シャーレの先生だ、よろしく頼む   作:桜花=サン

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迷い

 

朝のアラームを止め、起き上がる

エデン条約まで……あと数日か

 

「今日は……万魔殿との会議か………」

 

正直言ってあまり気乗りはしない

下について言う事を聞くだけなら悪くないのだが、対等の存在として会話をするとなると……

…………うん…まぁ…な……

ただ、怪我人はできるだけ減らしたい。その為に私はイロハに接触する必要がある

服を着替えて準備を整える

 

「……行くか…」

 

シッテムの箱を持って私は外に出た

 

─────────────────────

 

「で、案の定…と。そういう事ですか」

 

私の前に座っているのは万魔殿のNo.2、副官のイロハだ

 

「マコトについては色々と聞いていたが……うん…ノーコメントだ」

 

「あの先生が擁護を諦める…ある意味偉業では?それで…私だけを呼び出して何の用ですか」

 

めんどくさそうにそう言うイロハ

 

「一つだけ約束してくれないか?私について詮索しない事を」

 

「はぁ。面倒事ですか?ならお断り…」

 

シッシッと手を振って立ち上がろうとするイロハ

だが、私の次の一言で座り直す

 

「…仕方ない、先に少し教えよう。イブキが危険に晒される可能性があるんだ」

 

「………なんですって?」

 

目を見開きつつ、そう聞いてくるイロハ

 

「条件を飲みます。どんな情報が出てこようと、先生の事は詮索しません。教えてください。…その情報は、本当ですね?」

 

「あぁ、誓って本当だ」

 

前の世界とは違う可能性があるから、偵察はしてある。証拠もバッチリだし…贈られた飛行船に爆発物が仕掛けられていることも分かっている

一呼吸置いて私は話す

 

「マコトがエデン条約に参列する時に使うつもりの飛行船、あれに爆発物が仕掛けられている」

 

「…爆発物…?いえ、急に湧いて出てきた飛行船なので、怪しいとは思っていましたが……一体何故…」

 

「…すまない、理由までは今は説明しきれない」

 

私は未だにこの辺り…未来の事…というよりは別世界線の事に関する情報の扱いについて測りかねている

全て話してしまった場合、敵に聞かれてしまうと私の対策をある程度…もしくは全て無視できる方法を使ってくる可能性が否めない

それに、話してしまって良いものか…という感情もある。信じてくれるのも、一握りだろう

そして私が出した結論は、元の襲撃計画のまま…敵に此方の作戦を知られていると悟られないような範囲でできるだけ被害を軽くする事

ミサイルに巻き込まれる人をできるだけ少なくし、その後の怪我人の治療も迅速に、シェルターへの避難も速やかに行い、上層部の生徒達をできるだけ守り、混乱を最小限に抑える

…というのが最善だろう

今回、イロハに伝える…というのは正直リスキーだ

だが、放置するのも私の心情的に嫌だ

前の世界では奇跡的に湖に落ちたから無事だったらしいが…今回どうなるかは分からない

なので一番話が通じて、イブキの事となれば動いてくれるであろうイロハに伝える事にしたのだ

 

「……そうですか。分かりました、今は先生を信じましょう。私は私で対策を講じますので、此方については安心して下さって結構です」

 

「対策…大丈夫か?私の協力は…」

 

「必要ありません、イブキは必ず守りますし、おまけにサツキ達も助けてあげます」

 

「…そうか……ちなみにマコトは…」

 

「イブキを危険に晒しかけたんですよね?相応の罰では?」

 

すん…とした目で淡々とそう言うイロハ

マコトを助けるつもりは無いらしい

それで良いのか、万魔殿…………

説得を試みる

 

「運が悪ければ死ぬのだが……」

 

「どうせ死にません。悪運だけは強いんですから。死んだら死んだでゲヘナにとって割と得では?」

 

「………………いや、そんな事は……無いと思う」

 

「めちゃくちゃ葛藤しましたね」

 

得かどうかで問われると………ノーコメントだ

それはそれとして生徒に傷付いて欲しくないのは事実。マコトだって私の生徒だ

 

「……できれば、助けてあげてほしい」

 

「考えておきます」

 

そう言うイロハ

多分助けないやつだが…私にできる事となるともうほぼ無い

………すまない、マコト…パラシュートは送っておくから…

心の中でそう謝りつつ、イロハとの話は終わった

ちなみに送ったパラシュートは後日受け取り拒否された

 

『キキキキッ!こんなモノは不要だ!このマコト様に失敗は無い!ならば失敗した時のモノだなんて必要無いという事!心配するなシャーレの先生よ!』

 

等という手紙を添えて

お陰で頭を抱える羽目になった

 

─────────────────────

 

話は戻り、イロハとの話が終わり、外に出る

すると、見覚えのある顔と出会った

 

「おや、アコ。…随分と疲れてる様子だが…大丈夫か?ちゃんと寝ているか?……まぁ、万魔殿やエデン条約の事で本当に大変だろうからな…」

 

………口ではそう言うが、私の目線はアコの服に向かっていた

…いつも通り奇妙な服を……

胸部の横部分だけを謎に露出しているその服

……本当に何の意味があるんだ……………?

