シャルロット視点
昨日までのハリーポッター事件でピリピリとしたスリザリン寮の雰囲気は、今朝はどこか緩んでいる。
それもそうだろう。今日は何といってもハロウィンだ。校内の至る所に骸骨とかぼちゃの装飾が施され、廊下中にパンプキンパイの焼いた香りが漂い、空腹感を引き立たせています。
そろそろ学校生活も余裕ができた頃だ。
できればそろそろ次の行動を起こしたい。
それは、スリザリン外の純血の生徒との交流だ。そう私は考えた。
私はここに来てから、常々スリザリンの…否、ホグワーツの寮制度による生徒達の分断を憂いていた。
何故魔法界の未来を担う純血や半純血の人材が、互いに疎み合わなければならないのか。
特にグリフィンドールとスリザリンの分断は致命的に感じられました。
「おやおや。ポッター、どうしたんだい?いつにも増して馬鹿そのものの面構えじゃないか。」
「黙れマルフォイ!」
互いに一年生でさえ出会えばいがみ合い、皮肉をこぼし合っている。
「君の家は貧しくて杖も買ってもらえないそうじゃないかウィーズリー?僕の家の要らなくなった家具でもあげようか?きっと君の両親は咽び泣いて喜ぶだろうよ。」
「失せろマルフォイ!」
…皮肉?
皮肉かなこれ。直球の罵倒じゃないですかね?
そんな風にいつものいがみ合いを最早諦めの境地で眺め、朝の大広間で私はダフネと彼らを無視してさっさと朝食をとり始めた。
勿論、お父様とお母様の所属していたスリザリン寮に対しての誇りは私にだってありますよ。
ですが、他者を見下して誇示するなど浅ましいことだと思います。
やはり、真の純血たるもの、他人を助けてこそ真価が発揮されるのです。
私は何気なく横でかぼちゃ尽くしの料理を共に食べているダフネに話を振った。
「…今日はずっとかぼちゃ尽くしですかね。甘いタルトが美味しいので嬉しいですけど。」
そんな私の笑みに、ダフネもかぼちゃのタルトを上品に口に軽く含むと、微笑んで言葉を返した。
「まあね。甘いのが嫌いな女の子なんているのかしら。」
…流石に居るとは思いますけど。そう冷静に突っ込みたくなるのを心で抑えた。その理論だとダンブルドアが誰よりも女の子らしくなってしまいます。実際、今日の教員席を見るに、ハロウィンを一番楽しんでいるのはダンブルドアに思えた。
いつも以上ににこやかに微笑んで甘いかぼちゃジュースを飲みながらタルトを食べている。
…流石にクドすぎて私には厳しい食べ方ですね。
「ダフネも好きですよね。糖蜜タルトとか、かぼちゃパイとか…。」
私はダンブルドアから視線を外して可愛らしくも上品に口元を布で拭うダフネと会話を続ける。
クラップやゴイルとはまさに正反対だ。
「あなたほどじゃない気もするけど。…ここの料理もデザートだけは認めてやっても良いわ。他は家のパーティーのには及ばないけど。」
「その…機会があったら私をパーティーに誘ってくれますか?」
私が不安に感じながらも上目遣いでダフネにおねだりすると、彼女は軽く赤くなりながらも微笑んで答えた。
「当然でしょ。友達なんだから。」
****************
今日の授業が終わり、廊下をスリザリンの一団で歩いていた。先頭は勿論ドラコだ。
スリザリン内でもそれなりに生徒達の身分格差、と言ったら大袈裟かもしれないがそのようなものは存在する。
勿論監督生のファーレイ先輩の仰った通り、私たちは全員が誇り高い蛇だ。
だが、そんな中にも純血が居れば半純血もいるし、他の寮と比べれば少ないがマグル生まれも居る。
そんな中でも聖28一族出身の生徒は、暗黙の了解でそれなりに特別待遇だ。
半純血であったとしても、ミリセントのような生徒は純血の無名の生徒より格上として扱われていた。
今の所一番周りを引っ張りたがっていて、一年生の純血達のグループを纏め始めたのがドラコだ。
マルフォイ家ほど裕福で魔法省にも影響のあり、聖28一族筆頭と目される家の彼なら当然と言えば当然かもしれません。…まあ、日頃の他寮への態度は本当に改めて欲しいのですが。彼がグリフィンドール生…特にウィーズリーとハリーポッターと歪みあっているのが、少なからず寮の雰囲気に影響していると感じる。
