「……お待ちしておりました、先生」
椅子に座ったままナギサがそう話し掛けてきた
「2分ほど遅れてしまった、すまない」
結局校舎に入る直前まで抱えられたまま来てしまった。疲れたな…色々と……
「いえ、気にしておりませんので。それで、あれからお変わりはありませんか?合宿の方は如何でしょう、何か困ったことはありませんでしたか?」
「…結論から言おう。ナギサが思うトリニティの裏切り者は、補習授業部には居ない」
普通なら、補習授業部"には"の部分に気がつくだろう。だが、今のナギサは……
「………そんな、事は…あ、あり得ません。先生、それはあなたが見落としているだけで…!」
やはり…補習授業部以外に裏切り者が居るとは考えられなくなってしまっている
視野も思考も狭まっているし、焦っている
それ程…追い詰められているのだろう
「………ナギサ。君は今、人を信じられなくなっている。疑心暗鬼は病だ、自分の信じたい事しか見れなくなり、その他の事は全て間違いだと切って捨てる。…ナギサ、私を信じて…くれないか?」
真っ直ぐ、言葉をナギサへ投げ掛ける
「そ……れは…っ……そんな…事は……」
言い淀み、ナギサは……首を横に振った
「…出来…ません……私…は……っ…」
第三者として介入させた私ですら、信用できなくなっている。計画も、理由も全て話したというのに
支離滅裂な言動をしているのは分かっていても…それでも、ナギサは人を信じる事が出来なくなっている
「…そうか、分かった。よく聞いてくれ、ナギサ。私は、生徒の味方だ。補習授業部は絶対に合格させるし、きっと、ナギサも疑心暗鬼の檻から助け出してみせる。何があっても、私はナギサを…生徒達を信じているからな」
「っ…」
これ以上…ナギサは話せそうにない…か…
私は部屋を出る
きっとナギサは…試験を妨害してくる
どんな手を…使ってでも
これは、私がどんな言葉を投げ掛けていても変えられないのだろう
けど、ヒフミ達なら絶対に乗り越えられる筈だ
第二次特別学力試験は…どうなる事やら……
予想より遥かに手早く終わった面会
私は皆の様子を確認する為と、私がちゃんと無事だということを伝える為に合宿場へと帰った
モモトークに皆からの心配のメールが数件届いている。私のせいで勉強に身が入らなかったらダメだからな…
まだまだ、私は弱かったようだ。反省…しなくてはな
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第二次特別学力試験前の最後の授業が終わった
皆の前に立ち、ヒフミが話す
「皆さん、お疲れ様でした!明日はついに第二次特別学力試験です…!この1週間で、私達は無事合格できる実力を身に着けた筈です!」
「うん」
「はい♡」
「そうねっ!」
補習授業部の部長も、様になってきたな
皆もやる気満々だ
「明日は頑張りましょう…!無事に全員合格して、皆で笑って、お別れできるように!」
…そうだ、補習授業部は、皆が合格できれば解散だ
「…この試験が終われば、もうお別れか…」
アズサがそう呟く
「何も永劫の別れという訳では無い、アズサ。…同じトリニティに皆居るさ」
「…そう、だね」
恐らく、この世界のアズサは本当にトリニティとアリウスの架け橋として送られている
セイアの件は、暴走したアリウスの生徒を止めようと動いた結果、巻き込まれたのだろう
書類は後で私がどうにかしておくとして…アリウスに戻る…という事はアズサの事だ、無いだろう
だから、トリニティの1生徒としてこれからもアズサは皆と一緒にいる事が出来る
それでも…アリウスの事は胸に残り続けるだろう
『先生!言われた通り、トリニティの掲示板を見ていましたが今、変更されました!』
焦っているアロナの声が耳に届く
「試験に向けて今日は早めに…」
と皆に呼びかけているヒフミを尻目にアロナに画面を表示して貰う
……というか、アロナの声はやはり皆には届かないのだな。とは言っても、此方からアロナだけに話しかける事は出来ないから人目が無い場所じゃないとタブレットに話しかけるヤバい奴になってしまうのたが…
いや、今はそんな事どうでもいい。掲示板は…!
そこには、絶望的な文字の羅列
思わず、口に出してしまう
「……そうか…ここまで、するか…ナギサ…」
「先生?」
「………皆、悪い知らせだ」
心苦しいが、知らせないわけにはいかない。集まってくる皆に掲示板のページを開いたシッテムの箱を見せた
「ええっと…?『第二次特別学力試験についての変更のお知らせ』……まさか…!?」
ハナコはもうどういう内容か察したようだ
「…あぁ。試験範囲を既存の範囲から3倍に拡大。合格ラインは60点から90点に引き上げ」
「へ!?な、何それ!?」
コハルは驚愕する
ハナコも酷く不愉快そう…というか、これは…怒っているな…
「……露骨なやり方ですね。ナギサさんは…どうしても、私達を退学にしたい………と」
うっかりなのか、意図的なのかそう溢すハナコに声をかけようとするが…そろそろ話さなくてはならないか…
「ハナコ、それは……いや…こうなっては隠しておけないな…」
「………退学?先生、ハナコ…それはどういう」
アズサがそう聞いてくる。ヒフミが話そうとしたが、これは私が説明した方が良いだろう
私は重々しく、口を開く
「…補習授業部は、第三次特別学力試験にも落ちてしまえば、全員……退学なんだ」