「黒服に言われたのは…此処ですか」
近場の写真を見て、刀を振り抜き空間移動
一瞬暗転する意識を即座に再起させ、目的の場所の近辺に降り立つ
「百鬼夜行連合学院の自治区…ではありますけど、そこそこ離れている山……はぁ、未捜索で情報が無い場所の探索を、と頼まれてはいますが、ただただ山なだけなのでは?」
そんな事を言いつつ、私はさっさと終わらせる為に足を踏み入れ、数時間程山を歩き回った
ドレスにヒール…確実に山に立ち入る者の服装ではないが私の身体能力ならなんの問題も無い
一度も躓く事すら無く私は頂上へと辿り着く
「動物と植物は豊富なようですが…それも多少、と言っていい程の差でしかありませんね。山頂も景色が良いだけ…と。下山しますか」
見ていなかった方向を見る為、空間移動ではなく普通に歩いて下山する
数十分後、山の中腹辺り
私は視界の端に何か人工物を見た気がして立ち止まる
「………ふむ?」
そっちの方向に近付いてみれば………
そこそこな大きさの畑を発見した
「これは……畑?」
柵に囲まれていて、近くにはクワが突き刺さっていた
「使い込まれてはいますが、金属部分は綺麗ですね…しっかりと手入れがされている…?」
そして、畑の近辺に小屋を発見した
「こんな場所に…?なん───」
風切り音。私の髪を掠り、後方の木に突き刺さったのは……小刀
警告のつもりだろう。当てる気は微塵も無かったようだし、私は落ち着いて飛んできた方向へ向き直る
小屋の方から声が響いた
「んな場所に盗っ人かァ?次は当てるぜ、さっさと帰りな、随分と良いモノ着てる姉ちゃんよ。ここは儂の大事な鍛冶場だ、ったく…最近のは全員揃いも揃って火器ばっかり使いやがる…」
そんな事をボヤきながら、小屋から出てきたのは…橙色のショートヘアをした…生徒だ
ヘイローがあることは認識できる
白と黒のシンプルな和装だ、露出は少ない
和装…百鬼夜行の生徒なのだろうか?
私は質問を投げかけてみる
「その小屋やこの畑はあなたのものなのですか?」
「あぁそうだ。ほら、帰った帰った。んな格好で山ん中を彷徨いてんじゃねぇよ、特に何の変哲もない小屋───いや待て姉ちゃんよ。その腰に佩いてるのは………!?」
シッシ、と手を振って帰ることを促していたその生徒は、私の腰にある刀に気付いて質問してきた
特に誤魔化す必要性も無いので返答する
「これですか?私の刀です」
「他に銃器は持ってねぇのか?」
「必要とあれば使いますけど、普段はこれ1本です」
「…んだよ姉ちゃんイケる口かい!…とはいえ、その刀……異様な気配を放ってンな。儂の小屋に上がっていけよ、その刀をよく見せてくれ」
さっきまで顰めっ面だったが、私が刀を使っている事を理解すると急にニコニコしだし、小屋へ上がるように誘ってきた
私が急な態度の急変に困惑していると…
「ん?…あぁ、さっきのは悪かった、いつも迷い込んだのはあんな感じで追っ払ってんだ。すまねぇな」
苦笑いを浮かべて頬をポリポリと掻きながらそう謝ってきた
追い払っている…か
色々と怪しいが、どうせ私は死なない上に今回は調査が目的ではあるので交流を続ける事にした
「…まぁ、構いませんよ。私が勝手に侵入したのは事実ではありますし、あの小刀は当てる気もありませんでしたし。警告だということも理解していますから」
「おう、話が早くて助かるねぇ!」
にぱっと笑う彼女
そういえば、自己紹介もしていないし、彼女の名前すら知らないということを思い出した
「…取り敢えず、あなたの名前を教えて頂けませんか?…とはいえ、自己紹介は自分から名乗るもの、と聞きました。私は虚。所属は…まぁ、ありません」
ゲマトリアと言っても伝わらないだろうし、取り敢えず所属は無いと言っておく
すると、ムラマサはちょっと驚いたような顔をした
「おぉ?根無し草かい。良いモノ着てるから何処ぞのお嬢様学校かと思ってたンだが…まぁ、何でもいいか!儂はムラマサ、鍛刀ムラマサだ。一応、まだ百鬼夜行連合学院の3年生…ではあるのか?まぁ、よろしくな、虚の姉ちゃんよ」
「その呼び方は……いえ、まぁ…なんでもいいです」
手を差し出して来たので近付き、その手を握って握手する
すると、ムラマサが一瞬硬直した
「………?」
私が疑問符を浮かべていると、ムラマサは苦い顔をしながら、私に語り掛けてきた
「……虚の姉ちゃんよ、お前さん…随分と重い宿業を背負ってンだな。しかも数人分たぁ驚いた。たった一人で背負うには、有り余るだろうに」
宿業、数人分
一瞬何を言われたのか理解が出来なかったが、すぐに思い当たる節を見つける
私は咄嗟にムラマサの手を離す
「………何を…」
自分の声が動揺で掠れている事が分かる
ムラマサは慌てて謝罪をしてきた
「あぁ…いや、気分を害しちまったならすまねぇ。なんかなァ、時々分かっちまうんだよ。刀を扱う者なら尚更…な。鍛冶師としての勘ってやつだ」
「…………」
「安心してくれ、儂は虚の姉ちゃんに不利益を与える事はしねぇ。それは儂の名にかけて誓う。まぁ…なんだ、茶でも飲んで落ち着いてくれ」
「………………そう、ですか。…すみません、取り乱しました」
微塵も想定していなかったまさかの事態ではある…が……ムラマサ…謎だらけの彼女について、私自身が知りたいと思ってしまった
