人間になる魔法   作:青バフ

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 皇帝を巡る宮廷闘争を時系列順に書くと

 先帝(現皇帝の祖父)の時代、息子がいまいち頼りないので息子が30になるぐらいまで皇帝を務めており、流石にそろそろ継承しようとなったのだが、皇位継承を目前にして息子が事故死。
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 となると次の皇帝は孫(現皇帝)になるが、流石に幼すぎるためあと5年くらいは務めようとする。
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 が、次期皇帝の死によって野心がムクムクしてきたライストン公に孫と義娘諸共毒を盛られて先帝が死亡。
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 母方の家系の特異体質のおかげで辛うじて毒に耐えた親子だが、母は半身不随に、息子は脳にダメージが行ってああなる。
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 動けない母をライストン家に取られ、人質にされて今に至る。

 こんな感じですかね~。



未来を見通す魔法

 

 とある日の昼下がり。俺とヴァルは、城内の一室にてティータイムと洒落込んでいた。

 ちなみにヴァルというのは皇帝を指すあだ名である。フルネームがあんまりにも長いのでその一部――ヴァルフリートから取ってヴァルと呼んでいるわけだ。

 

「なぁヴァル、ちょっと思ったんだが」

 

「なんだい?」

 

「どうしてライストン公の言いなりになってるんだ?」

 

 これは以前から思っていたことだ。いくらヴァルが望まれたように振る舞うことしかできないとしても、別にライストン公に従い続ける義理はない。民草が望むような賢帝を演じることも、ヴァルには容易いだろう。かれこれ三年ほど教育係としてもやってきたわけだが、こいつは異様なほどに賢い。

 十二歳にして教えることはほぼないし、政務も平然とこなしているほどだ。公務に出ることが多くなったことで言葉遣いも堅くなり、小さい背丈以外は最早大人と変わらない。

 

「ああ、言ってなかったかな。そうだな……私の母親の話はどこかで聞いているだろう」

 

「あー、確か……病気で療養中って聞いたはずだな」

 

 ヴァルの母親――つまりは先帝の息子の妻ということになる。そもそもなぜヴァルが皇帝になったかというと、即位を目前に控えた父親が不慮の事故により亡くなったことで、皇位継承権が急遽繰り上げになったことにある。

 本来はこいつが成人するまで先帝、つまり祖父が皇帝を続ける腹積もりだったようだが、息子の死に続くように先帝も亡くなってしまったことにより現状に至っているわけだ。

 

 で、話を本筋に戻すと、ヴァルの母親は夫と義理の父の矢継ぎ早に亡くしたことで心が弱り、今は病床に伏せているということになっていたはずだ。

 実際にこの三年間、彼女が公の場に姿を見せたことはない。流石に療養している場所までは分からないが……そういうことか。

 

「まあ、そうだね。療養中というのは間違ってないけど、その場所が問題なんだ」

 

「人質ってわけか?」

 

「流石に話が早いね。そう、今私の母親の身柄はライストン家の領内に置かれている」

 

 なるほど、大筋としては理解できた。しかし、不幸が続いたとはいえ心労だけで三年も顔を見せられないような大病を患うものなのだろうか?

 

「ふぅん……ここまでの一連の流れ、ライストン公にとって都合が良すぎないか?」

 

「先帝の死について色々と言われているのは君も知っているだろ? 私はそれが嘘じゃないと確信している。母は祖父の死を境に体を悪くしたように話が出回っているけれど、実際はそうじゃない。祖父と母親が倒れたのはほぼ同時。そしてその時――私も生死の境を彷徨っていたんだ」

 

 つまるところ、先帝の死はライストン公の謀略によるものであり、本来であればその魔手はヴァルとその母親まで伸びていたということだろう。何の因果か母子は辛くも生き延びたが、今度はさらにそれを利用されているわけだ。

 

「ヴァルまで死んでしまったら本末転倒じゃないのか? 本人が皇帝になれるわけじゃあるまいに」

 

「いや、皇位継承権上位に彼の甥がいるんだ。それに、彼ほどの力があるなら、他の継承者の弱みの一つや二つ、容易く握れるだろう。私は替えの利く使い勝手のいい駒でしかないということさ」

 

「しっかし、暗殺ね……毒かなんかか?」

 

 そう問いかけると、ヴァルは是と返す。彼が推察するところには相当な遅効性の毒。それも複数のものを調合して作られた、魔法薬に近い代物だろうという。

 身をもって味わったからね、と笑いながら零していたが、彼にしては珍しく、胸の奥に思うところがあるようだった。

 

 しかし帝国もバカではない。皇帝が不審な状況で何の前触れもなく死んだならば、まず毒殺が疑われるだろう。当然、魔法的な手段を含めた綿密な検死が行われるはず。それをすり抜けたということは――相当な実力、それこそ宮廷最上位レベルの魔法使いの助力があったか、もしくは検死班に息のかかった者がいたか。そのあたりだろう。無論両方もありうる。

