Blue Archive -鋼鉄のイェホーシュア-   作:NJ

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※作者は今年度に入ってから先生に就任したペーペーの新人です。
描写に矛盾がございましたらご指摘いただけると幸いです。



1:本日鉄の雨、絶好の指導(しょけい)日和

 

 

 『生徒指導部』

 

 

 それは、地獄(ゲヘナ)に君臨せし猟犬。

 ゲヘナの恐怖そのものを表す銘。

 

 現在のゲヘナ学園長直属の親衛隊にしてゲヘナ人が何より(おそれ)る最大の暴力装置。

 

 発足は今より2年前に遡る…。

 

 その部活は、キヴォトス外(・・・・・・)より訪れ(・・・・)ゲヘナに(・・・・)入学した(・・・・)一人の(・・・)男子生徒(・・・・)から始まった。

 

 入学は、今より遡って10年前にもなる。

 

 外から来たその少年に、身を守る(ヘイロー)は無かった。

 

 少年は、身を守る(ぶき)を持たなかった。

 

 少年は、ただの人間だった。

 

 キヴォトス人にとって挨拶程度の鉛玉一つが致命傷になりうる、ただのどこにでも居る、我々と同じ人間だったのだ。

 

 少年はどこから来たのか、少年以外誰も知らない。

 

 何故ゲヘナに来たのかも知らない。

 というか少年自身も知らない。

 

 

 

「なんか電車でシエスタかましてたらメタリックな車掌に起こされて、進学先の学生証も厨二病に変わっててウケるんですけど」

 

 

 

 当時の状況を聞かれた、高校入学直前だった少年の弁だ。

 

 状況をより詳細に求めると、スマホに新しいソシャゲをダウンロードして待っている内に船を漕いでしまったとのこと。

 

 バンダナと黒縁メガネを標準装備とし、顔はニキビだらけでシャツをズボンにインしており、語尾にダブリューを無駄に多く付ける系のオタクな友人が勧めた、銀髪犬耳少女がアイコンになっているソシャゲだった。

 

 ゲームの名前は知らない。

 よく見ていなかったし、起きた時にはゲーム自体が消えてしまっていた。

 

 どんなゲームだったのかさえも今は闇の中だ。

 その友人が黒紫の王冠のようなものを頭上に浮かべた、モップみてぇな頭の白髪幼女をやたら熱く推していた事だけは記憶に新しい。

 

 起きてからロック解除したスマホには、よく分からんアプリが幾つも並び、SNSに陳列された情報の羅列が少年の脳に軽い無量空処をぶちかました。

 

 そして、メタリック車掌に終点だからと追い出され、電車を降りた先で目にした景色で二度目の無量空処。

 

 晴れ時々銃弾、雨時々砲弾、曇り時々ミサイル。

 

 24時間営業の店頭を飾るラインナップは週刊誌じゃない方のマガジン。

 

 自販機が潤すは弾薬庫であり、乾いた少年の喉と心にあらず。

 

 道路標識を飾るは歩行者と自転車と自動車と、あとついでと言わんばかりに戦車。

 

 度重なる非現実のバーサーカーソウルが絶えず少年の身も心も打ちのめした。

 

 だが、少年はその世界を生き延び続けた。

 

 生きて生きて、生き続けて、大人になった。

 

 ───大人(かいぶつ)に、成り果ててしまった。

 

 壊れたから怪物になっ(くるってしまっ)たのか?

 

 それとも元から怪物だっ(くるってい)たのか?

 

 少年の過去も心も、全ては闇の中に消えたまま。

 

 だが、一つだけ言える事があるとするなら、かつて少年だった怪物は今─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───この遊び場(キヴォトス)を、全力で愉しんでいた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 最新情報を今日もお届け!

 ニュース・クロノス速報!!

