シャーレの先生だ、よろしく頼む   作:桜花=サン

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大人の戦い

 

「ぐっ………!!あぁぁぁぁ!!!」

 

暴れ出したのでバックステップで距離を取る

そうして理事が立ち上がった瞬間、横から飛んできた銃弾により再び吹き飛ばされた

 

「あら、申し訳ありませんわ。弾が詰まっていないかと確認したかっただけなのに、偶然、射線に居たもので。そろそろ私も満足致しました、帰るとします」

 

銃弾を放ったのはワカモだったらしい

そんな言葉を吐きつつ、背を向けて帰っていった

 

「ぐぁぁっ…!…クソッ!!!」

 

銃弾に吹き飛ばされ、地に伏せる理事へ走ってきた兵士が近づく

 

「理事、怪我が!」

 

「……一時撤退だ!兵力の再装填に入れ!」

 

兵士の肩を借りつつ腹部を押さえて立ち上がる理事

 

「させると…!」

 

捕らえるために動こうとするシロコ

私も逃がすわけにはいかないと思っていたが、アルが報告してくる

 

「先生!カイザーの兵士が接近中よ!」

 

「……そちらが先か…」

 

業腹だが、此処はそっちを対応せねば

 

「覚えておけ…この代償は高くつくぞ…!」

 

そんな捨て台詞を吐きつつ理事はこの場を去ったのだった

 

「三流悪党の模範的なセリフだねぇ〜」

 

ムツキの言葉に思わず吹き出してしまう

 

「た、確かにそうだな。はぁ…鬱憤も晴れた。久し振りに清々しい気分だ」

 

良いストレス発散になったな

皆の迷いも取れたようだし、目標もはっきりとしている。さて……

 

「……残党を処理しよう。皆、もう一踏ん張りだ」

 

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

そこからは、あっという間に処理は終わり、ようやく戦いが終わった事を実感する

 

「終わり…だな、皆、お疲れ様。便利屋の皆も、助けてくれてありがとう」

 

「ま、まぁ、アイツは私達も気に食わなかったから!丁度良かったってだけだから!」

 

アルはそう言うが、カヨコがやれやれ…といった表情をしているし、ムツキもニヤニヤしているのでそれだけではなかったのだろう

気がつくと、オレンジ色の日光が周囲を照らしていた

 

「……もう日が落ちるか。ホシノの事は私に任せてくれ、一つ…アテがあるからな。皆はゆっくり休むと良い」

 

「……わかりました。先生、よろしくお願いします…!」

 

「ん、わかった」

 

「お願いします、先生…!」

 

「ま、任せるわよ!」

 

皆からそう言われる

この信頼には応えねばな

 

「あぁ。今度こそ…任せてくれ」

 

─────────────────────

 

日は落ち、私を照らすのは街灯などの灯りだけ

未だに蹴りを放った方の足は痛むが、動くのに支障はない

 

「ここか」

 

私はとある建物へ入り、その建物のとある部屋へと足を踏み入れた

 

「お待ちしておりました、月司サラ先生。貴女とは一度、こうして顔を合わせてお話したかったのですよ」

 

「…………」

 

ヒビ割れた真っ黒な顔、目の位置には穴が空いているようで、口の部分は笑みを浮かべているように見える

 

「どうぞ、そこのソファにお座り下さい」

 

真っ黒なスーツに身を包む彼が…ホシノが言っていた黒服で間違い無いのだろう

 

「貴女の事は知っています。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。『シッテムの箱』というオーパーツを所持している、連邦捜査部『シャーレ』の先生。それにその仮面も…オーパーツだと私は推測しています」

 

確かに、奇妙な雰囲気だ

私も今まで出会ったことのない…独特な

 

「貴女を過小評価する者も居るようですが…私達は違います。多少の戦闘力を持っていたのは、予想外でしたが」

 

もう報告が行っているか。これからは油断している者も居なくなる…と。まぁ確かに初見殺しではあるが、知られていたとしても何ら支障も無い

 

「まず、はっきりさせておきましょう。私達は、貴女と敵対するつもりはありません」

 

