月が昇る深夜、ハナコとヒフミ、私は話す
「はい、でも、それは先生とヒフミちゃんもですよ?確かに試験は大切ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」
「ハナコちゃん、それは…」
ヒフミが私を見てくる
ハナコには…伝えるべきか
「………普通だったら、そうだ。でも、今回は違う。あと2回、試験に落ちてしまえば…ヒフミ、ハナコ、アズサ、コハル。全員退学。トリニティから…出ていかなくてはならないんだ」
「た、退学……?そんな…そんな事、校則的に成り立ちません。退学には色々と必要な手続きが…」
流石のハナコも動揺を見せる
「……これに関しては、私のミスでもある。すまない。全て、話そうか」
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そうして、私はハナコへ裏の事情について説明した
「そういう…事でしたか。おかしな仕組みですが…なるほど、シャーレの超法規的権限が…」
「申し訳ない、私の見通しが甘かった。私が持つ先生としての権限…私が使わないからと知る事を怠るべきではなかった」
握りしめる拳に力が入る
過去を嘆いていたってしょうがないのだがな…
「…それでも先生は、そうはさせまいと私達に全力で協力して下さっています。それに、先生が権限を乱用しない、良い人だということもわかりましたから。自分を責めすぎないで下さい」
「…ありがとう、ハナコ。皆、絶対に退学にはさせない。これからも尽力しよう」
ハナコの励ましに感謝しつつ、頷いた
「…そういえば…ハナコちゃん、本当は成績良いんですよね…?模擬試験の為に過去の答案を集めている時に、見つけてしまって…」
「…ごめんなさい、知らなかったんです…失敗したら全員退学だなんて………いえ、知らなかったから…で済ませられる事ではありませんね…先生にも、アズサちゃんにも、コハルちゃんにも、ヒフミちゃんにも、申し訳ない事をしました……ごめんなさい、先生。ごめんなさい、ヒフミちゃん」
そう言って頭を下げるハナコ
「あ、え、えっと…いえ…私は良いですけど…」
「謝罪は大丈夫だ。どうして、わざとあの点数を取っていたんだ…?」
一番気になった事を聞いてみる
「……ごめんなさい、言えません。私の、すごく個人的な理由なので…ですが、それで皆さんが被害を受けるのは望む所ではありません。ですので、今後の試験は皆さんが退学にならないよう、頑張りますので安心してください」
良かった、これで後はコハルとアズサの点数アップへ注力できる
だが、ハナコの悩みは…何も改善できていないな
「………そうか。ありがとう、ハナコ」
「…いえ、先生に感謝していただくような事では……」
申し訳無さそうに俯くハナコへ言葉を掛ける
「もし、何か辛くなって、私に相談しても良いと思ってくれたのなら…いつでも来てくれ。…一人で抱え込むのは苦しいからな。私にできる事ならなんでもしよう」
「…先生、今なんでもと…♡」
「お手柔らかにな」
「えっ」
「!?」
顔が真っ赤になるハナコとヒフミ
ヒフミはともかくハナコは押されると弱いタイプか?
「冗談だ。ハナコはそういう事しないだろう」
軽く笑ってそう流す
「…そのうち誰かに襲われても知りませんよ…」
ため息をつきつつそう言うハナコ
「……先生って女たらしってやつですか…?」
そんな事を言ってくるヒフミ
「いや普通に先生として職務を全うしてるだけだが…」
冷静に言葉を返す私
うん、罪悪感に包まれた空気は消えていつもの空気に戻ってきたな
重々しいと疲れてしまう
仕切り直しという事で私はハナコに聞く
「それでハナコ、まだ何か気になる事や聞きたいことはあるか?」
ハナコは真面目な顔に戻って
「そう、ですね……この事を知っているのは、ヒフミちゃんと先生だけだったんですよね?」
「あぁ、そうだな」
「他の皆はまだ知ってませんね…」
「なるほど…となると、アズサちゃんの不安は試験に起因する事ではない…と。まだ私が知らない事がありそうですね。そしてこの補習授業部……ミカさん、は無理でしょうし、こんな事を企むとなると…ナギサさん…ですかね…ふむ……エデン条約の前なのに…いえ、だからこそ……?」
目を瞑って思案し、どうやら結論に至ったようだ
「………なるほど、この補習授業部はエデン条約を邪魔しようとしている疑惑がある容疑者達の集い、という所ですか」
「え、えぇっ!?」
「……驚いた、まさかそこまで理解するとは…」
ヒフミも驚いているし、私も驚愕を隠しきれない
頭が良いのは分かっていたが…凄いな
「ナギサさんらしいと言いますか、相変わらず狡猾な猫ちゃんですねぇ」
ね、猫扱い…
「どうせなら纏めて処理してしまったほうが効率的といったロジックでしょうか…まるで私達洗濯物みたいな扱いですね」
洗濯物より酷い言葉を聞いた気がするが…
あれに関してはちょっとお説教しないとな
「成績の悪い生徒達を助ける、という名目で協力してくれないか…等と持ち掛けられれば、先生が断る理由がありませんから。先生の生徒達への信頼を、ナギサさんは利用した」
目を細めるハナコ
私の事で怒ってくれているのか
「…それでも、私はこれからも皆を…生徒達を信じる。ナギサだって、やりたくてこんな事をする生徒には見えなかった。補習授業部を合格させて、ナギサの事も助けないと」
「……先生…」
「勿論、ハナコもな。今は話せなくても良い。いつか…私に頼りたくなったのならいつでも頼ってくれ」
「…はいっ」
にっこり笑って頷くハナコ
「わ、私も…ハナコちゃんが困っているのなら…頼ってくださいね!平凡な私じゃ何もできないかもしれないけど…友達が悲しんだり、苦しんだりしてる所は見たくありません!」
「ヒフミちゃんも…ありがとうございます…」
……ハナコが欲しかったものは、能力だけを見ない友人に、ただただ普通の…青春の時間…だったりするのかもしれないな
悩みに関しては、本人の口から聞ける日を待とう
「そろそろお開きにしようか。明日の為にしっかり寝ておけ」
「はい、そうですね」
「分かりました」
コクリと頷き、ドアを開けて出ていく二人を見送る
「それでは先生、ありがとうございま…あれ?」
「ふふ♡それではまた、夜の密会を楽しみに…あら?」
様子がおかしいので私も行ってみると…
「?どうしたんだ二人共……って…あっ」
「……!?」
ドアの前を通りがかったコハルと鉢合わせていた
「さ、三人……!?バカ!変態!!淫乱族!!!」
「淫乱族!?」
誤解を解くのに数十分かかった