 

 

 

「キヴォトスの皆さん、おはようございます」

 

「本日もお茶の間の貴方に最新ニュースをデリバリー。 クロノス速報のお時間がやって参りました」

 

「まずニュースをお伝えする、その前に─────

 

 

 

───本日の、『ゲヘナ学園長注意報』をお伝えいたします」

 

 

 

「先日までゲヘナ学園長は出張先のトリニティ自治区内を移動中でしたが、本日明朝に動きが見られました」

 

「現在、学園長とその親衛隊であるゲヘナ生徒指導部は自治区北東部の繁華街にて壊滅的な被害を及ぼした後も変わらず…いえ、より勢力を増し、かつ加速しながらキヴォトスを移動しているとの事です」

 

「それでは、現場の川流シノンさんに繋ぎたいと思います。 シノンさん、どうぞー!」

 

 

 

『はい!こちら現場のクロノス報道部・川流シノンです! まず、ここが被害が最も大きかった繁華街跡地(・・)となります!』

 

 

 

「現地の被害はいかほどでしょうか?」

 

 

 

『こちらをご覧ください! かつて観光名所として名高いキヴォトス随一の歴史と美しさを誇ったトリニティの繁華街でしたが…今やご覧の通りゴミ山同然の悲劇的ビフォーアフターを遂げております!』

 

『続けて、こちらドローンカメラで撮影した上空からの映像です!』

 

『皆さんご覧いただけるでしょうか!?この爆撃と砲撃の跡を!無慈悲なる魔神の進撃の轍を!』

 

『キャタピラで平らに均された道を中心に、一定間隔で幅10m以上のクレーターが点在しているこの光景…!果たしてこれが、人の手によって作られた景色なのでしょうか!?』

 

 

 

「うーむ…まるで怪獣の足跡と尻尾を引きずった跡のようですね。 さながら先月映画化されたペロロジラvsキングスカルマンを彷彿とさせる光景です…」

 

「映像で見る限り、やはりゲヘナ学園長はトリニティから外部に移動しているようですが…どちらに向かっているかは分かるのでしょうか?」

 

 

 

『そちらは、えー……情報入りました!学園長は現在、数時間前にトリニティで問題行動を起こしたというゲヘナにて指名手配されていた指定暴力団“美食研究会”に対する生徒指導(・・・・)を実行。 犯人グループを殺戮……失礼、“補導”した後に「指導対象(えもの)の匂いがする」と発言して出張を切り上げ、ゲヘナへと急遽帰還を始めたとの事です!』

 

『もう一度お伝えします!学園長と生徒指導部はトリニティからゲヘナへと直進しております! トリニティ・ゲヘナ間の地域の生徒、市民の皆様はなるべく早く避難してください!』

 

『荷物などを持ち歩かず、なるべく身軽にしてから避難してください!身の安全が最優先です!』

 

『もし学園長が肉眼で見える範囲に居た場合は完全に手遅れですので、せめて楽に死ねるようお祈りください!』

 

『なお、この件に関してティーパーティーの桐藤ナギサ氏はゲヘナ学園長に対して「本題(・・)は済ませましたから一刻も早く帰ってくださいお願いしますなんでもしますから」とコメントした後、紅茶をがぶ飲みしてロールケーキのやけ食いを始めた結果、気管に詰まらせて意識を失い、救護騎士団によって病院に緊急搬送されたそうです』

 

『以上!現場からの中継でした!』

 

 

 

「ありがとうございました。 では、本日のニュースお伝えします」

 

「連邦生徒会長の失踪による、キヴォトス全体の急激な治安低下に伴う先日のサンクトゥムタワー占領事件を受け、連邦生徒会は増加傾向にある凶悪犯罪に対応するために新たな部活の設立を宣言致しました」

 

「なお一部専門家の間では、連邦生徒会長はゲヘナ学園長の度重なる暴走による対応に追われた結果ノイローゼになったのではと推測され────」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ───ゲヘナ自治区、住宅街

 

 

ドンッ!

ドドォン!!

