人は光を求める生き物である   作:カバー

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大変更新が遅れましたこと、申し訳ありません。
体調が優れず病院のお世話になっておりましたが、ここから不定期とは言え止まっていた更新を少しずつ動かしていきたいです。
お願い致します。


何も知らない

シャルロット視点

 

 

クリスマスはもうあと一週間というほどに迫り、ホグワーツは浮かれた雰囲気が漂い始めているようで、私もその雰囲気の一人です!

 

でもそれをなんで恥に思えるのでしょうか?

クリスマスに、私は人生初めて友達の家に招待されている。マルフォイ家はきっと素敵なところなのでしょう。

 

ただ、ホグワーツの冬は本当に骨身に染みてしんどいものです。

教室やスリザリンの寮内は、教授方のご厚意のおかげであったかく魔法で管理されているのはいいのですが…

 

ビュオオ…

 

廊下はもうべらぼうに寒い!!吹雪とか勘弁してください!!ホグワーツの歴史は古い。我らが偉大なる純血主義の始まりとも言われるサラザール・スリザリンや、魔法使いでありながら剣技にも卓越したものを見せたという決闘の達人ゴドリック・グリフィンドール、知名度や人気では上に挙げた二人には劣るものの、十二分に素晴らしい活躍を見せ、ホグワーツの料理の基礎を構築したと言われるヘルガ・ハッフルパフ、そして悲劇のロウェナ・レイブンクロー。

 

彼ら四者が一丸となってホグワーツを創設したのが10世紀ほどのこと。

つまり現在の20世紀で丁度10世紀という事ですね!嬉しい記念すべき時期に入れてよかったよ〜…じゃないですね。寒い。10世紀分やはりホグワーツも壮健ですがガタはきているようですね…。

隙間風が信じられないほど身を軋ませるのが、クリスマスが近づくにつれてより一層厳しくなってきました…くしゅん!

 

 

「くそ…ダンブルドアめ…これは生徒への嫌がらせに違いない…。」

 

「ダームストラングがイギリスに有ればよかったのに。」

 

ドラコの理不尽極まりないような悪態にも、割と賛同してしまいそうになってしまうほどで…。まあダームストラングはホグワーツよりさらに北の魔法学校なので、多分もっと寒いんでしょうけど。ドラコは冬に入ったばかりの頃は意気揚々と熱風魔法を皆の前で使っていましたが、もうこの頃になるとそんな気力も尽くしてしまったようでした。

 

…ドラコやスリザリン生には特に顕著な傾向ですが、純血の生徒達はやはり幼少期から両親に簡単な魔法を手解きして貰うことが多いようです。

変身術のような複雑な系統の魔法はともかく、呪文学のような比較的家庭でも習得しやすい魔法では、やはり私は彼らに半歩先を行かれているのを改めて感じました。

 

というのも…私は魔法を制御する事が極めて困難な未熟者だったのです。

今でこそ気をつけてさえいればほぼ制御は効きますが、どうにも子供の頃は上手くいかず、ホラスおじ様の大切なトロフィーに傷を付けてしまった事が…

 

 

 

 

丁度寝起きで皆がゾロゾロと朝食に向かう頃。基本的に学年ごとに固まっているので、少なくとも私の周りには一年生しか見えなかった。

 

マフラーに顔を埋めて半目でふらふらと歩いているダフネも体を震わせていた。…いけない。

 

私は黙って人混みを慎重に移動してダフネの横にすっと体を入り込ませると懐から杖を何気なく取り出し、小声で呪文を唱えた。

 

熱風魔法!

 

瞬間、ダフネと私の首筋を軽く包むような、気怠げな熱風が柔かに吹いた。

ダフネはぴくりと体を動かすと、んん…と軽く気持ちよさそうな猫撫で声を出した。

 

「ん…気持ちい…ありがとシャルロット。」

「でも随分控えめな風ね。それになんでそんな小声?」

 

ダフネは相変わらず直裁に物を尋ねる。サファイアのような緑の瞳を半目がちで上目遣いでチラリと見られると、それも許せてしまうから不思議だ。

 

「…いえ、そのですね。これ以上魔法を強くしようとすると、起きたばかりですし失敗してしまうかもと…。」

「ああ。そう言えばあなたってそうだったわね。てっきり…。」

 

そこでダフネは言葉を意図的に途切れさせた。彼女との付き合いはまだ短いが、何を求めているのかは容易に理解できるようになってきた。

この場合はあなたから聞いてきての合図だ。

 

「なんですか?」

 

ダフネはにやりと悪戯っぽく笑うと、私に聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で囁いた。

 

「私の事が好きなのかと思ったわ。…あづっ。」

「あ、す…すみません!」

 

瞬間、得体の知れない感情が昂ってしまって。

ああ、もう!

