偽・ウマ娘ZERO ~不滅の桜~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第21話「新聞記事とファミリーコンピュータ」

 京都新聞杯でミスターシービーからの勝利を収めたカツラギエース。

 その勝利はレース界に大きな激震をもたらした。

 といっても、カツラギエースが新たなスターダムに踊り出たとか、そういった話ではない。今回の一戦で人々が注目したのは『ミスターシービーは無事にクラシック三冠を達成できるのか!?』という一点だった。

 

 実際にはミスターシービーは病気で倒れて以来スランプで陥っていて、カツラギエースとぶつかり合うことでスランプから脱したのだが、そんな事情を知らない世間はそうは見ない。

 日本ダービーで6着だった“格下”のカツラギエースごときに敗れたミスターシービーは、深刻な病状を引きずっているのではないか……というのが主なマスコミの論調だった。

 中にはミスターシービーに好意的な見解を示すメディアもあるが……。

 

 

「『敗けて確信、シービーの菊制覇』だぁ? ふざけやがってよぉ~」

 

 

 部室でスポーツ新聞を読んでいたギャロップダイナが、ケッと吐き捨てながら紙面を机に叩き付けた。

 それを拾い上げて中身に目を通したスズマッハは、糸目を一層細めて嘆息する。

 

 

「『今回の典型的な先行有利のペースに関わらず、ミスターシービーはしんがりでのレースに臨んだ。これは今回のレースでの勝ち負けなど最初から度外視していたからである。むしろ先行するウマ娘たちのペースに末脚を封じられながらも、しっかり脚を伸ばして4番手に付いたことはミスターシービーの調整がうまくいっている証拠と言えるだろう。カツラギエースは譲られた勝ちに喜んでいることだろうが、菊花賞ではミスターシービーが勝利することは疑いようもない。今回の敗戦はさしずめ“肉を斬らせて骨を断つ”である』……ですか~」

 

 

 要するに“ミスターシービーは手加減してやっただけ、カツラギエースはぬか喜び乙”と書かれている。

 書いた記者がよほどのミスターシービーファンなのか、あるいは新聞社がミスターシービーを大スターとしてプッシュしたいのか。まあ後者なんだろうなーと察しは付くが、それにしてもひどい記事だった。

 

 こんな偏向報道をされては勝ったカツラギエースも怒り心頭……と思いきや、全然へっちゃらな顔をしている。

 

 

「あたしはちっとも気にしてねえぜ。むしろこうやってナメられた方が、なにくそ見返してやる!って気持ちが湧いてくるってもんさ」

 

「心が強ぇウマ娘すぎるだろ」

 

「無敵キャラか何かでしょうか~?」

 

 

 実際カツラギエースはどれだけ見下されようがすべて闘志に変換してしまうので、マスコミにどれだけ叩かれようがテンションを下げる方法がない。

 むしろ新たなヒーロー!とか期待の超新星!とか呼ばれてちやほやされた方が闘志が萎えてダメになりそうだが、そうなるにはあまりにもミスターシービーというライバルはスター性が強すぎた。ミスターシービーを八大競争で完全に叩きのめすまで、メディアがカツラギエースを認める日は来ないだろう。

 

 もっとも、カツラギエースの方も別にメディアからちやほやされたいとは思っていない。カツラギエースにはミスターシービーしか見えておらず、彼女を正々堂々と打ち破ることこそがカツラギエースの目標だった。

 そしてそれは、大レースで“自由”を満喫したいミスターシービーにとっても同じことだ。

 

 今年の菊花賞を左右するウマ娘2人はレースのことしか頭になく、メディアはそんな彼女たちを外から勝手にああだこうだと決めつけて盛り上がっているだけ。

 チーフは正直、カツラギエースがメディアにまるで興味を抱いていないことにほっとしている。ウマ娘によってはマスコミや観衆の反応に傷ついたり萎えたりしてしまう、繊細な子たちもいるからだ。

 

 なお、カツラギエースにも取材の依頼が何件か来ていたが、チーフがすべてお断りしている。どう考えてもミスターシービーの三冠を阻む悪役のような書かれ方をされるだろうし、カツラギエースにとってもトレーニングの邪魔をされて悪影響しか出ないだろうと判断した。

