人間になる魔法   作:青バフ

5 / 14
遅れました。


花畑を出す魔法

 

「……本当に行っちゃうの?」

 

「うん。俺は世界を知って、もっと強くなって――今度こそ大事な人を守れるようになりたいんだ」

 

 魔族の村への襲撃から五年。

 生き残りが集まり村を再編成したものの、纏め役や働き手である男が殆ど死んでしまったため、やはり村の存続は不可能と判断された。

 なので生き残った面々は村を捨て、一番近くの城塞都市へと戻ることになったのだ。……俺以外は。

 

 俺はというと、彼らとは別れ旅に出ることにした。その目的は魔法の探求だ。

 俺が暮らしていた村はこの大陸の南端近くの国に位置していたようで、魔法の本場はここではなく、大陸中央よりその版図を大きく広げている統一帝国にあるらしい。

 

 人類魔法の開祖と呼ばれるフランメという人物が現れるまで、魔法は禁忌の技術とされ才ある者たちに細々と伝承されていくものでしかなかった。――ちょうど師匠のような。

 ところが彼女が統一帝国の皇帝に働きかけたことで、魔法の研究は公に認められるものとなった。

 当然、魔法がまず何に使われるかというと軍事転用になる。それを黙って見ているわけにはいかない周辺諸国も、次々と魔法を解禁していく運びとなったのだ。

 

 フランメが没してから五十年程が経ったとはいえ、俺が暮らしていた国ではまだまだその手の政策は遅れているらしく、魔法の存在は公認されたものの国を挙げての研究はまだ遅々として進んでいないのが現状だ。

 

 魔法の本場とはいえ、なぜわざわざ帝国くんだりまで足を運ぶのか。まず一つは、まあ単純に魔法の研究が楽しいからである。好きなことをより極めようとするのは然程おかしいことではないだろう。

 そして二つ。これがメインなのだが、探すためだ。この身体になったときに失ったもの、人間性とでも言うべきか、それを取り戻すための魔法。言うなれば――

 

 

 『人間になる魔法』を。

 

 

「それじゃあ、そろそろ行くよ。」

 

 旅出を見送る村のおばさま方は、心配そうにこちらを見つめていた。彼女たちの中では俺は未だ、両親を亡くして泣きじゃくっていた子供の面影が色濃く残っているのだろう。

 だが今はもう、そうではない。この五年間魔法を学び、力をつけてきた。自惚れでなければかつての師匠に並ぶ程度には強くなったという自負がある。

 易しい旅路にはならないだろうが、それなりにはやれるはずだ。

 

 さあ出発だ。目指すは北方、帝国へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅立ちから一年。

 まだまだ帝国までの道のりは長い。正確には国境までは結構近くに来ているのだが、中央部にある首都は未だ遠かった。

 魔王軍がイケイケなこのご時世、人類の勢力圏の外を旅するのは危険だと散々言われていたが、どうやら本当にそうらしい。

 

 何度も魔族や魔物に遭遇することもあったし、実際に死にかけたことも割とあった。

 魔族相手なら騙し討ちでなんとかなることもあったが、勘づく奴もいたし、魔物はそもそも話など通じない。予め情報を仕入れて動きが活発な区域は避けて進んでいるのにこれだ。正直ちょっとしんどい。

 とはいえ実戦を経て俺も結構強くなった気はする。幻覚魔法も魔族相手でも見破られることはほぼなくなったし。

 

 魔族と言えばなのだが、やはり魔族は人間よりも遥かに魔法の扱いに長けているようだ。

 飛行魔法や服や武具などの物質創造など、自分では当たり前に出来ると思っていたことはどうも人間にはできないらしい。

 ならば自分で魔法の研究をしたほうが早いのではないかとも思ったのだが、やはり数の力というのは侮れないもので。

 

 この世には数多の魔法が存在するわけだが、当然ながらその中の結構な数は人類が考え、作り出した魔法なわけである。それを言うなら魔族もその数だけ各々自分の魔法を持っているのだろうが、彼らにはそれを共有して体系化しようという考えはない。

