偽・ウマ娘ZERO ~不滅の桜~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第4話「大変! テスコスールが死んじゃう!」

「ね、スール! これから一緒にトレーニングしない? マッハと3人で協力していろいろやろうよ」

 

 

 グラウンド10周を挟んだ長いホームルームの後、スズパレードはにっこにこ笑顔でテスコスールを誘ってきた。初日の授業はホームルームだけで解散ということだった。

 

 とはいえ、中央トレセン学園には授業も終わったし、さあ帰って遊ぼうと寮に帰ってしまうウマ娘なんていない。むしろ授業は最低限の基礎学力をつけるものに過ぎず、実際はその後の長い放課後の時間こそが本領と言える。

 

 トレーナーが付いていれば指導を受け、まだトレーナーがいないなら自主トレで研鑽して、ときには模擬レースに参加して好成績を上げ、まだ見ぬトレーナーとの出会いを待つ。あるいはチームに参加して、チームメンバーと共にチームトレーナーからの指導を受ける。それが中央トレセン学園のウマ娘にとっての当たり前の日常の過ごし方だ。

 

 この学園にいるウマ娘は、小学生の頃からレースチームに参加したり、実家が裕福な者は親が雇ったトレーナーの指導を受けたりといった努力を積んできた者ばかり。日本に生まれたウマ娘でも屈指のエリートたちだけが、学園の狭き門を叩くことを許される。研鑽を怠る者が勝利の女神の前髪を掴むことなど決してない。

 

 そんなわけで早速テスコスールに声を掛けたスズパレードだが……。

 

 

「いえ、結構です。私に構わず、どうぞお二人でトレーニングしてください。私はこれから寄るところがあるので失礼します」

 

「えー、寄るところってどこ~? じゃあその用事が終わったら、一緒にやろうよ~。一緒にやった方が絶対に楽しいよ~」

 

 

 口調は丁寧だが、明らかな拒絶の言葉を放つテスコスール。

 そんなお断りに全然へこたれた様子もなく、スズパレードはにっこにこ笑顔のままテスコスールに食い下がってくる。

 なんでこの子、私にそんなに執着してくるんでしょうかね……とテスコスールは内心で溜息を吐き、キュッと瞳をすぼめてスズパレードを見つめた。

 

 

「いいですか、スズパレードさん。寮で同室だからといって、四六時中親しく振る舞う必要性はないと私は考えています。私は既にチームに所属する約束を知人と交わしていますから、チームのトレーニングを受けます。私がこの学校に在籍する限り、貴方がたと共同のトレーニングをすることはありません」

 

「ええ~……そうなんだぁ」

 

「なるほど、テスコスールさんほど強ければ、入学前にチームのお誘いが来ていてもおかしくありませんね~」

 

 

 イトコが不愛想なルームメイトにじゃれつくのを眺めていたスズマッハは、ぽんっと手を叩いた。

 

 

「ということは、これからチームへ正式に加入のご挨拶をしに行くということでしょうか~?」

 

「そういうことです」

 

「わあ~、すごいですね~。トレーナーが付くのを一日千秋の思いで待つ子も多い中で、入学初日からスカウトが決まってる子なんてそうはいませんよ~」

 

「まあ……それほどでも」

 

 

 テスコスールはサラッと長い髪を掻き上げる。いかにも大したことないという表情だが、ウマ尻尾はぱたぱたと縦に振られている。

 見てないでイトコを止めてくれないかな……とスズマッハに思っていたテスコスールだが、褒められれば悪い気はしない。

 スズマッハは温厚そうな糸目を細めつつ、のんびりと尋ねる。

 

 

「ところで、そのチームはどちらなのでしょうか? さぞかし強豪なのでしょうね~」

 

「チーム・カストルです。私の姉、テスコガビーが所属していたチームでして」

 

 

 我知らず胸を反らして、テスコスールはそのチーム名を口にした。

 彼女の姉・テスコガビーが所属していたチーム・カストルは、一時代を築いた強豪だった。全盛期のテスコガビーに唯一土を付けた“狂気の逃げウマ娘”カブラヤオーもまたカストルに所属するチームメイトであり、チームの双璧を成す親友同士だった。

 幼い頃に何度かチームのお姉さんたちと交流したことがあるテスコスールだが、皆優しく、強く、尊敬できるウマ娘ばかりだった。

 そんな彼女たちの一員に今日から加われると思うと、テスコスールは思わず背筋が伸びる。いや、伸びるどころか反り返ってしまうほど得意な気持ちになってしまうのだった。

 

 

「なるほど、お姉さんのつながりですか~。羨ましいですね~」

 

「ありがとうございます。私が姉を継ぐにあたって、このチームは決して譲れない要素ですから」

 

「姉を、継ぐ……ですか?」

 

 

 小首を傾げるスズマッハに、テスコスールは胸の前で右拳を握りながら頷いた。

 

 

「そうです。テスコガビーを継ぎ、トリプルティアラを達成する。そのために私はこの学校にやって来たのですから」

 

「ふうん……立派な目標ですね~。成せればいいですねぇ」

 

「成しますとも。チーム・カストルで指導を受ければ、必ずできます。私には、テスコガビーと同じ血が流れていますから。必要なのは姉を導いた指導者だけです」

 

 

 そう言って、テスコスールは時計を見上げる。

 

 

「あっ……いけない、こんな時間ですね。あまり先方を待たせるわけにはいきませんから、これで失礼します」

 

「は~い、お引止めしてすみません。ではまた明日~」

 

「ええ、また明日」

 

 

 そう言ってこの場を離れようとして、テスコスールはふとスズパレードの方を振り向いた。

 