 

 

 ヒナ達風紀委員がハルマゲドンの到来を目撃していた、まさにその頃のゲヘナ。

 

「ハァーッハッハッハ!開発!爆破!温泉!爆破!開発の妨げになる物は一切合切消し炭にしてしまえー!」

 

 ゲヘナを代表するテロリストグループの一角、『温泉開発部』。

 その代表たる部長・鬼怒川カスミは鬼の居ぬ間に洗濯と言わんばかりにゲヘナの大地を穿っていた。

 

「うおー!温泉温泉!」

「カスミ部長、最高ぉー!」

 

 長らくの抑圧から解放された部員達の歓喜もひとしおであり、掘削にも力が入っているのが分かる。

 

「うんうん、やっぱり温泉はみんなを笑顔する!みんなの汗と笑顔が温泉をつくる!この世の真理だね!」

 

 現場班長・下倉メグも同志達の笑顔に満足げだ。

 しかし、同時に一つの懸念が頭をよぎり、カスミに問いかける。

 

「でも部長、ここまで派手にやって風紀委員会に邪魔されたりしないの?」

 

「ん?あぁその心配はいらんさメグ。 今回は徹底的な情報操作を行なった上での開発だからな。奴らにタレコミが届く頃には開発が済む手筈となっている」

 

 そこで何より…と間を開けてから彼女を昂らせている最大の理由を叫ぶ。

 

「あの、にっくき狂人(がくえんちょう)は当分の間トリニティに出張で不在ときた! この時をおいて温泉開発のチャンスがあろうか!?いやない!」

 

 そうだ、そうだ!とツルハシを掲げて呼応する部員達。

 部長の檄が起爆剤となり、彼女達の暴走(かいはつ)は勢いを増す。

 

「さぁツルハシを振え同志達よ!」

 

 だが同時に、昂るあまりに彼女達は致命的なミスに気づけていなかった。

 

 ───ビーーッビーーッ

 

 ポケットのスマホから鳴り響く警告音に。

 自らの演説で過激さを増した、芸術的なまでの発破の旋律によって掻き消された避難警報に。

 

「大地を穿て!我らの存在を刻み込むように!」

 

 

『避難警報!避難警報!』

 

 

 テロの真っ只中である事を差し引いても、住宅街でありながら周囲に人がいなさすぎる事に。

 最早、猫の子一匹いないゴーストタウンと化している周辺の状況に。

 

 

『学園長警報!学園長警報!距離1km!危険区域(デンジャーゾーン)です!ただちに退避を!』

 

 

「我ら温泉開発部ここにありとゲヘナに!キヴォトスに知らしめよ!」

 

 

『距離、500m!』

 

 

 普段なら毎日分単位の間隔で確認していたであろうアプリを、今日は存在そのものを理性ごと過去にポイしてしまっていた。

 

 

『250m!生還不可領域(デッドゾーン)です!避難を諦めて、力を抜いて楽に死ぬ努力に切り替えてください!』

 

 

「そして迎える間欠泉の水柱こそが───!」

 

 そして、高らかに起爆スイッチのリモコンを持った手を掲げた。

 

 その姿は、自由の女神の如く壮麗であり…

 

 鬼怒川カスミの全盛期を締め括る最後の姿(・・・・)であった。

 

 

 

 

 

「自由を告げる鐘とな『100m───粛正範囲内に入りました。 さようなら、お元気で』

 

 

 

 

 

 瞬間、温泉開発部全員の意識が直径100mの大地ごと削り取られた(・・・・・・)

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「遅かったようね…」

 

 地図から消えた、かつて街だったクレーターの中心でヒナはポツリと漏らす。

 彼女の目の前には、まるでハゲ頭のサイヤ人が指先で「クンッ」したかのような光景が広がっていた。

 

 一見して淡々とした口調ながら、そこには後一歩で救えたかも知れなかった生徒に対する悔恨を孕んだ、悲痛なそれを感じさせた。

 

 …なんで治安維持組織がテロリストに哀悼の意を表する事になってるのか甚だ謎だが。

 

「うわぁ…今回は随分とド派手にやったなあの学園長。 またゲヘナの地図が書き変わることになりそうだ」

 

「幸いというべきか、周辺の一般市民の避難は完了していたようです。 何度も経験してるだけあって皆さん手慣れてましたね…」

 

「本人達は慣れたくなんてなかっただろうけどね…」

 

 イオリとアコは特に驚きもせず、どこか諦観すら感じる様子で歓談に興じていた。

 

