シャーレの先生だ、よろしく頼む   作:桜花=サン

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トリニティ アリウス エデン条約編 全章
【アリウス】


 

「まさか、此処の『先生』が戦闘能力を所持しているとは思いませんでした。仕留めたつもりだったのですが…」

 

私………虚はそう呟く

 

「なるほど、先程の金属音はそういう事でしたか」

 

ソファに座り、黒いスーツの男性、黒服と言葉を交わす

 

「それで、貴方はどうでしたか?黒服。あの者と話をした感想は」

 

「えぇ、彼女は我々には理解出来ない存在です。根本から……違い過ぎる」

 

「大体、私の世界と同じですね。妙な仮面をつけ、性別さえ違う事を除くのならば」

 

私の知る『先生』は男性だった。無論、仮面などつけていないし、戦闘能力も皆無だ

 

「『先生』になるとあの様な考え方になるのか…あの様な考え方を持つからこそ、『先生』なのか…」

 

考え込む黒服に疑問を投げかける

 

「月司サラの過去については?」

 

「ええ、調べてありますが…普通に生まれ、普通に育ち、普通に学んだだけ……優秀な点も特に無く、かと言って欠点と言える欠点は持ち合わせていない……特筆すべき事は何も無い女性でした」

 

そんな黒服の言葉に驚き、目を見開く

 

「……あれが?ナイフの扱い、殺気に対する反応速度…普通に育ってきた一般人のそれではありません」

 

「えぇ、だからこそ、おかしいのです。突然、彼女は『先生』としてこのキヴォトスに訪れました。そうして、生徒を愛し、守護し、支える…今の『月司サラ先生』として、活動しています」

 

「貴方達もそうですが、やはり『先生』も不可解な存在なのですね」

 

どうせ、敵対する事になるだろう

そう考え、ため息をつく

 

「それは貴女にも言えますよ、虚。別世界から渡ってきた来訪者。ゲマトリアでありながら…」

 

黒服は一拍置き、再び口を開く

 

「アリウス分校3年生、アリウス平定から今現在も引き続き、アリウスの生徒会長なのですから」

 

私の頭上には、輝きを放つヘイローが浮かんでいた

光を放つ星々のような……または、痛々しい傷跡のような形状をしたヘイローが青色、水色、青みがかった白色、赤色…様々な色で光っている

沢山の傷跡……それは消えたり、現れたりをずっと繰り返す

 

「此方の世界に来たあの日から、私の体の成長は今も停止し続けています」

 

髪も、1ミリも伸びる事はなかった

 

「爪も、髪も、必要以上に伸びようとしません。此処に来た時の私を再現するまでは、再生するようですが」

 

腰に所持する刀を抜き、腕に斬り傷をつける

すると、瞬きの合間に傷は消えた

まるで、何かが私を無理矢理引き戻しているようで非常に気分が悪くなる

 

「生徒でありながら、別の世界からやってきた不可解な存在……」

 

そう、それが今の『私』

 

「…エデン条約締結までは近い。………ごほっ…私の……タイムリミットも、ですが」

 

「虚、貴女は…」

 

「契約は、守ってもらいますよ。奴が現れたら、すぐに私を殺しなさい。取り返しのつかない事態になる前に」

 

私は立ち上がり、部屋を去る

声が聞こえる。寄越せ、殺してやる、お前なんて

ずっと、ずっと、ずっと、私の内で騒ぎ立てる

私の内側から、私が別の『何か』に作り変えられていく感覚。そして、それに対抗するように、元の私に無理矢理引き戻し、再生させる私の体

傷つけ、破壊し、新しく作り出し…新しく出来たそれを破壊し、元に戻す。そして戻したそれを再び傷つけ───そんな無限ループ

常時内蔵をかき回されるような感覚ももう慣れてしまったが、時々再生が追いついていないらしく、その時は耐え難い痛みに襲われる

 

「がっ…ぁ…あ…ぐぁぁッ!!…はぁ…っ…いつまでもいつまでも喧しいですよ……もう少し、黙っていなさい……!」

 

時期尚早かもしれない…しかし、流石に私が私でいられる時に行わなければ…

 

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas───アリウスの存在を……知らしめるのです…」

 

赤く染まりかけた腕を追い付いた再生が元の姿に巻き戻すのだった

 

─────────────────────

 