またやってしまった!

魔法で生み出した熱風の一部が、適温を超えてかなり熱め

 

「その…ごめんなさい。わざとじゃないんですけど、どうも感情が昂ると魔法の制御が…」

「…あつつ。もう…跡になってないわよね?なってない?なら別にいいわよ。私も悪かったし。」

 

ダフネは首筋を軽く揉みながら尋ねて、何も問題がないと知ると笑顔で許してくれました。…あの、優しすぎませんか?私の事好きなんですか?勘違いさせてくるなら全然しちゃいますけど…

 

そんなで顔を赤くしながら大広間の直前の廊下にまで上がって、樅の木の根っこが目の前に突き出ている事に初めて気づくほど思考が動揺していた。

 

「おお、悪ィがちょいと気ィつけてくれよ。今クリスマスツリーの運搬中なんだ…。」

 

その低いが陽気な声と大柄な体躯で、それが誰かはすぐに分かった。というかこんなことできるのは多分ホグワーツで自分が知る限り1人しか居なかった。森番のハグリッドだ。相変わらず泥汚れに塗れて酷い格好ではありますが、そう悪い人ではないのも確かです。手を貸しますかね…。

 

「すみせんが、そこを退いてくれませんかね。」

 

私が「手伝いましょうか」という前に、マルフォイは不快そうに顔を歪めてそう言い放った。

 

「悪ィが…ちょいと待っとけドラコ…。」

 

ハグリッドは自分の背後に生徒が缶詰になっていると気づくと、少し気まずそうに身震いして急ぎ始めたが、ドラコの側にくっついていたパーシーも文句の声を挙げ始め、だんだんと野次の声が上がり始めた。私は彼への非難をするつもりはなかった。彼は彼なりに一生懸命やっている。…ですが疑問は残りますね。彼は曲がりなりにも魔法族の血が流れているはずです。ならば何故魔法を使わないのでしょうか?

すると、横からまた別の一段が現れた。ちょうど同じく朝食を食べに来たのだろう、気怠げなグリフィンドールの一年生だ。

 

「そんなに早く朝食を食べたいなら手伝ってやれよ。スリザリンはほんっとに嫌な奴らだな!」

 

眠気眼だったようだが、現状を把握すると急に覚醒したような顔つきでロンがそう叫んだ。

その横に居たハーマイオニーが小さくこちらに手を振ったのが見えて、ロンが少し非難するような目でそれを見た。

 

「手伝おうか?ハグリッド。」

ハリーポッターがすっと前に出て、私たちを無視してハグリッドに気さくに話しかけた。

いいタイミング!ここで私も便乗してしまいましょう。早く朝食は食べたいし、スリザリンとしてのお手本も見せなくては。

 

「なら私もお手伝いしますよ。」

 

私とハリーの声が聞こえたようで、もたついていたハグリッドの動きが急にすっと落ち着いて、スムーズに動き始めた。

 

「ああいんや、大丈夫だ!これは俺の仕事だからな!ハリー!シャルロット!ありがとうよ。」

 

ドラコはどこか私の事を面白くない目で一瞬見たが、気を取り直したのか、それとも空腹に耐えきれなくなったのか、無言でハグリッドに続いて大広間の中に歩き出した。

グリフィンドール生もそれに続いた。

 

「質の悪い朝食だな。」

 

ドラコは席についてからも、先ほど皿に載せたニシンの燻製を不満げに眺めて、その中に挟まっていた一本の髪の毛を不快そうに取り出すと、別の黒パンを飲み込んだ。

私はここの朝食に満足していたので、蜂蜜タルトを頬張りながら訝しむ目つきを送った。するとドラコは上機嫌で私に言葉をかけた。

 

