ベアトリーチェを討ち倒し、約一ヶ月
私は黒板の前に立つ先生の授業を黙々と受ける
他のアリウスの仲間達も同様にだ
先生がアリウスの為と用意し、こうして授業をしてくれている
1日の授業の半分ぐらいだろうか。クラスに編入する事になったアリウスの生徒はそこそこ居るが、まだ全員ではない
なのでこの空き教室を使わせてもらい、アリウス全員に授業を行ってくれているようだ
未だに包帯でぐるぐる巻きの左手でタブレット端末を持ち、右手でチョークを握っている
黒板に問題として書かれた計算式を解く
こうして勉強をしていると、改めて認識する。普通の学校はこういう事を習うのだな…と
教材は全て1年生用のものだ、アリウスとは学習進度どころか、内容が違い過ぎる
しかし……知らなかった事を知るというのは中々楽しいものだ。似たような事を言っていたアズサの気持ちが理解できた
チャイムが鳴り響き、授業の終わりを告げる
「よし、今日の授業は終わりだ。質問等あれば、今から聞きに来るか、私の連絡先にメールでも電話でもいいから連絡するようにな。持たせた、もしくは修理した携帯端末は無くしていないな?」
皆が頷く
アリウスの生徒の中には、携帯端末すら持ってない生徒はそこそこ居た。持っていても壊れているのが殆どだ。私のスマホも壊れていた
しかし、先生が用意してくれたのだ
壊れたスマホは修理され、新しいスマホを渡された
私達は慌てて受け取れないと言ったのだが、「もう金は払ったから拒否されても困る」と言われ…
渋々受け取る事になってしまった
先生には…借りが増えていくばかりだ
「OKだ。何か困った事があった場合も、すぐに言うようにな。そうだ、今日も部活や委員会の活動の見学が出来るように手配しておいた、興味があれば行ってみると良い。では、解散だ」
先生はそう言った後、教卓のすぐ側にある椅子に座ってタブレット端末を操作し始めた
アリウスの生徒達も思い思いの場所に移動を始める
仮面を外した姫が話しかけてきた。ミサキも一緒だ
「今日の授業も楽しかったね。…こんな風に学校で普通の授業を受ける日が来るなんて……」
「…あぁ、夢のような光景だ」
「………そうだね」
今でも、これは何かの夢なのかと思う事もある
「だが確かに…私達が選び、掴んだ未来だ」
そういえばヒヨリは……と、辺りを見渡すと…
「うわぁん!先生!ここが全然わかりません!」
「ここか?ふむ、これは───」
「…なる…ほ……ど……???…うわぁん!こことここがなんでそうなるのかが分かりません!!!」
「じゃあ、分かりやすく図にして説明するぞ」
先生に分からない所を聞きに行っているようだ
先生が黒板にチョークで図を書いていく
そんな光景を見てミサキは呟いた
「…なんというか、ヒヨリって適応早いよね」
「そうだな、ヒヨリの長所の一つだ」
その後、どうやら理解できたようで、「よく出来たな」と先生に頭を撫でられていた
その光景を見届けたミサキがバッグを持って立ち上がる
「じゃ、私は用事あるから先行く」
「用事?何かするのか?」
私がそう聞くとミサキは若干苦い顔をしつつ答えた
「救護騎士団に呼び出されてるの。経過観察ってさ」
…なるほど
ミサキがはぁ、とため息をついた
「そ、そうか…気をつけてな」
救護騎士団の団長の迫力を思い出した
ベアトリーチェを倒した後、バシリカで休憩している時に物凄い音と共に落下してきた時は本当に何事かと思った
そしてミサキは恐らく団長から直接呼び出しを受けたのだろう
でなければミサキが応じる気がしない
渋々向かっていくミサキを見送った
私は隣の姫に声を掛ける
「姫は今日、どうするんだ?」
「今日は自警団の所にお邪魔させて貰おうかなって」
姫は最近、色んな部活動や委員会を見学しているようだ。時々ヒヨリも一緒に行っている
「なるほど。気をつけるんだぞ」
「うん、分かってる。サッちゃんはどうするの?」
「私は少々先生と話をしようと思っている。私の事は気にせずに行ってくるといい」
姫はそう言ってヒヨリに声を掛け、一緒に自警団の所へと向かっていった
なるほど、今日はヒヨリと一緒に行く予定だったからヒヨリの事を待っていたのか
私は二人を見送った
………心配はある。物凄く
私は皆と離れる事が怖い。出来るのならばずっと側に、私の目が届く範囲に居て欲しい
今だって、身体が震えている。嫌な考えが頭を駆け抜ける
もしまたベアトリーチェが襲ってきたら?
もし不慮の事故に巻き込まれたら?
もしその他の事件に巻き込まれでもしたら?
もしトリニティの生徒に嫌がらせをされていたら?
あぁ、怖い…怖い怖い怖い怖い怖い……!!!
