声が聞こえる
「───生…先生…話終わったけど…寝てる?」
コハルが私の顔を覗き込んでいた
「……ん…あ、あぁ…すまない。少々、うたた寝していたようだ。教材を取って、戻ろうか」
「うん」
特になんの不調もなさそうだし、叱られた訳でもないようだ。それどころか、少々嬉しそうという事は、恐らくハスミから激励でも受けたのだろうな
「良かったな、コハル」
「せ、先生、聞いてたの?」
「いや?嬉しそうだなと思ってな」
「う、うん!私、頑張らなきゃ!」
恐らく自分で言っていたスパイだのなんだのを完全に忘れて嬉しげにそう言うコハル
うん、純粋で癒されるな
こんな子に慕われるのだからハスミがコハルを気に入るのも当然だ
余程嬉しかったのかハスミの凄さやツルギの凄さ、正義実現委員会の事をいっぱい喋るコハルと色々話しながら私達は教材を取り、合宿場へ帰る
合宿場につく頃には、既に夜だった
コハルが部屋に入り、私も隣の部屋に入る
ハナコの謝罪、コハルがそれを受け入れる声がうっすらと聞こえて安心だな
その後はまた皆で仲良くワイワイ騒いでいた
うん、良い事だ
「……さて…」
教材を整理しつつ、私はエデン条約について考える
混ざり合った方の虚は…容赦なく、私を殺しに来るだろう。彼女の得た力、再生…それに、私は虚を助けたい。あの私だって、生徒なんだ。ならば先生として諦める事は出来ない
あぁでもない、こうでもない…と思案していると数時間経っており、隣の部屋の皆も既に眠ってしまったようだ
しかし、コンコン、とノックの音
「鍵は開いてるから、入ってきて良いぞ」
「し、失礼します…」
ドアを開けて入ってきたのは、ヒフミだった
椅子に座るように促し、話を聞く
「手伝いが必要か?」
「いえ…その、今回は…ハナコちゃんの事でして」
「ふむ?ハナコか」
実力を隠している…のはほぼ確定な彼女
何か分かったのだろうか
「模範解答を探している最中に何故か束になっている問題用紙を見つけたんです。珍しい事だからか、保管されていたようで…昨年の、1年生から3年生の試験、全て完璧に解答した人が、居たみたいなんです」
「……それが、ハナコ…と」
「はい。盗み見る形になってしまって、申し訳ないのですが…ハナコちゃんは、去年の段階で全ての問題を解ける筈…今は、わざと試験に落ちているとしか思えません…」
実力を隠しているとは思っていたが、去年…という事は1年生の段階で1年、2年、3年の問題を全て満点か。とんでもないな……
「…なるほどな。分かった、教えてくれてありがとう。それと、模範解答と過去問のデータをくれ、模擬試験は今日は私が作るから、ヒフミはゆっくり寝るといい」
「い、いえ、私は…」
遠慮しようとするヒフミに言葉を続ける
「大丈夫だ、私に任せておけ。本来は、私の仕事なんだ。生徒に働かせて自分は動かない先生…だなんて私はなる気は無いのでな。明日に向けて、しっかり休め」
「…分かりました、先生。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げられた
「先生として当然だ、おやすみ、ヒフミ」
「はい、おやすみなさい、先生!」
……皆、良い子達だ。それが分からないナギサでは無いだろう。きっと、今は少々焦っているし、錯乱しているんだろうな…
大丈夫だ、私が…きっと救ってみせる
そう決意を新たに、私は模擬試験の作成に入った
────────────────────
「……おや」
翌朝、スマホを起動すると連絡が入っていた
「ミカが?」
どうやらミカが来るらしい。午前中は席を外す事になるかもしれないな、今のうちに教室の準備は終わらせて模擬試験と教材、少々席を外すから、ヒフミの指示に従うようにというメモを教卓に置いておく
何故か指定された合流場所…プールサイドへ向かう
「わぁっ、水が入ってる〜あはっ、ここに水が入ってるのなんて久し振りに見たな〜もしかしてこれから泳ぐの?皆でプールパーティー?」
「残念だが、もう泳いで遊んだ後だ。あとは、無事に試験を乗り越えられたら、だな。おはよう、ミカ」
「おはよ、先生☆」
ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべるミカがそう挨拶を返してきた
「それで、なんでここに来たんだ?」
「先生が上手くやってるかなって思って!」
「興味本位か、なるほど」
まぁミカだしな、そういう事もあるだろう
「…先生は、あんまり私の事警戒しないんだね、ナギちゃんにしてやられたっていうのにさ」
「…まぁな、アレに関しては、私の認識が甘かったのが問題だ。シャーレの権限を使わないから、と理解する事を怠ってしまった。私に非がある。それに、ナギサはナギサ、ミカはミカだからな。特に警戒する理由も無い」
…というか、露骨に警戒してしまうと私が真の裏切り者を知っている…とバレる可能性も無くはない
「……わーお、先生、よく抱え込みすぎって言われない?」
「言われ…る事も…あったな……」
というか前の世界でミカによく言われた
「こほん、それで、本題があるんだろう?前置きはこの辺りで、話してくれないか?」
「…先生には全部お見通しって事か〜…うん。じゃあ、本題に入るね。先生、ナギちゃんに取引を持ちかけられたでしょう?」
「あぁ、持ちかけられたな」
ミカの質問に頷く
秘密の事ではあるんだろうが…この様子じゃ普通に知っていそうだしわざわざ否定しても仕方無い
「なんで疑われているのか、とかの情報は?ただ、【探して】ってだけ言われたの?」
「そうだな」
これに関しても頷く
何故か、は聞いていなかった筈だ
「…そっかー、もう、何も言わずに先生にこんな重荷を背負わせるだなんて…」
ため息をつくミカ
うん?あ、少し勘違いしているのか
「すまない、話し方が悪かったな、私はその提案は受けていない。私は私のやり方でやらせて貰っているからな」
「へぇ?それは、自分の生徒達を疑いたくないから?」
鋭い質問がミカから投げかけられるが、私は冷静に首を横に振り、話す
「いや、私の役割では無いからだ。私の役割は生徒を導き、助ける事。切り捨てる事では無いんだ。例え、その生徒が悪だったとしても…な」
そう、私は皆を、余すことなく全ての生徒達を救いたいのだから