黒服の居る部屋から出て、出入り口へと向かう途中、一人の女性とすれ違った
ベールで顔を隠した……黒髪の女性だ
その白いドレスは、所々、赤く染まっていて…
瞬間、耳に届く風切り音
「…ッ!」
ガギィン、と金属音が鳴り響く
彼女の持つ剣…いや、あれは刀か……?
その振り下ろされた刀を私が隠し持っていたナイフで弾いた音だ
「あら」
私はバックステップで距離を取る
手元のナイフを見ると、ヒビが入り、形も少し歪になっていた
最大限衝撃を逃がしてこれか……!
ナイフを持っていた腕も痺れている
「………何の真似だ?」
「失礼しました、虫が目障りだったので…つい」
……この声は…まさか…いや、そんな事が……?
「此処のシャーレの『先生』は随分と戦い慣れている様ですね。当てが外れました」
思い出したのは、ブラックマーケットにて唐突に体験した、真っ黒な空間に佇む私
…彼女の方は私の事にまだ気付いて居ないのか…?
「……それは残念だったな。それで、どうする?このまま、続けるか?」
正直な話、そうなるとかなり厳しい
さて…どう出るか
壊れかけのナイフを手放し、予備のナイフに持ち替えつつ、拳銃へと手を添える
「いえ、止めておきます。黒服から、このオフィス内では暴れないで下さい、と言われていますし。まぁ、そちらから来るなら話は別ですが?」
「………遠慮させてもらおう」
「そうですか」
それだけ言うと、彼女は背を向け、長い黒髪を靡かせて奥へと進んでいった
私は警戒しつつ出入り口から出るが、特に何もしてくる様子は無く、シャーレまで無事に帰ってくる事が出来た
私は仕事部屋へ到着し、倒れ込むように椅子へ座る
「……まさか…この世界に『錠前サオリ』は3人…?なんだそれは……」
いや、まだアリウスで見かけた私が彼女だった…という可能性はあるか……
「珍妙な奇跡もあるものだな………」
はぁ、とため息をつきつつ、アビドスの皆に連絡を取る。すぐにモモトークの通話機能を使い、対策委員会オンライン会議が始まった
「ふむ…カメラはどうやって起動するんだこれは」
先生になる以前も、なった後も通話機能などあまり使った事がない為、少々手間取ってしまう
『あ、えっとですね…右下のボタンを…あ、そう、それです。それを押せば…』
右下?あぁ、これか
そこをタップすると、なんとか出来たようだ
アヤネ、セリカ、シロコ、ノノミが見える
「おお、皆の顔が見える。問題は無いか?」
『ん、大丈夫』
「すまないアヤネ、こういうのには慣れていなくてな……助かった」
『いえいえ、このぐらいは。それで、先生。何か…分かったんですね?』
アヤネの言葉に頷く
「あぁ。ホシノが居る可能性が高い場所を見つけた」
『『『『!!!』』』』
「ホシノを助けに行こう!」
『ん、行こう!』
「助けて、対策委員会に…アビドスに連れ戻す!」
『はい!その通りです!』
「その後は、お説教だな」
『うんうん!自分で言ってた事を守れなかったんですから、おしおきが必要ですね!』
「その通りだ。「おかえり」と言って「ただいま」と言わせよう。自分の居場所に帰ってくるんだから、当然だろう?」
『うん…ってえ!?なにそれ!恥ずかしいんだけど!?』
頷きかけるが、顔を真っ赤にしてセリカがそう叫ぶ
『ん、私はやる』
『私もです☆』
『わ、私も…ちょっと恥ずかしいですけど…』
『か、勝手にやって!』
むぅ、セリカはしないのか…
「それはそれとして、救出の為の準備が必要だな」
『ん…私達だけじゃ勝てない』
そう、敵の本陣に突撃する事になるのだが…そうなるとホシノも居ないアビドス4人では戦力が足りない
『便利屋は?』
「あぁ、彼女達ならきっと手伝ってくれる」
『でも…まだもう少し、協力者が欲しいですね…』
アヤネの言葉に私は少し考え込む
ふむ………
「……ここも、私に任せて欲しい。少し考えがある」
