人は光を求める生き物である   作:カバー

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偉大な魔法使いの忠告

 

 

 

 

シャルロットが地面に頭から落ちてピクリとも動かなくなったのを見て、スリザリン生とマダム・フーチはこれ以上ないほどに青い顔になった。

グリフィンドール生は呆然とした顔で何が起こったか分からないと言わんばかりの表情をして困惑し、囁き合っている。

 

マダム・フーチは大慌てでシャルロットにすっ飛んでいって、必死で声をかけた。

 

 

「スラグホーン!シャルロット!聞こえますか!…なんてこと、意識がない…。」

 

 

 

マダム・フーチはすぐにシャルロットを肩に担ぐと、ネビルの怪我がないのを目視で確認して、生徒達に叫んだ。

 

「い、いいですか!私はこの子を医務室まで運びます!その間に誰も動いてはいけません!箒にも触らないこと。もし触ったら、クディッチの『ク』の字を言う前にホグワーツから出て行って貰いますからね!」

 

 

 

そのまま大慌てでマダム・フーチは背中で脱力し切っているシャルロットに心配そうに声をかけながら去って行った。

 

ハリー達のルームメイトであるディーンとシェーマス、それにロンがネビルに駆け寄った。ハリーもそれに続いた。

 

ハリーが気遣わしげにネビルの背中をさすりながら尋ねた。

 

 

 

 

「大丈夫か?ネビル。怪我はない?」

 

ネビルは真っ青な顔をして、無言で頷いた。

グリフィンドール生達は安堵した声を上げる。その背後のスリザリン生から、鋭い声が上がった。

 

「何が怪我はない?だ。そりゃないだろ。うちの優等生がお前らのスクイブ坊やを助けてあげたんだから。」

 

 

 

ドラコは嘲ったようにそう冷やかしたが、その声音にはどこか苛立ちも籠っていた。

ダフネとパンジーが前に出る。

普段気怠げで言い争いにも参加しないダフネだが、今日は違うようだ。

 

「そうよ!あんたんとこのそのチビで間抜けなデブのせいで、シャルロットが大怪我したじゃない!どうしてくれるの!?」

 

 

 

 

そのパンジーの金切り声に、ネビルの顔がさらに青くなる。

 

「ご、ごめんなさい…ぼ、僕のせいで…」

 

ロンがその間に割って入って、真っ赤になって叫んだ。

 

「何がネビルのせいだ!あいつが怪我したのは、あいつがとち狂ってネビルと同時に飛んで箒からずり落ちたからだろ!」

 

 

 

グリフィンドール生の何名かがそうだそうだと囃し立てた。ダフネは気だるげな様子とは打って変わって、静かに怒った様子で呟いた。

 

「それでも、そこの間抜けをシャルロットが助けなければ、シャルロットは自力で助かった。それは自明の理でしょ?」

 

「………う、ぼ、僕…」

 

ネビルはもはや言葉をろくに発することもできない。パクパクと言葉にならない言葉を口から発している。

それが尚更気に食わないらしい。ダフネはさらにネビルに詰め寄ろうとする。すると、ハリーがそこに立ち塞がった。

 

「…君の言ってることもそうかもしれない。でも、だからどうしたっていうんだ?ネビルを責めたって、彼女の怪我が無くなるわけじゃないじゃないか。後からネビルがお礼を言って、終わる話じゃないのか?」

 

「……………」

 

 

 

 

ダフネは言葉に詰まる。少し冷静になったらしい。が、ドラコはそれで納得しなかった。ハリーを突き飛ばすと、ネビルの思い出し玉をぶんどった。

 

「いーや。そんなので終わる話じゃないね。この馬鹿にはうちの稼ぎ頭をあんな風にした償いをしてもらわないと…」

 

マルフォイはそういって思い出し玉を天に掲げた。キラキラと陽の光を浴びて思い出し玉が輝く。

スリザリン生達がそうだそうだと囃し立てた。

 

 

 

ハリーは顔を赤くして叫んだ。

 

