シャルロット視点
「いや、それで純血だと決まったわけじゃないでしょ。」
私が上機嫌な様子で帰ってきたのを見て不思議に思ったのか、ダフネがどうしたのかと聞いていたので、私はハグリッドさんとのことを、部屋でダフネに話して聞かせていた。
自分の緑のふかふかのベットで仰向けに寝転びながら、ダフネは綺麗な金色の髪を指でくるくると弄りながらそう呆れたように呟いた。寝巻き姿に少しドキドキするが、悟られないように話を聞く。
「冷静に考えなよ、シャルロット。家名もはっきりしてないハグリッドの言葉一つで純血だって分かるわけないでしょ。」
「うっ…それは、そうですね。」
そう二人で話していると、パンジーとミリセントも部屋に戻ってきた。
そして、彼女達にもその話をすると、二人とも同様の反応をしてきた。パンジーに至っては、
「ちょっと勘弁してよシャルロット!あんな毛むくじゃらの野蛮人が純血なわけないでしょ!」
「もし仮に両親が魔法使いだとしても、祖父母辺りで絶対碌でもない血が入ってるわよ!」
…そういえばそうですね。彼は両親は魔法使いだとは言ったが、祖父母までは言及しなかった。どこかで巨人の血が混じっている可能性も否定できない。
私としたことが。ハグリッドが優秀な魔法生物学の知識を持っているとしても、純血だと決まったわけではないのに。
彼に親しみを感じすぎてしまったのかもしれない。
…だとしても、純血の血が少し混じっている半純血なら、例え半巨人だとしても、"マグル生まれ"より優れた素質を持っているということにはなりますが。
すると、ミリセントが少し不安げに私達の目をちらちらと見ては俯いているのに気づいた。
ダフネがミリセントに声をかける。
「どうしたの?調子でも悪い?」
ミリセントは少し下を向いて黙りこくっていたが、やがておずおずと言葉を捻り出し始めた。
「その…私、ブルストロードの血は引き継いでるけど、半純血だから。みんなからどう思われてるのか気になって。」
その告白に私とパンジーは言葉に詰まる。
半純血。
確かにスリザリンといえども、全員の生徒が純血ではない。いや、むしろはっきりと純血と明言できるのは私にドラコとパンジー、ダフネ、ノット…後はマルフォイが連れている時点でクラップとゴイルもそうでしょうね。
ブルストロードも聖28一族に連なる者なので純血だとばかり思っていた。
そうか。こういうこともあるのか。
確かに思い返してみれば、他の聖28一族の面々は皆自身の純血を誇示していたが、ミリセントだけはそうしていなかった。
ダフネはそんなミリセントに呆れたようにため息をついて声をかけた。
「知ってたわよ、そんなこと。別に良いじゃない。貴女はブルストロード家の尊い血を受け継いでいて、このスリザリンに選ばれた。それだけで十分じゃない?」
そのダフネの言葉に、パンジーも慌てた様子で加わった。
「そうよ!あんなロングボトムのスクイブなんかより、貴女の方がよっぽど純血らしいわ。」
私はお父様の言っていたことを思い返しながら、自分なりに思った通りの言葉を口に出した。
「そうですね。確かに純血の完全性が尊いのは間違いありませんが、半純血だとしても尊い血が流れているのは何も間違いありません。」
そして柔らかく微笑んで私はミリセントに思いの丈をぶつけた。
「私も貴女を友達だと思ってますよ、ミリセント。」
お父様にもかつて居たのだ。半純血の友達が。
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「僕もシャルロットと同意見だな。変に気にするなよ、ミリセント。」
朝食のハムエッグを切り分けながら、そんな風に上機嫌に鼻歌でも歌いそうなほど明るく、ドラコはミリセントの悩みに答えていた。
その横ではいつも通りパンジーがドラコに寄りかかっている。この光景にもだいぶ慣れてきました。
まだクラップとゴイルの食事風景には慣れませんが…彼らも純血なら、きっと他に魅力があるのだろうとは思うが。
「随分上機嫌ですね?ドラコ。何かあったんですか?」
そう私がオートミールを飲み込んで問いかけると、ドラコはふふんと鼻高々に笑って見せた。
「分かるか?まあ見てなよ。グリフィンドールの席では、二人欠けてるはずだよ。傷モノと血を裏切る者がね。」
…ハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリーのことだろうか。
私がまた何かしたのかと口を開きかけると、ザビニが面白そうにドラコに言った。
「へえ?なら俺の目は腐ったのか?今ハリーポッターと血を裏切る者が入ってきた気がするんだが。」
その言葉を聞いて、入り口に目をやるとドラコは固まった。そして、上機嫌さはかき消えて信じられないといった目つきになった。
「あいつら、どうやって…。」
それから話を聞いてみると、ドラコ曰く、ハリー達を夜間の決闘に誘っておいて、フィルチに告げ口をして捕まえさせようとしたらしい。ドラコ本人は行かないという卑劣さも兼ね備えている。
…なんというか。しょうもないですね。
私個人としてはハリーともウィーズリーとも仲良くしたいのですが。
ハリーポッターは当然、あの史上最低の反吐が出る"例のあの人"を葬ってくれた"生き残った男の子"なので、勿論仲良くなりたい。
ウィーズリ家に関しては、血を裏切る者であるという一点で、まあドラコ達の態度も分かる。
純血であるという誇りを傷つけられたらそれは当然怒るし、それは正当な怒りだ。
ですけど、それでも彼らは純血なのだ。
彼らに今一度本当の意味で純血とは何たるかを自覚してもらうためにも、ロナルド・ウィーズリーと懇意にして損はない。
それに、マグルと仲が良いのは決して悪いことでもないですしね。
彼らを私たちが教え導くためには必要なことです。
でも、まず嫌われてますよねえ…ドラコがこの調子だと。スリザリン生というだけで嫌われている恐れすらあります。…主にドラコとスネイプ先生のせいで!