「ならばアレは悪手だ。私の生徒に手を出した以上私はお前達をもう既に敵と見なしている」

 

敵対するつもりは無いと言われてもその事実は揺るがない

仮面の奥から黒服を睨み付ける

 

「……クックックッ…それは失礼、まだ貴女のスタンスを理解できていなかったようです」

 

「何者なんだ、お前達は」

 

「おっと、自己紹介はまだでしたね。私は貴女と同じ、キヴォトスの外部の者。ですが、貴女とは違った領域の存在です。私達は『ゲマトリア』そして私の事は『黒服』とお呼び下さい」

 

やはり…ゲマトリアか…

 

「……黒服で良いのか?ホシノが通称としてそう呼んでいるだけだと思っていたが」

 

「えぇ、結構気に入っていますので」

 

「そうか」

 

なんともやりにくい。下劣な存在であれば即座に始末してしまおうなどと考えていたが、妙に気を削がれてしまった

 

「…ゲマトリアは、観察者であり、探求者であり、研究者です。貴女と同じ、『不可解な存在』と捉えてもらっても構いません。私達は…貴女と協力を結びたい」

 

「ほう」

 

「もう一度お聞きしますが、ゲマトリアと協力するつもりはありませんか?」

 

「断る」

 

即座にそう言葉を返す

 

「……左様ですか。真理と秘儀を手に入れられるこの提案を断ってまで貴女はキヴォトスで何をするおつもりなのですか?」

 

「そんな提案に興味は無い。私はホシノを返してもらいに来ただけだ」

 

「クックック……貴女の行動に正当性が無い事にお気付きですか、先生?今の貴女に何の権利があって、そんな要求をされているのでしょう?小鳥遊ホシノは既に貴女の生徒ではありません。届け出を確認されていませんか?」

 

どいつもこいつも権利権利権利喧しいな

だが、今回は乗ってやろう

 

「悪いが、まだホシノは私の生徒だ」

 

「……ほう?」

 

退部届を取り出し、黒服へ見せる

 

「対策委員会『顧問』の私が。まだサインをしていないからな」

 

「………」

 

「つまり、まだホシノはアビドスの生徒で、対策委員会の所属で、私の生徒だと言う事に変わりは無い」

 

そう、誰もそれを承認していないのだから

 

「なるほど、貴女が『先生』であり、小鳥遊ホシノが貴女の生徒である以上、『先生』の許可が必要…と」

 

黒服はそう言って考える素振りを見せる

 

「なるほどなるほど…学校の生徒、そして先生。中々に厄介な概念ですね」

 

ソファから立ち上がり、黒服に一歩ずつ近付く

 

「お前達はあの子達を騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用した」

 

「えぇ、仰る通りです。私達は他人の不幸より自分達の利益を優先した。私達は善か悪かと言われればきっと悪でしょう。ですが…ルールの範疇です」

 

「知った事か。お前達が生徒を害したという事実を私は許さない。全てがお前達のせいではない事は理解しているが、アビドスの彼女達の苦しみの一部はお前達の行動の結果だ」

 

黒服が座る机の目の前に辿り着く

 

「持つ者が、持たざるものから搾取する。知識の多い者が、そうでない者から搾取する。大人なら、誰でも知っている…世の中の事実です。特別心を痛め、全ての責任を背負う必要もありません。私達が初めて作った事例でもなければ、私達がそうしなかった所で消えるものではありません」

 

「…………」

 

「ですから、先生。アビドスから手を引いて貰えませんか?小鳥遊ホシノさえ諦めて頂ければ、あの学校については守って差し上げましょう。カイザーPMCについても、私がどうにかします。彼女達はどうにか、学校へ通い続ける事が出来るでしょう。そしてこれは、小鳥遊ホシノが望んでいる事の筈。如何ですか?」

 

「断る」

 

犠牲を受け入れる。そんな事は出来ない

強欲に。私の腕が届くのならば必ず拾い上げる

 

「…………どうして?どうあっても、私達と敵対するつもりですか?例え貴女が『人間』として強かったとしても、貴女は銃弾一発で死に絶える。銃口を向ける兵士が二人居るだけで貴女は殆ど無力なのと変わらない!」

