先生が叫んだ次の瞬間、衝撃波が先生達を吹き飛ばす
「…っ…ぐ…」
「先生…!!!」
先生は空中で態勢を整えたサオリに受け止められた
同様に吹き飛ばされたベアトリーチェは空に手を伸ばす
周囲の蔦も萎んでいた
【馬……鹿…な…!!!私の…私の力が…!!!】
ベアトリーチェから抜け出した光が、人型に変化する
足、胴、腕、頭。そしてベアトリーチェの頭上にあった筈のヘイローが消え、光の頭上に現れ点灯していく
白、緑、赤、青。そして、ピンク
白いドレスに、腰に佩いた刀。長い黒髪が靡いた
「……身体が痛まない。そういえばこんな感覚でしたね」
手を開いたり、閉じたりしてみる
スムーズに行う事ができた
私の顔にベールは無い。先生と先生を受け止めているサオリを見つけたが別に掛ける言葉も思いつかず、無言でベアトリーチェに向き直り、刀に手を掛けた
「ベアトリーチェ。散々…好き勝手してくれましたね。相応の報いを与えましょう」
【貴様………!大人しく…私に力だけを寄越しなさい!!!】
ベアトリーチェが腕を振るうと、10本の蔦が一斉に私に襲い掛かってくる
息を吐き、刀を抜き放つ
私の技、彼女の動きを阻む物はもう何も無い
痛む体の中、戦う必要は無くなった
痛みにより落とさないように必死に刀を握りしめ、力任せに振る事しかできない今までの私とはもう違う
「思い通りに動く腕。素晴らしいものですね」
目にも留まらぬ速度で斬り刻まれた蔦が地面へと落ちる
【アァァァァァァァァァッ!!!バルバラ!!!何をしているのです!!!早く此方に来なさい!!!その為に数を…!!!】
外からは足音すら聞こえない
「増援は無いようですね」
私は一歩ずつ進んでいく
【ッ……!聖徒会!アレを止めなさい!!!】
聖徒会が顕現し、射撃を開始する
「無駄な足掻きを……」
刀を抜こうとした瞬間、風と共に大鎌が聖徒会を斬り裂き、ハンドガンから放たれた弾丸が聖徒会を撃ち抜いた
「聖徒会は私に任せてくれ」
「……私も…まだ…やれるからな……」
「いや先生は休んでいろと…」
先生の私とこの世界の私だ
そんな様子を見て私は息をつき、返答する
「……………そうですか。好きにしてください」
ベアトリーチェの方へと目線を向ける
後方では、ヒヨリを助けた後のミサキがアツコを助けていたがベアトリーチェはもうそれにすら気づけていない
【く、来るな……!!!私は…!私はッ…!!!】
ベアトリーチェは巨大な赤黒い球体を作り出し、此方へと放ってくる
………懐かしい、攻撃ですね
刀に手を掛け、一気に鞘から抜き放ち眼前の球体を両断する
【待っ───】
「さようなら」
私は情け容赦無く、その身体を斬り刻む
再生する事もない、図体だけの肉体を
白いドレスが赤く濡れていく
「………終わり、ですね」
……酷く苦しめられた筈なのに、あれだけ恨んでいた筈なのに、あっさりと終わった復讐
本当に、儀式と私の神秘だけに頼り切った力だったのだろう
「Vanitas vanitatum et omnia vanitas」
全ては虚しいだけ…そうでは無かったとしても
「取り敢えず、復讐は虚しいですね」
ポツリと、そう呟いた
─────────────────────
「ヒヨリ!姫!!」
最後の聖徒会を処理し終わった瞬間、サオリはミサキ達の元へと飛んでいく
私はふらついた足取りで歩を進めた
血を…流し過ぎたな
跡形も無く斬り刻まれたベアトリーチェ。そしてその血溜まりに佇む虚を発見した
サオリ達は……大丈夫そうだ
「虚」
私の声にため息をついて虚は振り返る
ハイライトの無い目が私を見据えた
「……はぁ…酷い姿ですね。さっさと治療を受ける事をおすすめしますよ」
「…大丈夫か」
