シャルロット視点
私たちが着替え終わるとちょうど、機関車がホグズミート駅…ホグワーツに一番近い駅に到着した。私とダフネ達は通路に溢れる生徒の波に加わった。
押し合いへし合いだ。
パンジーが金切り声で文句を呟いている。
「あいたっ!ちょっと!今私の足踏んだの誰よ!」
「…暑いわね…。」
ドラコ達の背中もちらりと見える。
クラップとゴイルが巨体を活かして周りを押してスペースを確保している。ドラコはその背中で不愉快そうに周りを見回している。
外に出ると、小さな暗いプラットホームだ。
夜だけあって、真っ暗闇である。
夜の底冷えした空気が肌を刺す。
やがて私たちの頭上に、ゆらゆらとランプを灯した一人の大男が現れた。
「イッチ年生!イッチ年生はこっち!」
その立派な髭を生やした大男は、大声でがなり立てると、ハリーポッターの前にまで行って彼と親しげに話している。
パンジーは不愉快そうに顔を歪めると、私とダフネの耳元で囁いた。
「見て!あれ、穢らわしい不恰好な森番よ。よくあんなのが居るわね!ポッターもあの様子じゃダメかしら。ウィーズリーなんかと一緒だし。」
…もしやあれは半巨人というやつでは?
私は図鑑で見たことしかないので、二人のように嫌悪よりも新鮮な驚きが身を包む。
なるほど。魔法耐性を持っているというのも頷ける、強靭でがっちりとした体だ。
言葉も通じそうだし、私たちとは"違う生物"だが、頼りになりそうだ。
二人は彼が半巨人だとまでは思っていないらしい。
だが私は何となくそう直感したのだ。
あそこまで大柄なのは不自然だし、まず間違い無いだろう。
「さあ、ついてこい!イッチ年生!ついてこいよ!」
彼は険しくて狭い小道をずんずんと進んでいく。滑りやすくて危ない…ってうわっ!?
私は思いっきり足を滑らせ、後方に倒れ込みそうになる。それを誰かが逞しい腕で抱き寄せてくれた。
ゆったりとした黒髪の、ごつ…立派な体躯をした女の子だ。
「あら、ミリセント。相変わらず立派な体ね。」
そう隣のダフネが落ち着いた様子でその女の子に呼びかける。
「ダフネは細すぎない?…まあ、いいけど。」
そう言うと、彼女は私をそっと離した。
どうやらそれなりの付き合いらしい。短い会話でも、気の置けなさがなんとなく伝わった。
「ありがとうございます。助けてもらって…私はシャルロット・スラグホーンです。貴女は?」
「私はミリセント・ブルストロード。聖28一族の一員よ。…半純血だけどね。よろしくシャルロット。」
そう自己紹介を交わして挨拶し、互いに握手した。…握る力つっよ!
半純血の生徒を、私はどうこう言うつもりはない。彼らにも尊い血は流れているし、マグルの片親程度なんてこともない。
その後も黙々と歩いていくと、やがて角を曲がったところで、ホグワーツの姿が現れた。
狭い道が急に開け、湖のほとりに出る。
湖の向う岸の険しい山の頂には…見たこともないほど壮大な城が建っていた。
思わず感嘆のため息が出る。隣のパンジーもダフネも、ミリセントも見入っているようだ。
高い塔が伸びており、無数の窓ガラスが月明かりを浴びてキラキラと光っている。
「凄い…!」
伯父様。私は外に出てから感嘆しっぱなしです。
その後は騎士に繋がれていた小舟に、四人ずつ生徒が乗って渡っていく。
私はミリセントとダフネ、そしてパンジーと一緒に乗った。
ちらりと見えたドラコは、クラップとゴイルと乗っている。二人の体躯が大きすぎて3人でも窮屈そうだった。
崖下を潜り、深く暗いトンネルを抜けると、船着場に到着した。
それからしばらく石の道を歩くと、城に辿り着いた。
…正直私はだいぶ歩いて息が上がる。家から出たことほとんど無かったからなあ…。
「ハァ…ハァ…」