 

「三人ともがほぼ同時に倒れたことからして、食事か何かに混ぜられていたんだろうね。祖父は死んだけれど、私と母は生まれつき耐性でもあったのか、数日間生死の境を彷徨うだけで済んだ。目覚めたとき、母は半身麻痺で寝たきりに、そして私はこう(・・)なっていたわけさ」

 

「……憎くはないのか? ここまでのことをされて」

 

「憎い、というのは少し違うかな。無論いい感情は抱いてないけどさ。そういった強い衝動が分からなくなっちゃったからね。……でも、今はちょっと違うかも」

 

 憎しみというものをああ(・・)なる前に感じたことがないからわからないけれど、と前置きしつつヴァルは続ける。

 三年間付き合いを続けてきて分かったが、ほんの少しずつ、こいつの表情が豊かになってきている気がする。

 こいつの心の欠落が薬毒の後遺症によるものなのだとしたら、図らずとも俺との交流がリハビリのような役割を果たしていたのかもしれないな。

 

「胸の奥で何か小さくて黒いものが燻っているような感じだ……私も少しは、人間らしさが戻ってきているのかもしれないな。きみを置いていくようで、どこか後ろめたいけども」

 

「そう思えてる時点で上等だよ。それとも、それも演技だったりするのか?」

 

「ふふ。さあ、どうだろうね? さて、暗い話はここらへんにしておこうか――」

 

 この平穏が長く続けばいいのだが。遠からず何かが起こる気がしてならないような予感を、俺は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれからまた三年が経った。

 もうヴァルも十五歳、成人というわけではないにしろ、もう一人前としてみなされる歳だ。

 それはさておき、今俺は帝都にはいない。今俺は、十年に一度の大仕事の最中だった。

 

 その大仕事とは、帝国の国防の中核にして、宮廷魔法の最高傑作、隔絶大結界の維持管理だ。 

 大仕事とかなんとか吹かしてみたが、実際のところはただの定期メンテみたいなものである。実際超重要な役目であるのは間違いないが。

 

 今帝国内に貼られている大結界は二つ。一つは帝都を中心とした帝国中核部を覆う結界。これはフランメとその指導を直接受けた、初代宮廷魔法使い達によって作られたものである。もう一つは帝国外縁部に貼られたものだ。

こちらは五十年前、帝国の版図拡大に合わせられる形で当代の宮廷魔法使い達によって作られた。まぁ、そこからさらにまた領土が広がっているので、国境部分は相変わらず地獄なのだが。

 

 で、隔絶大結界なんていう大層な名前が付けられているだけあって、この結界は滅茶苦茶に堅牢だ。

 俺も最初、帝国の国土を踏もうとしたときに色々と苦労した。最終的に正攻法では抜けないと分かったので少しばかり特殊な手段を使ったが、恐らく今でも単独でのまともな突破は無理だろう。

 

 宮廷魔法使いになってからは作る側に回ったので、ちょっとした抜け穴(バックドア)を仕込ませてもらっている。特定の魔力の波長を持つ者――要するに俺の事だ――だけを素通しするように。

 

 今は先ほど言った一つ目の結界の調整が終わったところだ。十年おきのこの時期になると宮廷魔法使いの多くがこの仕事に駆り出され、帝都から各地方に散るように出立する。そうして各所で結界の調整、改良、あるいは綻びがないかの確認などをして戻ってくるというわけだ。

 

 とはいえ何もしなくても千年は持つように作られているわけで、やることといえば改良案を考えておいて帝都に持ち帰るくらいである。それもここ最近は完成されすぎていて弄る場所もない。

 よっぽどの何かがない限りこの結界が破られることもないだろう。さっさと終わらせて帝都に戻りたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナトゥーアが帝都を出ているのと同時期。

 

 とある一人の魔族の男が、帝国外縁部の大結界の傍らに佇んでいた。

 緑髪を長く垂らしたその髪を掻き分けるように直立する二本の角に、魔族の例に洩れず端正な顔立ち。

 そして今こそ隠してはいるが、その身の内には長大な年月を生きた魔族の証である膨大な魔力を秘めている。

 

 彼はただ見ていた。壁のようにそびえたつ結界の外面ではなく、それを構成する魔法の術式を。

 そうした何分か経っただろうか、彼はひとつ頷いて、踵を返す。その足元には、警備にあたっていたであろう兵士たちの死骸がいくつも転がっていた。

 

 

 

 

 

「今、戻った」

 

「ケルンか。首尾はどうだ?」

 

 僻地にあるとある廃墟。そこで顔を合わせたのは緑髪の魔族――ケルンと呼ばれている――と、もう一人。その者は角だけを外に突き出したフードを被り、黒のフェイスマスクで口元までを覆っていた。

 

「態々聞かなくても、お前には視えている(・・・・・)だろう」

 

