シャーレの先生だ、よろしく頼む   作:桜花=サン

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【虚】

 

「クックック…ようこそいらっしゃいました…調子は如何です?」

 

「普段と何ら変わりはありません。突然私を呼び出して、何ですか?黒服」

 

とあるビルの一室。黒服…と呼ばれる人物と白いドレスの彼女……アリウスの支配者が居た

 

「いえ、少々情報共有を…と思いましてね」

 

「情報共有?珍しいですね。こうして個人的に呼び出してそんなコトだなんて」

 

来客用のソファーに座りつつ、会話を続ける

 

「どうやら、現れたようです。貴女の言っていた…大きな…とても大きな、変数が」

 

「……そうですか。気を付けておくと良いでしょう。『先生』は、奇跡を手繰り寄せる」

 

「えぇ、分かりました。そろそろ私は、『先生』と相対する事になるでしょうからね…クックック…」

 

「暁のホルスの件ですね?キヴォトス最高の神秘」

 

「えぇ。彼女が手に入れば、きっと…」

 

「まぁ…せいぜい頑張って下さい。上手くいく事を願っていますよ。では…」

 

椅子から立ち上がり、退室しようとする彼女を黒服は引き止める

 

「要件はもう一つあります。クックック…大事な、大事な要件ですよ」

 

「…なんですか?」

 

「そろそろゲマトリアとしての名を決めてください」

 

「………はぁ?」

 

怪訝な声を出す彼女

 

「貴女、だとか…彼女…だとかで呼称するのも面倒ですので。女性が増えたりすると大変ですし」

 

「増えないでしょう」

 

「可能性はゼロではありません」

 

彼女は呆れたような表情を見せ、もう一度ソファーに座る

 

「呼び名などどうでもいいでしょう。好きに呼んでください、と以前言いましたよ?」

 

「名称が一致しないのも面倒です。私…黒服。マエストロに、ゴルコンダ、デカルコマニー。そして貴女。しっかり名称があった方がバランスも良いでしょう」

 

「はぁ……そうですか。はいはい、考えておきます。決まった時は連絡しますから。では」

 

「えぇ。よろしくお願いします」

 

バタンとドアを閉め、彼女は出ていった

その数分後、黒服が色々と計画を進める為に指示を出していると…着信が届く

 

「……妙に真面目な所がありますね。彼女…いえ」

 

開いた連絡をとるアプリに書いてあったのは、恐らく彼女が決めたのであろうゲマトリアにおける名称

 

「【虚】さんは。クックック……」

 

─────────────────────

 

「……それで、研究成果はどうですか?ゴルコンダ、デカルコマニー」

 

アリウスのバシリカ内、戻ってきた私を彼らは待っていたらしい

 

「えぇ、順調です。貴女が提供した土地のお陰で」

 

「そうですか。私の言った事は覚えていますよね?」

 

「はい。『土地を提供するのは良いが、アリウスの生徒を実験の対象にしない』という契約は、しっかりと」

 

「そういうこったぁ!!!」

 

「なら、構いません。彼女達は私のモノですから、手出しする事は許しませんので」

 

「えぇ。では、私はこれで」

 

バシリカから立ち去るゴルコンダとデカルコマニーを私は見届ける

入口が閉まり、辺りは静寂に包まれた

 

ふと思い出したのは、少し前の事

 

『へぇ、和解、ですか』

 

『はい。トリニティのティーパーティーが…』

 

『………良いでしょう、やれるのならやってみなさい。その先に待つものは…底なしの絶望、でしょうけれど』

 

『……はい』

 

そうして、出て行く『私』を見届ける

その数週間後、報告が届いた

 

『………だから言ったでしょう』

 

【トリニティへの憎しみが強い過激派が、聖園ミカの命令を無視し、百合園セイアを殺害の為、襲撃。それを阻止しようとしたアリウススクワッドの白洲アズサと交戦し、「ヘイローを破壊する爆弾」を起動、過激派4名、白洲アズサが共に重症、百合園セイア、死亡。しかし、死体は見つからなかった】

 

この件の後、ティーパーティーの一人、聖園ミカはどんどんおかしくなっていった。起こってしまった事実を受け入れられず、記憶に蓋をして、目的の為の手段にすり替えた

 

『結局、こうなるんですね。……エデン条約、襲撃……真実を知らしめる時は近い…抗ったって、その先に待つのは幸福とは限らない。それどころか、絶望が増していくだけ』

 

前で私に報告書を渡して待機していた『私』を見る

あぁ、可哀想に。和解が叶えば、アズサも、姫達も…救えると思って受け入れたのに、こんな結果

 

『はい、私も…理解しました』

 

『……そうですか。なら準備をしておくのですね』

 

……『私』は、やはり折れてしまう

これ以上失わない為に、立ち止まる

 

『白洲アズサは、どうなりましたか?』

 

『入院の後、トリニティに復帰する、と』

 

そしてアズサは…折れずに、前を向く

自分の足で、暗闇の中でも進み続ける

 

『……好きにさせておきなさい』

 

『はい』

 

『報告は終わりですね。下がって構いません』

 

『わかりました』

 

そうして、下がる『私』

きっと絶望の底の『私』

 

思考を現実に引き戻す

 

「…やっぱり、意味なんてありません。だから…こんな……意味なんて無いと証明しなくては…私は…!」

 

ドクンと、心臓が脈打つ

聞こえるのは、声、声、声

忌まわしい、あの大人の声が脳内に反響し、全身に激痛が走る

 

「がっ……ぐぁ………ぁ゙ぁ……やめろ!煩い、黙れ!お前は…!もう居ない!私が殺した!私に…触れるな!」

 

声が、途切れた

痛みが引いていく

 

「はぁ………っ…はぁ……………」

 

切れた息を整えようと深く呼吸をする

 

「早く……っ…しないと……ゴホッ…私が、私では…なくなる前に………」




ゲマトリアの『彼女』は虚(うろ)という呼び名になりました。彼女の手の中は空っぽですし
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