「ああ、まあ無理もないよ。君は今まで叔父上と二人暮らしだったんだろ?料理を用意するのも大変だろう…だが屋敷しもべ妖精が居るのにこの体たらくだろう?ダンブルドアは躾もできないらしい。」

 

その言葉にブレーズやパンジー、それにいつものクラップとゴイルがツボに入ったのか和やかな笑い声を上げた。彼らは屋敷しもべ妖精に私より詳しいらしい。少しの嫉妬心を覚えました。

 

「シャルロットぐらい優秀なら、すぐにそんな心配しないでも屋敷しもべ妖精ぐらい雇ってるわよ。」

 

ダフネが私の不満が一瞬見えたのか、淡々とそうスープが入ったスプーンを上品に口に含みながら私に告げた。

ドラコは相槌を打つと、私に向かって軽く申し訳なさそうに言った。

 

「いや。すまないね。そういう意味では言ったんじゃなかった…。もちろん、ダフネの言う通りさ」

 

そう言うとドラコは、大広間に先日から始まり、完成しつつあるクリスマスの飾り付けを眺めた。小さな氷柱でちょうど先ほどハグリッドさんが持ち込んだ樅木をマクゴナガル先生が魔法で着飾っている。

すごく綺麗ですね…。家から出た事がない私にとって、魔法界のクリスマスとはもう少し細やかで、ホラス叔父様からの素晴らしいプレゼントと、私が作った細やかなデコレーションのショートケーキ以外には全て新鮮なものでした。

ただドラコは不快だったらしい。

 

「装飾しすぎだろう。もう少し木々の間も開けた方がいい。派手なら良いってもんでもないだろうに。僕の家のは----」

 

ドラコはどうやら自分の家でのクリスマスパーティーを自慢したがっているようでした。と言うよりも、私を含めてスリザリン一年生の数名を招待していた為、期待を盛り上げるという意思を強く感じました。なかなか気合が入っているようで、見ていて微笑ましくて、期待もいやがおうにも上がってしまいます。

すると、一匹の茶色い梟が大広間に飛んで入ってきました。

…ヒデヨシ!

一気にそわりとした感覚が背筋を貫いてきて、身震いする。

多分おじ様からの返信だろう。友達の所に…ドラコのところに、クリスマスに招かれたが遊びに行っても構いませんか------そう書いて送っておいたのです。

 

返信が来るまで頭の片隅に意図的にしまっておいたのです…だって返信が好意的じゃない可能性もそれなりにはありますから。ホラス叔父様はマルフォイ家の事を快くは思っておりません。それは当然だとも思いますが、ドラコと直接話してみた今なら、そう難しいことでもないと…

 

私は落ちてきた手紙を恐る恐る開きました。ドラコは話の腰を折られたことよりも、手紙の理由に察しがついたのか手紙に興味を持ったようで、静かに覗き込んでいます。いや、その…。流石に見られたくはないんですが…。

 

私の非難の目線を見て、ドラコは肩を竦めはしたものの、以前目線は向け、さりげなく覗いていました。

 

『シャルロット、まず最初に私は断っておくよ。

私はこの手紙をしたためる事を決めるまでに、三回吠えメールを送ろうかどうかと思案したんだよ。

もちろん、君宛てにじゃない。ドラゴなんとかという、君の友達だというマルフォイ家の子にだ。

おおかた、君の優秀さを見て取り繕って友人を演じているのだろうが、今のマルフォイ家を信じてはいけない。

特にルシウスの息子だと言うのなら尚更だよ。

 

君には何度も聞かせたものだが、彼は最終的に君の両親を裏切ったんだ。服従の呪文のせいだと言ってコネで裁判から逃れよったが、私が誓っても良い----彼は正気であの男に従っていたのだ。それが一番正気じゃない事の証明であるのだが。純血思想の是非はともあれ、それだけで彼らは全く信頼できないと私は断言しよう。

 

ともかく、彼以外の友達ができたのは喜ばしい事だ。グリーングラス家のお嬢さんと特に親しいというのは、誠に喜ばしい事だ。

真なる友情を築くのなら、そのように人を選ぶべきだよ、シャルロット。君には相応しい人達を私が見繕ってあげても良い。

 