 いくら魔族が優れていても、これではいつか追いつかれる日が来るのでは、と思わないでもないが、少なくともその時は今ではないようだ。

 

 まあそんなわけで、人類の偉大なる集合知の力に自分も一つあやかってみようということだ。

 だが、何のかんの言って今俺に必要なのはそこにたどり着く路銀である。

 今日も今日とて掲示されている依頼の紙を引っぺがし、仕事に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅立ちから二年。

 やっと帝国領内に入った。やはり魔王軍としても人類勢力の最大国家であるこの国を潰したいと考えているのか、国境付近は地獄のような様相だった。

 それと、魔族との戦いの最前線でもあるからだろうが、明らかに魔法使いが多いし、国外と比べて質も高い人が増えた。明確に魔法の研究や普及が進んでいるのを感じる。あと国力の違いも。

 

 聞く話によれば中央付近の大都市では魔法学院なるものも開かれているそうだ。

 在野の魔法使いを拾い上げるだけでなく、下からも裾野を広げようという試みなのだろうが、今のところあまり惹かれるものはないのが実情だ。

 やはりより多くの、高度な魔法を知るためには帝国内でも上の立場に行かなければならない。

 

 となると、仕官して実力を示すことでのし上がるのが一番手っ取り早いか。正直今でも魔法使いの中ではそこそこ上のほうにいるとは思う。だが、おそらく帝国の宮廷お抱え魔法使い達は人類の中でも上澄みの部類にあることはまず間違いない。

 目的を果たすにはもっと強くならねば。幸いここは魔族との戦争の最前線、戦う相手には事欠かない。

 

 あと三年くらいかは鍛錬と実戦に充てて、実力の底上げを図ることにする。それにメチャクチャ危険な仕事だからか、実入りもかなりいい。

 三年も生き残れば家くらいは買えるのではなかろうか。あとはそう、バケモノみたいに強い魔法使い相手であれば、俺の魔法による擬態も見破られる危険性もある。

 そのへんも鍛えておかなければなるまい。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えばあの村を出てからもう六年が経つ。

 長い旅路、そして幾度の修羅場を潜り抜け、遂に帝都の敷居を跨ぐ時が来た。

 今まで見てきたどのような街よりも発展していて、流石は世界最大国の首都といったところだ。

 しかし一通り帝都を見て回って思ったのだが、なんというか良くも悪くも平和ボケしているような空気を感じた。

 とはいえそれは今に始まったことではなく、戦線から離れ内地へと近づくにつれてこの感じは強まってはいた。

 

 おそらくは魔族の侵攻をほぼ完全に国境付近で堰き止められているからなのだろう。たまに防衛線をくぐり抜け内側で暴れる魔族もいるにはいるのだが、それは外れ値でしかないし、ましてや帝都まで来ることはまずない。

 何せ魔族の相手をしながら版図を広げる余裕があるほどなのだ、そりゃあ平和ボケした空気も流れるだろう。

 

 ただ侵攻を止められているとはいっても、前線は依然予断を許さない状況であるのは間違いない。

 日々、人がゴミのように死んでいく地獄のような有様だ。しかも最前線となる国境付近は当然、最近まで他国だった併合された土地である。

 侵略されて併合されたと思ったら、今度は魔族との戦争の最前線に放り込まれるというわけだ。

 実際に国境から中央まで旅をしてきた上での所感だが、帝国中央部と国境近くの地方との軋轢はかなり強まっているように感じる。

 

 ここまでだらだらと述べたわけだが、この一種の緩んだ空気感が流れているのは民間の話であって、軍部や国の上層部はまた別の話である。

 当然のことながら、国の上層部はこの現状を理解しているし、毎日のように戦力を派遣してもいる。そもそも地方の戦力だけで戦線の維持など土台無理な話なのだ。

 

 で、なぜそんなことを知っているかというと、俺が既に仕官して軍に所属しているからだ。

 最前線でバリバリやってた頃はそこそこ名が売れていたもので、向こうの指揮官に紹介状をしたためてもらい、結構な特別待遇での加入と相成った。まあ現代で例えるとキャリア組みたいなもんか。ちょっと違うような気はするが。