少々虚の目が揺らいだが、すぐに戻る
「明らかに大丈夫じゃない人なら目の前に居ますけど。…………まぁ、あれです。感…謝は……一応、しています…」
目線を逸らしつつ、小声で礼を言ってきた
「……気にするな。私もやるべき事をやったまでだ。これからは…どうするんだ」
「適当に。私はエデン条約襲撃、唯一の悪です。居場所なんてある筈がない。まぁ、そこらを放浪でもしますかね。どうせ死にませんし、心配は不要です」
「………」
「なんですか。これで良いんですよ。私の目的は達成されました。アリウスの生徒は全員操られていただけ。聖園ミカは善意を利用された可哀想な生徒。罪を被るのは私だけで───」
その時、サオリが皆を連れて私達の元へ駆け寄ってきた
サオリがアツコを抱え、ミサキがヒヨリを抱えていた
アツコも目を覚まし、ヒヨリも無事そうだ
「先生!それと……えーっと…生徒…会長……?」
自分と似たような…というかほぼ同じな顔をした虚と相対し、ちょっと困ったような声色でそう声を掛けてくる
「……虚で構いません。もうアリウスは無くなったも同然。ならば生徒も何もありませんから。生徒会長として…何かあなた達のため、学校のためにやった覚えも無いですし。そんな人を生徒会長などとは呼びたくないでしょう。あなた達はこれから、トリニティに戻るのですよね?」
虚の言葉にサオリは頷く
「……あぁ。私は…罪を償わなければ」
「それで良いです。あなたは2年生ですし、まだやり直せます。何かしら困ったらそこのズタボロと白洲アズサを頼れば良いでしょう」
「ず、ズタボロ…」
サオリが何かしら言おうとして私の姿を見てやめた
正直ズタボロでしかない自覚はあるから何も言えない
「私の事は洗いざらい全てを話しなさい。そうすればどれぐらいかは分かりませんが信頼を得られるでしょう。スクワッド、アリウスの皆を任せましたよ」
「……あぁ」
サオリは再び頷いた
「では、私はもう行きます。……先生、サオリ、ミサキ、ヒヨリ、アツコ。…本当に申し訳ない事をした。すまなかった」
私達に向かい、頭を下げた後、虚は踵を返し、歩き出す
そんな虚の背中にサオリは声を掛けた
「……生徒会長!アリウスを…皆を守ってくれて、ありがとう!」
そんな言葉に虚は驚きの表情と共に振り返り、嬉しそうで、それでいて悲しそうな笑みを浮かべて再び前を向き、刀を一振りして姿を消した
「………先生」
「…あぁ…まだやる事がある…」
息を吐き、激痛の中立ち上がる
「先生は休んでいてくれ。私が……っ…」
そう言いかけたサオリの翼が消えていく
「くっ…!夜明けか…!」
アツコをゆっくり降ろしてサオリも膝をついた
ずっと戦い続けていたのだ、疲労も凄いだろう
「…大丈夫だ。サオリ、ミサキ。本当によく頑張った。アツコとヒヨリは無事で何よりだ」
「また…あれを使うのか。そんな体では…!」
「無理も無茶も私の得意分野だ。ここはもう安全だろう、皆少し休んでからトリニティ方面に戻ると良い。私は少々先に行く」
私は歩き出す
「……言いたい事が沢山ある。必ず、戻ってきてくれ。生徒として、先生に相談があるんだ」
「…ふふっ、そう言われたら、帰ってくるしか無くなるな」
手をヒラヒラと振って私はバシリカの出口に向かった
バシリカから出ると、目の前に虚がいつも使っている漆黒が現れる
「…世話焼きな所は変わらないようだ」
予想して置いて行ったのか、それともまだ話を聞いていたのか
苦笑し、私はその中に飛び込んだ
私の視界に入ってきたのは4人のバルバラと、ボロボロのミカだった
突然の乱入者にバルバラもミカも動揺する
「先生…!?どうやってここに…って先生も酷い怪我…!私はいいから、先生は…!」