そんな風に考えていると此方に気付いたアコが口を開く

 

「あぁ、先生ですか……ええ、本当にその通りです。万魔殿は急に活発になりましたし…」

 

「だろうな…お疲れ様だ…何か飲み物、要るか?自販機にはなるが、私が奢ろう」

 

「よろしいのですか?…では、お言葉に甘えて…コーヒーをお願いします」

 

「分かった。少し待っていてくれ」

 

近くの自販機に行き、私はコーヒー、紅茶を買う

おや、あと一つ足音がする

……ふむ

思案しつつ私はオレンジジュースを買った

さっきの場所に戻ると、ヒナが居た

 

「久しぶり……って程でも無い…か。お互い…忙しいわね、先生」

 

「あぁ、そうだな……ほらアコ、コーヒーだ。ヒナ、紅茶とオレンジジュースどっちが良い?」

 

アコにコーヒーを手渡し、残った2つをヒナに提示する

 

「良いの?…じゃあ、紅茶で…ありがと、先生」

 

「先生、ありがとうございます」

 

二人からお礼を言われる

 

「気にするな。皆頑張ってるからな、ささやかな報酬ってやつだ。できればもっと良いモノを渡せれば良かったのだが今は流石にな」

 

「なら、先生にもそれはあるべきなんじゃない?」

 

「ふふ、私は少し前に貰い過ぎな程に受け取ったばかりだからな、大丈夫だよ」

 

大切な友人達の事を思い浮かべつつそう返す

自然と声が弾んでいた

 

「…先生ってそんな声も出るんですね」

 

アコが目を見開きつつ驚いた表情でそう言ってくる

 

「私をなんだと思ってたんだ」

 

「…全自動生徒お助けマシーンとかですかね…」

 

「…そ、そうか…」

 

困った、バッサリ否定は出来ない

紅茶を飲み終わり、ゴミ箱に空き缶を投げ入れたヒナが口を開く

 

「……ゲヘナ自治区を出るまで送るわ。もう暗いし、先生一人じゃ危険でしょう」

 

「良いのか?……うん、では頼む」

 

一瞬遠慮しようかと思ったが、ゲヘナ自治区の夜中は本当に不良だらけで危険ではある

ヒナが居れば大体の事は解決できるし…ここは提案を甘んじて受け入れる事にした

私の発言に頷くと、アコに向き直るヒナ

 

「そういう事だから。アコ、あなたも今日はもう帰って休みなさい。エデン条約当日、体調を崩されても困る」

 

アコも頷き、その場を去っていった

 

「は、はい。では先生、委員長、お先に失礼します」

 

「またな、アコ」

 

そう言って手を振り、姿が見えなくなるまで見送る

いつもなら…こう…ちょっと独特な生徒なのだが…疲労のせいか今日はそんな元気も無かったらしい

少々心配だ

 

「じゃ、行こう。先生」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

そう言って私達は歩き出す

道中、私から話題を振る

 

「最近、ヒナは本当に忙しいだろうな…」

 

「…まぁね、でも…ちょっと妙なの」

 

「というと?」

 

「美食研究会は最近あんまり爆破しなくなった。それでも完全に…という訳ではなく一部の店は爆破されるんだけど…あと、温泉開発部が内輪揉めを起こしてる。部員の間で噂が流行ってるみたいで、それを信じてる派閥が温泉開発を渋ってる。深夜に温泉開発に行くと、デカい風紀委員長が闇から現れて、『立ち去れ』って3回言う前に立ち去らないと……って噂。…何?デカい私って…」

 

「そ、そうか……」

 

若干眉を顰めるヒナ

もしかしなくてもあの時の私だろう

結果的にヒナの仕事が減ってはいるのが救いか

 

「あぁ、そうだ、言おうと思っていたんだが…少し前、勝手にゲヘナ自治区にトリニティの生徒を連れて行って風紀委員会の静止を振り切って入ってしまってすまない…」

 

「…先生の事だし、そんな無茶をするって事は生徒絡みなのでしょう?」

 

「あぁ、補習授業部の件だ。試験をゲヘナの廃墟で受ける事になっていてな……」

 

「……トリニティの試験をゲヘナで?それは…信じてもらえないのも当然ね」

 

正直、あれを信じろという方が無理はあるから仕方ない

 