主なグループの主要メンバーは、ドラコに首っ丈なパンジーとクラップとゴイルだ。ドラコとは入学前からパーティーなどで友人関係らしいのでこれもまあ当然でしょう。
そんなドラコと対等に口をきけるのは、私とダフネ、そしてノットにザビニぐらいなものだ。
ただし、半純血のグループや、数少ないマグル生まれ達に基本的にドラコ達が蔑んだ態度を取ることはない。
まあ、必要がなければ話もしない程度の関係ではありますが…。
同じスリザリンの仲間という一体感があります。
…他の寮生ともそうなれれば…。
そんな風に思案していながら歩いていると、正面から同じくハッフルパフの一年生達が歩いてくる。
ドラコは軽く鼻を鳴らして小馬鹿にしたような顔を取った。
「ドラコ…。」
私が軽くため息をつきながら呟くと、「別に何もしてないだろ」と私につっけんどんに言葉を返した。
ドラコはグリフィンドール以外には特に正面から煽るような真似はしません。それが救いではあったのですが…
私はハッフルパフの一年生達を何気なく眺めて、目当ての生徒二人を見つけた。
ブロンド髪の三つ編みおさげの可愛らしい小柄の少女、ハンナ・アボット
そして恰幅が良く、同じくブロンド髪を短髪にカットしている、アーニー・マクミラン
どちらも聖28一族の尊い血をその身に流している。…残念ながらハンナは半純血ですが、それでもその事実は変わりません。
(是非、友人になりたいんですが…)
ちょうどそんな時、私の横を通り過ぎようとしたハンナが、私にぶつかって手に持っていた羊皮紙の束と教科書を床に撒き散らした。
「きゃっ!!」
私は心配すると同時に、心の中で思わずほくそ笑んだ。チャンスだ!
私はハンナより先に地面に散らばった羊皮紙を集め始めた。
ハンナも慌てて私と一緒に羊皮紙や教科書を拾った。
ハンナは困惑した様子で頭を下げて私にお礼を言った。
「えっと…その。ごめんなさい。それとありがとう、手伝ってくれて。どうして手伝ってくれたの?」
私は微笑んで彼女の直球の不審そうな疑問に朗らかに答えた。
「いえ、私がぶつかったんですし。当然のことですから。…怪我はありませんか?」
私は心の底から心配してそう問いかけると、ハンナはきょとんとした顔をした後、ぱあっと可憐な花のように微笑んだ。
「ありがとう!スリザリンにあなたみたいに優しい人が居るなんて思わなかったわ!」
「そうですか?私たち、気が合いそうですね。また今度お茶でもどうです?」
「ほんと?楽しみにしてるよ!」
そう言ってハンナはぱたぱたと走り去っていった。
私も慌ててスリザリンの列に戻る。すると、ノットが面倒そうに話しかけてきた。
「別に無視すれば良かっただろ。」
「できませんよ。人を助けるのが純血の務めですから。…少し下心もありましたけど。」
「…そうか。お前が得をしたなら別に良い。」
そんな風に呟くと、彼はまた無言で歩き始めた。
****************
私は夕食前にいつも通り一人で図書室へと向かう。借りていた本を返すついでに新しい本を借りるためだ。
他のスリザリン生は私ほど勉学に熱意があるわけではないらしいというのが最近の結論でした。
勿体無い。せっかく純血としての才能と入学前から学べた優位性があるのに、それを捨てるとは…。
そう思いながら用事を済ませると、私の方を覗き見ながら棚の後ろで右往左往している人が見えました。
私はささっと歩み寄ってその男の子…ネビルに声をかけた。
「ネビル。私に何か用ですか?」
「うん。その…おできを治す薬のレポートをスネイプ先生から宿題として僕だけ出されちゃって…その、うまくできなければ次の授業で自分の煎じた魔法薬を飲んでもらうって…僕…死んじゃうかも!」
私はスネイプ先生に軽く呆れながらもなんとなく納得する。ネビルはお世辞にも魔法薬学の腕が良いというわけではなかった。いや、自信がないから何もかも不得手と言うべきかもしれませんね。