「ちょっと、大丈夫?」
ダフネが私の背を摩ってくれる。…柔らかな女の子の手だ。お陰で少しずつ息が整ってきた。
半巨人は生徒達に全員居るかと確認を取ると、扉を無造作に3回叩いた。
すると、中から黒髪のエメラルド色の綺麗なローブを着た、魔女が現れた。綺麗な整った顔をしているが、厳格そうな表情をしている。
ホラス伯父様の話が正しいなら、彼女は変身術の教師のマクゴナガル先生だ。
厳しいが、優秀な先生らしい。
「マクゴナガル先生、イッチ年生の皆さんをお連れしました。」
「ご苦労様ハグリット。ここからは彼らを私が案内しましょう。」
玄関ホールは驚くほど広い。
私とホラス伯父様が二人暮らししていた家など比較にならない。
高い天井を見上げながら、私たちは大理石の階段を登っていく。
ダフネが少し感心したように呟いた。
「マルフォイ家の屋敷より立派かもしれないわね…。あ、今のドラコには内緒ね?」
マルフォイ家はここと比べられるほど凄いのか…
スラグホーン家の名を私が轟かせた暁には、私も立派な屋敷が欲しい…何だか、落ち着かなさそうだけど。
マクゴナガル先生はざわつき声の聞こえるホールの横の小さな一室に私たちを押し込んだ。
そして身なりを整えて待機するようにと告げると、部屋を出ていった。部屋の端の方でドラコとハリー達が少し言い争いになっているのが見える。
…やっぱり上手くいかなかったか。
パンジーが面白くなさそうに周りを見渡して、私達に問いかけてきた。
「ねえ、みんなは当然スリザリンよね?…シャルロットもそうよね?…何だか貴女変わってるところあるから不安になってきたわ。」
私はその問いかけにふふんと笑顔で答える。
「それは当然そうですよ。私の両親も誇り高きスリザリン生でした。」
その言葉にダフネも当然だと頷き、ミリセントも同意のようだ。パンジーは満足げに頷いた。
ざわざわとした室内の中で何気なく佇んでいると、茶髪の癖っ毛で乱れた髪の毛の、女の子がぶつぶつと魔法を呟いているのに気づいた。
それを聞いて私は少し驚く。
結構高等な呪文を知ってますね…よく勉強してきたようだ。まあ当然私が予習してきた範囲ですけど。
もしかして彼女も純血の血筋だろうか。後で話しかけてみようかな‥。
20人ほどの灰色のゴーストが通り過ぎる一悶着の後、マクゴナガル先生は部屋に戻ってきて、私たちを一列にして大広間に入っていった。
「…す、凄い…」
私は思わず目を輝かせて大広間の中を見渡す。各寮に分かれているのだろう四つの長テーブルを、何千という蝋燭が宙に浮いて照らしている。
金色の皿とゴブレットが眩く輝き、天井はまるでないかのように星空を映している。
先ほどの茶髪の女の子の声が聞こえてきた。
「本当の空に見えるように魔法がかけてあるのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ。」
…流石にそこまでは知らなかった。何だか無性に悔しさが募ってくる。いや、勉強には関係ない知識ですし。勉学では私が一番のはずですし。
上座にはもう一つ机があり、銀色の髪と立派な髭を生やした、きらきらとした青色の瞳をした老人が真ん中に座っている。大きな金の椅子に座っているのでよく目立った。周りの大人は教師達だろう。となると彼が、アルバス・ダンブルドア…今世紀で最も偉大な魔法使い。
その称号はいずれ私が…!
私が彼を凝視しながらマクゴナガル先生に連れられて机の前まで歩いていくと、彼は私に向かって小さくウインクした。
教授陣の机の前で、私たちは先輩達の方に一列に並ばせられた。何百という生徒とゴースト達の視線が突き刺さる。…悪くない感覚だ。目立つのは嫌いじゃないですよ?