 

 

「それより、今後のことについてエースと少し話がしたい」

 

「ああ、いいよ。何だい?」

 

「お前は今回のレースで、2000メートルの中距離ならミスターシービーにも勝てるということを証明した」

 

「うん。正直、ここで勝てるとは思ってなかったけどな……。シービーも不調だったみたいだし、あたしは勝ったと思っちゃいないぜ」

 

「ああ、俺もここで勝つとは思わなかった。が、問題は外から見てどう映るかということだ」

 

 

 言葉の意味がわかってなさそうなカツラギエースの顔を見ながら、チーフは続ける。

 

 

「高地トレーニングをこなしたとはいえ、元々3000メートルの菊花賞には距離適性が足りていないのは事実。菊花賞でミスターシービーに勝つのは厳しいかもしれん。となれば、あえて菊花賞は見送って、来年のGⅠでの勝利を目指すという手もある」

 

「そうすることで、何かエース先輩にメリットがあるのですか~? せっかく出られるレースなのですから、出た方がお得ですよ~?」

 

 

 スズマッハの言い分は、この時代の常識でもあった。

 とにかくこの時代、出られるレースが少ない。何しろ時はまさに近代レース史の黎明期。

 たとえば大阪杯、高松宮記念、ヴィクトリアマイル、スプリンターズステークスといった現代のGⅠレースは、まだGⅠに昇格していなかったり創設すらされていなかったりする。GⅠレースのみならず、地方交流重賞も全然ない。

 するとどうなるかというと、「出られるレースならとにかく出とけ!」という思考になりがちだ。多少距離適性が足りなかろうが、芝が合わなかろうが、とりあえず出られるレースに詰め込んで走るのがこの時代だった。

 

 チーフの提案は、そんな時代の常識と真っ向から食い違っている。

 

 

「メリットはある。たとえば菊花賞で負けて、来年の宝塚記念でミスターシービーに勝ったとする。するとこう言う奴が出てくる……『カツラギエースは菊花賞で負けてる。ミスターシービーに勝ったのはフロック(まぐれ)に違いない』ってな」

 

「あーん? フロックだろうがなんだろうが、勝ちは勝ちだろうがよぉ」

 

「しかしここで菊花賞を避ける一方で、他の中距離レースで勝ちまくれば、エースは中距離のスペシャリストという評判になる。そのうえで宝塚記念でシービーに勝てば、どうだ? 『さすがカツラギエースだ、中距離ならシービーですらもあいつにはかなわない』ってことになる。誰もフロックとは言うまいよ」

 

「なるほど~。つまり余計な負けを抑えて名声を高めることで、評判の上でもシービーさんに完全な勝利を収めようというイメージ戦略ですか~」

 

「そうだ。自分の中ではミスターシービーに勝ったと思っていても、外野から『こんなの認めない』だの『本気出せばシービーが勝った』だの言い立てられちゃスッキリしないからな」

 

 

 ちらりと机の上のスポーツ新聞に目をやりながら、チーフはスズマッハの言葉に頷く。

 

 

「どうする、エース? 今なら菊花賞の辞退もできる。得意の中距離に徹するのもひとつの作戦ではあるが」

 

 

 そこまで言って、チーフは苦笑を浮かべた。

 カツラギエースの表情は、もはや返答など聞くまでもない。

 

 

「……ま、お前はそんなこと気にしないだろうな」

 

「ああ! もうシービーと約束したからな、菊花賞で全力で真剣勝負しようって!」

 

 

 そう言ってはにかむカツラギエースの凛々しい笑顔に、チーフは笑い返す。

 ギャロップダイナはイヒヒと楽しそうに笑い、スズマッハは天高く輝く太陽を仰ぎ見るように糸目を細くした。

 

 

「ウィヒヒ、エースはそうでなきゃよぉ~! 外野の言うことなんか気にしなくていい! どこまでも真っ直ぐに突っ走って、風穴をブチ空けてこそのエースだぜぇ!」

 

「そうですね~。そういう小手先の戦略はなんだかエース先輩には似合いませんし~。そういうのは私の領分ですからね~」

 

 