「でも、補習授業部の事は結果的に解決できたみたいで何よりね。先生も、エデン条約に向けて色々と動いてくれてるみたいだけど……それはやっぱり、平和条約が結ばれて生徒達が安全に過ごせるようになるから?」

 

「…まぁ、そんな所だな。ゲヘナとトリニティには大きな溝がある。そこに橋を架けられるとなれば…エデン条約の締結が必要だろう」

 

勿論、これも本心ではある

本心ではあるのだが……私は、エデン条約が締結されるものとして動いてはいない

それは少し、心苦しい

 

「……やっぱり、先生は色んな事を隠してるのね」

 

ヒナに図星を突かれる

 

「……」

 

「先生、エデン条約締結の日…何が起こるか…知っているんでしょう?先生は、エデン条約に向けて動いてはいる、だけど…それは殆ど、安全面の事。外部にはあまり漏れないようにこっそりと…だけど。SNSでの情報の発信、防衛設備の補強、強化…シェルターの増設提案に、警備の配置変更の提案…勿論、他の事もしているけれど…前述した行動、それはまるで、これから来る脅威から皆を…生徒達を守る為の備え…私はそう感じたのだけど」

 

…参ったな、まさかここまでとは…

私の選択肢は2つ

偶然だとしらばっくれるか、開き直ってヒナに協力をお願いするか

私が出した結論は─────

 

「…あぁ、知っている。…そう…だな…ヒナ、これは…少し残酷な話かもしれないが」

 

ヒナはエデン条約の締結を機に、やっと今までの荷を下ろして風紀委員長を引退しようとしていた

…それを…不可能だ、と否定する発言だ

 

「……えぇ」

 

「……エデン条約は、締結されない。全ては戦火に巻き込まれ……ページは白紙に戻るだろう」

 

「…………」

 

ヒナは目を見開く

それは、驚きと…やっぱり…という嘆き

 

「…ヒナ、私は君を…追い詰めるような発言を続けてしまう。先に謝っておく、すまない……」

 

「……良いわ、私から言ったのだから。それで…私は何をすれば良い?」

 

普段通りの態度と表情にすぐに戻るヒナ

だが、そんな顔を見て…様子を見て、私は躊躇ってしまう

脳裏に、記憶がフラッシュバックする

 

─────────────────────

 

銃口を向ける

その先は、シャーレの先生

ゲヘナの風紀委員長……ミサイルに直撃しておいてあの戦闘力とはな

だが、もうシャーレの先生を守る事は出来ない

視界の端に、地面に倒れているゲヘナの風紀委員長

そして、私は引き金を引き…

 

「あぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

「馬鹿な!まだ動けるのか!?」

 

飛び起きたゲヘナの風紀委員長がシャーレの先生を庇おうとする

だが……当たった。シャーレの先生はヘイローも無い。我々と違い貧弱だ。あの脇腹に当たった弾一発だけでも致命傷になりかねない

……良い顔だ、風紀委員長。お前も知ると良い

虚しさを。この世の全ては…ただ虚しいだけのものだという事を…!

 

─────────────────────

 

浅く息をする。心臓がバクバクと脈動する

…落ち着け。今は…そんな場合じゃない

それよりも、考えなければいけない事があるだろう

深呼吸して、気持ちを整えて思考を始める

…彼女は…休むべきだ

もう、ヒナは十分頑張った筈だ

だが、状況が、立場がそれを許さない

私は先生として、生徒を守る為

ヒナは風紀委員長として、秩序を守る為

ヒナが協力してくれればもっと多くの生徒を救える

……だがそれは………

 

「………先生。貴女の役目は何?生徒を守る事でしょう。私だってそう。皆を守るのが風紀委員長としての役目。躊躇う必要は無い。多くを救う為、私を利用して。少数の犠牲でそれより多くを救えるのなら、そうするべきよ」

 

それは…正しい。合理的だし、生徒を多く救える

そう…………正しいんだ

 

「…………ヒナ」

 

「………」

 

「…力を……貸してくれ」

 

「…分かった。作戦は随時連絡して。指示通りに動く」

 

「……あぁ」

 

端的にそう返事をする

本当に、これで良かったのだろうか

知っている、知っていた筈だ。生徒を…皆を守ると言っておきながら、私は…少数の犠牲を容認しようとしているのではないか?

もっと……やり方はあったのではないか?

その後、ヒナと別れて…私は一人、月を見上げる

月光は冷たく…私を照らしていた

 

「私は…………」

 

出来る事を、した筈だ……

だが結局、迷いを捨て去る事は出来なかった

そして、どんどん日時は過ぎていき……

エデン条約調印式…当日へ至る

オリジナル生徒について!!!

  • 全然出していいよ!!!!!!!
  • 出さない方が好きだよ!!!!!
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