人間になる魔法   作:青バフ

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軟化の解呪

 

 

「ねぇ、ナトゥーア。いつだったか、私に少しずつ人間らしさが戻ってきていると、そう言っていたね」

 

「ああ、そんなことも言ったな」

 

「私もそう思う。真っ白だった世界に色が戻っていくような――でも、全てが治ったわけじゃない。私にとって世界とは、ごく限られた範囲だけなんだ。皇帝の座も、臣民の幸福も、今の私にとっては、何の価値も持たないものでしかない。こうなる前は、子供なりに色々と考えていたのだけれど」

 

「だから、ライストン公の傀儡に甘んじていても何も感じないと?」

 

「そうさ。彼本人に思うことはあれど、彼の治世で民が苦しむことになろうが、国が亡ぶことになろうが、私にとってはどうでもいい。まあ、彼も優秀な男なのだから、そのようなことにはならないと思うけども」

 

「まさか、お前……」

 

「私がいなくなっても代わりはいる。母も死んでしまった今、私に残された望みはひとつだけだ。きみは魔族だから何の負い目も感じないとは言うけれど、きみが晴れて人間になったとき、その記憶に苛まれることになるかもしれないだろう? 友に人を殺させるのも、大人しく殺されてやるのも、私はまっぴらごめんだ」

 

「決めたよ、私の願いを。ライストン公が皇帝の座を欲しいというのなら、くれてやろう。私を縛る一切のしがらみを捨てて、私もきみと共に帝都を出る。――私を、自由にしてくれ。それが、私の願いだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人戦場を突き進んできたケルンと相対するは、親衛隊の五人と、二体のゴーレム。

 皇帝の失踪という想定外のアクシデントはあったものの、彼らが互いに殺し合う定めにあることは変わらない。

 

「驕ったな。我らを相手に、一人で勝てるとでも思っているのか」

 

 戦力差は歴然だ。人類トップクラスの魔法使いと戦士、そして一流の戦士が三人。それに加え、人類の魔法技術の粋を凝らして造り上げられたゴーレムは一体につき近衛騎士三人分ほどの戦力に数えられるほどの強さを持つ。

 相手次第では大魔族とも正面切って張り合えるような布陣に対し、対するケルンは一人のみ。

 幾らケルンが自分の魔法に自信を持っていようとも、些か以上に分が悪い――そのはずだった。

 

「さて、な……やってみなければ、わかるまい?」

 

 だというのに不遜な態度を崩さないケルンに対し、近衛騎士たちは目配せをしあい、互いの意図を合致させる。

 ケルンの使う魔法は僧侶のそれに加え、正体不明の――おそらく固有の魔法。だが、ケルンはその魔法を使う際、敵に対して手を翳すことで相手を硬直させていた。

 それはつまり視認し、そして正対している相手、もしくは一方向にしか効果を齎せないということではないか。そう近衛騎士たちは仮説を立てたのだ。

 

 つまり取るべき選択肢は散開からの包囲。同時に多方向から攻撃を仕掛ければ一人は行動不能になったとしても、他の騎士や後に控えている二人が痛撃を加えられる。と、彼らはそこまで思考を巡らせたのだが――しかし彼らが動く前に、機先を制したのはケルンの方であった。

 

「『魔法を反転させる魔法(ツァウシュラーゲン)』」

 

 魔法が行使されたものの、目に見えるような変化は起こらなかった。彼らが何が起きたのかを考察する暇もなく――背後の、(おお)きな影が動いた。

 

 

 

 大きな戦に赴く時、その最高指揮官には護衛として二体のゴーレムが帝国より貸与される。これらは二体で一対として運用されることを想定しており、存分に技術、資金、時間が投入されて造られた最高級の代物だ。

 二体ともが成人の三倍――おおよそ5mほどの体躯を有しており、その巨体に見合った弩級の膂力を持っている。

 その一体目は、攻守のうち「守」の役割を担う黒鋼の巨人。随所に鎧のような意匠が見られるそれはしかし、鎧とは違い中身まで隙間なく黒い合金で満たされており、全身に施された魔法的防護と合わされば、鉄壁といっても差し支えない防御力を誇る。

 

