エッ!?子どもがいたんですか!?   作:aka1

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アピールポイント:足腰には自信があります(長年人探しをしていたため)

「ただいま帰りました……」

 

 教会の地下へと続く扉を開ける少年が一人。新雪を思わせるような真っ白の髪に深紅(ルベライト)のような瞳。兎を連想させる少年は、僅かに疲労を滲ませ階段を降りる彼の元にトトトトと軽さを感じさせる足音が近づいた。

 

「ベル君!お帰りー!」

 

 蕾が開花したかのような笑顔を見せ、自身を出迎える女神(ヘスティア)に少年──ベル・クラネルは破顔した。

 

「神様!た、ただいま……」

 

 吃りながらもここ一年程発することのなかった言葉を口にして、照れた様子で頬を染める。ベルの姿を見てヘスティア満足そうに頷いた。

 

「どうだった?ギルドの勉強は?」

「はは……覚える事がいっぱいで頭がこんがらがりそうです……」

「ふむ、お疲れの所悪いけど実はベル君に一つ言いたいことがあってね」

 

 ベルはヘスティアの言葉に首を傾げた。晩御飯のおかずが少ない、とかだろうかとヘスティアを見るも、彼女の瞳は何故だが輝いている。いい知らせのようだ。にこにこと笑みを浮かべるヘスティアに釣られ、自然とベルの口角も上がる。

 

「直接見た方がいいだろう……さぁ、出てきてくれヒルダ君!」

「え──」

 

 上体を捻り、振り返ったヘスティアは部屋の奥へと声を張り上げた。女神の視線に釣られ、ベルの瞳はヘスティアから室内へと向かう。

 

「こんにちは、初めまして」

 

 扉の奥から現れたのは一人の少女である。

 

 まず、ベルが目にしたのは人間とは異なり先が細く尖った褐色の耳。

 薄紫にも見える銀の長髪は絹のように滑らかで、鮮やかな黄緑色の瞳は瑞々しい若葉を思わせた。麗しい少女という言葉がぴったりな少女はベルを見つめ、微笑んでいた。

 

 妖精(エルフ)だ。しかも、中々見ることはない黒妖精(ダーク・エルフ)である。

 

「ヒルダと言います。ヘスティア様にお声がけ頂いて、ファミリアに入団することになりました」

 

 「よろしくお願いしますね」と差し出された手の平に、ベルは反応できなかった。

 

 ベルは「ダンジョンでの女の子との出会い」を求めてオラリオへ足を踏み入れた。人によっては下衆と罵られても仕方がない欲望だが──その実、ベル自身は女慣れしていない初心な少年であった。

 

「あの……?」

「ぁ、ベル・クラネルです!よろしくお願いします!」

 

 視線をヒルダの顔と手を交互にやるベルに、ヒルダが困惑の声を上げる。困ったように眉を寄せるヒルダに、ベルは慌てて彼女の片手を両手で掴んだ──掴もうとして、すんでのところでその勢いを殺し、そっと挟むように握手を交わした。

 

 ち、小さい!柔らかい!エルフって、すごい!

 

 触れた手の温かさに鼓動が跳ねる。突然浴びた妖精という存在に衝撃が抜けきれていないベルの思考は、常よりも冷静さがかけていた。

 

「……君達、いつまで繋いでいるんだい?」

 

 ぽやーっとしているベルに、じっとりとした視線が注がれる。ちくちくと刺すような視線の主はヘスティアであった。

 ヒルダに鼻の下を伸ばす──ヘスティアにはそう見えた──ベルを半眼で睨み、二人の間に手のひらを縦に差し込む。繋がっていた手は、ヘスティアの手刀によって半ば強引に解かれた。

 

 訪れた奇妙な沈黙を破るようにヘスティアが咳払いを繰り返す。

 

「とにかく……ボクたちのファミリアに新しい家族が入った!これは喜ばしいことだよ、ベル君!」

「はい!……はい!?」

 

 目を見開き、驚愕を顕にするベルにヘスティアは「なんだい、ベル君。ヒルダ君の話を聞いてなかったのかい?」と呆れの表情を浮かべ、肩をすくめた。

 

「えっ、新しい家族……僕たちのファミリアに!?」

「さっきからそう言ってるじゃないか」

 

 ベルとヘスティアのやり取りをヒルダは微笑ましそうに眺めている。ベルがヒルダの方へ目を動かすと、視線がばちりと合い、ヒルダはベルに向かって優しげな笑みを浮かべた。ベルは頬を染めながらも、へにゃりと笑みを返す。

 優しそうな人で良かった。妖精は気高く、気難しい。それを知っていたベルは胸を撫で下ろした。

 

「それじゃ、ヒルダ君の歓迎会をしようじゃないか!」

「え、今からですか?」

「勿論!今やらないでいつやるんだい?」

「わ、神様!そんなに押さないでください!」

 

 ぱんっと手の平を合わせたヘスティアは、「さあさあ動いた動いた!」とベルの背中を押し、急かし始める。ヒルダも二人の後を追い、歓迎会の主役自ら準備を買った。

 

 ヘスティア・ファミリアは超がつくほどの零細ファミリアである。何せ、下界に降り零能となった神と数週間前まで鍬を握っていた少年が結成して、数日。彼らが用意した料理は豪勢とは決して言えないが、ヒルダはそれらに込められた心を充分に感じ取っていた。

 

「新しい家族に祝って!」

 

