「………………どうしたものか…」
アビドスのカイザー絡みの借金に……私の世界とは少し違うアリウス、憔悴しきったここの私………エデン条約はまだ少し先だが………
様々な頭を悩ませつつアビドス自治区を散策していると、聞き覚えのある声がした
「じゃあ、何処に行く?」
「うーーーん…」
「特に当てもないし…ゲヘナに戻る?」
便利屋68の皆だ
折角なのでアルの背中に声を掛ける
「引っ越しするのか?気を付けてな」
「「!?!?」」
「シャーレの…!?」
「あ、先生!」
少々驚かせてしまったようだ
アルとハルカとカヨコは驚くだけだったがムツキは笑みも浮かべている
「……ふむ…次会ったら説教…と思っていたが…」
ジロリとアルを見ると肩をはねさせてダラダラと汗を流しつつ焦るアル
「……はぁ、反省しているようだし、今回だけは無しにしておこう。大体の事情は察している。アル、部下の制御はしっかりとする事。良いな?それとも…アルの目指すアウトローはあんな事をするのが当然なのか?」
あれがこの世界でアルが目指すアウトローならば心苦しいが…私はアルを止めなくてはいけない
うっ……と狼狽えたが、すぐに罪悪感を感じているような真面目な表情に戻り、私に頭を下げるアル
「………違うわ。あんなのは…私の目指すアウトローじゃ無かった。その……ごめんなさい…」
良かった。この世界でもアルの善性はそのままだったようだ
「うん、私は謝罪を受け入れよう。アビドスの皆はまぁ…私から謝っていたとは伝えておく。柴大将にもな。それで…アビドス自治区から出ていくのか?」
仕事はもう良いのだろうか
とは言っても、資金も尽きただろうし、あんな事があったのだからもう襲う気も無い…と言った感じだろうか
「そうね。別の依頼を求めてちょっと移動するわ」
その場合はやはりゲヘナ自治区だろうか?
そんな事を考えつつ皆に声を掛ける
「ふむ、なるほど…ではまたな。アルも、皆も。勿論、困った事があったら私を頼ってくれ。シャーレに遊びに来ても良いからな」
「ふふっ、先生とは事業のパートナーとして協業するのも悪く無さそうだし、このドタバタが終わったら連絡させて貰うわ!」
そう言ってにっこり笑うアル。先生として一緒に動くのも面白そうだ。私がストッパーになる事ができるし、連絡を楽しみに待つ事にしよう
私も軽く笑みを浮かべつつ返答する
まぁ仮面で見えてないだろうが
「そうか。そうなった場合は私のできる範囲で尽力しよう」
「む〜アルちゃんとばっか話しててつまんな〜い〜私にも構ってよ〜〜」
アルと会話しているとムツキが私に抱きついてきた
「む、それはすまない。でもムツキ、悪ノリは程々にな?アルやハルカがやり過ぎだと思ったら止めてくれると助かるんだが…」
「くふふっ、怒られちゃった〜でも、それは無理かな〜?」
ニヤニヤしながらムツキはそう言う
こういう所はゲヘナらしいというかなんというか…
「………カヨコ、頑張ってくれ」
「はぁ………」
額に手を当てつつため息をつくカヨコ
アルの良心とカヨコが最後のストッパーだろう
「ハルカもまたな。その…爆破は少し、控えてくれると助かる」
「は、はい…ご…ごご…ごめんなさい……」
正直…最大の不安要素ではあるが、本当に悪い子ではない。アルとカヨコが制御できるのを祈ろう
「それじゃ、私達はもう行くわ。じゃあね、先生!」
「し、失礼します!」
「またね〜〜」
「……じゃ、また」
「あぁ。さっきも言ったが、気を付けてな」
そうして、便利屋68は去っていった
「さて……予想外の遭遇ではあったが、そろそろ良い時間だな。アヤネとセリカと合流して、柴大将のお見舞いに向かうとしよう」
アヤネとセリカに連絡を取りつつ私は病院へと向かった
「こんにちは、大将。お見舞いに来ました」
「大将、大丈夫?」
「お邪魔するぞ、大将。体は大事ないか?」
病院の一室にてベッドに横になっている大将へ私達は声を掛ける
「やぁ、アヤネちゃん、セリカちゃん、それにシャーレの先生まで。ちょっと擦りむいただけだし、大丈夫だよ」
人の良い笑顔を浮かべつつそう返答する大将
………凄いな、この人も
「でも…大将のお店が…」
「あぁ、バイトできなくなっちゃってごめんな、セリカちゃん」
セリカの言葉に申し訳無さそうにそう言う柴大将
…………本当に凄いなこの人は
先生以外に始めて見たぞ、自分よりも他人を優先する大人は……
「そ、そういう問題じゃないわよ……」
確かに、そういう問題ではない。店はもう一度出せば良い…とは簡単に言うが、正直、厳しいものもある。資金面などは特にそうだ
「そもそも、もう店も畳むつもりだったからな。予定がちょっと早くなっただけだ」
おや。そうだったのか?
ギリギリ利益は赤字とまではいかないだろうと考えていたのだが…
それとも別の理由だろうか
「え…お店を……?」
アヤネの疑問に答える形で私の疑問も答えが分かる
「ちょっと前から退去通知を受け取っていてね。その様子だと、君達は知らないみたいだね?」
「私達が柴関ラーメンに退去通知など、あり得ないからな。そうなると………カイザーか。以前の借金の時に土地の所有権等が移っていたのだろう」
「流石シャーレの先生、鋭いね。企業の詳細な名前は覚えてないが…経緯はその通りだよ」
うむ……権利関係は厄介で面倒だから正直得意では無いのだがな…以前なら乗り込んで全員薙ぎ倒して制圧して……で解決できたのだがな……先生として今はそれではいけない。大人のやり方には大人のやり方で返すしか無いのだろう
「そんな…アビドスの自治区なのに…?」
「…先生。先に学校に戻っていてください。私はちょっと確認したい事があるので、別の場所に寄ってから行きます。セリカちゃん、ついてきて」
セリカが悔しそうに呟く
アヤネは何かを確認しに行くようだ
「そうか、気を付けてな、アヤネ、セリカ。私は先に戻るとしよう」
「何処に行くか分からないけど、わ、分かったわ!」
あ、そうだ
病室から出ていこうとドアに手をかけつつ、柴大将の方を振り返る
「柴大将、便利屋68の皆が『ごめんなさい』と言っていた」
「はぁ!?そんな言葉だけで済むと思ってんの!?」
セリカがキレる。実際、やった事は完全に駄目な事だし、セリカの怒りは正当だ
「そうかい。実は、屋台に挑戦しようと思っていてね、もし屋台を出せたらまたラーメンを食べにおいで、と伝えておいてくれ」
…………せ、聖人か……?
正直、先生に引けを取らないレベルだろう
尊敬する大人がまた一人、増えたな
「し……柴大将……」
呆れの混ざったため息をつくセリカ
「言っただろ?ちょっと店を畳むのが早くなっただけさ。傷も浅いし、問題無いよ」
「………そうか、私が責任を持って便利屋の皆に伝えておく。早く良くなる事を祈っている、柴大将」
そう言って私はアビドスへと戻るのだった