____澄み渡る青い空、その中を泳ぐように進む雲。
「__んーっ!はぁ、実にいい天気だ。こんな日にはやはり、静かなビルの屋上で飛び降り自殺!うんうん、素晴らしい日課だね!」
「どこがだこの包帯無駄遣い装置。」
「痛いっ!?」
雄英高校校舎、その屋上。本来鍵が閉じられ、むやみに侵入できないようにされているはずのその場所に彼らはいた。
「ったく、どこでサボっているかと思えば。昔からここでサボる癖は変わらないようで何よりです。さっさといきますよ、もう始まってるから。」
そうどこか呆れるように言うのは、現在試験中の学生たちの中から選ばれる一年A組、いわゆるヒーロー科の担当となったヒーロー、イレイザーヘッドこと相澤消太である。
彼は目の前に立つ包帯無駄遣い装置こと先輩、太宰治をとある理由で探しに来ていたのだ。
「いーや!私は絶対行かないからね!入試試験を見て生徒に点数つけるなんて面倒じゃないか!それだったらここで飛び降り自殺してたほうがよっぽどいいね!」
そう、先ほども述べたとおり、現在は雄英高校の入試試験中。その中でもヒーロー科は特に厳しく、ヴィラン集団を想定して配置されたロボットたちを相手に生徒たちは戦う羽目になり、更にはその倒し方等々を教師によって点数付けされるのだ。
当然この学校の教師である相澤や太宰も参加を頼まれていたのだが。
「とにかく、そんなめんどくさそうな子と頼まれてもいかないからね、私は!」
学生時代、高校だというのに授業の出席数が足りずに留年しかけたほどの面倒くさがりであったこの男は全く動こうとはしなかった。
とはいえ一応は後輩であった相澤もそれは見越している。
「......あんたならそういうと思ってましたよ、先輩。」
「わかっているなら来なくて......って、そ、それはっ!?」
相澤を追い返すべく振り向いた太宰が見たものは、般若の形相で普段首に巻き付けている包帯、基捕縛布をぶん回している相澤であった。
「...覚えていますか?学生時代、あんたにこれの特訓に付き合ってもらった時のことを。」
「も、もし忘れたと言ったら...?」
「今すぐにでも思い出させてあげますよ!」
無論プロヒーローとして現役で活躍している相澤にヒーロー活動さえさぼり気味で免許をはく奪されかけている太宰がかなうはずもなく。
この後彼は教員用の観戦室へと連れていかれることとなる。
♢
「......遅れました。」
「お、相澤くん!ちょうど今やってるところよ、グッドタイミング!」
太宰を引きずりつつ相澤が観戦室の扉を開けると、ドアの近くで観戦していた香山が出迎える。
カメラの映像を確認すると、学生たちがそれぞれの個性を使い、ヴィランを圧倒しているところだった。
「はいこれ、加点用のタブレット。」
「...去年と同じやつですか。」
「そうよ。」
相澤はここ数年間教師を務めていることもあり、入試試験の採点には参加した経験がある。
そのため慣れた手つきでタブレットを起動する。
次に香山が捕縛布でがんじがらめにされているであろう人物を見ると。
「えー、この部屋でやりやすそうな
「...何のんき調べてるんですか。」
当然のように捕縛布から抜け出し、手元に常に入れている「完全自殺読本」を読み漁っている太宰がそこにいた。
「いやぁ、相澤くんもまだまだ詰めが甘いなーと思ってね!捕縛布は扱えるようになってるみたいだけど、その後が甘いね!」
「普通捕縛布抜けられる奴なんて太宰さんくらいだと思いますよ...とにかく、タブレットは渡しておくので、最低限採点くらいはしてくださいよ!」
香山が処置なしと言わんばかりにため息をつくと、太宰がそんな彼女に一枚の紙を渡す。
「はいこれ。根津さんに渡しといて。」
「なんですこれ?」
「教員みんなの性格特徴と入試生徒の経歴から大体割り出した平均の加点。怒られたくはないから作っといたんだよねー。」