 

「……スズパレードさんも早く所属するチームを見つけて、チームトレーナーの指導を受けた方がいいですよ。私に絡むより、その方がずっと有意義です」

 

「う、うん……」

 

 

 では、と言い残して足早に去っていくテスコスール。

 スズマッハは笑顔をまったく崩さないまま、その背中ににこやかに手を振った。

 

 

「余計なお世話ですよ~」

 

「マッハ。そういうのってどうかと思う……。いろいろ聞き出しておいて」

 

「パレードは裏表がないですねぇ~」

 

 

 咎めるスズパレードに小首を傾げて返しながら、スズマッハは小さな溜息を吐いた。

 

 

「……チームですかぁ。言われなくても頼れるトレーナーがいるチームがあれば、こちらから身を寄せたいものですが~」

 

「ふぅん、マッハもそう思うんだ」

 

「そりゃ専属トレーナーがスカウトしてくれるなら、そちらの方がいいかもしれませんが。自分一人のために適切なメニューやケアをしてくれるんですから、手厚さが違いますよ~。ただ、チームもチームで良いところもありますから、一長一短ですね~」

 

 

 そう言いながら、スズマッハは妹扱いしている同い年のイトコの顔をじっと眺める。

 

 

「……パレードはチームの方がいいかもしれませんねぇ」

 

「え、どうして?」

 

「パレードは寂しがり屋さんですから、いつも甘えられるチームメイトがいる方が合ってるんじゃないでしょうか~」

 

「あたし、そんなさびしんぼじゃないもん!」

 

「そうですか~? 今だって同室のスールさんにすげなくされてしょんぼり顔をしてるのに~?」

 

「し~て~な~い~!」

 

 

 ムキになって地団太を踏むスズパレードに、スズマッハは私のイトコは本当に可愛いですねと心の中でクスクス笑った。

 

 

「まあ、チームからのスカウトがあれば、パレードと一緒に入ってあげてもいいかもですね~。それなら寂しくないでしょうし~」

 

「えっ、ほんと!?」

 

 

 ぱあああっとスズパレードの顔が輝く。

 そんな現金なイトコに苦笑して頷きながら、ただ……とスズマッハは続ける。

 

 

「テスコスールさんと同じチームはご遠慮させてもらいますけどね~」

 

「え、どうして? やっぱりマッハはスールのこと嫌い……?」

 

 

 くぅーんと子犬が泣きべそをかくように見上げてくるスズパレードに、スズマッハは首を横に振る。

 

 

「いえ、彼女のことが嫌いというわけではないですよ~。クール系ぼっちムーブがちょっと鼻につきますが、私も別に良い子ではないのでお互い様ですし~」

 

「じゃあなんで?」

 

「ん~、テスコガビーさんが所属していたからですかね~」

 

 

 少し言いにくそうにスズマッハは頬を掻いた。

 

 

「……テスコガビーさんが何故トリプルティアラを獲れなかったか、パレードは知っていますか~?」

 

「え……それは怪我をして、エリザベス女王杯に出られなかったから……」

 

「そうです。まあ当時はエリザベス女王杯ではなく、ビクトリアカップという名前でしたが。そもそもテスコガビーさんの競争人生は怪我と体調不良の連続でした~。オークスでは体調不良の中無理して出場しての勝利。その後は練習中の怪我で重傷を負ってビクトリアカップに出られず。シニアでは復帰するもまったく振るわず、再度の怪我でついに引退してしまいます~」

 

「…………」

 

「しかしやはり夢を捨てきれなかったのか現役復帰を目指しますが、それも果たせず……。練習中に帰らぬ身となったと聞きます。噂では心臓発作だったとか」

 

「そんな……」

 

「……ここまで言えば、私が何が言いたいのかパレードにもわかりますよね~。チーム・カストルは選手に何度も怪我をさせるような練習を強要する環境だということです~」

 

 

 スズマッハは口元に手をやり、テスコスールが去っていった方に目をやる。

 

 

「確かに強いチームなのでしょう~。しかし選手の身を考えてはくれません。正直、私はそんなチームには入れませんし、パレードが入りそうなら止めますよ~。……テスコスールさんも、お姉さんと同じ道をたどるかもしれません」

 

「だ、ダメだよそんなの! スールを止めなきゃ! なんでさっき言わなかったのさ!?」

 

「いえ……だって、正直今日会ったばかりの他人ですし……」

 

「薄情!!」

 

 

 スズマッハは眉をたわめて、興奮するイトコに言葉を重ねる。

 

 

「でもパレード、本人が望んでいるのなら止める義理はありませんよ~。テスコスールさんだって莫迦じゃないんです。ハードな練習のリスクは承知のはず。それでもカストルに入りたいというのですから、部外者にすぎない私たちがこうしろ、と口を挟むのは傲慢なのでは~?」

 

「そうかもしれないけど……でも、でも……。スールが壊されるのを黙って見てるなんてできないよ」

 

「……まあ、別にカストルに所属したからといって今日明日で怪我するわけでもないですから~。怪我しそうなほど無理してるようなら、チームを抜けるように説得するという手も~。……って、パレード? どこに行くんですか~?」

 

 

 話の途中でどこかに行こうとするイトコの背中に、さすがに慌てた様子でスズマッハが声を上げる。

 

 

「やっぱり我慢できない! スールが契約しちゃう前に、あたしがあの子を止めるんだ! 待っててスール! 今行くから……!! うおおおおおおお!!!!」

 

「……我がイトコながら単細胞すぎませんか~……。待ちなさいパレード~、チームの拠点がどこにあるかも知らないでしょ~? ああ、もう~!」

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