ただ、自信がつけば化けるかもとも感じさせはしました。何せ彼も純血なのですから。
流石に初歩的な魔法薬の失敗ごとき飲んだ所で死ぬとは思えませんが…。人肌脱ぎますかね。
「分かりました。レポートの手伝いですね?私でよければ喜んで。」
その一言に、ネビルは心の底から安堵したと言わんばかりに、そして救いの神が現れたと言わんばかりに私に涙を流して頭を下げた。
「大袈裟ですよ。でも、なぜ私に?それこそハーマイオニー辺りにでも頼めば良かったのでは?」
私のその問いかけに、ネビルは気まずそうに汗をかいて、躊躇いがちに答えた。
「その…ハーマイオニーは凄く落ち込んでて、女子トイレで泣いてるんだって。閉じこもって出てこないって。」
私はその言葉に、一つ思い当たることがあった。
…というか、今思い出した。
まずい。ドラコとパンジーがハーマイオニーを好き放題言った後、後でハーマイオニーを慰めるつもりが完全に忙しすぎて頭から抜けていた!
私も冷や汗が流れるのを感じながら、冷静を装ってネビルに問いかけた。
「えっと…その、彼女が泣いた理由は?」
「うんとね。ロンがハーマイオニーに酷いこと言っちゃったみたいだよ。それで。」
その一言で自身のせいでは無かったと安堵すると同時に、胸中でハーマイオニーを慰めなければという使命感と、ウィーズリーへの苛立ちが生まれた。
純血のくせに、何をやっているのか…。
マグル生まれを泣かせるなんて…!
でも、私も今は人のこと言えませんよね…。ハーマイオニーへの不快な思いをさせた謝罪を忘れていた。ドラコ達の不始末を止められなかった。
「…ささっとレポートを済ませましょう。良いですね?ネビル。」
「え?うん。ありがとう!」
それから私は高速で簡単すぎるおできを治す薬の完璧な論述を教えて、速攻で図書室を出た。
もう皆が食堂で夕食を食べ始めている時間だが…そんなこと気にしていられない!
私は一階まで駆け降り、食堂とは別方向の女子トイレへと駆けた。
大きな怪獣グリフォンの石像を通って、ついに女子トイレへと辿り着いた。
…微かにドアの向こうから啜り泣きが聞こえる。
私はなんの躊躇いもなく扉を開けた。そして、ハーマイオニーのすすり泣く声を辿り、個室の扉の前へと辿り着いた。
私は大きく息を吸うと、扉を優しくノックした。
暫くすると、泣き疲れて掠れた、か細い声が聞こえた。
「…誰?」
「私です。シャルロットです。ハーマイオニーさん、ちょっと私とお話しませんか?」
私はできうる限り明るく、穏やかさを意識して声をかけた。私が夜泣きした時のホラス伯父様の声を真似てみた。
暫く沈黙が場を満たした。
「……何よ。私のこと笑いに来たの?」
「そんなこと私は絶対しません!あなたが傷ついたって聞いて…私では、力になれませんか?」
その私の問いかけに、ハーマイオニーは掠れた声で、ぽつりぽつりと語り始めた。
まるで誰かに心の底を吐き出すかのように。
「…私ね。これまで友達ができたことってなかったの。皆私より馬鹿に見えて。つい口を出したら、皆私を避けていった。」
「………」
私は取り敢えず吐き出させるだけ吐き出させた方がいいと思い、静かに聴きの姿勢を作る。それが良かったようだ。ハーマイオニーは言葉を続けた。
「ホグワーツなら、私にも友達ができると思ったの。なのに…結局変わらなかった。ロンが、私のことを悪夢みたいな奴だって。」
「それは違います!」
私は気付けば大声で反論していた。半ば無意識で叫んでいた。
「ハーマイオニーはただ、周りより少し成熟してるってだけです!私はあなたのことを、悪夢みたいだなんて思ったことありません!」
「それは、あなたが私のことほんの少ししか知らないから!」
…確かにそうだ。私とハーマイオニーの繋がりは、ほぼ無いと言ってもいいほど希薄なものだ。
それでも、彼女は助けを求めていて。
なら手を差し伸べるのだ。差し伸べなければ私がスラグホーンである価値はない!