 ギャロップダイナとスズマッハの言葉を受けて、黙って聞いていたサブトレがどーんと大きな胸を叩いた。

 

 

「エースが満足できるようにやんなさいな。チーフと私は、貴女がどんな選択をしようがどこまでも応援してあげるから。バックアップは任せといて!」

 

「ああ! 見ててくれよ、菊花賞でもあたしが勝ってみせる! ミカ姉が鍛えてくれた高地トレーニングの成果、しっかり見せるからさ!」

 

 

 ぎゅっと拳を握り、勝利を誓うカツラギエース。

 そんな彼女の頼もしい姿に、チーフとサブトレは笑顔で頷き合うのだった。

 

 

 

 なお、テスコスールとスズパレードは、部室の隅でファミコンをしていた。

 新聞でのカツラギエースの書かれようを知ったら自分のことのように怒り出すだろうという判断で、お前らゲームでもしてろとなったのである。

 

 

「あっ、POW叩いた! カニが起きちゃったじゃないですか、やめてくださいよ! あーマリオ死んじゃった!」

 

「へへー、残しとく方が悪いんだよー! ……あー! 火の玉が! あー、来ないでー! スール、床叩くのやめてよーーー!! 逃げれないよーー!!」

 

「お返しですお返し! ……って、あー! 最後の1匹になったカニ速い!? こっち来るな! 私はウマ娘ですよ! やめろ! カニの分際でウマ娘より速いなんて生意気……ああーー!」

 

 

 ファミリーコンピュータ、1983年7月15日発売。

 それまで存在した家庭用ゲーム機よりも格段に高性能で廉価、そして多彩なソフトが用意されたこのゲーム機は、それまでのゲーム機の常識を塗り替えた。

 

 発売されて早々にチーフが部室の備品として買ってきたこの斬新なおもちゃに、ウマ娘たちはたちまち夢中になった。特にスズパレードとギャロップダイナは、雨の日はずーっとこれで遊んでいる始末である。

 今も『マリオブラザーズ』での協力そっちのけのデスマッチで、スールとパレードがきゃいきゃい楽しんでいた。

 

 現代の基準でこそ単調なゲームに見えるが、ソフトがそれしかない環境では結構長時間楽しめるものだ。特にゲームといえば『インベーダーゲーム』しか知らないこの時代の人々にとっては夢中になれる代物だった。

 

 ちなみに『インベーダーゲーム』は社会現象になるほど流行ったので、誰でも知っている。街の喫茶店には必ず『インベーダーゲーム』が遊べるテーブル一体型の筐体が置かれていたくらいだ。

 しかし他のゲームはゲームセンターやデパートのゲームコーナーに行かなければお目にかかれず、当時のゲームセンターは不良のたまり場というレッテルを貼られていたので、家庭で遊べるデジタルゲームはとても斬新に映ったのだ。

 

 

「おっ、勝負ついたか? じゃあ次オレもやるぜぇ~! 負けた方が代われ!」

 

「はーい。じゃああたしが代わるね」

 

「ダイナ先輩、開幕でPOW叩かないでくださいよ。……叩かないでくださいったら!」

 

「ウィヒヒ~! あるモンは使うよなぁ!」

 

 

 チーフは盛り上がるウマ娘たちを横目で見ながら、これ買ったの失敗だったかなぁと少し思った。雨の日にトランプしか退屈しのぎがなくて、あまりにヒマそうだから暇つぶしに買ってみたものの、これほどハマりこんでしまうとは。

 現状とりあえずトレーニングの妨げになるほどのことはないようなので見逃してはいるが。

 

 

「まったく、『マリオブラザーズ』でこれなら『スーパーマリオ』や『ドラクエ1』が出たらどうなっちまうんだか」

 

「? なんですか、それ~?」

 

「いや、なんでもねえよ」

 

 

 そう返しながら、チーフは夢中でゲーム画面にかじりついているスズパレードに目をやる。

 

 

「いよいよメイクデビューも近い。試練の時だぞ、パレード」




当時の東スポの記事はWebで読めますが、本当に笑っちゃうくらい無茶な論調でシービー賛美しまくってるので必見です。

とはいえ、実際史実ではその後シービーが勝つので先見の明があったということでしょうか。
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