「救援に行く、と言っただろう。ミカの味方だ…ともな。大丈夫だ、なんとかする」
「なんとかって…!その傷じゃ先生がいくら強かったとしてもあの数の聖徒会は……しかも、あの次元が違うのだって4体も…今からでも逃げて!私はそんな…」
「…ミカは問題児だ。少々道を間違えてしまったかもしれない悪い子だ」
「そう、だから───」
「だからと言って、危険に晒されている生徒に背を向ける先生など何処にも居る筈がないだろう?」
私は、大人のカードを取り出した
生徒の無事は、己の何よりも大切だ
「力を返せ、大人のカード。そして…」
力を貸してくれ、ミカ
『わぉ、ここで私?いいよいいよ!やっちゃえ!』
私は光に包まれる
白い羽が生え、ヘイローが立体的に変化する
一時的に傷が塞がっていく
さぁ、一瞬で終わらせよう
「お前達。私の大切な生徒に何をしている」
「…!?」
すぐそこにある柱をへし折り、次々に蹴り飛ばす
柱は多数の聖徒会を押し潰し、更には柱を失った天井が瓦礫となって降り注ぐ
そして…残ったのはバルバラだけだった
「終わりだ」
私は手を掲げ、振り下ろす
何処からともなく飛来した隕石がバルバラを纏めて粉砕した
この場に残党が居ないことを確認し、私はすぐに大人のカードを解除する
再び激痛が戻ってきて私は膝をつく
代償は最小限だが、正直もう動けない
肩も左腕も腹部も右足も背中も全てが痛い
駄目だ、体力も底をついた
足に力が入る気がしない………
若干朦朧とする意識の中、ミカが駆け寄ってくる
「先生!!!今の……あれ…!?」
どうやらはっきりとは見られていないようだ
見られていても今は構わないか、と考えていたがそれならそれでも大丈夫だろう
「……よし、無事だな、ミカ。良かった…」
「わ、私より先生が……」
そんな時、沢山の足音が近付いてくる
「敵!?」
ミカが銃に手を伸ばそうとするが…
「いや…これは………」
この…足音は……聖徒会のものではない…
「あー!ハスミ先輩!さっき凄い音がした場所でミカ様と先生見つけたっす!」
先頭を走ってこの場に入ってきたイチカがそう声を上げた
「うわ…!先生もミカ様も酷い怪我っすね……!?今救護騎士団の所へ運ぶっす…!」
「せ、正義実現委員会…!?」
「来て……くれたのか」
「セイア様とナギサ様に頼まれて、正義実現委員会、シスターフッド、救護騎士団が動いてるっす!先生、多分その様子だと色々と終わった後みたいっすけど…アリウス分校の人達がもこの辺りに居るっすよね。今何処にいるかわかるっすか?」
セイアは起きたのか、良かった
ずっと心配だったのだが、あまりに時間が無かった
私はサオリ達の事を頼む
「…あぁ、回収を頼みたい…」
「分かったっす!伝達しておくっすね!」
バシリカの位置を伝え、私は担架に乗せられる
イチカが無線で位置を伝えて、サオリ達も回収されるようだ
ミカも担架に乗せられていた
……あぁ、段々……意識が…
薄れていく意識の中、会話が聞こえてくる
「はい、お願いするっす。……よし!それじゃ、行くっすよ!ナギサ様とセイア様も来てるっす!」
「ナギちゃんとセイアちゃんが…!?」
嬉しそうだが、若干難しい顔をするミカに、私は声を掛ける
「……ミカ。言葉は、伝える…というのは…本当に大切な事だ…本音を……しっかり伝えるといい」
私の意識はそこで途切れたのだった
─────────────────────
私はブラックマーケットの路地裏を進む
「変わりませんね。ここは」
前方から、2人分の足音が聞こえてくる
「待て…!私の財布!!!」
「へっ!待てって言われて待つかよ!ブラックマーケットでぼけっとしてるからこうなるんだぜ!」
…日常茶飯事の光景だ
一本道に私が立っている事に気付き、ドレス姿なので油断したのか突き飛ばそうとしてくる