「だったら、教えてください。ハーマイオニー。私にもっと、あなたを教えてください。そんな所に閉じこもって泣かないで。…そうしないと、何にも始まらないじゃないですか!」
「……………………だったら。だったら、あなたは私を友達と思ってくれる?」
その問いに、私は言葉に詰まる。
…純血と、マグル生まれは違う存在だ。
対等にはなれない。どこまでいっても。
それが私の本音。
ですが、そう答えたら、彼女は心を閉ざすでしょう。…なら、嘘をついてでも。
「…そう、なりたいと思っています。少なくとも、私は!」
紛い物でも、友達に。
そんな不埒な考えだったからだろうか。罰が当たったのだろうか。
ハーマイオニーは個室の扉はゆっくりと開けた。泣き顔の彼女が、私をみて微笑んだ次の瞬間、私の背後を見て甲高い悲鳴をあげた。
私は途端に異変に気づく。
興奮して気づかなかったが、何だ、この悪臭は。
まるで汚れて洗っていない靴下と吐瀉物を混ぜたかのような…
私が振り返ると、背丈が四メートルほどあり、墓石のような灰色の肌をした、巨人…トロールが立っていた。
そして、知性を感じさせない頭で、無造作に長い腕を振り上げた。その手には武器の…
「な…がッ………あエッ…」
何か凄まじい質量の塊が、横凪に振るわれ、私の腕をへし折って、まるで紙切れでも放り投げられるかのように私の体は弾き飛ばされた。
ガラスの破片が顔に刺さる鋭い痛みの感触と、腕と肋の鈍い痛みが全身を包んだ。体が動かない。目の片側から、どろりとした赤い液体が流れる感触がする。
どこかで甲高い悲鳴が聞こえた気がした。
私は辛うじて動く左手で、懐を探る。確か、確かあの薬が…。
そんな私の希望を踏み躙るかのように、無造作にトロールは私に近づいてくる。
すると、二人の少年の必死な叫びが入り口から聞こえた。
「やーい、ウスノロ!」
「そっちじゃない!こっちだ!こっちに来い!」
誰だか分からないが、少年たちが私を助けんと瓦礫を投げてトロールの注意を引いたらしい。
トロールは不快そうに振り向くと、方向転換して彼らに歩み始めた。
よし…とれた。
私は掠れゆく頭で、集中薬の入った小瓶を開けて口に注ぎ込む。…すると、掠れゆく意識が多少はマシになってきた。
私はふらつきながら立ち上がり、杖を片手で握って、渾身の力で叫んだ。
「どいて!!!!」
すると、少年たちがトロールから離れたのが見えた。位置的にハーマイオニーも問題ないだろう。
「インセンディオ!!!!」
次の瞬間、爆炎が視界の全てを包んだ。そして、私の視界は黒で染まった。
死にたくないと願っても、意識はゆっくりと鈍くなっていった。
遠くで慌てた様子の複数人の足音が聞こえたのを、ぼんやりと感じとっていた。