 二体目は「攻」を担う白き四腕の巨人だ。その四腕にはそれぞれ曲刀を持っており、特殊な石材を用いることで実現した軽やかな動きから繰り出される四刀の連撃は、並の戦士であれば一秒も持ちこたえることが出来ないだろう。

 戦場において注ぎ込まれた労力に恥じない多大な戦果を齎したこの一対のゴーレムたちを帝国軍部は「鎧」と「刃」のゴーレムという渾名を以て呼称していた。

 そしてこれらも他の戦闘用ゴーレムと同じく、魔法によって行動様式(パターン)が刻み込まれている。

 

 この戦いに臨むにあたって設定された様式は――人間を護り、魔族・魔物を殲滅すること。

 そしてこれもまた、先ほどケルンが結界に行ったように『魔法を反転させる魔法』の効果対象となる――

 

 

 

 その兆しに気付き、意味を理解出来た者と出来なかった者。その違いは生死という形で明白に示された。

 刃のゴーレムの四刀の振り降ろしがファイクと三人の近衛騎士へと降り注ぐ。二人は回避することすらできず、甲冑ごと両断され、一人はすんでのところで気付き、ギリギリで飛びのいた。

 

 そしてファイク。彼を狙った斬撃は確実に彼の正中を捉えていたが――突如としてその軌道は歪められたように曲がり、彼より少し横の地点へと傷を刻む。

 そして返す刀でファイクがその伸び切った腕部を睨みつけると、腕の半ばがまるで渦のように捻じ曲がり、やがて千切れた腕はどしんと音を立てて落ちた。

 

 その横では凄まじい轟音が響いたかと思えば、鎧のゴーレムがハンマーのように組み合わせた両手を隊長へと叩きつけていた。

 しかし驚くべきことに、その両腕は大地へと着くことなく、ある地点で完全に止まっている。隊長がこの圧倒的な質量と膂力の掛け合わせを、交差させた両腕で受け止めていたからだ。

 

 そして数瞬の後、この力と力の拮抗状態は破られることになった。隊長がすぅ、と深く呼吸をすると、彼の五体の隅々にまで気血が満ちる。一回り大きくなったと錯覚するほどに貯めこまれた力の発露によって、みるみるうちに彼はゴーレムの腕を押し返し――

 

「破ッ!」

 

 裂帛の叫びと共に勢いよく押し返されたゴーレムは後ろにたたらを踏み、体勢を崩してしまう。

 そこに飛び上がり、胸部へと渾身の一閃。一筋の刀傷を刻まれたゴーレムはそのままケルンの方へと後ずさり、それに合わせて刃のゴーレムも位置を下げる。

 

「チッ。流石に硬いな」

 

 瞬く間に数の差は同数へと縮まるが、悪い流れは止まらない。

 ファイクの魔力探知に一つ、高速でこちらへと迫り来る魔力の反応が引っかかる。

 

「隊長。何者かがこちらへと近づいて――」

 

 その刹那、巨大な大槌が回転しながらも超高速で隊長へと飛来した。咄嗟に剣を立てて受け止めるも、先ほどとは違い数メートルの軌跡を大地に刻みながらも後退させられる。

 それに少し遅れて、魔力反応の源――武器を投擲してきた魔族が戦場へと襲来する。人間の倍ほどはある巨躯を誇るその魔族の爆発的な踏み込みから繰り出される突進(チャージ)はやはり隊長へと向かい、その結果更に彼は後方へと押し込まれていった。

 

「これも受け止めるか! 面白い、いざ尋常に勝負といこう!」

 

「次から次へと……!」

 

 さらに先程投げた大槌を拾い、流れるような連撃へと移行する。隊長も何とか捌いてはいるが、その目的はどちらかというと彼を殺傷するためのものではなく――この場から彼を引きはがすこと。現に彼らの所から聞こえる甲高い金属音は、段々と離れていくように聞こえた。

 

「ファイク殿、この場は任せる! 必ず皇帝陛下を――」

 

 隊長が残した言葉は途中で戦場の喧騒に埋もれ消えてゆく。これで更なる分断が為されたわけだが、ファイクとしてはそう悪い形ではない。一番の邪魔者がいなくなってくれたわけであり、また馬鹿正直に眼前のケルンの相手をする必要もない。