 かんぱーい!とグラスを掲げるヘスティアにベルとヒルダも続く。水の入ったグラスが重なり、音を立てる。女神とヒューマンと黒妖精。三人だけの宴は夜が更け、人々が寝静まったあとも続いた。

 

 

***

 

 

翌日の午後、ベルとヒルダはギルドへと続く道を並んで歩いていた。

 

「ベルはもうダンジョンに行ったの?」

「実はまだなんだ」

 

 「エイ……担当してくれてるアドバイザーの人が中々許可を出してくれなくて」と頬を掻くベルの瞳にはダンジョンへの希望が詰まっている。昨日会ったばかりのヒルダの目にも、ベルがダンジョンに対して何らかの期待を抱いている事が丸わかりだった。

 

「ヒルダは戦いの経験とかはある?」

「全然。ベルは?」

「僕も」

「じゃあ、頑張らないとね」

「うん!」

 

 笑い合い、軽快に会話を交わす二人。ヒルダからはぎこちなさが消え、ベルからは照れが消えていた。

 

 三人だけの歓迎会が落ち着き、ヘスティアが眠った後も夜通し話し続けた二人には多くの共通点があった。肉親が亡くなりオラリオを訪れたという齢十四、五の少年少女がするには少々重めな話や、英雄譚を好んで読んでいたという話から派生した好きな英雄の話まで、出会って一日も経過していないとは思えないほどに盛り上がった二人は、お互いを「ヒルダ」「ベル」と呼び捨てをするほど距離を縮めた。

 

 日が昇り、夜更かしをしたものの農民としての生活が染みついていたベルと、六年に渡る旅の経験から日が昇ると同時に目覚める癖がついていたヒルダは早朝に目が覚めた。

 はにかみながら挨拶を交わし、ヘスティアが目覚めるまで待って和やかに食事を終えた一同はそれぞれの仕事へと向かっていった。すなわち、ヘスティアは屋台のアルバイト、ベルとヒルダはギルドへ向かったのである。

 

 ヘスティア・ファミリアは探索系ファミリアとしてギルドに登録されており、既にベルもヒルダも背中にヘスティアの恩恵を刻んでいる。特にベルは数日前からヘスティアファミリアの一員であったが、未だにダンジョンの探索は行っていなかった。

 それは、彼を担当しているアドバイザーが関係しているのだが――とにかく、ダンジョンへ潜った事がないというのは、探索系ファミリアにあるまじき事態であった。

 

「冒険者登録って、どんな感じなのかな」

「えーっと、名前とか所属してるファミリアとかを紙に書いて渡すって感じで……」

 

 ヒルダの質問に、ベルは数日前に行った冒険者登録について振り返りながら答える。神の恩恵(ファルナ)を刻まれるときにも思ったが、もっと仰々しい儀式のようなものを行い登録するのだろうと考えてたせいで、ただ書類を提出するだけの冒険者登録に拍子抜けしたことは記憶に新しい。

 結構普通なんだね、と目を丸くするヒルダにベルは「分かる……」と深く頷いた。冒険者登録は案外普通なのだ。

 

 

 

「冒険者の登録をお願いします」

 

 ギルドの受付嬢であるエイナは、今し方、アドバイザーとして受け持っている冒険者から黒妖精の少女を紹介された。ヒルダと名乗るベルと同年代に見える少女が、見るからに鍛えていなさそうな少女が「冒険者になりたい」と申し出たのである。

 

 これが大手ファミリアの新人であったなら何も気にせず受付できたのだが、少女の所属するファミリアはヘスティア・ファミリア。数日前に発足し、団員も一人という探索系ファミリアのノウハウのノの字もない新参派閥である。

 

 冒険者の多くは力を過信し、その身を破滅に追いやり、二度と帰ってこない。少女よりも年嵩で経験豊富な冒険者たちが物言わぬ骸となって帰ってきた姿を何度も目にしてきたエイナは、少女の言葉に眉を下げる事を止められなかった。

 

  しかし、一介の受付嬢であるエイナに彼等彼女等の意志を覆すことはできない。苦い気持ちを抑え込み、笑みを浮かべて少女に書類を差し出す。

 エイナの信条は「冒険者に冒険させない」である。例え相手がダンジョンに潜り慣れたその道のプロであろうと、口を酸っぱくして注意し、時間の許す限り冒険者たちにダンジョンの危険を教え説いた。

 

 少女を連れてきた少年だって、エイナの「授業」を受けている一人だ。彼は兎に角知識がない。このままではダンジョンに潜った途端、瞬時にモンスターの餌になるだろう、とは受付嬢全員の見解である。だからこそ、エイナは少年が自分のテストに合格するまでダンジョンに潜る事を止めているのだが。

 

「ヒルダさん、ですね。承りました」

 

 少々お待ちください、と言って奥へと引っ込む。冒険者の視線が無くなったと同時に、エイナは形の良いほっそりとした耳を下げ、瞳を伏せた。ベルと同様に、これまたダンジョンに向いてなさそうな子が来たものである。

 

 何で皆冒険者になりたがるのかなぁ、と嘆息する。

 

 エイナは段々と落ちていく気持ちに気づき、仕事中だと喝を入れる。むしろ、ベルと同じファミリアで良かったのかもしれない。ヒルダの担当をエイナがする場合、彼女にもダンジョンで生き残るための知識を一つでも多く教えられる。是非勉強会に参加してもらおう、と決意を新たにするエイナは、少女の登録をするために足を動かした。

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