 

 三年間で稼いだ金で一等地に家も借り、今のところは万事順調だ。この調子で目当ての魔法もすぐに見つかってくれるといいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――― 

 

 

 

 

 

 

 

 美しく切り揃えられた大理石の廊下に、規則正しいリズムで足音が響く。

 広々とした道の中央を堂々と歩く男の胸には、銀に煌めく徽章(バッジ)が光っていた――まあ、その男とは俺のことなのだが。

 ところで胸で光るコレは何なのかというと、聖杖徽章と呼ばれている帝国における最高位の魔法使いであることを示す証である。正式名称はもっと長くて堅苦しい名前だったが、今は置いておこう。

 

 帝国において宮廷魔法使いになるためには、超高難度の試験を突破するか、それに匹敵する実績を打ち立てることでこの聖杖徽章を得ることが暗黙の了解になっている。で、それを俺が持っているということは、まあそういうことだ。

 そんなわけで偉大なる統一帝国の宮廷魔法使いの末席に加わってから三年が経った。

 時が流れるのは早いもので、帝都にて仕官してから宮廷入りするまでに十一年ほどかかったわけなのだが、つまりは村を出てから二十年、ひいてはこの世界に降り立ってから二十五年もの時が経っている、ということだ。

 

 いつの間にやら結構な時間が経っていたが、今もやることは大して変わっていない。戦場に行っては戦い、魔法の研鑽に励む。まぁ偶に他の任務も混じったりはするが、そこは今は置いておく。

 では何が変わったかというと、質だ。

 

 同僚たちとの共同研究は一人で研究に打ち込むよりも遥かに捗るし、人類が集積した魔法に関する情報をほぼ全て閲覧できるこの環境も申し分ない。流石は人類最高峰の魔法使い達というべきか、今の俺よりも高みにいるような者たちもちらほらいる。数百年生きたような魔族ともやりあえそうな化け物みたいな人も少ないながらいるし。

 

 で、今は何をしているのかというと、研究で根を詰めすぎたもので気分転換のために外に出ようとしているところだ。

 今俺が歩いているだだっ広い廊下は魔導省本部――魔導省というのは簡潔に言えば帝国直轄の魔法の研究機関だ――の中庭へと繋がっている通路である。

 上のほうまで上り詰めた魔法使いは大体ココか軍へ回される。あとは宮廷でアレコレやっている奴らだろうか。

 ともあれ、何事もなく中庭へと辿り着いたわけだが――

 

「……ん?」

 

 誰かいる。見覚えのない人影。

 

 帝城に隣接する形で設置されているこの施設のセキュリティのレベルは、城と同じく最高クラス。国家機密や帝国の英知と呼べるものがぎっしりと詰まっているのだから当然と言えよう。当たり前だが許可なく立ち入ることも出来ない。

 城のほうとは違って頻繁に来賓などが来るわけでもないので、ここにいるのは必然的に見知った顔ばかりになるはずなのだが……

 

 その人影――ここからは彼女と呼ぼう。彼女は長い銀髪を蓄えた小柄な少女のように見えた。その彼女は中庭の中央にある像と石碑の前で何やら思いを巡らせているようで、まだこちらには気付いていない様子だ。

 見つけてしまった以上、声をかけないというわけにはいかない。杖を体の後ろに隠し、いつでも仕掛けられるように近づいていく。

 

「失礼」

 

 こちらの声に気付いてか、彼女が振り返る。やはりその顔に見覚えはない。少なくとも同僚ではないし、帝国で顔の売れた魔法使いや冒険者でもない。だが、感じ取れる魔力は彼女が手練れの魔法使いだということを示していた。

 

「ご存じだと思いますが、ここは部外者の出入りは厳禁。差し支えなければどなた様か伺っても?」

 

「……別に物騒なことをするつもりはないよ。私の名前はフリーレン。この人(フランメ)の――」

 

 そう言いながら彼女は、先ほどまで見つめていた像を指さし、告げた。

 

「弟子だよ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。