「いや、そうでもない。他者の未来は未だ断片的にしか見ることが出来ないからな」

 

「……上々だ。露見されるのを防ぐために試しはしなかったが。そちらは?」

 

「ああ。一年後、人間の中で一番位の高い者――皇帝が結界の外に出るのが視えた。大軍を引き連れてな」

 

 魔力が階級を決める魔族の規範の下で、二人は対等であるかのように話す。それはこのフードの魔族も緑髪の魔族と同程度の魔力を有していることの裏付けであった。

 まるで未来が分かっているかのように話すフードの魔族に、ケルンが疑問を挟むことはない。それが正しいことを、彼は理解しているゆえに。

 

「ではそいつを殺せば、人間たちは混乱するか?」

 

「そうだな。皇帝が死んだ未来は幾つか見えたことがあるが、その殆どが悪い方向に作用していた」

 

「ふむ――では、動くのはその時だな。未来が変わってはたまらん」

 

「……ケルン」

 

「なんだ?」

 

 フードの魔族は相手の名を呼んだきり、そこで黙り込んでしまう。その瞳の奥には数多くの思索が渦巻いていたが、結局それが言葉になって外へ出ることはなかった。

 訝しむケルンになんでもないと煙に巻いて、誤魔化すように別の言葉を続ける。

 

「では、私は行かなければ。このことを各地方の奴らに伝えておかなくてはならん。……答えはもう分かっているがな」

 

「ああ。また会おう……一年後に生きていたらな。――シュラハト」

 

 シュラハトと呼ばれたフードの魔族は、投げかけられた言葉に振り返ることなく答える。

 

「それも、もう聞いた」

 

 

 

 

 

 シュラハトは、忙しなさそうに木々の間を縫って飛行していた。というより、実際に忙しい。彼はこれから各地方を奔走し、そこの魔族たちとの間を取り持ち、作戦の指揮に取り掛からねばならなかったからである。そう、一年後に控える大攻勢。統一帝国の牙城を崩すための重要な作戦――帝国の防衛ライン、ひいては大結界の攻略を。

 

 しかし、彼にとってこれから何が起こるかというのは未知の情報ではない。この仕事だって予見した未来をなぞっているだけにすぎないのだ。

 

 ――一年後における魔族の大攻勢は成功に終わる。外縁部の大結界は無力化され、人類の防衛ラインは大幅に押し込まれることになるだろう。

 しかし。ケルンと呼ばれた魔族が、戦場から帰ってくることはなかった。

 

 彼には視えていた。ケルンが戦場で屍を晒している姿が。

 

 彼には視えていた。彼が垣間見た遠い未来で、ケルンと呼ばれる魔族はそこにはいなかったことを。

 

 彼は理解していた。その遠い未来へと至る最善の道程(ルート)を辿るためには、ケルンの存在は邪魔であることを。

 

 故に――見捨てた。ただ一言、忠告すれば救えたかもしれない命を。それなりに長い付き合いがあった男を。

 

 

 後にシュラハトはこの大規模作戦の指揮を執ったこと、その固有魔法の有用性から魔王より目をかけられることになる。

 年月を経て、彼が己の魔法の深奥に近づくにつれ、彼はより遠くの未来を、枝分かれした未来を見通していく。

 その底知れぬ慧智を恐れ、後の人類はかの魔族のことをこう呼んだ。

 

 『全知』のシュラハト、と。

 

 

 




 シュラハトの魔法についてどこまで見れるかの個人的な解釈

・自分にまつわる未来が見える
・直接対面した人物の未来が見える
・本来の未来(予知で見た通りの未来)から逸脱した場合の枝分かれした未来も見える
・本来の未来から大きく掛け離れる、あるいは遠い未来を見ようとするほどにより深い魔法への理解を要する
・未来を見ている間の体感時間は圧縮されているが決して0にはならない

こんなもんですかね。枝分かれする並行世界を樹形図に見立てて、より遠くの世界線を見ようとするにつれ要求レベルが上がる感じです。
この時点でのシュラハトはまだ若いので(それでも200歳くらいはある)自分の魔法を完全に扱い切れてないようですね。

そして仰々しく出てきましたがシュラハトさんは恐らく今後直接登場することはないです。
理由は二つありまして、一つは未来予知を本筋にしっかり絡めても自分は扱い切れる気がしないこと、原作でのシュラハトの目的が一切分からないし当分明かされなさそうなので、後で矛盾が起きても困るからですね。

作中的に主人公に絡んでこないのは、この後主人公はシュラハトが死ぬまで表舞台に出て大っぴらに活躍しないので、捕捉できないためです。マハトやソリテールの未来を見れば存在は認知できますが、顔や名前を変えて各地を渡ってるのでシュラハトが生きている間に個人を特定するに至りません。
あと主人公が世界に影響を及ぼすレベルのどでかいことをするわけではないので血眼になって探すほどの価値がないのもあります。
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