「それにしても…カスミ達は一体どこに? いつもならすり潰されて(・・・・・・)、肥料みたいにゲヘナの土にでも混ざっているんだけど…」

 

 ───ピロリン♪

 

 ヒナの疑問と、彼女達全員のスマホから通知音が鳴り響くのは同時だった。

 

「これ、モモチューブの───っ!?い、委員長これ!」

 

 イオリが示したスマホの内容は、キヴォトスで最も利用されている動画投稿サイトからの通知。

 

 遅れて、ヒナもサイトを開いて確認する。

 

「生配信…ゲヘナ生徒指導部公式チャンネル!?」

 

 思わずチャンネルの名前を二度見し、恐る恐る表示された動画の再生ボタンをタップ。

 

 そこに映っていたのは───

 

 

 

 

 

 

 ───♪♪♪

 

 テンテンテン♪

 テンテンテン♪

 

 ゲヘナにはあまりに不釣り合いな軽快なテンポで鳴り響くBGMと共に、その番組名は画面に表示された。

 

 

 さ わ や か 惨 組

 

 

『酸!散!惨!絶望(たいよう)の〜ひかり〜♪』

 

『ぼ・く・らの肩に〜♪(重圧となって)降り注ぐ〜♪』

 

『さぁ!(鎖で)手を繋ごう〜♪一緒に(地獄へと)走ろう〜♪』

 

『ぼくらは、仲間〜だ〜(道連れ的な意味で)♪』

 

 

 色々と不穏かつ、まるで倫理観にキャメルクラッチでも決めたかのような歌詞字幕の内容に表情筋が強張るヒナ達。

 

「な、なんてことだ…始まった。始まってしまった…恐怖の時間が」

「放送開始から1年以上、なんで規制されてないのか分からない『あの番組』が…」

 

 そして色んな意味で危ないOPの後に遂に番組が始まる。

 映し出されたのは、ヒナ達が先程出発したばかりの───見慣れた学園の校庭だった。

 

 そこに設置された処刑場のような台座でミノムシ(・・・・)にされている生徒が現れる。

 

 どこからどう見てもゲヘナの生徒会長だった。

 全身ぐるぐる巻きで吊るされ、奈落の穴の上をブラブラしていた。その姿はさながら蜘蛛の糸のカンダタの如し。

 

「あの生徒会長まだ生きてたのか…」

「相変わらず生命力だけはゴ◯ブリ並に凄まじいですね」

「ちょっと、二人とも集中できない」

 

 ちなみに撃墜された時の爆風で頭がアフロになっていて結構愉快な姿だ。

 

 表情を見る限り、本人は全く愉快ではなさそうだが。

 

 ───ザッ

 

 そんなマコトの前に一人の男が現れる。

 画面の端に立っているのもあってか見切れて顔まで見れないが、かなり高身長で漆黒のコートを羽織った背中にはゲヘナのシンボルマークがこれでもかと存在を主張していた。

 

 だが、ヒナ達にはその後ろ姿だけで十分だった。

 

「うわっ学園長だよ…ホントに帰ってきたんだな」

「うっ胃が痛く…」

 

 映像だけで伝わる、肌を削ぐようなプレッシャーが何よりの証明であった。アコは胃が重くなってきた。

 

 とうとう学園長がマコトに向けて口を開く。

 

 

 

『───お前は最後に指導(ころ)すと約束したな?』

 

『そ、そうだ学園長…た、助け『 あ れ は 嘘 だ 』ウワ"ァ"ァ"ァ"ァ"ーーー!?