 彼にとって重要なのはこの戦の行く末ではなく、皇帝を探し出して殺すこと、そしてこの戦場から脱出することだからだ。

 

 故に彼が次に取る行動は――もう一人の邪魔者の排除。

 

「ファイク殿! 指示を……!?」

 

 ファイクは一人残った近衛騎士の肩にぽんと手を乗せると、再び魔法を発動させる。するとあっという間にその首が捩じれ――その先は言うまでもないだろう。首が360°以上回転して生きていられる人間は存在しないのだから。 

 突然の凶行に首を傾げるケルンを尻目に、ファイクは踵を返そうとしてふと気づく。再び、何者かがこの場所へと向かってきていることに。しかもそれは彼にとって覚えのある魔力で、しかしここにいるはずのない人物のもの。

 

「なるほど。ただの傀儡だと思っていましたが、存外と抜け目のない。計画は筒抜けだったというわけですか」

 

 ファイクが吐き捨てる。もはや小心者の皮を被っている必要はない。今戦場に到来した者が彼の予想通りであれば、今日、二人のどちらかが死ぬからだ。

 そして突然、何もなかったはずの空間にそれは現れた。例えるなら、被せられていた透明な布を拭い捨てたように。空間から滲み出るように。

 

「ほっほ……はてさて、どうしたものですかな」

 

 黒髪の老爺にして最年長の宮廷魔法使い、この戦場を彩る最後の役者――ナトゥーアがそこにいた。

 

「これはこれは、ナトゥーア翁ではないですか。こんなところまで、どのような御用で?」

 

「随分な口を利くようになったのぅ。じゃが、今はおぬしに用はない」

 

 そう言って杖の先をケルンへと向けるナトゥーア。彼とファイクはケルンを間に挟むようにして相対していた。

 しかし用はないと言っても、ファイクにとってはそうではない。ナトゥーアがこの場に現れたということは、全ての計画は皇帝に知られていたということ。ならばその居場所を知っているであろうナトゥーアを痛めつけ、それを聞き出す必要があるためだ。

 そしてそのためにはここに留まる必要があり、必然的にケルンとも戦わなければならないことを意味する。

 

 ナトゥーアとしても帝国を去る以上ファイクにこれ以上構う意義はないし、ケルンさえ殺せればそれでよいのだが、向こうからするとそうもいかないのは承知の上。元より潜在的な敵対関係にあったわけで、邪魔をするなら容赦はしない。

 ケルンについては言うまでもあるまい。何やら揉めているようだが彼にとっては無関係。両者とも、人間であり敵であるならば殺すだけ。

 

 つまり、今この戦いは三つ巴の状態にあった。

 

「(空間に作用する魔法に、私でも見破れなかった幻影魔法――)面白い。人間にしては楽しめそうだ」

 

「それは重畳。では、始めましょうか」

 

 ファイクも杖を構え、対面にいる標的へと狙いを定める。その杖先が向けられたのはナトゥーアだが、当然その射線上には間にいるケルンも含まれていた。 

 それを悟ったナトゥーアも嘆息を一つ吐きながら、応戦の構えを取る。互いの杖先がブレるように揺らいでいるが、それは相手にどこを撃つかを悟らせないための動作。

 ちょっとした視線の動き、魔力の機微、それら全てが駆け引きのための道具。だが、様子の探り合いは長くは続かない。

 

 どちらの杖からか放たれた一筋の光条を皮切りに、射撃戦が始まった。

 

 

 火球に風の刃、石礫に稲妻、光の矢。

 しきりに飛び交う火線の中心地にあって、ケルンは前後に壁のように展開した防御魔法の中で見に徹していた。

 よほど瞬時かつピンポイントに展開しない限り、魔法戦において防御魔法の魔力消費量は攻撃に費やされるそれよりも燃費が悪いというのが基本だ。 

 本来なら悪手であるはずのそれを可能にしているのは、三者の中でも飛びぬけているケルンの魔力量。

 才能によって多少の上下はあるが、個人の魔力量はその人物が魔法の研鑽に費やした年数に比例する。この中で最も長く生きているケルンが魔力量において一日の長があるのは当然ともいえた。