「こいつッ!」

 

「ぐぁっ!」

 

白い髪の少女が殴り飛ばされた

殴り飛ばした上官は少女に銃を向けていた

そんな光景を見た私は、駆け出して間に入る

 

「やめろ!ヘイローを壊すつもりなのか!?」

 

「退け!第8分隊長!」

 

そう怒鳴られる。怖い。体が震えた

それでも……口を開く

 

「わ、私が指導する!姫も、ミサキも、ヒヨリも、全員成績が良いだろう!?こいつも…」

 

「退けと言っている!そんな事じゃこいつは…」

 

「騒がしいですね」

 

コツ、コツ、コツと歩いてきたのは…ベールで顔を隠し、少し赤色が付着した白いドレスの…あの…方は…

 

「生徒会長…!?」

 

そう、滅多に姿を見せないのに、絶対的な存在とだけ知れ渡っているアリウスの生徒会長…

そんな彼女は、立ち上がろうとしている少女に近寄り、話しかけた

 

「……何故、足掻くのですか?全ては、虚しいものなのに」

 

「……それでも、抗う事をやめる理由にはならないから」

 

「その先に待つのが、ただの一人だけ残される絶望の未来だとしても?」

 

「うん、私は…抗い続ける」

 

数秒間、少女と見つめ合うと、彼女は背を向け、この場を去りながら告げた

 

「好きにしなさい。そこの、此方へ」

 

上官の事を呼び、従った上官を引き連れて歩いて行く

 

「第8分隊長」

 

「は、はい」

 

突然呼ばれ、私は肩を強張らせる

 

「命令です、そこの少女を貴方の分隊に加えなさい。異論は認めませんので。では」

 

拍子抜けする命令に困惑しながら、彼女の背を見送ったのだった

 

次の日から、アリウスは少し変わったような気がする

上官達は皆怯えていたし、今まで毎日のように受けていた暴力はそこそこ減った

完全には、無くならなかったが

そして、白い髪の彼女…アズサを殴った上官は、その日を境に姿を消していた

学ぶ事も少し変わった。兵器、銃器、体の使い方、人殺しの方法はそのままだが、トリニティについては、今までと同じようにただの憎い存在として教えられる事は無くなった

今まで通り、憎い存在と考える者も居るが、元の場所はこんな所だったのか、ぐらいに考える者も増えていった

そして日々は過ぎ、トリニティのティーパーティの一人がアリウスへ、和解したい…とやってきたのだ

これが成功するならば、私達は……

希望を抱いた者は多く居た

 

……そんな日が来る事は無いと言うのに、私はそのような事を考えていたんだ

 

「百合園セイアが殺された!」

 

「一部の過激派の仕業だ…!」

 

「スクワッドの一人が巻き添えに…」

 

アズサは重症なようで、トリニティの病院に搬送されたらしい

そしてこれにより、アリウスは危険だと判断される事になっただろう

和解なんて、もう不可能だ

どうして、ティーパーティ…聖園ミカは同じティーパーティの一人に襲撃なんて馬鹿な真似を?どうして、アズサが巻き込まれているんだ?どうして…神は私に希望を掴ませてくれないんだ

………それでも、と足掻いたからか?

これから、もしアリウス自治区が見つかれば、トリニティからの報復も来るかもしれない。個々の差は歴然でも、数が違い過ぎる

しかも、聖園ミカは私達の居場所を知っている。いつ来るか、分かったものではない

少ない食料を取り合い、殺しの方法だけ学び、暴力は受けつつ、日々を必死に生きる

そんな生き方が、私達に定められた宿命なのか

足掻かなければ、幸福を求めなければ…

一度掴みかけたものが手をすり抜ける絶望を、感じずに済んだのだろうか

私は…皆と…

あぁ、そうだ………

 

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas…」

 

全ては、無意味だったんだ

 

「結局、こうなるんですね。……エデン条約襲撃……真実を知らしめる時は近い…抗ったって、その先に待つのは幸福とは限らない。それどころか、絶望が増していくだけ」

 

生徒会長はそう言った

 

「はい、全て……理解しました」

 

この人には、逆らえない。だって、逆らったら…きっと、あの上官のようになってしまうだろうから

他の生徒も、せめて今を維持しようと生徒会長に従う

彼女の命令で、私達はエデン条約を襲撃する

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