私は大人しく小屋に向かう事にする
ついていく途中、小屋の隣に一回り小さい小屋があるのが見えた
なんだろうと眺めていると、ムラマサが説明してくれる
「あれは鍛冶場だ、仕事…つっても今はほぼ趣味みたいなモンだがな。それでも、あそこは儂の在り方そのものだ」
「鍛冶場……つまりあなたは刀剣類を製造する鍛冶師、という認識で合っていますか?」
「応とも、鍛造無限の如く…ってな!見たいのなら後で連れて行ってやらぁ」
「なるほど、ありがとうございます」
そんな会話をしつつムラマサに続いて小屋へと入る
中は……質素な部屋だ
最低限、生活できるものは揃えてあるが…なんというか、全体的にかなり古い
部屋の中を見渡していると、ムラマサがお茶を入れてきた
「ほれ、茶だ。緑茶って呼ばれてるものだが、虚の姉ちゃんは飲めるか?」
「えぇ、大丈夫です」
差し出されたお茶を飲む
以前飲んだものよりも格段に美味しかった
お茶の味など気にした事が無かった私でも理解できるという事はかなりの美味しさなのだろう
「虚の姉ちゃんよ、その刀…ちょっと見ても良いか?」
「構いませんけど、振るのはおすすめしませんよ。あなたなら恐らく理解できるでしょうけれど」
忠告はしつつ鞘に入れたままの刀を手渡す
ムラマサは刀を受け取り、少しだけ鞘から刀身を出してじっと見つめる
私がお茶を飲み終わる頃、集中していたのか先程まで何の反応も示さなかったムラマサは私に話しかけてきた
「こりゃとんでもねぇ刀だな…元々が妖刀、それも最上位のモンだ。それに色々流れ込んで妖刀としての存在を保ちつつ神剣にまで至ってやがる。なぁ虚の姉ちゃんよ、振るな…つってたのは死ぬからだろ?」
「えぇ。振れば確実に」
空間を作る時に一瞬意識が飛ぶあの感覚
あれはきっと死だ。もう慣れてしまったので何とも思わないが
「だよなぁ…つっても、この刀、随分と虚の姉ちゃんに懐いてやがる。色々弄られると妖刀ってもんは機嫌を損ねて厄災を引き寄せたり引き起こしたりするもんだが…改造が施されて尚懐いてるってのは初めて見たぞ。妖刀に代価を捧げ続ける事で…って事は聞いたことがあるが、こんな重い代償、どうやって…」
「簡単ですよ、私が死んでも死なない。それだけです」
私はムラマサから刀を取り、刃先で腕を浅く斬る
腕に血は残ったが、一瞬にして傷口は消えた
ムラマサは驚きと、納得が混ざったような表情をしていた
「そうかい。虚の姉ちゃん…お前さんの背負った宿業の一つは……だが、それは…あまりにも…」
「そこまでは分かっていなかったのですね。…同情は要りませんよ、虚しいだけですから」
純粋な感想を述べる
とはいえ、これだけで大体察しているのだから本当に大したものだ
「……儂が感じたのはお前さんがたった一人の身には有り余る程の宿業に雁字搦めにされてるって事、それと…お前さんを最も縛り付けている宿業の事だ。あぁ、さっきのは別にな」
「…そうですか」
沈黙が訪れる
宿業………
確かに、そうとも言えるのかもしれない
『錠前サオリ』が犯した罪、そして業………
雁字搦め…か
そんな事を考えている間、ムラマサがじっと私を見つめていた事に気付く
そして、何かを決めたかのような表情をした後、話しかけてくる
「なぁ、虚の姉ちゃんよ」
「なんです?」
「断ちに行くつもりだろ?最も深く、最も大きい、己の宿業を。その為に今、お前さんは研鑽を重ね、果てに至ろうとしている。支払う事になる…決して安くはない代価の事を理解しても尚」
「……それも、鍛冶師としての勘ですか」
そんな事まで言い当てられた私はそう聞いてみる
「応とも。まぁ、今回ばかりは刀を振るう者としての経験と勘もあるがな?」
…もはや勘などではなく読心術の類ではないのか
あぁいや…ムラマサが勘だと認識しているだけで、特定の条件下で発動する彼女の神秘なのかもしれない
そんな事を考える私にムラマサは言葉を続ける
「んで、そこで提案…というよりはお願いだな、コレは。そう、お願いがあるんだ」
ムラマサは不敵な笑みを浮かべて言った
「鍛刀ムラマサの名にかけて誓おう。決して不利益は出させねぇ。その計画、儂に一枚噛ませちゃくれねぇか」
オリジナル生徒、百鬼夜行連合学院の3年生
鍛刀ムラマサちゃんです
鍛刀はたんとう、と読みます
筆者と趣味が似通っている方なら参考にしてるキャラクターが分かるかも…()
ちなみにクロ達と同様、ムラマサもサラ先生主軸のメインストーリーの進行にはほぼ関わりません。あっちは『大人に、先生になったサオリ』の物語なので。「先生はこうしたけど、サオリはこうする」というのを筆者も楽しんでいますし皆さんにも楽しんで欲しいのであまりオリキャラを絡ませないようにしています
これからもオリジナル生徒は増えるかもしれませんし増えないかもしれませんが、もし出すとしても一学園につき多くても二人、基本は一人にしようかな…と思っています
結構オリジナル生徒は出さない方が良いのかな…?とかも思うのでアンケートに是非協力して下さると嬉しいです
結果によっては色々考えます
最近あとがき多くてごめんなさい…
オリジナル生徒について!!!
-
全然出していいよ!!!!!!!
-
出さない方が好きだよ!!!!!