マルフォイ家は確かに一見純血として立派で、真っ当な魔法使いの家系に見える。だがルシウスがそれを穢してしまったのだよ。

 

シャルロット、もし必要なら、私が転校手続きをしても構わないよ。

別に魔法が学べるのはホグワーツだけというわけではないからね。

ボーバトンは良いと思う。気候も温暖で、かのニコラス・フラメルの母校でもあるからして、君の錬金術や魔法薬学における極めて高い才能を遺憾なく発揮できるだろう。

 

安心して欲しい。ボーバトンの教師陣の中には私の教え子が居てね。当然君もご存知の話ではあるが、私は顔が広いんだ。途中編入でただでさえ見知らぬ異国の地に行くのは心配かもしれないが、安心して欲しい。彼らは君を家族のように迎え入れてくれるよ。困った事があればなんでも聞いてくれるはずだからね。勿論。

 

グリーングラスのお嬢さんと別れるのは寂しいかもしれないが、何も学園生活が魔法界の全てというわけでもないさ。君は社交界でも一流の華となるだろう。

勿論、クリスマスに君と再会してから話し合うつもりではあるよ。君の意見が一番大事だからね。だが、君にはマルフォイよりもずっと君の事を親愛に思っている家族が居ることを忘れないでおくれ。

 

【追伸---私はグリーングラスのお嬢さんのご両親とも仲は良くてね。君がグリーングラスのお嬢さんと、ご友人以上になりたいと言われたら、私は喜んで応援させてもらうよ。】』

 

「アああああああああァ!!!!!!!」

 

私は追伸欄を読み終わった途端、瞬間的にビリビリと手紙を破いた。おじ様に申し訳ないとか最早一瞬思考の外から消えるよこんなの!おじ様ダフネも居るテーブルに手紙が来るって分かってなかったの!?

私の奇行にスリザリンのテーブルどころか、その他の寮のテーブルからも好奇の目線が突き刺さった。だが、こっそりと覗いてホラスおじ様の言いように怒り心頭に見えたドラコだけは、その行動に感じ入ったような瞳を向けていた。

 

「君…君のおじ上は酷いと思ったが…君はそこまでマルフォイ家の事を…?」

 

「読んでましたね!?見たの!?見た!?」

 

私の凄まじい迫力のドラコへの詰問もまた何か誤解したらしい。少し気まずそうだったが、ドラコは淡々と答えた。怒りは何処かへ飛んでいったようです。

 

「ああ…まあ、見たが。君のおじ上が僕らに偏見を持ってたとしても、別に僕は君のことを友達だと思ってるよ…。」

 

その答えで私の沸騰した頭がサッと冷えた。どうやら手紙を一部は眺めて見たらしいが、ダフネの部分は見ていなかったらしい。幸いな事でした。よかった…。

 

「だが参ったな。君がボーバトンなんかに行かされるのは勘弁したいところだ。だが、僕のパーティになんて行こうとしたら無理やり入れられそうだな。」

 

ドラコは私を見て混乱しすぎて一周回って冷静になったようだ。言われてみれば確かにそれがいちばんの困りごとだったのは疑いようはない。

どうしたものでしょうか…。

 

そう思案していると、いつの間にか私の背後に移動していたダフネが淡々と答えた。

 

「なら、言わなければいいんじゃない?」

「ちょわっ!?」

「…どういう事だ?」

 

思わずびっくりして奇声を上げた私を無視して、二人は淡々と会話を始めた。その方が私が落ち着くだろうと考えたのかもしれない。冷静に…深呼吸…深呼吸…

 

「その手紙だと、私のことがかなり好意的に見られてたし。グリーングラス家の友達同士の招待なら、彼だって不快には思わないでしょうから。」

 

「そして、私はドラコのパーティに招かれてる。なら一緒に行けばいいでしょ?」

 

「-なるほどな。」

ニヤリとドラコは笑った。…恐らく招待用にポートキーか何かがあるのでしょう。それならこの二人の会話も分かる。だが、それでうまくいくのでしょうか。

 

