シャーレの先生だ、よろしく頼む   作:桜花=サン

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家族というもの

 

ミサキ、ヒヨリ、姫の仮入部を見届け、最後の移動だ、と言って歩く事1時間ほどだろうか

私はとある場所に来ていた

 

「………先生?…聞いてもいいだろうか」

 

「どうした?」

 

目の前で仮面を外す先生が何か問題でもあったか?と言わんばかりにこちらを見る

 

「な、何故私はアリウスの訓練場で………そして大鎌を模した木製の武器を持たされているんだ……?というかこれは……」

 

先生はいつも使っているナイフを模した木製のナイフを取り出す

 

「身体を動かす為に決まっているだろう。この木製の武器は私が作った、雑にだがな。そうやって考え込んでいるだけでは分かるものも分からなくなってしまう。幸い、今日はアリウスへの調査員もなにも居ない。叫んでもいいぞ?お前の思いを、迷いを、憂いを、私に存分に吐き出すといい」

 

「…だ、だが…木製とはいえ、私のこれが当たれば先生は…さっきだって、吐血していただろう…!これ以上の無理は……」

 

「御託はいい、早く構えろ」

 

先生の目が細められ、私を鋭い視線が射抜く

私は咄嗟に臨戦態勢を取った

 

「ッ……!」

 

いつの間にか投擲されていた先生のナイフを大鎌で弾く

カコン!と小気味良い音と共にナイフは弾かれた

が、それはブラフだったようで…続けて投擲されて姿を隠していた二本目のナイフが眼前に迫る

間一髪、大鎌を振った勢いのまま、私は体を捻って回避する

先程の先生が立っている場所を見るが、既にそこに姿は無い

 

「他人の心配より先にする事があるだろう」

 

耳元でそんな先生の声が聞こえた

 

「吐き出せ、お前の全てを。私が全てを受け止める」

 

私は振り返りつつ大鎌を横薙ぎに振るう

 

「私は…私は……!」

 

先生の言葉に、抑え込んでいた感情が決壊する

 

「…怖い、怖いんだ…!皆が…ヒヨリが、ミサキが、アツコが……私から離れていくんじゃないかって…!ミサキを気に掛けてくれる人が居る!ヒヨリを受け入れてくれる人が居る!アツコと一緒にふざけてくれる人が居る!私はいつか不要になり、皆私から離れていく……!!!」

 

私は視界に捉えた先生へと斬り掛かる

 

「言い訳をしていた、襲われるかもしれないから、危険かもしれないから、また攫われるかもしれないから……でも、それは私が…私が、皆と一緒に居たかっただけだ!!私の薄汚い欲望が、皆の幸福を邪魔しようとする!!!」

 

先生が、両手に持ったナイフで私の大鎌を受け止めた

今まで、狭い世界だった

だから、私が助けるしかなかった

だから、私が救わないといけなかった

私が護らなければいけなかった

私は皆を護りたい

家族を護れ、離れていれば、そんな事できやしない。離さないべきだ。ずっと側に居なければ

気持ち悪い、己の本質の戯言に吐き気がする

 

「もう頭がおかしくなってしまいそうだ…!こんな感情、私は知らない……!!!」

 

背中から6枚の翼が展開する

周囲が闇に包まれる

そう、私は……確かに恐怖していた

無意識のうちに、力を引き摺り出す

私の急変にさえ表情1つ変えず、上手く力を流しつつも私の大鎌を受け止める先生

私と背丈しか変わらない、写し鏡のようなその姿

成長した私、大人の私

 

「嫉妬…恐怖…心配…喜び…それが私の中でぐちゃぐちゃに混ざり合って、何がなんだか……!!」

 

一瞬、力が緩む

その隙を突いて先生は大鎌を蹴り飛ばした

ふぅ、と息をついて先生は口を開く

 

「………ようやく心の内を吐き出したか。抱え込もうとするのは私と変わらないな。まぁ、当然だろうが………妹離れの時が来た。それだけの話だ」

 

「……妹離れ……?」

 

「大人になっていく過程で、人は自立する。一人で生きていけるように、他人を頼らなくていいように」

 

先生はナイフをポケットにしまう

 

「彼女達が生きる為に自分が不要になる…それは必然だ」

 

「なら……私は…!」

 

「だが、生きる為には不要だとしても、必要だと感じる…それが形となった関係性が家族だと私は考えている」

 

「………」

 

「お前も知っての通り、アツコ達は強い。完全に閉ざされたあの環境が、異常だっただけなのだから。救護騎士団、放課後スイーツ部、自警団。それぞれアツコ達が作った縁だ。アツコ達が危険になれば助けてくれるだろう。だが、家族としてアツコ達を護ってやれるのはお前だけだ」

 

私の脳内に、さっきのアツコの言葉がよぎる

 

「…………皆…私は…」

 

本当に必要だと、思われているのだろうか…

 

「…お前を必要としていなければ、仮入部の途中でも抜け出してこんな所まで後を追ってきたりしないだろう」

 

先生がとある方向を見つめると、物陰から3人……

 

「…ほら、やっぱりバレてた」

 

「お、怒られちゃうんですか…!?うわぁん!」

 

「やっぱり、悩んでたんだね。サッちゃん」

 

やれやれといった感じで歩いてくるミサキ

ひえぇと怖がるヒヨリ

私に優しく声を掛けてくれるアツコ

 

「皆…!?というか、聞い───先生!!!」

 

誰も居ないと言っていたのは嘘だったのか!?

 

「さっき気付いた。悪いな」

 

ははは、と目線を逸らしながら笑って先生は仮面をつけ直す。嘘が下手すぎる

絶対に確信犯だ、気付いていた上であぁ言ったのだろう

嵌められた!!!!!

