静かになった教室。シロコは説明するか悩んでいるようだ
しかし、静寂を破ったのはホシノだった
「……えっとねぇ…実はおじさんがお昼寝してるのがバレちゃってさ〜私の怠け癖なんて今に始まった事じゃないのにねぇ〜少し怒られちゃったよ〜」
「あ…う、うん…」
「にしたって、そんなに怒らなくてもいいのに〜シロコちゃんは真面目だなぁ〜そろそろ皆が集まる時間だし、行こっか〜」
「…………ん…」
そう言ってホシノとシロコが教室から出て行く
何も分からず、か
「………誤魔化されたな。ノノミ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。何か…言いたくないことがあるみたいですね…ふぅ…」
少々落ち込んだ表情のノノミ
「仕方無いですね…誰しも人に言いたくない秘密の一つや二つ持っているものでしょうし…私達も行きましょう。そろそろアヤネちゃんとセリカちゃんも帰って来る頃かと」
そう言って歩き出そうとするノノミの頭を撫でる
「わっ、せ、先生…?」
「信用されていない…だとかそういう事では断じてないだろう。あまり、その…気を落としすぎるな。私もあの二人の事は何か出来る事が無いか気にかけてみるよ」
ううむ…やはり慰め…というか……こういうのはあまり慣れないな…
なんとも言えない感情になっていると、ノノミがふにゃりと笑い感謝を伝えてきた
「ありがとうございます、先生」
「……礼には及ばないとも。さぁ、私達も行こうか」
「はい!」
そうして、対策委員会の教室へと向かった
「「「…………」」」
先に入っていたホシノとシロコ。私達も座るが…
場を沈黙が支配する
うむ………気まずい…凄く……
すると、軽快な足音が聞こえ、セリカが教室へ飛び込んできた
「先輩達、先生!大変!!これ見て!!!」
「アビドス自治区の関係書類を持ってきました!これを……」
アヤネも続いて入ってくるが、2人共今の妙な空気を感じ取ったらしい
「……?」
「な、何よこの空気…」
「取り敢えず今は大丈夫だ。二人共、おかえり。無事で何よりだ」
ホシノとシロコの事も気がかりだが、今はアヤネとセリカが持ってきた情報の方だろう
「あ、ただいま先生…というか、心配性過ぎ!」
「ハハ、攫われた実績持ちなんだから仕方ないだろう。また攫われてしまったとしてもまた助けに行くだけだがな」
「……そ、それより!とんでもない事が分かったの!」
赤面しつつ話を逸らされた
今の状況での冗談は怒らせてしまっただろうか
反省………
「はい、これを見てください!」
アヤネが机に広げる書類を皆で覗き込む
「うへ。これは…地図?」
「あぁ、所有地を示す地図…か」
やはり柴大将の話で分かった事の続きか
「…?これを見なくても、アビドスの土地は全部アビドスのものじゃ…」
ノノミが訝しげにそう呟くが、セリカが否定する
「今まではそうだと思ってたけど、実はそうじゃなかったの!」
「はい…柴関ラーメンを含む殆どの土地が、私達が所有している事になっていませんでした」
「「「……!?」」」
シロコ、ノノミ、ホシノが驚く
3年生であるホシノも知らないとは…巧妙に隠されていたのだろうか…
「今の所有者は…カイザーコンストラクション」
はぁ……厄介な事この上ない
「所有権が渡っていないのはこの本校とその周囲の建物だけ……後はほぼ全てカイザーに所有権があります」
「そんな……どうして…」
ノノミがそう呟くが、その答えは明白だ
「アビドスの生徒会……だろうね」
ホシノもやはり気付いたようだ
以前の生徒会……何を思って、土地をカイザーに…?
「まぁ…私も正直よく知らないんだけどね〜…私が生徒会に入った時にはもう在校生は二桁で、教員も居ない、授業もとっくの昔に途絶えてた」
「学校としての機能はもう既に働いていなかった…と」
「うん、最後の生徒会って言ったって私と生徒会長の2人だけだったし。その生徒会長は無鉄砲で、校内随一のバカで、私も嫌な性格の新入生でさ〜。何もかも目茶苦茶だったよ〜」
やはり……大変な思いをしてきたのだろう
……その生徒会長は今は卒業して…?
