偽・ウマ娘ZERO ~不滅の桜~ 作:風見ひなた(TS団大首領)
「おっはよースール! 一人で登校なんて水臭いじゃんさぁ!」
朝の教室に響き渡った明るい声に、HRを待っていた周囲の新入生たちが何事かと一斉に注目を向ける。
「一緒に登校しよって朝ごはんのときに約束したのに、なんで一人で行っちゃったの? ちょっと目を離した隙に姿消しちゃうんだもんなぁ。そういうのよくないぞっ」
声の主は、大声のイメージに反した小柄な少女だった。
濃い茶色の髪はやんちゃな男の子のように短く刈り込まれており、その表情は快活ではちきれんばかりの元気があふれている。4月の頭だというのにその肌は少し日焼けしていて、トレーニング以外でも普段からずっと外で駆け回って遊んでいるだろうことが想像できた。
夏休みには麦わら帽子を被り、Tシャツに半ズボンで日がな一日虫取りして遊んでいそうなイメージがある。
そんな彼女は、テスコスールの隣の席に陣取り、ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべている。
……なんでこんな子がルームメイトになったんでしょうね。
キンキンとよく響く少女の声に、テスコスールは若干頭に痛みを覚える。
昨日トレセン学園に入寮した彼女は、同室になったこの人懐っこい少女につきまとわれているのだ。夜は大浴場に一緒にお風呂に入ろうと誘われ、朝は彼女が起こしてきて、食堂でご飯を食べようと袖を引っ張られる。
拒否しても無視しても、うんと言うまでしつこく絡んでくるので、やむなく一緒にお風呂に入ってご飯を食べた。そしてほぼ一方的にぺらぺらと話しかけ続けてくるのだ。
正直テスコスールにはルームメイトだからといって仲良くするつもりなんてない。どころか友達なんて必要ないと思っている。
彼女が中央トレセン学園に来たのは勝つため、姉であるテスコガビーの果たせなかった未練を晴らすためであり、お友達とキャッキャ楽しい学生生活を送るためなどではない。この教室にいるクラスメイトは……いや、学園に在籍するすべてのウマ娘はみなライバルであり、お友達候補などではないのだ。
テスコスールは姉・テスコガビーがそうであったように、孤独を友とするウマ娘である。
そんなわけでテスコスールはスズパレードにわざと冷淡な態度を取り続けている。
ずっと雑なあしらい方をされればさすがに嫌がられているとわかりそうなものなのだが、へこたれた様子もなく絡み続けてくるのがテスコスールには心底不思議だった。
ともあれいくら
「……おはようございます、スズパレードさん」
「おっ! あたしの名前、覚えてくれてたね! えへへ、返事してくれないからちょっと不安だったんだ」
「返事をしないのは相手をしたくないからだと思いませんか?」
「えー、つれないなぁ。これから卒業するまでずっと同じ部屋なんだから、仲良くしようよ! その方が絶対楽しいよ!」
「私は楽しさを求めてここに来たんじゃありません」
「ストイックだね! でも、どうせなら楽しい方がいいって思わない?」
「思いません」
「思わないか~!」
たはー、と後頭部をコリコリと掻くスズパレードである。
そんな彼女を見ながら、テスコスールは内心で少し感心した。
なんてメンタルが強いんでしょうか。
少なくとも私が逆の立場なら、しおしおと部屋に帰ってベッドに横になりそうですが。
それにしても、とテスコスールはスズパレードの横に立つ、彼女よりは少し背の高い少女を見やった。マシンガンのように切れ間なく話しかけるスズパレードと、ツンドラの凍土のごとき冷たいテスコスールのやりとりを、糸のように細い目で微笑みながら眺めている。
あまり他人に興味を持っていると思われたくはないが、スズパレードが一向に紹介する様子を見せないので、テスコスールは仕方なく水を向けた。
「……彼女は?」
「あ! そうそう、朝ごはんのときに紹介するって言ってたよね! この子はあたしの同い年のイトコの、スズマッハだよ! いやー、せっかくだから3人で登校しよって言ってたのに、スールってば一人で行っちゃうだもん!」
「御機嫌よう。スズマッハと申します~」
紹介された少女は、のんびりとした口調で淑やかなお辞儀を見せた。
スズパレードとよく似た顔立ちだが、印象は真逆だ。サイドに流した濃い茶髪を緩くおさげにしており、物腰も相まって良家の令嬢という雰囲気がすごい。まあ、中央トレセン学園に所属するウマ娘は大体がお金持ちのお嬢さんなのだが。
スズパレードが小学生のお子様感がまるで抜け切れていないのに対して、スズマッハは3歳は上に見えるほど大人びた雰囲気を伴っていた。
丁寧に自己紹介されてしまったからには、こちらも椅子に座っているわけにはいかない。テスコスールは椅子から立ち上がり、彼女たちを見下ろした。
「これはご丁寧に。テスコスールです。……あまりよろしくするつもりはありませんが、それなりにお見知りおきを」
