お昼時のシャーレ内部、仮眠室にて
私は頭を悩ませていた
うーん…由々しき事態だ、何も思いつかない
…ふむ、一人で考えるだけじゃなく、他の人にも聞いてみるか
こういう時こそ生徒達に頼るべきだろう
取り敢えず、私の膝の上で満足そうにゴロゴロしているシロコに声を掛ける
「シロコ、特に思いつかなかったら答えなくても良いのだが……」
「ん」
「シャーレの存在を効率的に広める手段、何か思いつかないか?」
「ん?なんで?」
頭上にハテナマークを浮かべるシロコに私は説明する
「私は生徒達の力になりたい。悩みも解決してあげたいし、困っているのなら手伝いたい…だが、そもそも知られていなければどうしようもないからな。そこで、知名度を上げなければと思ったんだが…今の所、私が色んな自治区に出向くぐらいしか思いつかなくてな……」
悪くはない気がするが、キヴォトスは広大だ。流石に時間がかかりすぎる。何より、外にいると出来る仕事の範囲が限られるし、困ってシャーレに来た生徒を助けられない
「ならSNSを使えば良い。先生は確かアカウントあったでしょ。安全の為の情報とかいっぱい流してたけどもっと自分やシャーレの事を発信するのは?」
「………やはりシロコは天才だったか」
そういえばエデン条約のゴタゴタの後微塵も見てなかったし存在を忘れていた
「ん」
私はふんす、とドヤ顔するシロコの頭を沢山撫でた
よし、そうと決まれば早速…………
早速……………
文字を打とうとした手が停止する
「ん、先生。明日の朝一緒にランニングしよう」
「勿論良いぞ。いつもの場所に集合だな」
「ん」
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翌日
「ワカモ、少し一緒に考えて欲しい事があるんだが」
「あら、どうなされたのですか?」
またまた時間はお昼時。書類仕事を手伝ってくれていたワカモとの休憩時間、私は昨日からずっと考えているのに真っ白なスマホの画面を眺めつつ、言う
「自分の事って何を書けば良いんだ……!?」
正直スマホのアプリなどほぼモモトークしかやってこなかった身だ
以前お菓子作りしたと書いたものがどうやら沢山反響があったようで色々とついていたのだが…
正直何が何だか分かっていないし別に最近は書類仕事しかしていない………
「あぁ、そういえば以前お見舞いに来てくださった時に言っていましたねぇ。SNSを使う事にしたんですか。まぁなんでもない日常でも発信していいと思いますけど…」
エデン条約襲撃の時、来てくれたワカモは救急医学部と救護騎士団の所に運ばれた時私と同じかそれ以上の重症だったらしい
流石のヘイローがある人の耐久力と再生力とはいえ、完治にはかなりの時間がかかるらしい
今もワカモの腕は両方包帯でぐるぐる巻きだ
「そんなに腕を見て…もうそろそろ治るから大丈夫だと言いましたよねぇ私」
「仮面があるのによく視線が分かったな…」
「なんとなくです」
背後に回り込んだワカモが私の頭の上に顎を乗せてスマホを覗き込んでくる
「それで、どうするんです?」
「………うーん」
……分からん。なんだこれは、奥が深いな
深すぎて深淵に繋がっている気さえしてくるが…
『先生!色々と調べていたのですが、色んな物をリアルタイムで流す配信…その中に作業配信なんてものもあるみたいですよ?先生は結構向いてそうだなと思いまして!』
シッテムの箱からアロナがそう言ってくる
「……作業配信?」
思わず口に出てしまった
それはそれとして作業配信とはなんだ?
…いや文字通りか?
私が作業……というか仕事をしている様子だけを配信するのか…?
