寝ぼけたトレーナーがウマ娘に抱きつきました。エイシンフラッシュ/ツルマルツヨシ 作:のるどすとりーむ
──エイシンフラッシュの場合──
──約6時間前、トレーナー室
僅かなコーヒーの香りが空いたマグカップから漂ってくる。部屋は最低限の照明と、パソコンの画面のみが光っている。カタカタとキーボードを叩く音のみが部屋に響く。
「今日はこの辺にするかな……」
担当のトレーニング計画について悩みに悩んでいたら日付が変わり、時計の短針も3を指している時間になってしまっていた。もはやトレーナー寮にすら戻るのが億劫なので、そのへんのソファで寝ることにした。こんなこともあろうかと着替えを持ってきているので、さっさと着替えてソファに横になる。すぐに眠気が俺の体を襲い、意識は段々と遠のいていった。
「トレーナーさん、おはようございます」
コンコン、と毎日定時通りにトレーナー室のドアをノックをするエイシンフラッシュ。しかしいつもと違って反応がない。
「……失礼します」
不審に思った彼女は、少し不安になりながらドアを開ける。
トレーナー室は明かりがついておらず、カーテンもきっちり閉まっているため、明かりはほとんどない。
「ドアが空いているのに、トレーナーさんはいらっしゃらないのでしょうか?」
独り言を漏らすフラッシュ。いままでこんなことはなく、普段はトレーナー室でフラッシュを待っているし、トレーナーが不在のときも事前に連絡するようにしている。
ゆっくりと、トレーナー室の奥へとすすむ。すると部屋の隅からかすかに音がするのが耳に入った。
「トレーナーさん?」
音の源へ声をかけるフラッシュ。
当のトレーナーは、
「……グー……」
ソファの上で熟睡していた。
「ト、トレーナーさん……」
苦笑するフラッシュ。
「取り敢えず、写真を撮りますか」
スマホのカメラで、トレーナーの無様な姿を映し出す。
「ほら、トレーナーさん朝ですよー」
その後すぐにトレーナーの肩をたたき、起こそうとするフラッシュ。
「……んん?……母さん?」
「何寝ぼけているんですか?ほら、すでに5分32秒の遅れが生じています。早く起きt────」
「久しぶりー、会いたかったよ!」
ガバっと、フラッシュの抱え込むように抱きつくトレーナー。
「え!?と、トレーナーさん……?」
予想外の事態に慌てるフラッシュ。
「スピー……」
「離してっ、ください……」
彼女自身、ウマ娘なのでトレーナーの抱擁などいともたやすくほどく力はあるが、体はそれをすることを拒んでいるため、動けない。
そして、トレーナーはより深く眠りの世界へ入ったのか、脱力して膝から崩れ落ちる。そして、もつれるように、フラッシュも、トレーナーの上に倒れ込む。
「……!?!?」
倒れ込んだときは驚いたが、徐々に冷静さを取り戻し、それと同時に「このまま寝てても良いんじゃないか」という考えが出てくる。
「こういう日があってもいいですね……」
そのままトレーナー室は二人だけの世界になった。
──ツルマルツヨシの場合──
「うへえ〜」
「大丈夫か!?」
トレーニング中に突如として倒れ込むツルマルツヨシ。
「すいません……どうやらまた体調が悪くなったみたいで……」
それを言い残すと、ツルマルツヨシの意識は途切れた。
「た、たた大変だ……」
もともとツヨシ自体、体が強い方ではないが、トレーニング中に倒れる程のことはなかったため、相当に焦るトレーナー。
「保健室に連れてかないと……」
──
「どうやら一時的に症状が出てしまったみたいですね、明日の朝には回復していると思いますよ」
保健室の先生がそう告げる。
「良かった……ありがとうございます」
「もし不安でしたら彼女の隣にいてあげてください」
「わかりました」
保健室のベッドの横にある、小さな丸椅子に腰掛ける。
先生が言っていた通り、明日の朝には回復していると言われたけども、やはりトレーナーの心には心配が残る。そのせいもあってか、ツヨシの隣に一睡もせず付き添っていた。
そして体が先に限界を迎えたトレーナーは、気絶するように眠りの世界へ入っていった。
──
「……んん?」
ツルマルツヨシは自身の身体に不自然な重みがあることを感じて起きる。天井は見慣れてしまった保健室の天井。
「あ……」
体を起こし、重みの正体がトレーナーであると知る。どうやらまた自分は倒れてしまい、トレーナーを心配させてしまったようだと、うつむきながら思う。
「トレーナーさん、私はもう治りましたよ。いつもすいません。そして、ありがとうございます」
起きているかわからないので、そっと耳元に囁く。
ここで、トレーナーの本能的な何かがツヨシの声を察知し、半分だけ覚醒した状態になる。
「ツヨシ!?大丈夫なのか?」
「あ、えっと……はい。いつもすいませn」
「良かったーーー!!」
不安から開放されたせいか、はたまた半覚醒の状態にあるせいか、力加減を誤って、ツヨシをベッドに倒す形で抱きつく。
「と、トレーナーさん!?ちょっと?……その、重いですって……」
不意打ちだったのか、うまく力が入らない形で倒れ込んでしまうツヨシ。
「良かった……本当……に……」
そして眠らなかった反動で再びトレーナーの意識は眠りへと誘われる。
「ええ!?この状態で寝ちゃうんですか?」
思わず大きな声を出すツヨシ。しかしトレーナーの耳には届いていなかった。
「ま……まあ、私は別に構いませんけど……」
そう言った彼女の顔はとても赤くなっていた。