「マルフォイ、返してもらおう。」

 

ネビルは声も出せずに成り行きを見守っている。

ドラコはニヤリと笑って言った。

 

 

 

 

「そうだな…ロングボトムが後で取りに来れる場所に置いてみようじゃないか。木の上なんてどうだい?流石のスクイブくんでも木登りくらいできるだろ?」

 

「こっちに渡せマルフォイ!」

 

ドラコは箒に乗って地面を蹴ると、ふわりと滑らかに宙に浮いた。

 

上空からドラコはハリーとネビルを見下して嘲笑った。

 

「こっちに来いよポッター!スクイブくんは無理だろうけど!」

 

 

ハリーは箒を掴んだ。ハーマイオニーが止めたが、それも聞かずに上空へと飛び出した。

 

ドラコは密かにハリーの飛行技術に驚愕していた。ハリーは真っ直ぐにドラコに突っ込み、ドラコは辛うじてそれを躱した。

 

ドラコは思い出し玉を地面に投げ捨てると、捨て台詞を吐いて稲妻の如き速さで地面に戻って行った。

 

これで少なくとも恥は与えられた…が、ハリーはなんと急降下してその思い出し玉を華麗にキャッチした。

 

グリフィンドール生の歓声が巻き上がる。が、それは一瞬で掻き消えた。

 

「ハリー・ポッター…!」

 

マクゴナガル先生が現れたのだ。彼女はハリーを怒鳴ると、連れ去ってしまった。

 

ドラコはせせら笑った。

これでハリーは退学間違いなしだろう…だが、ダフネはそんなことどうでも良かった。自分の友達のことを、彼女は心の底から案じていた。

 

「…焦ったい。このまま待機だなんて。」

 

 

****************

 

 

 

 

 

シャルロット視点

 

 

 

目を開けると、真っ白な天井だった。辺りを見回すと、どうやらここは医務室らしい。白いシーツのベットに横たわって、頭にはぐるぐると包帯が巻かれている。

窓から外を見ると、すでに日が暮れていた。何があったんだっけ…

 

私が起きた物音を聞いたのか、カツカツと一人の女性が歩み寄った。その格好から看護士であることが分かった。品のいい初老の女性だ。

 

 

 

「起きましたか?結構。軽い脳震盪ですよ。…全く。初回の授業から生徒を怪我させるなんて、フーチらしくない…今晩はここで安静にするように。念の為です。」

 

その説明を聞いて、私は顔から火が出るのではないかと思った。そうだ。初回の飛行訓練の授業で私はあんな無様を…

情けない。何が純血の模範生か。

箒に乗れないなんて、まるで…

 

私が顔を真っ赤にして両手で覆っていると、マダム・ポンフリーはかぼちゃジュースをベットのそばの机に置いた。

 

「飲んでおきなさい。こういう時には甘いものが一番です…何かあったら私を呼んでくださいね。」

 

 

 

そう言って彼女はつかつかと歩き去って行った。

私はしばらくベッドの上で呆然としていた。なんて失態でしょう。なんて恥でしょう。私は本当にあの二人の娘なのでしょうか…

 

そんな思いが頭をぐるぐると回って、どうも落ち着けない。だからだろう。声がかけられるまで、彼のことに気づかなかったのは。

 

 

 

「こんばんわ。良い夜じゃの、シャルロット。」

 

慌てて正面を見ると、きらきらとした青い瞳が半月型の眼鏡の奥で光っていて、優しい笑みを浮かべる老人が居た。ダンブルドアだ。

 

私は怪訝に思いながらも尋ねた。

 

「こんばんわ、ダンブルドア先生。私に何か御用でしょうか?」

 

ダンブルドアはその問いかけに笑顔で答えると、片手に持っていた籠をテーブルに置いて、頷いた。

 

「何、単なるお見舞いじゃよ。君は甘いものが好きだと聞いたのでな。一人で夜を過ごすのは寂しかろうと、まあわしも正直いうと寂しかったから来たのじゃが…同じ甘味好き同士、話でもしようじゃないか。」