…もしかして…………いや…今は、止めておこう
「ほんっとバカみたいに何も知らないままさ〜…」
俯くホシノ。その言葉には陰りが見える
「…」
「ホシノ先輩…」
「ホシノ先輩が責任を感じる事じゃない。昔はどうであれ、生徒会が解散になった後、アビドスに対策委員会ができたのはホシノ先輩のおかげ」
シロコがそう力強く言い切る
続けて言葉を紡ぐシロコ
「ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばっかりだけど大事な瞬間にはいつも絶対に誰よりも前に立ってる。ホシノ先輩は駄目な所もあるけど、尊敬はしてる」
「ど、どうしたのシロコちゃん!?急にそんな青春っぽい台詞を……!おじさんこういう雰囲気ちょっと苦手なんだけど!?」
顔を赤らめて焦るホシノ
真っ直ぐに素直な気持ちを伝えられると照れるのはよく分かる
「や、なんとなく…言っておこうと思って」
「え、えぇ〜…」
落ち込んだ気分も多少は晴れたみたいだ
ナイスだ、シロコ
「話を少し戻そうか。なんで前の生徒会はカイザーに土地を渡したか……」
「…まぁ…借金を返そうとして…ってのが一番あり得るよね〜…」
土地を売って手に入れたお金で借金を返済…
確かにそういう思考に辿り着くか…
「でも、借金を返し切ることは不可能だった…と」
「負の循環ですね……」
「なにそれ、それじゃどうしようもなくない?」
どうしようもない……か
「そういう手口の……罠だったのかもしれないな」
私の言葉に皆が沈黙する
ううむまどろっこしい……これはただ暴力だけで解決できる問題ではないだろう
「かなり長期的な計画なんだろうな…」
「カイザーに良いように弄ばれてたってワケ!?生徒会の奴ら、どれだけ……」
ヒートアップしていくセリカを止める
「セリカ。それ以上は辞めておけ」
「先生…?」
「確かに、騙される方にも非はあるだろう。でも、大前提として悪いのは騙される方ではなく、騙す方だ。絶対に…な」
騙す、騙される…それを…私はよく知っている
程度は違えどそれはきっとセリカもだろう
「……わ、私も…よく分かってる……!けど………悔しい、どうしてただでさえ苦しんでいるアビドスに……」
「セリカちゃん……」
やるせない気持ちは私も同じだ。本当に…どうしたものか
こうしていても進展しない。話の進行を続けよう
「……一先ず、話を纏めよう。私達が探ってきた情報を繋ぎ合わせると…分かる事が一つ。カイザーの狙いは金ではなく土地だ、という事。これに合わせて皆の耳に入れたいのが……ゲヘナの風紀委員長…空崎ヒナからの情報だ。『カイザーはアビドス砂漠で何かを企んでいる』…と」
「アビドス砂漠で……?」
ノノミが怪訝そうな声を出す
「あぁ。目的は全く分からないが…」
再び頭を思考を巡らせようとしたその瞬間、セリカが机を叩きつつ立ち上がった
「……あぁもう!アビドス砂漠はうちの自治区なんだし、行ってみればいいじゃん!何が何だか分からないけど見てみたほうが早いって!」
……ふむ。手っ取り早くて分かりやすいな
私も思考が凝り固まっていたようだ
パチンと指を鳴らしつつ同意を示す
「ナイスアイデアだセリカ」
「ん、そうだね」
シロコも立ち上がった
「うへ〜〜良いこと言うようになったねぇ〜お母さん泣いちゃいそう、ティッシュ頂戴」
「はい☆」
そんな事を言うホシノにティッシュを渡すノノミ
どうやら皆も異論ないようだ
「それじゃあ、準備ができたら向かうとしよう。戦闘になる可能性もある。準備はしっかりとな」
皆の元気の良い返事を聞く
カイザー…何をしているのか、見せてもらおう