「おじ様が付いてきたがるかもしれませんよ?」

「それなら二日泊まってくるって言えばいいのよ。一日目にシャルロットが私の家で過ごすのをみれば、安心して二日目には帰るでしょうから。」

 

おお…策士。彼女こそヴィンセンガモットの魔法戦士に相応しいのでは…。

 

「決まりだな。ならそう父上にも伝えておくよ。それとシャルロット。」

 

「はい?」

「まあ…感謝するよ。」

 

そう言うドラコの顔には、いつもの皮肉を乗せていない、爽やかな笑顔があったのでした。

 

 

********************************

 

…朝に見たヒデヨシが元気だったので、世話をしてくれているハグリッドにお礼を言いたくて森番の小屋を呪文学と魔法薬学の空き時間に訪れたくなった私は、ふらりと向かってみました。

 

もう校外には雪が積もり、見知った顔の…ハッフルパフ生と思しき一年生の一段が、呪文で雪玉を振り回して遊んでいました。

混ざりたいという気持ちが純血であるが故に友達になりたいと思っていたアーニーや、聖28一族にしっかりとその名を刻むハンナ・アボットを見ていると湧き上がってきましたが、寒さと気怠さがそれを消し去ってしまいました。

 

森番の小屋は、相変わらず雑多なものが家の前にも転がっていました。ただ、今回は見慣れたものの他に、斧で切り倒されたと思われる、倒木が枝などを処理済みでそこらに転がっていました。

 

「クリスマス用の木はここから運んできてたのね…でもなんでほんとに魔法を使わないのかしら?」

「…ん?シャルロットか。また来たのか。今度はどうしたんだ?」

 

作業に取り敢えず一区切りが付いたようで、学校の方から分厚い手袋をつけ、もじゃもじゃ髭がトレードマークのハグリッドがふらりと現れました。

 

「ハグリッドさん。お疲れ様です。」

「おう。まあ入れや。」

 

ハグリッドは訝しげな目つきでこちらを見たものの、この雪の中待たせるのも悪く思ったのでしょう。すんなりと無骨な木製のドアを開けて、小屋の中へと招き入れてくれました。パチパチと火が出ている暖炉も暖かく、たしか…ファングといった黒いわんちゃんが、その前で丸くなって寝て…あ、起きた。それで立ち上がって

 

ブンッ

鋭い速さで私に迫って、いや。ちょっと…倒れ…

 

「ぐえっ。」

 

私は入り口から思い切り突き飛ばされて、玄関前の雪の中に思いっきり押し倒された。

ベロベロと温かい舌の感触が顔にまとわり付いた。

「こら!こらファング!」

 

ハグリッドは焦ったようにファングの身体をひょいと片手で持ち上げると、家の中に優しく放った。

「ああ、制服が濡れちまった。大丈夫か?」

「あははは…大丈夫です。相変わらず可愛いワンチャンですね。」

 

そう褒められて、ハグリッドの髭がぴくぴくと動いた。笑っているのでしょうか。

 

「まあ、服はすぐ乾く。暖炉の前で座っててくれ。茶でも入れてくるから。」

 

「ああ、どうも。お茶だけで結構ですからね?」

 

だがお決まりの如く文字通り岩のように硬いロックケーキがついでに出てきた。

私はお茶だけを飲んで、やんわりと食べたばかりですからとロックケーキは断っておいた。

これしかお茶菓子をしらないのかしら…?とも思い、今度はヒデヨシのお礼にお茶菓子でも持ってこようかなと思うわ。

そう思っていると、ハグリッドは自分用の椅子を暖炉の前まで持ってきて、私の横に腰掛けました。椅子がギジリと重さに悲鳴を上げたものの、木製の手作りらしき椅子はしっかりと彼を支えているようでした。

 

「そんで、何のようだ?」

「まさかニコラス・フラメルについてお前さんも聞きたいってわけじゃないだろうな?」

 

「え?なんでニコラス・フラメル氏についてあなたに聞かないといけないんですか?」

 

瞬間、ハグリッドはしまったという顔をした。何がいけなかったのかしら?…?ニコラス・フラメル?そう言えば最近…

 

「あーいや、違うならいいんだ。うん。済まねえ。忘れてくれ。」

「ハーマイオニーにもそう言えば聞かれたような…何かあったんですか?」

 

