必要は無い」
私の言葉にさっきの何処か焦ったような、複雑な表情ではないいつもの表情に戻ったハナコが口を開く
「……そうですね、そうかもしれません。今のナギサさんのように、誰も信じられなくなった人を変える事は難しいです。誰かを信じる…という事は元々難しいですし……ですがアズサちゃんは私達にこうして本心、目的を…全てを語ってくれました。黙り続ける事も出来た筈なのに、謝ってくれました」
一呼吸置いて、ハナコはアズサに頭を下げる
「ごめんなさい、先程のはなんと言いますか、どうしても意地悪したくなってしまったんです。アズサちゃんの真っ直ぐな顔を見ていると、なんだか心が落ち着かなくなってしまって……」
「…いや、大丈夫だけど…」
「ありがとうございます。……アズサちゃん、一つ、聞かせてください。補習授業部での時間は、楽しかったですか?」
「…それは……いや…うん…楽しかった。何かを学ぶということ…皆で何かをするということ…皆と一緒に遊ぶということ…掃除も食事も全てが楽しかった。…まだまだ知りたい事が沢山ある。水着パーティーの時話してくれた海とか、お祭りとか遊園地とか…行きたい所も知りたい所もまだまだ沢山あって…」
アズサはそんなささやかな願いを口にする
「…そうですよね。…分かるんです、その気持ち。何せ……同じように思った人が居たんです。頭が良いから、勉強の出来を褒められ、勉強の為だけに「友達」と関わる人が。貴女は優等生で、ティーパーティーに相応しいと決めつけられ、準備をするように言われた人が。そんなティーパーティーを牽制する為に、その人を利用しようとするシスターフッドに辟易としていたその人が。『私はそんな人ではないのに。ただ、普通の楽しい学園生活を…送りたかっただけなのに。』その人にとってトリニティとは、嘘と偽りで飾り立てられた、欺瞞に満ちた空間でした。誰にも本心を見せる事が出来ず、誰にも本当の姿を見せることが出来ないまま……」
……やはり、そうだったのか、ハナコ…
だから…その全てと関係のない、新しくできた友人達と一緒に様々な事をやってみたかったのだな
補習授業部で行った遊びは殆ど、ハナコからの提案だった事を思い出す
「ハナコちゃん………」
「その人にとって全ては無意味で、学校を辞めようとしていたんです。何せ、そのまま残り続けるというのは、監獄にいるのと同じでしたから」
「そう…だろうな。能力だけを求められ、自己を出すことは許されない…」
「…はい。アズサちゃんが言っていた、全ては虚しいもの…だというのに…似たような考えを持っていたのに、アズサちゃんは学校生活にいつも全力でした。…アズサちゃんはその後ろに言葉を付け加えていたんです。言葉は違いましたが、大体の意味は一緒でした」
【それでも】
「と。そして、ようやくその人も気付いたんです。学園生活の、楽しさに。下着姿でプール掃除をしたり、皆水着で夜の散歩をしたり、裸で色々な事を打ち明け合ったり…自分をさらけ出せる人達とそういったよくある事をするという事はこんなにも楽しかったんだと」
「うん………うん?いや待て服を着ろ」
回想で私達の服まで脱がすんじゃない
「エッチなのは駄目!死刑!!!」
ハナコの言葉でようやくコハルが再起動した
「ふふっ♡…アズサちゃんの言っていた通りです、虚しいことだとしても最後まで抵抗をやめてはいけませんね」
「ハナコ………」
決意の籠もった表情でアズサを見るハナコ
「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう?もっと知りたいんでしょう?皆で色んな事をやってみたいって、あの時話したじゃないですか。海に遊びに行くとか、ドリンクバーで粘って夜更かしとか。それを、諦めてしまうんですか?」
「……!」
「何も、諦める必要はありません。桐藤ナギサさん……彼女を、アリウスの襲撃から守りましょう。そして私達は私達で試験を受け、全員90点以上を取って合格するのです。それが私達にとって救いとなる、唯一の答えではありませんか?」
「……でも、そんな事は不可能な筈。試験は9時から…アリウスの襲撃も……うん、9時からを予定されている」
紙を確認し、どうやら開始時間まで書いてあるようでそう言い切るアズサ
……ここの私はまだ本当にギリギリの所で、心が折れていないようだ
私も口を開く
「…待っていれば、の話だがな」
「流石先生、鋭いですね。そうです。今度は私達から仕掛けましょう。これまで様々な嘘と策略に弄ばれて来ましたが、それもここまで」
ハナコは皆を見渡し言う
「何せ今此処には…正義実現委員会のエリートと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます。それに…ちょっとしたマスターキーのようなシャーレの先生まで居ます。このメンバーならきっと、トリニティぐらい半日で転覆させられますよ♡」
「っ…!エリート…!」
「へ、偏愛!?」
「……?」
そんな事を宣うハナコだが……確かに…
私も呟く
「まぁ…いけなくはないか…」
「ハナコちゃん!?先生!?」
ヒフミがえ、本当にしませんよね??と言わんばかりの勢いで私たちの名前を呼ぶ
「冗談だ。…以前と同じく、私が指揮をする。まずは作戦を立ててからだがな。ハナコ、アズサ、作戦会議の時間だ」
「はい!」
「うん、この紙も使って。作戦に関する大体の事は書いてある。……サオリ…」
その紙を見てみれば、本当に殆どの必要な情報が手に入った
…そうか、アズサも、姫達も守ろうとしているのだな。…私の事だ、どうせ自分の事を『どっちつかずの愚か者』とでも思っていそうだが……中々やるじゃないか
結局、夜に皆で行くことになったな……だが、これが最善だろう。ハッピーエンドを目指して、私も尽力しよう
オリジナル生徒について!!!
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全然出していいよ!!!!!!!
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出さない方が好きだよ!!!!!