すると、マクゴナガル先生が私たちの前に、椅子を一つ、そして小さなスツールと、それに乗った古臭いとんがり帽子を置いた。
パンジーがそのボロさを鼻で笑ったが、その帽子は何と歌い出した。
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
歌の内容は各寮の紹介のようだった。どうやらあの帽子が私たちの寮分けを決めるらしい。
ホラス伯父様の言っていた性格診断のようなもの、とはこういうことか。
私はスリザリンの部分の歌詞をしっかりと聞いていた。
まことの友…か。見つかるといいな。友達は私としても欲しい。
歌が終わり皆が拍手すると、マクゴナガル先生が長い羊皮紙の巻紙を持って前に出た。
「ABC順に名前を呼ばれたら帽子を被って椅子に座り、組み分けを受けなさい。」
…え、それってもしかしてSの私は結構後なのでは。
「ハンナ・アボット!」
金髪おさげの少女が、転がるように椅子の前に歩いて、帽子を被った。
そして帽子は叫んだ。
「ハッフルパフ!!」
ハッフルパフのものと思われる四つの机の一つから、歓声が上がった。
太った修道士のゴーストが、微笑んで手を振った。
どんどんと組み分けが進んでいく。やがてその名前が呼ばれた。
「グレンジャー、ハーマイオニー!」
すると先ほどの茶髪の女の子が走るように椅子に座って帽子を被った。
…グレンジャー…グレンジャーか。
聞いたことないな。となると彼女は純血ではないのだろうか。…意外だ。
「グリフィンドール!!」
彼女はグリフィンドールの机に走っていった。まあ私ほど優秀ではないにしろ、それなりに知識の深そうな子だったので、スリザリンでないのは少し残念だった。
以前聖マンゴで会ったネビルくんも、グリフィンドールだった。帽子を外し忘れるといううっかりをして、大広間は笑いに包まれた。
ドラコはスリザリンに即座に決まった。
ハリーポッターはグリフィンドールだ。
グリフィンドールは「ポッターを取った!ポッターを取った!」と大騒ぎだ。
ミリセントもダフネはスリザリンだった。
私は少しそわそわしながら眺めている。
いや、もしこれでグリフィンドールだったら彼女達に申し訳が立たない。そしてついにその時が来た。
「スラグホーン、シャルロット!」
私はかつかつと椅子に歩いていく。
緊張して耳がキーンとする。周りの音がよく聞こえない。
そして帽子をかぶると、目まですっぽりと覆われた。…小柄なの気にしてるから少し癪ですね、これ。
とんがり帽子は小さく唸った。
「ふーむ…いや、こいつは難しい。度胸もある、学びたいという欲求もある、善良さも秘めている。狡猾さもある…うーむ…いや、これは…」
そしてそんな風に唸って帽子は3分ほど黙っていた。周りが軽くざわつきだす。
それと同時に私も焦り始めた。そして小声で呟いた。
「あ、あの!スリザリンにしてください!」
「む?スリザリンが良いのかね?確かにあそこでは、君には栄誉ある道が待っている。だが、面白いものだ、今年はスリザリンはダメだの、スリザリンが良いだの…」
そう面白そうに帽子は答えると、…また沈黙しながら思案し始めた。そして、2分ほど経過してから意を決したのか頷き、叫んだ。
「スリザリン!!」
スリザリンの机が歓声を上げ拍手をした。
私は小躍りするようにスリザリンの机に行く。
良かった!これでお母様とお父様と同じ尊い寮に入れた!
…そして上級生に案内された席では、ダフネが左隣だった。そして右隣には…一人のゴーストが座っていた。
銀色の血で服を汚し、虚な目にげっそりとした顔。お世辞にも見ていて気持ちのいいゴースト…ではないですね、ええ。
ただ、ゴースト自体を見たのが新鮮だった。その隣にはドラコが嫌そうにゴーストを眺めている。
ダフネが苦笑いして小声で言った。
「スリザリンに無事入れておめでとう…正直助かったわ。ほら、あのゴーストの隣って嫌じゃない?」
私は軽く頷きながらも、恐る恐るゴーストに話しかけた。
「えっと、初めまして。私はシャルロット・スラグホーンです。貴方の名前は?」
そのゴーストはこちらをチラリと見ると、ボソボソと話し始めた。
「わしは血みどろ男爵だ。…スリザリンの新入生よ、歓迎するぞ。スリザリンの寮に住む者として、連続寮杯を期待しておる。」
そこから続けて生徒達が組分けされた。
ウィーズリーは案の定グリフィンドールに入った。ウィーズリーはグリフィンドールと相場が決まっているのだと前の先輩が教えてくれた。
やがてブレーズ・ザビニという黒人の背の高いハンサムくんがスリザリンに入ると、無事組み分けは終了した。
すると、ダンブルドアが立ち上がって、人の良さそうな顔でニッコリと笑って大声で言った。
「ホグワーツの新入生、おめでとう!では二言、三言、言われていただきたい。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」
…えぇ…?
グリフィンドールは一際大きな拍手と喝采を送ったが、スリザリンはどこか冷ややかだ。
ドラコやパンジーなど鼻で笑っている。
ダフネが呆れたように呟いた。
「なにあれ?ぼけてんの?」
「…えーと…何でしょうね。」
すると、大皿が即座にいっぱいの料理で埋め尽くされた。ローストビーフにポークチョップ、ソーセージにベーコンにポテトに…
肉料理多くないですか?
