____私の
友人たちがその中で焼けただれていく中、私だけはヒーローたちに助けられた。
どうせなら彼らとともに死にたかったと、幾度となく考えた。
けれど私の脳には、"あの男"の顔がこびりついていた。
"必ず、迎えに行こう"そういって気味の悪い笑い声で笑う、あの魔王。
顔も名前も足取りも、その一切をいまだにつかむことすらできていないその男を。
私はいつか、殺してみせると、そう誓ったのだ。
私に残されたのは、もはやそれだけなのだから。
♢
静岡県某所、海浜公園。ただでさえゴミだらけ、なおかつ日すら上らない朝早くに、巨大な冷蔵庫を引きずり回す少年がいた。
「ふぬぬぬん──ーっ!!!!」
名を緑谷出久。つい最近まで無個性だった、しかしとあるきっかけでナンバーワンヒーロー、オールマイトから個性を受け継いだ少年である。
しかし後継者となったとはいえつい最近までは普通の中学生であった彼。その肉体ではオールマイトの個性、
故に彼はこうして肉体を鍛えるべく海浜公園を走り回っているのだ。
「っっっ────...ぶはぁっ! はぁ...はぁ...」
しかし彼は焦っていたトレーニングを始めて1か月ほど、いまだにこの冷蔵庫すら動かすことのできない自分に、ふがいなさを感じていた。
オールマイトから個性を託された自分が、こんな体たらくでよいのだろうか、と。
そのため彼はオールマイトから禁止されていたプラン外のトレーニングをしていた。
「...全然、だめだ...もっと早く鍛えなきゃいけないのに...!」
全く動かない体に苛立ちを覚え、寝そべった状態のまま叫ぶ。
しかしそんなことをしたところで意味はない。彼が再びトレーニングを続けようとした所に。
「お~~~~い。だれかぁ~~~~。」
「もっと頑張らなきゃ...えっ?」
ゴミが大量に流れつくこの海岸に、また新たなゴミが流れ着いていた。
しかしそれは他と比べて少し...いや、かなり違う様相であった。
「だれかここからだしてくれよーぅ~~~~。」
「い、いま助けます!!!」
そう、なんとゴミから...正確には、古びたドラム缶から足が生えていたのだ。
♢
「いやぁ助かったよ。危うくつまらない自殺で点に召されてしまうところだった。感謝しているよ、少年。」
「自、自殺...? まあともかく、無事そうでよかったです...。」
慌ててドラム缶を回収し、その中から生えている足を引っ張って引っこ抜くと、そこには体をすべて覆っているのではないかと言わんばかりに包帯を巻いた男がいた。
「自殺に最も重要なのは誰にも迷惑をかけないクリーンな自殺を心がけることだと私は思っているのさ。こんなクリーンじゃない死に方をしたら天国にいる父様母様がなんとおっしゃることか...」
「も、もしかしてご両親が...」
男の口からさらりと出た言葉に、生真面目が取り柄の緑谷が反応する。
ところが男はその緑屋の言葉にあっけからんと言葉を返す。
「いや? 私は孤児院出身だとも。親なんてこれっぽっちも知らないよ? ただの自殺ジョークさ、ハハハハハ!」
「は、はは...」
余りにもあんまりな会話に緑谷は笑うしかなかった。とにかく一刻も早く会話を切り上げてトレーニングに行くべきだろう。
そう考え立ち上がろうとした時。
「まあまあ待ちたまえよ緑谷くん。もう少しゆっくりしていってくれてもいいと思うんだけれど?」
「い、いえ、あまり時間がないので...」
「ふむ、何か焦っているようだね。...いいでしょう! ここは無駄に長い人生を送ってきてしまったこの私が君の悩みをたっぷり聞いてあげよう。」
そんな風に引き留めてくる男に、緑屋は愛想笑いを返しつつ立ち上がり、トレーニングを再開しようとする。すると男は先ほどまでの胡散臭い笑いはどこへやら、少しまじめな表情をしつつ再び言った。
「体を鍛えるというのは重要だけれど、あまりに鍛えすぎてオーバーワークになってしまうのはいかがなものだと思うよ、緑谷くん。君の師匠もそういっていたんじゃないかい?」
「え、な、なななんで僕に師匠がいるって...!」
まさか、もうばれてしまったのだろうか、と緑谷は焦る。それもそのはずだ、オールマイトは彼に自分の秘密、つまり活動限界時間やOFAのこと、そして彼がこの海浜公園にきていることをばれないようにしてほしいと頼んでいた。
それがもしばれているとあれば非常にまずいことになるのだ。
そんな風に焦っている緑谷に、その男は言い放った。
「勘。」
「......」
「っていうのはさすがに冗談さ! ......ほんとのことを言うとね、君の体つきだよ。君の肉体は今君がやっているように無作為に運動しても絶対にできないような筋肉の付き方をしている。ということはつまりそういったことに理解がある人が近くにいるんじゃないかなーと思ってね。」
「な、なるほど...」
その言葉に緑谷はホッとする。もしこの口が軽そうな人に秘密がばれたらどうなることか、想像には難くない。
緑谷が絶対にばれてはいけない、と心の中で固く誓っていると、男は何かに気づいたかのように立ち上がる。
「っと、そろそろ時間か。...では、僕はこの辺で失礼するよ、緑谷くん。またいつか会おう。」
「えっと、では、また...?」
そういって座っていたドラム缶から立ち上がると、男はカーキ色のコートを風になびかせながら去っていく。
その姿は先ほどまでのふざけた発言からは全く想像できない立ち姿だった。まるで、プロヒーローを見ているような。
そんな背中を緑谷がじっと見つめていると、男は思い出したかのように振り返り、そして緑谷に向けて言った。
「おっと、忘れていた。......オールマイトによろしく言っておいてくれ。人助けもいいけど会議には遅刻しないでくれよってね。」
「わ、わかりました! ........って、ば、ばれてるううううう!?」
♢
「やーやー、ただいま戻りましたー。」
「あら、太宰さん。どこ行ってたんですか? 相澤君だいぶキレてましたけど。」
「あれ、もしかして彼にバレてた? いやぁ、バレずに出かけられたつもりだったんだけどなぁ」
ははは、とそう笑っている男...太宰治の肩に、がっしりと手が置かれる。
それを見た先ほどまで太宰と話していた人物、ミッドナイトは、私は関係ないといわんばかりにそっと目をそらした。
「...ずいぶんと悠長なようですね、太宰先輩。オールマイトに伝言を残したそうですが...自分の言葉に責任を持つことすらできないんですか?」
「や、やあ相澤くん! と、とりあえず肩に乗せてる手を下ろしてくれないかい!? 私の肩がモゲ...いででででで!?」
「今日という今日は許しませんよ、先輩。あんたには今までため込んできた書類きっちり片してもらいますから。」
「あ、頭つかまないで!? 待って許して! ちょ、香山くん! 助けて!」
太宰に助けられた香山、基ミッドナイトは目をそらしながら決してその視線を動かさない。当然だ、彼の頭をつかんでいるのは人を模した般若のような何かと化していたのだから。
「待って見捨てないで! 助けてええええ!」
太宰の間抜けな叫び声は、雄英高校全体に情けなく響き渡ったとか。
人生塞翁が馬、了。