 

そう茶目っけたっぷりに彼は語ると、籠の中からチョコクッキーを差し出した。

 

私はそれをありがたく受け取って、頬張った。…美味しい!甘いチョコに、サクサク生地のクッキーが…ホラス伯父様から貰ったものには負けるが、それでも美味しい。

 

顔に出ていたのか、ダンブルドア先生は微笑んで言った。

 

「おお、そんなに喜んでくれるとは良かった。わしもこの銘柄のチョコクッキーが好きでの。君は食べたことあるかね?」

 

「…いえ。この銘柄のものは初めて食べます。どこの物ですか?ホグズミートの?」

 

その答えにダンブルドア先生は、さらっとにこやかに答えた。

 

「いや、マグルの百貨店の菓子じゃよ。わしゃあ、それも好きじゃが特にレモン・キャンディーが好きでの…」

 

…私は驚く。少なくとも今世紀最高の魔法使いが、平然とマグルの菓子を差し出してくるとは思わなかったのだ。ホラス伯父様はあまり私の前で彼の話をしたがらなかった。

何故だかは知らない。

 

だが、私にとっては嬉しいことだ。純血主義の一部は、マグルのものを極端に嫌うが、私はそうではない。だって、マグルにだって優れたお菓子職人がいる程度のことは理解していたからだ。

私たちが適切に管理すれば、マグルは正しく健やかに、優秀な者を生み出す。まあ、純血の者ほどではないけど。

そんなことを皆が分からないのが残念だ。

 

私は覗き込んでくる彼に微笑みかけて答えた。

 

「そうですか、道理で知らないわけです。ホラス伯父様はあまりマグルの所で買い物をしなかったので。…良いですね、このチョコクッキー。後でどのひゃっかてん?で売ってたのか教えてくれませんか?」

 

 

 

ダンブルドアはさらに笑みを深めて、ゆっくりと頷いた。

 

「もちろん。おお、しかし少し安心した。君がマグルの物など食べれんと吐き出すかと少し失敬な思い込みをしておったのじゃ。」

 

私は少し眉を顰めて尋ねる。

 

「そんなことしませんよ。私が純血主義だからやりかねないと思ったんですか?」

 

ダンブルドアは少し悲しそうな顔をすると、答えた。

 

「まあ、そうじゃな。しかし、君はどうやら違うようじゃ。すまんの、年寄りのくだらぬ戯言と聞き流してくれ。」

 

私はダンブルドア先生に誤解されるのが嫌ではっきりと答えた。

 

「私は純血主義ですよ。スラグホーンの名を誇りに思っています。…だけど、マグルの菓子を捨てたりしない。それだけです。…先生は誤解されているようですね。本当の純血主義とは、どういうものか…」

 

ダンブルドア先生は鷹揚に頷くと、髭を撫でて言った。

 

「それは、ぜひご教授頂きたいの。」

 

私はごほんと咳払いをすると、彼にゆっくりと語りかけた。

 

「まず、純血の者が尊いというのは大前提ですが、それは私たち純血が優れた存在であり、そして非魔法族やマグル生まれを助けることができるからなのです。…その責務を果たさぬ者は、純血とは呼べません。"例のあの人"などが良い例ですね。傲慢で、力に驕り、責務を忘れた。」

 

ダンブルドアは目を細めて私の説明に聞き入っている。

 

「だから、私たちは誰よりも励まねばなりません。敬意とは、人助けの対価に得るものなのですから。そして、マグルを"より良い"道へと進ませることも、その責務の一部です。我らこそが、世界を"正しい"方向へと導けるのですから。」

 

私が一息に話し終わると、ダンブルドアは真面目な顔で佇んでいた。

そして、軽く拍手すると、はっきりと答えを返した。

 

「…君はどうやら、かなり壮大な夢を持っているようじゃの。そして、その根本は善意じゃ。なるほど、君は昨今の純血思想の一族に足りぬものを持っておる。」

 