もう遠慮も要らないように感じてきた

あの人は何処まで行っても私だ

助けてくれた事には変わりないし、感謝もしているが…

それとこれとは話が別だ

 

「おのれ先生…!!一発殴らせてくれ!!!」

 

「まともに受ければ私は死ぬのだが」

 

「サッちゃん落ち着いて」

 

姫に羽交い締めにされて止められる

ヒヨリははわわわわわとなっているしミサキは我関せずの様子だ

暴れて怪我でもさせてしまうのは嫌なので私は大人しくする事にした

 

「サッちゃん。何か悩んでたら、一人で抱え込まないで。そこはサッちゃんの悪い癖だよ。私達に話して?一緒に悩んで、考えよう。今回の事はちょっと話しづらかったと思うけどね」

 

そう言って姫は苦笑する

 

「私達は、サッちゃんを必要としてる。だって、ちょっと不器用で、でも優しくて、真面目で、私達を護る為に誰よりも頑張ってくれる私達のお姉さんが居なくなっちゃったら恩返しが出来ないし、何より寂しいよ」

 

「そ、そうですよ…!サオリ姉さんはサオリ姉さんで…私達の家族ですから…」

 

「……………ばか」

 

姫はそう言って笑い、ヒヨリは私に抱き着いてくる

ミサキは顔を逸らしながら呟いていた

……周囲の闇を私自身の意志で崩壊させる

背中の翼も消滅させた

 

「……皆、すまない………」

 

本当に、下らない事だった

私の間違った認識を、こうして正せば良かっただけ

護るということ、家族というもの

正しく認識できた今考えれば…何を悩んでいたのか

頭が整理されていく

 

「……先生も、感謝する」

 

「気にするな。先生として当然だからな…というか皆、私の正体にあまり驚いていないんだな」

 

先生の発言に姫達は顔を見合わせる

 

「だって……先生って雰囲気がまんまサッちゃんだし…」

 

「最初は有り得ないって否定してたんだけど。関わってく内に姉さんにしか見えなくなったよ」

 

「さ、最初会った時もなんだか見知った気配だなぁって感じてました…その後の襲撃で初めて顔を見たらもう……」

 

「………そうか」

 

分かりやすいのか…?いや知り合いだからか…と頭を悩ませる先生

 

「…先生、ちょっとこっち来て、仮面とって」

 

「あ、あぁ…良いが…」

 

先生が姫に手を引っ張られ私の隣に立つ

言われるがまま仮面も外した

 

「……おぉ〜…姉妹みたいだね」

 

「そういえば姉さんと先生の関係性について若干気になってる人達が居るらしいけど、姉妹って答えてれば良いんじゃない?似てるしいけるでしょ」

 

ミサキがそう言う

 

「似すぎではないか…?」

 

かえって怪しまれるのではないか、と考えていると先生がこちらをじっと見ている事に気付く

 

「どうしたんだ先生」

 

「…いや……色々と複雑だな…と思ってな…」

 

それはそうだ、別世界の自分を姉扱いは………

……………本当になんとも言えない

その時、ヒヨリのお腹が鳴り響いた

 

「お、お腹が空きました………」

 

一瞬ぽかんとしてしまったが、私はすぐにヒヨリを撫でて言う

 

「…そうか、では帰ろうか」

 

皆も頷いた

時間はもう夕暮れだ

本当に迷惑をかけてしまった、皆にお詫びをしなくてはいけないな

 

「気を付けて戻ると良い、私は少々用事があるからな。皆を私が送り届ける必要も無さそうだしな」

 

先生はアリウスに用事があるようだ

私の方を見て、そう言った

 

「…あぁ、今日は本当にありがとう、先生」

 

「気にするなと言っているだろう。ほら、早く戻れ」

 

先生は手をひらひらと振りながら私達が来た方向とは逆方向に進み、その場を去っていった

 

─────────────────────

 

星が瞬く夜空の下、私はアリウス自治区を歩く

 

「………懐かしいな」

 

パレードもどきが行われていた場所、アズサを助けた訓練場、あまり良い思い出はない拷問部屋

そして、ベアトリーチェを討ち倒したバシリカ

 

「…少々、大人ぶり過ぎたか」

 

この世界の私は過去の不安定さ、神秘の反転、自分が選んだ道、突然広がった世界

その全てが合わさり、翻弄され、精神が疲弊していたのだろう

疲れていると、目の前の事実すら怪しく見えてしまう

なんとか持ち直したようで何よりだ

空を見上げると、今日は満月のようだった

月光が私を照らす

 

「………終わったんだな…」

 

静まり返ったアリウス

生命の気配の1つも感じない

聖徒会もベアトリーチェも、アリウスの教官も生徒も誰一人居ない、虚しい空間

 

「……もしかしたらこの先には…」

 

夢から覚めることが出来たセイアの言葉の事、そして、私の前の世界の記憶を思い出す

真っ赤に染まる空、飛来するタワー

破滅が、待っているのかもしれない

あぁ、一区切りはついたのかもしれないが、まだまだ…やるべき事が沢山ある

助けなくてはいけない生徒は沢山いる

ふと、足元に1輪の花が咲いている事に気が付く

その白い花は逞しく、咲き誇っていた

 

「…ふふっ…あぁ、抗う事を止めてはいけないな」

 

たとえどんな未来が待っていようと、それは足を止める理由にはならない

私の家族にただいま、と言えるように…明日からも頑張ろうか

私は帰路に着き、シャーレに戻ったのだった





後日談は終わりですかね…気分によってはもうちょっとやるかも…
あとはほのぼのした話を数話やりたいなと思っています…
でも多分次回は予告みたいな感じになるかな…?

大人サオリが居た世界の先生の性別どっちがいいですか!

  • 男性!!!!!!!!!!
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