『先生?…分かりました。では、お願いします』
『ん、なんでもかんでも任せてごめん』
シロコがそんな事を言うので私はすぐに返答する
「気にすることは無い。言っただろう?私は生徒の為に動く。それが私の仕事だし、私も大切な生徒を一刻も早く取り返したいからな」
『……ん』
ううむ…もどかしい。実際に会って話していれば頭を撫でる事ができただろうに…
「それでは、今日はこの辺りで。皆、しっかり休むんだぞ?」
『『『『はーい!』』』』
そうして、通話を切る
そのままモモトークのメール機能を使う画面へと切り替え、二人の生徒に連絡を送った
「ふぅ、明日は早起きしなくてはな…」
今日やるべき事を終え、息を吐き、身体の力を抜くと、瞼が落ちてくる
…ベッドは………良いか…今日はもうこのまま…
そうして椅子に座ったまま私は眠りにつき…
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翌日。私が早朝から足を運んだのは…ゲヘナ学園
「うぐっ…身体中がバキバキ言う…」
『椅子で寝るからですよ、先生!ちゃんとベッドで寝てくださいといつも言ってるじゃないですか!先生は寝る場所に頓着が無さ過ぎます!』
「ぐうの音も出ないな…」
冷静なアロナのツッコミに返答しつつ校内を歩く
気をつけようとはしているんだがな…睡眠は取り敢えず眠れれば良い…という考えが根底で抜け切って居ないらしく、寝ようとすると身体も動かすのが面倒になってくるからな…
そんな言い訳を言いつつ…
「さて……風紀委員は…」
そう辺りを見渡していると…
「ねぇねぇ!あなたって噂のシャーレの先生!?」
突然、駆け寄ってきた生徒に声を掛けられた
……胸元をもう少し隠した方が良いと思うが…
そんな事を考えつつも返答する
「あ、あぁ、そうだ。シャーレの先生、月司サラだ。よろしく頼む」
「サラ先生ね!おっけ〜!よろしく!私はキララ!ゲヘナ学園の2年生!」
私の手を取り、ブンブンと握手するキララ
ず、随分とコミュニケーション能力が高い…
「ごめんね先生、キララちゃんちょっと距離感バグってるからさ」
そんなキララの後ろからもう一人生徒が話しかけてきた
「あの子はエリカちゃん!私の友達なの!」
「よろしく、先生」
軽く手を上げつつそう挨拶するエリカ
「キララとエリカか。此方こそ、よろしく頼む」
「先生って見たことない珍しい仮面をずっとつけてるって噂だったけど本当だったんだ!写真撮っても良い!?」
「構わないぞ、好きに撮ってくれ」
「やったー!じゃあエリカちゃんもこっち来て!」
「はいはい…」
「いえーい☆」
器用に私、エリカ、キララを写してパシャ、とスマホで写真を撮るキララ
直立不動というのも面白くないだろうし取り敢えずピースしておいた
「良いね良いね!先生に会えた!って投稿しちゃお!そういえば先生、何か探してたみたいだけどどうしたの?」
キララにそう聞かれたので返答する
「あぁ、風紀委員を探していてな…少々用事があるんだ」
「あ、そうだったんだ!ごめん先生、邪魔しちゃった?!」
「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
ふむ…ゲヘナらしく自由でありつつも他人をしっかりと思いやれる良い子達だな
ゲヘナ学園とはまだあまり関わりがない為確認していなかったが、名簿をしっかりと暗記しなくては
数が少ないアビドスは例外として、まだトリニティの半分程度の生徒しか名前を覚えられていないからな…
「あ、そうだ!さっきあっちに風紀委員会の子達が居たの見たよ!あっちに行けば会えるかも!」
「本当か、ありがとう。ではまたな、キララ、エリカ。いつか暇な時にでもシャーレに遊びに来てくれ」
「うん、分かった!またね〜!」
「またね、先生」
そんな二人の生徒達に手を振りつつ私はキララが指を差した方向へ向かった