「デッッッッッ!!!!?」
スズマッハは糸目をクワッと見開くと、目の前で揺れる巨大な2つのボールをまじまじと見やった。
その反応に、テスコスールは不思議そうに小首を傾げる。
「デッ?」
「あ、いえ……大きいですね~、テスコスールさん」
「ああ……ガタイがいいとよく言われます。デカ女でしょう」
テスコスールは小さく苦笑して、中1にしてはとても高いところにある頭頂部を軽くさすった。
まだ中学生になったばかりだというのに、周囲の子に比べて極めて身長が高い。漆黒の長髪が腰までサラサラと流れ、顔立ちは怜悧で冷たい印象だが、額のエクレア型の大きな白斑がどこか愛嬌を感じさせてもいた。
身長は高いが、女子ながらにがっしりとした筋肉の付いた体格で、「逞しい」という印象が第一に浮かんでくる。
しかし女らしさがまるでないかといえばむしろ逆で、豊満に膨らんだ胸部をはじめ、四肢の筋肉を覆う柔肌からは華やかな女性らしさが満ちているかのようだった。
ふえぇ……と鳴くスズマッハの目は、目前の双丘に釘付けである。
「ほ、本当にご立派ですねぇ……。あの、サイズはいかほど……?」
「去年の身体測定では170でしたが」
ざわっ!?と教室が揺れた。
「ひゃくななじゅうっ!? ……あ、あ~。それ身長ですよね?」
「身長以外に何が……?」
「いえいえ、何でもないですよぉ~」
えへへと笑うスズマッハの言葉に、きょとんとするテスコスール。
なんだ身長かぁ……驚かせやがって……と、ウマ耳をぴくぴくさせながら聞き耳を立てていたクラスメイトたちが興味を失ったかのように耳を正面に戻した。
スズパレードとスズマッハはささーっとテスコスールの席を離れると、二人でボソボソとささやき合った。
「ね、すごいおっきい子でしょ?」
「驚きましたねぇ~。同い年なのにあんな立派な……」
スズマッハはようやく最近膨らみ始めてきたばかりの自分の胸の持ち物を悲し気に見やり、同じ血を引くイトコの胸の大平原を見て、ふうと溜息を吐いた。
「……まあ、これからですよね私たち?」
「何が?」
「ああ、パレードちゃんにはまだ早かったですか~」
「?」
「それで、パレードちゃんはあの子のことが気に入ったんですよね~?」
「うんっ! ぜひ友達になりたいんだ!」
ニコニコと屈託のない笑顔のスズパレードに、スズマッハは少し困ったように糸目の瞳をさらに細くし、小首を傾げる。
「向こうはパレードちゃんのこと、あまり好きじゃないみたいですけど~?」
「最初から仲良くできなくても、毎日話しかけてればきっと仲良くなれるよ! ルームメイトなんだから、話すチャンスもいっぱいあるはずだし」
「うーん……まあ、そうなればいいですねぇ」
「なるよっ。だからマッハもあの子と仲良くしてあげてね」
「えー……。そうですねえ……。あっちから仲良くしてほしいと言ってくれば、考えなくもないですねぇ~」
「じゃあそのときはよろしくね!」
スズマッハの遠回しな言葉をポジティブに捉えたスズパレードは、ニコッと微笑む。
そんな屈託のない笑顔に、仕方ないですねぇとスズマッハは心中で苦笑を浮かべた。
スズマッハにとってはああいうトゲトゲした子はいくら美人で才能があっても積極的にお付き合いしたくはない部類だ。しかし、この無邪気なイトコが気に入ったのならばやむをえない。
百万歩譲って向こうからお友達になってくださいというのなら、考えなくもない。
まあ、天地がひっくり返ってもないことだろうが。
それにしても……。
「……パレードちゃんって、ああいう子が好みですか~。まだまだお母さんが恋しいんですね~」
「えっ!? お、お母さんとか関係ない……ことも、ない……かも」
「ふふ~」
もじもじと赤くなり、人差し指の先を突き合わせてぐりぐりするパレード。
その視線は、スズコンビがいなくなって再び席についたテスコスールへとちらちらと向けられていた。
そんな同い年のイトコを微笑ましく思う一方で、これまで彼女のお姉ちゃんのように振る舞ってきた早熟な少女としてはちょっともやもやも感じてしまうのだった。
〇テスコスール
「テンよし中よし終いよし、おまけに超グラマー」と評された姉・テスコガビーと同じ体格なのでそりゃもうデカい。そして色気もすごい。
まあどれだけ色気があったところで、少女しかいないトレセン学園では無意味なこと。
……ほんとにぃ?
〇スズパレード
地元では「男の子だと思っていた幼馴染と数年越しに再会したらすごい美少女になってた」系の初恋イーター。
親元から離れて寂しさを感じてたら、超グラマーな長身少女がルームメイトになってくれたので速攻で懐いた。
一人パレードかってくらい賑やかなおしゃべりさんだが、本当に一人ぼっちになるとすごく静かになる。
〇スズマッハ
糸目おっとりのスズパレードのイトコ。パレードよりもあらゆる面で早熟。
パレードを妹のように思っていたら、自分よりもっと色っぽくて高身長の女の子が湧いてきて戸惑っている。