その太宰の言葉に、香山は手元の紙を食い入るようにして確認する。
確かにその紙には入試受験者の全員の名前が手書きながらも書かれ、そのすべてに点がつけられている。
そして周囲から聞こえてくる加点の声も、この手書きのメモと同じ受験生に向けてのものだった。
「...今回は前と比べて豊作だったんだよね、雄英の受験者。結構気になる子も入ってくるし、やっぱ根津さんの誘い乗って正解だったかなー。」
そんなことを言いつつ愛読書を手にカメラの映像を眺めている太宰に、香山は思わずため息をつく。
____いつもこのくらい真面目だったらいいのに。
香山はそう心の中で思った。
♢
夕方。採点も滞りなく完了し、大体太宰の予想通りの結果になった後。
相も変わらず事務作業から逃亡し、のんびりと自殺の名所めぐりをしようかとそう考えていた矢先。
「太宰君、ちょっといいかな。」
「おや?オールマイト。どうかしました?」
偉大なる大先輩兼今年から同僚となるナンバーワンヒーロー、オールマイトに呼び止められた太宰は、オールマイトに案内されるがままに足を向ける。
「...ここならいいだろう。すまない、君に聞きたいことがあってね。」
ついたのは雄英高校の校舎に設置されている仮眠室。ほとんどの場合人の出入りがないこの場所は、まさに密会をするのに最適な場所といえる。
「かまいませんよ、ちょうど日課の自殺名所めぐりでもしようかとぶらついていたところだったので。」
「君ねぇ...相澤くんが怒っていたよ?またあの人書類置き去りにしやがってー...って。」
「適材適所ですよ、仕事は僕より優秀な相澤くんがやり、僕は自殺名所パンフレット作りというとても重要かつ私しかできない仕事をやっている、というだけです。」
「ははは...」
「それで、聞きたいことっていうのは緑谷君のことでしょう?」
へらへらとした態度から一変、笑みは絶やさずとも少しまじめな表情に戻った太宰がそう言う。
図星を突かれたオールマイトは苦笑いをしつつ正解だ、と答えた。
「やはりわかってしまうかい、後継者は彼だということ。」
「そりゃそうですよ。だから入試前に会いに行ったんですよ。」
「流石、昔からそういう類のことは得意だったからね、太宰君。」
「ええ、まあ。昔取った杵柄といったところですよ、八木さん。」
そういわれたオールマイトこと八木俊典は、上記の中でシュルシュルと縮んでいき、普段の彼からは想像もできないほど細くなる。
「...体のほうは?」
「数年前よりも維持が難しくなってきていてね。今じゃ5時間持てばいいほうだ。」
「それで後継者を彼に?」
「そう。その件で聞きたいことがあってね。昔から観察眼が優れていた君にしか頼めないことだ。」
八木はそういって顔を近づけ、できる限り周りに聞こえないよう声を絞ってから尋ねる。
「彼は君から見て、後継者としてふさわしいかい?」
その言葉に太宰はふっと微笑んだのち答える。
「...ふさわしいかふさわしくないかでいえば、ふさわしくはないでしょうね。まだ通形くんのほうがいい。」
「......」
その言葉にうつむくオールマイト。だが太宰はさらに言葉を続ける。
「けれど、彼には人を救いたいという強い信念がある。...あなたはそれを見て選んだんでしょう?...8代目の継承者であるあなたがいいと思ったのであれば、私から言えることは何もありませんよ。...少なくとも、私は歓迎しますとも。」
「そうか。...ありがとう、太宰君。」
そう静かにつぶやいたオールマイトは、どこかうれしそうだった。
入学試験、その裏。 了
太宰治 プロフィール
本名:太宰治
ヒーロー名:太宰治(活動をほぼしておらず、なおかつ本人が名前名乗ったほうが早いと思っていることから本名を名乗っている。)
個性:???
誕生日:6月19日
好きなもの:自殺、酒、蟹、味の素
嫌いなもの:犬、炎
コスチューム:文ストの太宰治と全く一緒。