私が反転したあの時から、そんな思いは一層強まっている
だから、離れないで欲しい
私の捻れ曲がった本質が囁く
だったら、閉じ込めてしまえばいい
あの時のように、夜闇の中で
私の……目の届く場所に
だが…それは束縛だ。皆の自由を、笑顔を奪う事になる
何が何でも…皆を守りたい。それが私の願い
だが、優先するべきなのは皆の幸福、皆の笑顔、皆の願いだ
鳥籠から羽ばたこうとしている皆を、私が再び鳥籠の中に放り込む…そんな事は許されない
私は息を吸い、息を吐く
浅くなっていた呼吸を整える
腕を握り、震えをなんとか抑える
大丈夫、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせる
私に出来る事は……皆が無事で帰ってくる事を、皆の幸福を祈って待つ事だけなのだから
そうして、待つこと十数分
教室から人が少なくなっていき、遂には私と先生だけになる
私は先生に近づき、声を掛けた
「先生、少々時間を頂いていいだろうか」
「あぁ、どうしたサオリ」
恐らく名前であろう文字列が沢山並んでいた画面を電源を落として暗転させつつ、先生が此方を向いた
「今のは…」
「生徒の名簿だ。詳しく言えばミレニアムの生徒達だな。まだ全員の名前を覚えきれていない。名前、顔写真、どんな生徒か、所属してる部活を暗記しなくては」
先生は私の素朴な疑問にそう答えてくれた
「トリニティとゲヘナは覚え終わったからな…最近は別の学校を覚えようとしている最中という訳だ。で、そんな事はいいだろう。…どうしたんだ?サオリ」
サラッととんでもない事を言われた私は数秒硬直する
トリニティとゲヘナを覚え終わった…?
名前だけならまだしも……
いや、今はいいか……
「あ、あぁ…すまない。その、ずっと気になっていたのだが…時間が無くて聞けなかったことだ」
「ふむ」
私は先生の仮面を見つめて、言う
「サラ先生…あなたは錠前サオリ……なのか…?」
「………………まぁ、流石にバレているか」
先生は辺りの気配を探り、誰も見ていないことを確認して仮面の側面に手を添え、何かを押したと同時にカシュッという音が鳴って仮面を取り外す
あのヒエロニムスと戦った時に見た………
私と同じ顔だ
「そうだ。私は錠前サオリ……お前が見ていない世界から来た、大人だ。お前の可能性の一つ…という事になるのだろうか」
「………なるほど」
私の推測は当たっていた…と
「あの戦闘能力も…」
「あぁ。私の戦い方は基本、筋力を使わない。相手よりも筋力が勝っているのなら良いが、負けている場合かなり不利になるからだ。知識、経験、感覚、技術。私の戦い方はこの4つで成り立っている。筋力と体力が落ちた所で、大した問題ではない。そして残りは武器の問題だな。私が何故よくナイフとハンドガンで戦っているか、分かるか?」
「…回避行動の取りやすさと、銃の反動か。指揮のしやすさも兼ねて……」
「正解だ。アサルトライフルも所持しているが、反動の制御が今の身体だと難しい。集中して使う必要がある。すると回避行動が遅れる可能性があるだろう。ここは盲点だった所だな。誰でも銃の反動を抑えられる程の筋力はあるものだと、以前は気にしてすらいなかった。だからメインで扱う武器を変えた訳だ。このハンドガンは反動が小さく、取り回しもいい。ナイフは余程のなまくらでもない限り通用するからな」
そう言いながら先生が取り出したナイフは、丁寧に手入れされ、研ぎ澄まされていた
「……経験…か」
「そうだ。故に身体能力も、耐久力もお前の方が遥かに上だが…私はお前と、真正面から戦う事が出来た。私はお前を…よく知っているからな」
そう言って先生は私を見据えた
全てを見透かされているかのような感覚に襲われ、私の背筋を冷や汗が伝う
「あぁ、全て分かるぞ。お前が今、抱えている不安も。願いも。捻じ曲げた本質が囁く声もな」
「そ……れは……」
動揺で口籠ってしまう
先生はそんな私を見て、ため息をつきつつ仮面を再びカチャリと装着した
「サオリ。明日、時間はあるな?」
私はなんとか頷く
「では、明日の放課後は私に着いて来るように。今日はこれで解散だ」
先生はそう言って立ち上がった
「その不安、悩み…取り除く手助けをしよう。私は先生で、サオリは生徒だ。悩んでいる生徒を導くのも、私の仕事だからな」
そう言い、教室のドアに向かっていく
ドアを開け、最後に先生は振り返って言った
「サオリ、悩むのは悪い事ではない。大事なのは答えを探し、その答えに何を見出すかだ」
ヒラヒラと手を振り、サオリ先生は教室を出ていく
「……答えに…何を見出すか…」
私は静かな教室で、そう呟いたのだった
大人サオリは自分に厳しいので、サラ先生としてではなく、大人サオリとしてサオリと接すると結構厳しいです。でも結局今はサラ先生で、サオリは生徒なので他の生徒よりちょっと雑……か…?ぐらいの差しか生まれません
先生としての使命感が私情に勝っています
サオリの方は手に入れた黄金の精神と反転で増幅した不安定さがぶつかり合ってもう滅茶苦茶です
士郎……僕はね…ヤンデレサオリとかいうコーラルでもキメないと見られないような妄想が…大好きなんだ……
大人サオリが居た世界の先生の性別どっちがいいですか!
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男性!!!!!!!!!!
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女性!!!!!!!!!!