 

「…あぁ、その通りだ。私の戦い方は、私の体は、対多数が相手となると無意味と化すだろう。だが───」

 

だからこその………奥の手だ

私は、"大人のカード"を取り出した

 

「……私には、私の武器がある」

 

「………確かに、それは貴女だけの武器です。ですが、私はそのリスクも薄っすらと、知っています。使えば使う程、削られていく筈。貴女の生が、時間が。そうでしょう?」

 

「………いくらお前達ゲマトリアとはいえ、これについての知識は多くはないようだ」

 

「…ほう?」

 

「これは…お前達の知識にある大人のカードとは……少々異なるモノだ。使った結果も、代償も…お前達の知識と大して変わらないだろうが」

 

私は知らない筈なのに、何故か理解できる。取り出し方、使い方…その代償

そして、『先生』のカードとの…違い

 

「異なるのは『過程』だけ…と」

 

「いざとなれば、私はこのカードを使う事を躊躇う事は無い。生徒達の為ならば、尚更だ」

 

「───何故?貴女には、もっとしなければいけないことがあるでしょう。食事をし、電車に乗り、家賃を払う。そういった無意味でくだらない事をきちんと解決しなければいけないでしょう?是非、そうしてください。あの子達より、もっと大切なことに使ってください。放っておけば良いではありませんか。元々、貴女の与り知るところでは無いのですから」

 

「それは不可能だ。私には出来ない」

 

「何故?何故?何故?何故?何故?」

 

黒服が身を乗り出してくる

 

「理解できません。何故、断るのですか?どうして?先生、それは一体何の為なのですか?」

 

何の為…………か

 

「………彼女達の…生徒達の苦しみに対して、責任を取る大人が今まで、誰も居なかった」

 

「何が言いたいのですか?だから、貴女が責任を取るとでも?貴女はあの子達の保護者でもなければ、家族でもありません。貴女は偶然、アビドスに呼ばれただけの他人です。一体どうして、そんな事をするのです?何故、取る必要のない責任を取ろうとするのですか?」

 

「それが、大人のやるべき事だからだ」

 

それが、先生に教わった事。いいや、それだけじゃない。大人になった私が…知った事だ

受け継いだ言葉じゃない。別の道を辿った後、辿り着いた場所が同じだっただけ

私の、本心だ

 

「………『大人とは責任を負う者』。そう仰りたいのですね。ですが先生。その考えは間違っています」

 

「そうか。だとしても私はその間違いを貫き通す。間違いの中、『先生』として、『生徒』を救えるのなら、それは間違っている途中であろうと紛れもなく正解だ。私の道が間違っていようと、生徒を助けられるのならそれで構わない」

 

「………私は、貴女が理解できません。一つ、質問をさせて下さい。貴女は最初、このキヴォトスの支配者になり得ました。ですが、貴女はそれを即座に手放した。所持したままならば、このキヴォトスにおいて手に入れられないモノは無くなっていたでしょう。───何故?」

 

簡単だ。要らなかったから

あぁでも───

 

「言っても、お前には理解出来ないだろうな」

 

「………良いでしょう。交渉は決裂です。私は貴女の事を気に入っていたのですが…仕方ありませんね。先生、彼女を助けたいですか?」

 

「分かりきった事を聞くんだな」

 

「……彼女は、アビドス砂漠のカイザーPMC基地の中央にある、実験室に居ます。彼女を使い、とある実験をしようとしていました。駄目だった場合、次はあの狼の神を代わりに…と思っていたのですが、どうやら前提から崩れてしまったようですね」

 

私は眼光を鋭くし、黒服を睨む

 

「そんなに睨まないで下さい。場所も教えましたし、精々頑張って生徒を助けると良いでしょう」

 

罠の可能性もあるが……他に手も無い。言っている事は本当のようだし、そこだけは信じようか

 

「では、微力ながら…幸運を祈ります」

 

「…どの口が言っているんだかな」

 

そうして、私は部屋を出た

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