用意してくれたであろう屋敷しもべ妖精には悪いが、ちょっとくどすぎるように感じる。…どうせ肉なら、父の焼いてくれた焼き鳥が食べたかった。
だが、口に入れてみれば意外といける。脂っこいが、美味しい。
やがて食事を一通り食べると、次は…おおお!デザート!デザートが現れた!
アップルパイに糖蜜パイ!いちごにゼリー!ライスプディング!
私は食事の時以上に張り切ってデザート類を頬張っていく。
ダフネは微笑んで私の膨らんでいる頬をつついた。
「ふふ…甘党なのね、シャルロットは。可愛いわ。」
私は思わず顔を赤くして俯く。…ゆっくり食べよう。ゆっくり。
やがて食事が落ち着いてくると、先輩方とドラコ達が話し始めた。最初はたわいもないクィディッチの話題だったが、やがて純血家系の話へとなっていった。
「僕は常々、半純血はともかく、穢れた…あー…マグル生まれなんぞ入れるべきではないと思ってますよ。先輩方もそう思うでしょう?」
そのドラコの言葉に先輩方は笑って頷いている。
「そうよね、ドラコ!聖28一族の筆頭だけあるわ!立派な意見よ…血を裏切る者とは大違い。ねえ、ダフネもシャルロットもそう思うでしょう?」
パンジーが私たちに話を振ってきた。ダフネは無言で頷いてパイを食べている。私は少し曖昧に笑って、自分の意見を答えた。
「確かに、純血の家系が優先して教育を受けるのは大事ですよね…才能が違いますから。我々はマグル生まれを教え導く立場です。」
その言葉に、ドラコは気をよくして答えた。
「まったく、その通りだ。下等なマグル生まれが、のうのうとここに居るのは許し難いね。お父様も言っていたよ。身の程を我々が教えてやるべきだとね。」
…そういう意味で教えると言ったわけではないんだけど。訂正すると面倒そうなので、黙っているが。
デザートも消えると、ダンブルドアがまた立ち上がって諸連絡を言い始めた。
廊下で魔法を使うなだの、クィディッチの予選があるだの、当たり障りのないものだ。ただ、最後の注意は奇妙だった。
「最後に、とても痛い死に方をしたくない人は、四階の右側の廊下に入ってはいけません。今年限り。」
流石に冗談だと思ったが、上級生の反応を見る限り、本当のことらしい。
「では、寝る前に校歌を歌いましょう!ホグワーツ ホグワーツ ホグホグ…」
その…歌?…歌?を歌い終わった後、私たちは寮に向けて解散となった。
スリザリンの監督生であるジェマ・ファーレイに連れられて、私たちは階段をどんどんと降りていく。
「地下に寮があるのよ。湖が窓から見えて…きっと気にいるわ。」
ファーレイ先輩はそう言いながら階段を降りていく。やがて何でもない壁の前で立ち止まると、巨大な蛇の彫像が地面からゆっくりと立ち上がって、扉を作り出した。
「さあ、合言葉で寮に入るわよ。これは二週間に一回変わって、掲示されるから気をつけておいてね。寮監のスネイプ先生に教えにもらいにいくのはやめておいて。不機嫌になるから。それじゃあ、『マーリンの野望』」
その合言葉で、扉がゆっくりと開いていく。すると、談話室が皆の視界に入る。新入生は、わっと声を上げた。
…細長い談話室の中央には、暖炉が暖かく周りを照らしている。ゆったりとした緑調の家具と壁紙が落ち着いた雰囲気を生み出し、窓からは湖が見える。
チラリと巨大イカの足が見えた。
ドラコが嬉しそうに呟いた。
「これは…悪くないね。僕の屋敷と同じ…いや、多少は落ちるけどね。」
気取った感じを取り繕っているが、興奮は隠せていない。
パンジーは媚びた声でドラコに擦り寄り、私とダフネは微笑ましそうに彼を見つめた。
女子部屋のルームメイトは、パンジー、ダフネ、ミリセントだった。聖28一族勢揃いだ。
パンジーが嬉しそうに言った。
「良かった!家柄がしっかりしてるルームメイトって、安心よね。マグル生まれなんかと一緒になったらと思うと、ぞっとするわ。」
私は皆に挨拶すると、寝る前に鏡で自分の容姿を確認する。
黒髪は先ほどの茶髪の女の子とは違い、きっちりと梳かされて肩まで流れるかのように纏まっているし、母様譲りの緑の瞳に長いまつ毛もばっちりだ。
小柄な身長だけは気に食わないけど。
私はここで一番優秀な純血の学生になってみせる。そう心に決めて、今は取り敢えず疲れた体でベッドに潜り込んだ。