「退け!!!」
「…はぁ」
接近してきた瞬間、刀の鞘で頭を殴りつける
「がっ…!」
スリは昏倒し、手放した財布を私はキャッチした
財布を見てみると、かなり使い込まれており、大事にしている事は伝わる
「あ…えっ…」
状況が飲み込めていないようだ
困惑している財布の持ち主に財布を返す
「気をつけなさい。大事な物は手放してはなりませんよ」
それだけ言い、私はその場を後にする
何やら後方で聞こえたが、気にしない
数分間歩き、立ち止まった
「……………」
壁にもたれ掛かる
私は………今度こそ…正解を選べたのだろうか
分からない、何も
「……姫、ヒヨリ、ミサキ、ミカ……アズサ」
何かを残せただろうか
何かを護れたのだろうか
この手は、何かを掴めたのだろうか
無意味で間違いだらけの人生に…意味は出来たのだろうか
私は死ねない
死なない
もう…死にたくはない
居場所など無くても、私は生きていける
「私は───」
「おや、ようやく見つけました」
「私達まで呼びつけ、何事だと思えば…なるほど。先生はどうやら奇跡を起こしたようだ」
「えぇ。実に喜ばしい」
「そういうこった!」
声がする。聞き覚えのある声だ
「黒服…!?」
マエストロにデカルコマニー、ゴルコンダも連れていた
目的は私のようだ
「久しぶりですね、虚」
「……何の用ですか。私はもう、研究の場を提供する事も出来ません。アリウスの生徒会長という立場も無い。ゲマトリアに利用価値の無い者を置いていて良いのか?」
私の言葉に黒服は頷いた
「えぇ、今のあなたは研究に関して、出来る事はかなり減った」
「えぇ。ですから───」
私の言葉を遮り、黒服は言う
「ですが、お忘れですか?私があなたを引き入れた理由。あなたと敵対しない為。名目として、『同じ組織の仲間』であるという事実が欲しかった。つまり、あなたを追放する理由は無いのですよ」
……なんだそれは
それは……まるで…
「ゲマトリアの資格を失った者は、既にあなたが処分しました。えぇ、ですから……」
「黒服。そういう言い方が気に食わない、と先生に言われたのだろう」
マエストロにそう指摘される黒服
「………そうでしたね。どうも癖になってしまっているようです。…虚。私は…あなたを名目としての『仲間』ではなく、本当の『仲間』だと思っているのです」
あまりにも黒服らしくない、その発言
若干、愉快な気持ちになってきた
「……ふっ…本当に、らしくありませんね、黒服。先生に影響でもされたのでしょうか」
「…えぇ、そうかもしれません。それで…虚。あなたはどうしますか?」
そう問いかけてくる黒服に言葉を返す
「…まぁ、護衛や用心棒ぐらいならやってあげますよ」
「そうですか、では、これからもよろしくお願いしますね。このまま立ち話というのも疲れますし、一度戻りましょうか」
黒服は歩き出す
「虚よ、先生の美的感覚について話をしようではないか。我々の中で先生に最も近しい虚の意見は興味深いからな」
「虚、後程アリウスに置いていた実験器具の運搬を手伝って頂きたいのですが」
「そういうこった!!!」
「えぇ、どちらも構いませんよ」
若干口角を上げ、私も3人の後を追ったのだった
次回が150話なのでキリの良い所で終わらせたくて長くなってしまいました…!
150話目はご褒美回です…!
オリジナル生徒について!!!
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全然出していいよ!!!!!!!
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出さない方が好きだよ!!!!!