恐らく書類仕事だろうし…誰が見るんだそれは
「あら、そっち方向にします?簡単なお悩み相談などもそれで可能かもしれませんね」
「それはまぁ出来るのならやりたいが…私の仕事してる姿を眺めて私が時々喋るだけの配信で名を広められるか…?来ないだろう人が」
「先生、需要は意外と予想しない所で発生するものですよ。まぁ名を広める…となると塵も積もれば山となる…SNSですし、ゆっくりやっていくのが得策かと」
「……それもそうか」
確かに、少々焦りすぎだった気がする
のんびりやるのが一番ちょうどいいのかもしれないな
ワカモが私の頭から退いた
「アロナ、後で配信に必要な物を探すのを手伝ってくれ」
『わかりました!』
ワカモが離れた隙に私はアロナに小声でそう言う
そして私は立ち上がった
「さて、休憩時間は終わりにしよう。ワカモ、色々とアドバイスをくれて感謝する」
「いえいえ、お気になさらず」
そうして、私達は仕事に戻ったのだった
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今日は土曜日、学校はお休みだ
私…クロはマユ先輩とロル先輩とお茶会をしていた
ふと、私のスマホの通知が鳴る
画面を見ると……あ、先生だ
どうやら、そこそこの間止まっていた先生のアカウントがまた動いたみたい
「ン?先生のアカウントじゃン。てっきり忘れてるものかと思ってたゼ」
「失礼ですわよマユ先輩」
「んだヨ絶対1回はロルもクロも忘れてるんじゃネって思っただロ」
私達はマユ先輩の反論に目を逸らした
正直エデン条約関連の事ばっかり発信していたから役目を終えたアカウントかと思っていたのは事実
忘れられても仕方無いアカウントだから忘れてるのかなとは思った事もある
「まぁそれはいいヤ。内容だヨ内容。まぁ多分また避難場所とカ──『配信をしてみる』!?」
短いそんな文章の下にURLが貼られている
皆がよく見る動画配信サイトに飛ぶみたいだけど……
「唐突過ぎますわね…流石に驚きましたわ」
「妙な所で行動力発揮してんナ。あーでモ先生は行動力が大事カ」
よいしょと言いながらマユ先輩がスマホではなくタブレット端末を取り出して私達も見やすいように置いてくれた
「せっかくだし皆で見ようゼ、面白そうだシ」
「はい!」
「そうですわね。気になりますわ」
マユ先輩がURLを押すと、ちゃんと動画配信サイトに飛び、配信が映し出される
カメラの端っこで何かしらガサゴソしている先生がいた
『えーっと?これがこれで?それが…あれで?…配線が多すぎるだろう!…え、何だ?そんなにカメラを指差して…ん?あ、これもう写っているのか?』
端っこの方で色々と配線を弄っていたのであろう先生がカメラに近付いてくる
先生の反応的に画角の外に誰かいるみたいだ
『まぁまだ誰も来てないだろう。多分。見てる人の数とか見られるのかこれ?はい?え、今の私が2000人に見られていたのか?』
慌てて先生はカメラの正面にある椅子に座る
「あんな完璧に格好いい先生でも抜けてる時は抜けてるんだナ、安心するワ」
「慣れてなさが全開ですわね」
先生に抱きかかえられた時のことを思い出して気絶しそうになる意識をなんとか引き止める
『あー…連邦捜査部シャーレの先生、月司サラだ。貴重な休日だというのに私の唐突な配信に時間を割いてくれた事を感謝しよう。今日話す事は正直そこまで面白みもない。後に私のアカウントでも文章を上げるつもりだ。今回のこれはテスト…といった感じだろうか。今日はさらっと活動について話すだけだ。つまらないと感じれば各々自由な時間を過ごしてほしい。私がこうして配信しているのはシャーレという存在を皆に知ってもらう為だな。私は生徒の味方で在りたいし、是非頼って欲しい。その為に私という存在を知ってもらう方法の1つとしてこうして配信を始めたわけだ』
よく通る声ですらすらと話す先生
多分授業と同じような感覚なのかな?
慣れていないのはSNS云々だけみたいだ
「馬鹿真面目な理由だナ。大体そうだろうとは思ってたけド」
『…正直ここまで人が来る事は想定していなかった。来ても5人ぐらいかと………というか今何人が見ているんだこれを』
先生はパソコンを操作している
「同時接続5000人いってるゼ」
「あら、凄いですわ」
「先生の目的は結構達成されたのかもしれませんね」
「確かニ。知らなかった人も多分程々に居るだロ」
マユ先輩の言葉に頷く
先生も見つけたみたいだ
『…?5000?これバグでは無いか?正常?嘘だろう?……あぁ、正常なのか…まぁいいか。取り敢えず話を進めるとしよう』
「切り替えが早いナ」
そんな調子で話は進んでいき………
『よし、シャーレ内部カフェの説明も終わりだな。伝えたい事はこれで全てだ。シャーレと私を是非頼ってくれると嬉しい。では……』
「終わりかナ?先生も慣れてないとあぁなるんだナ」
「そうですわね。先生も一人の人間ですわ」
「作業配信とか聞きながら勉強すると捗りそうです」
マユ先輩がタブレット端末に手を伸ばしたその時
『ここまで見てくれた皆にささやかなお礼を贈らせてもらおう。私に出来るのはこの程度だが──』
先生がパチンと指を鳴らすと画面が暗転する
そして、暗転した画面が数秒後に復活した
普段よく見るシャーレの制服から私服に着替え、ヘッドフォンを装着した先生が映し出される
その場所は…まさかのDJステージだ
「…マジかヨ」
「……!?」
「わぁ…!」
先生の顔全てを覆っていた仮面の下部分が開いていて口元が見える
先生は口角を上げて不敵な笑みを浮かべて言った
『是非楽しんでくれ』
そうして始まった突然のライブはSNSで拡散されて大反響を呼んだ
その為か、先生の配信に定期的にDJ.SARAのオンラインライブが混ざるようになったのだった
脱いだシャーレの制服を畳みつつ言う
「早着替え、結構難しいな………」
「さっきのをする為だけに私を呼んだのか先生」
「無駄遣い…とまではいきませんけどねぇ」
抗議するかのように6枚の翼をバサバサするサオリを私は宥めてワカモはやれやれといった様子でかぶりを振った
大人サオリが居た世界の先生の性別どっちがいいですか!
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男性!!!!!!!!!!
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女性!!!!!!!!!!