そう答えると、ハグリッドは明確にさらにしまったという顔をして、必死に焦りを隠そうとしている様子でした。

 

「ハーマイオニー…あ、いや。なんでもねえんだ。気にせんでくれ。ほんとうに何でもねェんだ。」

「それより、じゃあ何の用で来たんだ?」

 

本当に強引に話を変えられて好奇心が疼きましたけど、ここは波風立てる必要もない。

 

「いえ、用というほどでもないんですが、ヒデヨシの面倒を見てもらってて、今日も元気そうでしたので、お礼に。」

「ヒデヨシ?」

 

「私のふくろうですよ。」

「ああ、お前さんの梟か。うん、あいつはなかなか食が偏ってたな。俺なら対応できるが。いや、お礼を言われる様なことでもねェがな。仕事だ。」

 

ぶっきらぼうな返答でしたが、ハグリッドは少し照れた様にもごもごと髭が動いていました。彼はやはり純血かは割と…いえかなり怪しいですが、少なくとも魔女の血をは血注いでるだけの魔法生物への繊細で見事な仕事ぶりが分かりました。

 

「それで…ふと気になったんですが、なぜハグリッドさんは今朝木を運ぶのに魔法を使っておられなかったのですか?何か杖にお困り事でも?」

 

瞬間、ハグリッドの髭の動きが止まった。そして不貞腐れたかのような調子で口が動いた。

 

「そりゃ…杖も使えるもんなら使いたいんだけども。俺が人前で魔法を使うわけにはいかん。ちいと困った事になる。」

 

「魔法を…取り上げられていると?」

 

かつて聞いていた事が不意に頭に浮かんだ。魔法使いは、犯罪を犯したと裁判で認められれば、杖を取り上げられ、魔法をが使えないという最低最悪の罰を科される事があると。私は断固反対派だ。魔法を取り上げられるなんて、死ぬ事よりよほど恐ろしいかと思ってしまうのです。魔法族が何をしたと言うのでしょう。マグルに隠れて、己自身を裁かなくてはならないなんて…。もっと素晴らしい事が我々にはできるでしょうに。

 

穢らわしい狼人間連中を絶滅させてやるとか。不運にも穢らわしい奴等に噛まれた人を治す為の根本的な魔法薬学は、未だ存在しない。いつか私が作るつもりだ。純血たる魔法使いの血を穢す愚かな狼の畜生など、滅んで仕舞えばいいのですから。

 

「…この話はしたくねえ。」

「すみません、無遠慮に…。」

 

「いや、おまえさんは悪くねェ。別に不自由もないからな。ダンブルドア…あのお方が色々と俺のことを面倒見てくれてる。これ以上の幸運があるか?」

 

「にしても、おまえさんは優しいな。ファングは優しくなけりゃあ寄ったりしねぇんだ。分かるんだこいつには…。お前さんの兄貴なんてのとは大違いだ。あんな死喰い人とは…。」

 

 

………………………………………………………………は?

 

 

一瞬、ハグリッドの何気ない言葉に思考が止まった。何を言っている?この人は?一体何を…

 

「私に兄など居ません。」

 

私のその返答を聞いた瞬間、ハグリッドは今日一番の凍りつきを見せた。ほんとうにやらかしてしまったと、無言のうちに語っていた。髭はぴくりとも動かない。

 

「…あ、いや。その…」

「…何なんですか?」

その表情は何なんだろう。

全身に凄まじい寒気がした。

母は私を孕っている時にヴォルデモートに殺害されるまで痛ぶられたと聞いている。

何なの?

そう考えると兄が私よりずっと前に居たということ?

そんな訳がない。少なくともホラスおじ様から兄のあの字すら聞いたことは無い。

じゃあハグリッドが嘘をついてるの?

それも無い。

この人は嘘なんて付けない。

じゃあホラスおじ様が意図的に隠して----そんな訳がないでしょう!!

 

私の表情がどんなものかは見えないが、ハグリッドの慌てようを見るとまともには見えないらしい。窓ガラスが割れる様な音が遠くでした気がした。耳が遠くなっている様な…ハグリッドが何かを喋っている?

 

慌てた様子のハグリッドが立ちあがろうとした瞬間、私は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

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