 

 

 

 命乞いを遮る形で命綱を断ち切られ、下に空けられた穴に真っ逆さま(ボッシュート)になるマコト。悲鳴が残響となって鼓膜にこびり付いて実に不快だ。

 

 ちなみに穴の横には血のような赤い字で「↓HERU!!」と書かれた看板がブッ刺されていた。完全に誤字だった。正しくはHELLだ。

 

「マコト…あの感じだと地下行きは確実ね」

「生きて会えたら労ってあげましょうか」

 

 ヒナ達は静かに地獄の更に底へと落ちた生徒会長の生存を祈った。

 もし生きて会えたらジュリの邪神料理(パンちゃん)をご馳走してやろうと、静かに誓ったのだった。死体蹴りここに極まれりだ。

 

 そんな彼女達をよそに番組は進行する。

 次はとうとう温泉開発部に判決が下されようとしていた。

 

 ちなみに美食研究会は黒焦げアフロ(ウェルダン)にされて干物のように後ろの校舎に吊るされていた。

 

 そして同様にアフロにされている温泉開発部達の姿が画面に映し出される。

 全員縛られた状態で座らされており、涙目で雨の中の子犬のように震えていた。

 

「こいつらも毎度毎度懲りないな…」

「よく見たらカスミの下に水溜りできてません?」

「あっホントだ。湯気たってる」

「…黙っといてあげましょう。本人の名誉の為に」

 

 そうこうしてる間にも処刑は進む。

 

『道具持ってこい』

『ハッ!』

 

『ひぃぃぃぃぃ!お、お助けぇぇ〜〜!』

『どうかお慈悲を〜〜!』

 

 学園長が部下に指示を出すと、まもなくモヒカンと肩パッドを模したパーツを装着したロボット型の隊員達が、ガラガラと台車に乗せた何かを画面の前まで押してくる。

 

『準備完了致しました!』

『始めろ』

 

 それは…大きな幅1.5mほどのルーレットだった。

 均等に八つに分けられた欄にそれぞれ『一般房(グリフィンドール)』『懲罰房(スリザリン)』と交互に書かれてある円盤が、学園長の合図と同時に回転を始めた。

 

『パ・ジェ・ロ! パ・ジェ・ロ!』

 

 周囲の部下達が一斉に合いの手を入れ始める。

 カスミは青ざめた顔でガチガチと歯を鳴らしながらブツブツと祈り続けていた。

 

懲罰房(スリザリン)は嫌だ懲罰房(スリザリン)は嫌だ懲罰房(スリザリン)は嫌だ懲罰房(スリザリン)は嫌だ…!』

 

 そんな不協和音のオーケストラの中、学園長は拳銃を取り出すと徐に構え、ルーレットに向けて発砲する。

 

 弾が当たると、徐々に停止していくルーレット。

 皆の視線が集まる

 

懲罰房(スリザリン)は嫌だ懲罰房(スリザリン)は嫌だ懲罰房(スリザリン)は嫌だ…』

 

 当たったのは…一般房(グリフィンドール)

 ………と、懲罰房(スリザリン)の間の丁度ど真ん中。

 

 その中の、ほんの5mm程のよく見なければ気付かないレベルの空白だった。

 

 その空白に書いてあった判決は───

 

 

 

 

『アズカバァァァァァァァン!!』

 

『イヤァァァァァァァァァァ!?』

 

 

 

 

 判決は下った。

 後はお察しである。

 

『連れてけ』

 

『さぁ来いガキ共!へへへ、たっぷり可愛がってやるぜ…』

『嫌だっ、アズカバンは…っアズカバンだけは嫌だぁぁぁぁ! い、いっそ…いっそ殺してくれぇー!』

『うわーん!誰か助けてー!』

 

 カスミとメグに続いて、次々と連行されていく違反生徒達。

 

『いやだぁー!』

『ママァーーー!!』

『もうやだこの学園…』

『転校しよ』

 

 ズルズルと鎖でぐるぐる巻きにされながら引きずられていくカスミ達。

 その悲痛な叫びが、彼女達が辿る末路の悲惨さを物語っていた。

 

 彼女達自身が、“そう”なった先輩達を大勢見てきたのだから恐怖もひとしおである。

 

 …どうやら生徒の指導は全て終わったらしく、背景のセットを部下達がテキパキと片付け始める。

 

 そして、相変わらず顔だけ見切れた学園長がカメラの方に向き直って、視聴者に向けて締めの挨拶を始めた。

 

『良い子のみんなも、悪い子のみんなも楽しんでくれたかな? 来週のさわやか惨組の内容は、美食研究会への精神的拷問(メシテロ)回だ!絶対見てくれよな!見なかったら分かってんだろうな?