 

 ゴーレムたちもこの魔法が降り注ぐ中において、それぞれの手段で攻撃を防ぐ。鎧のゴーレムはただ立っているだけで小揺るぎもせず、刃のゴーレムはそんな鎧の後ろに身を置きながら、前面は己の腕部に埋め込まれた魔道具から展開される防御魔法を以て身を守っていた。

 

 ではファイクはどうか。彼もまた魔法の射撃戦においては絶対的な有利を握れる要素を持っている。そう、『空間を捻じ曲げる魔法(ラウムツェーレン)』である。彼に飛んできた魔法はある一定の地点で大きく軌道を逸らし、本人には掠る気配さえも見えない。その証左として彼の周囲の地面にすら、傷の一つもついていなかった。

 

「(面倒な奴らばかりだな)」

 

 そう内心ひとりごちたナトゥーアは、次々と飛来する魔法を的確に防御していく。常人とはかけ離れた技巧なのは間違いないが、それでもこのままではガス欠になるのはこちらであると彼は理解していた。

 しかしそれだけでは終わらないのがこの男。ファイクが一芸に特化した魔法使いなら、彼は究極の万能型。遠近両方での戦いを一流以上にこなし、己の目的を追求する過程で数多くの魔法を修めている。

 

「では、次の一手と行きましょうかの」

 

 ナトゥーアが杖で地面を小突くと、一塊の岩が宙に浮きあがり周囲の小石や岩片を吸引する。やがてそれらは人の形を象り、二体の人間大の岩人形が地面に降り立った。相手側のゴーレムとは比べるべくもないが、かかっているリソースが違いすぎる。術者の多少の力量差でどうにかできる領域ではなかった。

 だが速度だけは一端のもの。術者が直接操作している故の機敏な動きで、一体ずつに別れ敵対者へと襲い掛かる。

 

 そして驚くべきは、一連のゴーレムの生成、操作をこなしながらも射撃戦に充てる手は一切緩んでいないこと。

 尤もこれは本人にとっても予想外だったようで――

 

「(なんだ……? 不思議なほどに頭が冴える。眼前の撃ち合いに集中しながらも、戦場を俯瞰するかのように把握できる。まるで、自分が二人いる(・・・・・・・)かのような――)」

 

 そんな中、ナトゥーアは己の背後より迫り来る魔法に気付き、すんでのところで防御に成功する。他の何者かが不意打ちを行ったわけではない。これはファイクの魔法の応用――歪曲させた空間に自分の魔法を通すことで、軌道を大きく曲げたのだ。

 結果としてその魔法は大きなカーブを描いて、右後方よりナトゥーアの肩口を穿つはず……で、あった。

 

「(いつもの俺なら、今のは喰らっていた……)味な真似をしてくれますな、ファイク殿。このような小細工が通用するとお思いですかな?」

 

「……今のを防ぐとは。老いてますます盛んというところですか? それとも実力を隠されていましたか」

 

「口だけは達者ですな。もうじき永遠に閉じることになるのじゃから、存分に話しておくとよろしい」

 

 舌戦を繰り広げる間にも岩のゴーレム達は踊るようにして攻撃を避けながら進んでいく。無論全てを避け切れているわけではないが、ゴーレムには血も痛覚もない。致命的な損傷さえ回避すれば問題なく行動可能だ。

 ゴーレム達は敵の近くまでは辿り着いたものの、所詮は即席の小型ゴーレム。鎧袖一触で蹴散らされるのが関の山だが、それこそが彼の狙いだった。

 

 ケルンの元へ向かった方は、傍に控えていた刃のゴーレムの一閃で叩き潰され。ファイクの元へと向かった方は、空間ごと首から上を捩り飛ばされる。だが、その瞬間――爆音と衝撃と共に、ゴーレムの体躯が弾け飛ぶ。

 

「「!!」」

 

 ナトゥーアはゴーレムの機能停止、もしくは一定時間の経過とともに爆発魔法が発動するように術式を仕込んでいた。そしてその爆発により、ゴーレムを構成している小石や岩片が飛散することで周辺に多大な損害を齎す。

 彼はこの魔法の組み合わせを歩く手榴弾と呼んで、好んで使用していた。

 