私は一瞬嬉しさで舞い上がった。ダンブルドアが私の夢を理解してくれるなら、実現の可能性はかなり高く…

 

「じゃがの。」

 

だがそうはならなかった。

 

「そもそも、根本からして純血思想というものは紛い物なのじゃよ、シャルロット。純血を保とうとすれば、親戚同士で婚姻をし続けるしかない。だがそれは土台無理な話じゃ。奇形や、歪な形の子が生まれてしまう。故に、彼らは家系図には残してはおらんがマグルとも結ばれておる。マルフォイ家でさえものう。」

 

私は頭に血が昇るのを感じる。まるで子供に対して諭そうとして、とんでもない暴論を彼は言っている。そんなはずがない。

 

 

 

 

「…それは単なるデマですよ、先生。純血の品位を貶め、彼らを軽んじようとする一派のものです。先生ともあろうお方が、騙されないでくださいよ。」

 

ダンブルドアはそれでもきらきらした青色の瞳で私を覗き込んで、諭すように話し続けた。

 

「信じたくないのは分かる。じゃがの、正しい知識から目を塞ぎ、闇に走れば、必ず痛ましい結末となるのじゃ。シャルロット、まずは目を開き、価値観に縛られずに知ることからじゃよ。」

 

私は苛立ちを抑えきれずに呟いた。今世紀最大の魔法使いでさえ、純血思想を誤って解釈しているのだ。

 

「‥先生も例のあの人の純血思想への風評被害に囚われているようですね。あんなことがあったから、そんな暴論で純血のものは差別され、マグル生まれが誤ったほど高い地位になるのですよ?」

 

ダンブルドアはチョコクッキーを一つ頬張った。そして間を置くと、淡々と答えた。

 

「わしはむしろ逆じゃと思うがのう。マグルに関する者は、今魔法省で不当に扱われておるのじゃ。アーサー・ウィーズリーはもっとお賃金を貰っても良いとわしは思う。」

 

私は言葉に詰まる。正直、このまま論争を続けても彼に口で叶う気がしないのだ。私が"正しい"のは分かりきったことだが、彼には通じないらしい。

 

ダンブルドアは、一転して真剣な顔つきになって言った。

 

「シャルロット、それとわしから一つ忠告じゃ。この世に"間違わん"者など居らん。…わしもかつて、魔法族が非魔法族を支配すれば世界は良くなると信じた、愚か者を知っておる。その愚か者は、結果的に大事な家族の一人を驕りの代償として失ったのじゃ。君にもその道を歩んで欲しくはない。」

 

「ご忠告どうも。」

 

 

 

私はぶっきらぼうにそう答えた。ダンブルドアは軽く肩をすくめると、元の笑顔に戻った。そして、ゴソゴソと黄色い小さな包みを私に手渡した。

 

「それではわしはそろそろ帰るとするかの。明日の朝も早くての。…レモン・キャンディをお食べ。しゅわしゅわして、わしが好きな理由が分かると思う。」

 

私は感謝すると、包み紙を剥がしてキャンディを口の中に放り込んだ。しゅわしゅわして、確かに楽しい。

 

ダンブルドアは笑顔でおやすみと言うと、ゆっくりと去っていった。が、去り際に一言私に呟いた。

 

「半純血じゃろうが、マグル生まれじゃろうが優秀な者は沢山おるよ。勿論、ここにものう。このホグワーツで、君がその一人から学ぶことを願っておるよ。」

 

私はキャンディを転がしながら黙りこくった。…そんなはずはない。純血は何よりも優れた素質を持っている。

私は心の中で生まれた疑問から必死に目を逸らした。

 

フリットウィック先生は、小鬼の血が混じっていても、ずっと優秀じゃないか…クラップとゴイルはどうなんだ?彼らがフリットウィックより優れているのか?

 

「うるさい…彼らは単に、まだ才能が開花していないだけよ。フリットウィックが優秀なのは、半分以上は魔法使いの血だからだわ。」

 

 

 

キャンディは、酸っぱい味がした。

 

 

 

 

 

 

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