 

 

 

 ───さわやか惨組、完

 

 

 

提 供

カイザーコーポレーション

万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)

株式会社ブラックスーツ

連邦生徒会 防衛室

 

 

 

 次々に不穏なスポンサーが表示され、遂に配信が終了した。

 遅れて、どっと押し寄せた疲労感を吐き出すように息を思いっきり吐くヒナ達。

 

「つ、疲れた…」

「相変わらず視覚からのダメージが凄い番組ですね…」

「そうね…───?」

「…委員長?」

 

 そこでヒナが気付く。

 

 まだ、配信が終わっていない事に。

 

 

 

 

 

 

『───最後に生徒の呼び出しを始めます』

 

 

 

 

 

 

『2年S組・銀鏡イオリ、3年C組・天雨アコ』

 

 

『そして3年M組・風紀委員長空崎ヒナ』

 

 

『至急、学園長室に来なさい』

 

 

『サンクトゥムタワーの件と…連邦生徒会への苦情に向かった火宮チナツからの「外部の大人」に関する報告を先生に黙っていた件について話があります』

 

 

『繰り返す。 銀鏡イオリ、天雨アコ、空崎ヒナ』

 

 

『至急学園長に報告に来い』

 

 

『火宮がそろそろ帰ってくる頃だろ。 ついでにアイツも呼べや』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺に隠し事するってぇのがどういう事か、教えてやるよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、画面の向こうから此方を射抜くは鬼の眼光。

 

 同時にプツンと配信が終了し、黒に染まるスマホの画面。

 

 そこに反射して写る、諦観に染まり切ったヒナ達の顔。

 

「───行こう」

 

「「えっ」」

 

 配信が終了してからのヒナの第一声に間抜けな声を漏らすイオリとアコ。

 

 が、返答を聞かずに学園に向けて歩き出すヒナにようやく思考が追いついたのか、慌てて追従しながらヒナを止めようとする。

 

「ちょっちょちょ!?ほ、本当に行く気か委員長!! ヤバいって!雑巾みたいに全身絞られて血をがぶ飲みされちゃうって!」

「そうですよ!今学園長の所に戻ったらすり潰されてハンバーグにされちゃいますよきっと!」

「いや、あなた達あの人をなんだと思ってるの?」

 

 パニックになった部下達のあまりに酷すぎる学園長のイメージ像にさしものヒナも困惑した。

 まぁそんなイメージを持たれても仕方がないと思えるだけの所業をしでかしているのが自分達の学校の最高責任者なんだが…そう思うと改めてヒナは肩が重くなってきた。

 

 だが、それでも行かない選択肢はヒナの中に存在しなかった。

 

「どうせ、例の『大人』の件は隠し通せるとは思っていなかった。遅かれ早かれこうなる事は予想できた事でしょう?」

「で、ですが委員長…」

「───大丈夫」

 

 振り返ったヒナは、二人に優しく微笑みかけ…

 

「いざとなったら、私が全部責任を負うから」

 

 その言葉に固まる二人も、遂に折れた。

 

「〜〜〜っ、あーもう分かった!行けばいいんだろ行けば!」

「けどっ、委員長だけに責任を負わせるのはなしですからね!」

「ありがとう二人とも。それじゃ帰ろっか」

 

 再び二人に背を向け、ゲヘナに向けて歩き出すヒナ。

 

「…やっぱり遺書残しとこうかな」

「早めに書いた方がいいかもしれませんよ」

 

 背後で弱音を吐き合う二人に背を向けながら歩き続けるヒナ。

 

「…はぁ」

 

 そんな彼女の顔は、先程二人に見せた笑顔が裏返ったように沈み切っていた。

 

 そして、ため息混じりにポツリといつものフレーズで呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………めんどくさい」

 

 その言葉は誰に届くでもなく、荒野の風に吹き消された。

 




ちなみに万魔殿の悪巧みはマコトの独断だった為にイロハ達は釈放された模様。
そして地下では賭博破戒録マコトが始まっていた。
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