 ただ、このレベルの相手ならば咄嗟に防御を展開できる可能性の方が高い。彼の目的はそこよりも、衝撃と対応に割かれる意識の間隙を突くこと。爆発で土煙が上がった数秒間、彼は幻影魔法により自らの偽物を元居た地点に設置し、速やかに動き出した。

 

「……もういい。大体わかった」

 

 ケルンの声が響く。やはり殺せなかったばかりか、痛痒のひとつも感じていないようであった。

 だがそんなことは関係ない。直接首を刈れば、それでお終いなのだから。そうしてナトゥーアは、ケルンの元へと駆けた。

 設置した己の幻影を囮に、背後側へと回り込む。鎧のゴーレムがその方角を守っているが、ナトゥーアの速力ならば躱すことは可能。難なく股の間を抜けたナトゥーアは、杖の先から鎌のような刃を形成し――戦場を冷静に俯瞰していたもう一人の自分が、ふと思う。

 

「(なぜファイクはケルンに接近しなかった? 奴の守りが防御魔法だけならば、空間ごと歪めて一捻りに出来たはず。そうしなかったということは、何か理由があるのか?)」

 

 ファイクはケルンの手の内をある程度見ることが出来ていた。不可視の力場を叩きつける魔法。兵士たちを固まらせた魔法。それらの存在を知っていたからこそ、迂闊にケルンの射程距離内と思われる範囲へと侵入しなかったのだ。

 

 だがナトゥーアは、それを知らない。

 

 ケルンが唐突に振り向く。前方にある偽物には目もくれずに。彼は既にナトゥーアの幻影魔法を看破していて――

 

「(これは――まずい!)」 

 

 こちらに翳された手に何かを感じ取ったナトゥーアは己の肉体に強引に急ブレーキを掛ける。筋繊維が何本かぷちぷちと千切れる感覚を味わい、彼が踵を返したころには――その魔法(のろい)は既に行使されていた。

 

「『軟化の解呪(石化させる呪い)』」

 

 そして間髪入れず、ファイクの方へと向き直ったケルンは次の魔法を行使する。三つの槍の如き光弾を放つ『女神の三槍』だ。しかしその手の魔法はファイクに対しては無力。今回も光の槍は彼を前にして明後日の方向へ飛んでいく。

 

 そのはずだった。

 

「『魔法を反転させる魔法』」

 

 光の槍がファイクの展開している歪曲障壁に接する直前。空間の歪みがまるで逆再生したかのように綺麗に消え去った。

 

「――!?」

 

 当然、槍は障壁を素通りしてファイクの元へと到達することになる。彼も咄嗟に身をよじるが、そのうち一つを躱し切れずに脇腹に浅くない傷を負わされた。

 

 一方、ナトゥーアはというと――左腕。その肘から先が、なくなっていた。

 ケルンの放った魔法は石化の呪いを解呪するもの。それを反転させるということは、対象を石化させる呪いに転じるが道理。寸前で踵を返したことで全身に呪いを被ることを免れた彼はしかし、最後に射程圏内に残っていた左手に呪いを受ける。

 みるみるうちに石化していく左手を見たナトゥーアは即座に肘から先を切り落とす決断を下し、今に至るというわけだ。

 

「くっ……」

 

「(こりゃあ想像以上……だが、奴の魔法がなんなのか、やっと掴むことが出来た)」

 

「それで終わりか? もっとだ――見せてみろ、私の知らない魔法を。未だ解けぬ難題を、私に示してみろ」

 

 三者並び立つ戦場に、未だに欠けはなく。しかし一人だけが、無傷で悠然と立っていた。

 全知に死を予見された男――その未来に陰りは、まだ見えない。

 

 




 今回ちょっと出てきた魔族の将軍ですが、彼も大体200年ものくらいですかね。『武器を手元に戻す魔法』を使って武器投げまくって戦う感じです。磁力的なものを放ってすでにぶん投げた武器が戻ってくるイメージ。
 まあ今度出てくることはないので決めてませんが、多分隊長とタイマンした末に負けて死ぬことになるかと思います。相応には強いのでたっぷり時間は使わせてくれるでしょう。
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