本校へと向かう道中
地面を踏みしめて進む足音が一つ、話し声は二つ
「あ、アズサ?その、ありがとう。も、もう大丈夫だから…そろそろ歩けそうだし…」
「先生は無理しがちの癖して一人で抱え込むタイプの人間だろう。あと少しはこのままだ」
そう無慈悲な宣告をするアズサ
私はアズサに抱えられたまま本校へと向かっていた
「いや…さ、流石にこのままは…そろそろ生徒に出くわしてもおかしくない距離だぞ…」
「…?なんの問題がある?」
「色々…」
先生としての威厳とか…自分より小さな子に運ばれてるのはちょっと流石に…
アビドス等と違って人目が多いのもつらい
「恨むなら突然倒れた自分を恨むべきだ。……その…凄く心配した…から…」
「そ…れは……ぐ…すまない…」
ぐうの音も出ない
なんだかしんみりとした空気になってしまったので私から話題を振る
「アズサ、教室で言っていた話したい事…とはなんだ?何か悩みでもあるのか?」
「…悩み…と、言えば悩みだろうか……先生。先に言っておくけど、私はこれから先生に質問をする。今までの生活で、先生の事はよく知った。だから、答えられないのなら答えなくても良い。私は先生を信用している…という事は覚えておいて欲しい」
「………あぁ」
アズサは、一体何に気が付いたんだろうか
私の返事を聞き、アズサは言葉を放つ
「先生、あなたは…アリウスの卒業生?」
…なるほど、そう来たか…
どう答えるべきなのだろう。卒業生…か…アリウスから出たのはそう…なのだが、正確には中退…となっている
私が迷っていると、アズサが再び話し始める
「先生だけ話す…というのも不公平だし、私も秘密を教える。私の予想が外れていても、先生ならきっと大丈夫だと思っているから。私は…もう分かっていると思うけど、元、アリウスの生徒で…元、スパイだ」
あの夜の事を思い出す
「元……か」
「…うん。見ていたし、聞いていたでしょ?私はもう、【トリニティ】だから」
そう悲しげに微笑を浮かべるアズサは、最後の言葉を残す時のこの世界の私にそっくりだった
「…話してくれてありがとう、アズサ。……私がアリウスの卒業生か…だったな。…私は、卒業生ではない。だが…アリウス出身だ。中退…だな。紆余曲折あって先生となり、私はヘイローを失っている」
アズサがあぁ言ってくれたんだ、できるだけ、正直に話そう。正体については…まだ言えないが…
「…なるほど……もう一つ、質問」
「あぁ」
「先生は【錠前サオリ】───」
アズサが口に出した言葉に心臓が跳ね、冷や汗が出てくる
まさか、そこまで気付いて───
「のお母さんか?」
……あれ?
動揺しつつも咄嗟に否定する
「いや…違うが…」
流石にそこまでは年を取ってないし…
恋愛も正直よく分かっていないしな…
「む、違ったか……じゃあ…お姉さんとか?」
「それも違うな…」
「こっちは見当違いだったか……髪も、匂いも、声も雰囲気も…私の知り合いとよく似てたから血縁者だと思っていたんだけど…」
むむむ、と唸るアズサ
に、匂い…?だ、大丈夫だろうか…ちゃんと清潔にしているし、臭くはない…筈。多分…!
アリウスに居た頃も水浴びはしっかりしていたし…まれに入れるお風呂でもちゃんと身体は洗ったから…大丈夫……だよな?
頼むぞ、この世界の私…!
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冷たい水を拭き取っていると…
「くしゅん」
「(ススっ…スー)」
「いや、大丈夫だ。体も熱くないし、風邪ではないから安心しろ、姫」
風邪だったとしてもその程度なら任務に支障はない
それにしても…今日もアリウスは酷く冷たいな
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「…なるほど、答えてくれてありがとう、先生」
聞きたいことは聞き終わったのか、すっきりした表情でそう言うアズサ
「…もういいのか?」
予想よりあっさりと終わった質問タイム
「勿論、まだ気になることは沢山ある。その仮面の事とか。でも、先生もまだ話せない秘密があるのだろう。あまり根掘り葉掘り聞いてもしょうがないから」
「そうか…」
妙な空気が流れつつ、運ばれる私、進んでいくアズサ
……そういえば私は今運ばれているんだった
「アズサ?そろそろもう本当に大丈夫だから…」
もう本校が見えてきてるんだが!
前方に人影もちらほらと見える
早く降ろして………
「………」
「アズサ???」
無言を貫くアズサの顔を見上げると、一見無表情に見える。しかし、ほんのちょっとだけ口角が上がっているのが分かった
さては楽しんでるな!?
「先生、時間も押してきてるし、急いだ方が良いよね?」
「ちょっ、アズサ!?」
「しっかり掴まってて!」
ぐっ、と足に力を入れ、走り出すアズサ
「うぉわぁ!ちょっ、降ろし…力が強い…!!」
「暴れないで先生!」
他の取材に来ていたクロノススクールの生徒に目撃されたその姿は翌日、『シャーレの先生、生徒に運ばれる』という見出しで報道され先生は頭を抱える事となった