スネイプ先生は相変わらずハリーが気に食わないようで、ネチネチと嫌味や減点を繰り返していた。
何か声をかける機会はないものか。
そんな風に考えていたが、結局答えは出なかった。
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一週間ほど経つと、ドラコが更に荒れる機会が訪れた。というよりも、スリザリン全体が荒れたと言っても良いかもしれない。
いつも通り、朝の大広間に大量の梟が手紙や荷物を持って訪れたその日には、いつもと違って6匹のオオコノハズクが細長い箱を持ってやってきたのだ。そしてその荷物はハリー宛てだと分かった。
ドラコは自分宛に届いた、いつもの自慢の高級菓子には目もくれずに、ハリー達に突っかかっていき、そして怒り狂って帰ってきた。
そして開口一番こう叫んだのだ!
「信じられるか!?マクゴナガルときたら、規則破りした生徒にシーカーの地位とニンバス2000をプレゼントしたぞ!」
そこからはスリザリン中ピリピリしっ放しだった。あのドラコに何かと嫌味を言うブレーズでさえドラコと共にスネイプに文句を言おうと騒ぎ立て、普段はグリフィンドールに興味なさげなダフネでさえ渋い顔をしていた。
パンジーなど言わずもがなである。きりきりと甲高い声で叫んでいた。
「なんであんなのが一年から出れてドラコは出られないのよ!?」
実際にドラコはスネイプ先生に直談判しに行ったらしい。返答はこうだった。
「吾輩とて、君の主張には完全に同意する。吾輩も苦情を校長に申し上げた。」
「だが、校長は既に認められていた。彼のグリフィンドール寮への態度はまっこと吾輩も遺憾に思わずにはいられんがな。…というわけだ。理解したかね?」
その時のスネイプ先生は、殺気で人も殺せそうなほどピリついて、仮面を被ったかのように無表情だったらしい。
…私としては、複雑な思いだった。
スリザリンの一生徒としては、それは不公平だと強く思う。クィディッチチームには一年生は原則入れないというのに、特例として入り、あまつさえ最新式の箒まで買い与えるのは、流石にどうかと思います。
それと同時に、ハリーポッターは両親を亡くし、辛い幼少期を過ごしたのが分かる以上、彼の功績に免じて、それぐらいのご褒美があっても良いのではとも思う。
そんな風に悶々とした時は、本を読むに限る。私はダフネ達を連れ添って、図書室を訪れた。
ドラコも付いてきたが、心ここに在らずといった様子で『クィディッチ今昔』を眺めていた。
私はニュート・スキャマンダー著の『幻の動物とその生息地』を読み耽っていた。
ハグリッドから聞いた話をノートに書き込んでおいたので、それと合わせて読むと新たな発見がある。よく観察して執念深く書かれた本だとよく分かった。
だが、パンジーやダフネ達は暇だったらしい。お喋りに耽っていたが、ひどく痩せていつも通りイライラした様子のマダム・ピンスにこれ以上騒ぐなら出ていってもらうと叱られてからは、小声で苛立った様子で文句を言っていた。
そんなひりついた空気の中、ドラコとパンジーにとっての刺激物が現れた。
長い栗色の髪の毛をした見知った女の子が近寄ってくる。そわそわとしながら私たちの様子を伺っている。
どうやら私に声をかけたいらしい。
が、ある程度まで近づくとドラコ達が立ち上がって、早速絡み始めた。
「これはこれは、グリフィンドールのでしゃばりじゃないか。贔屓されて調子づいてるのか?寄ってこないでくれ。匂いがうつる。」
そんな風なドラコのからかいに、パンジーは声を上げて笑った。ダフネはそもそも興味がないと言わんばかりに本を読み耽っている。
ハーマイオニーは顔を真っ赤にしてドラコに正面から反論した。
「悪いですけど、あなたになんて用はないわ!シャルロットに話しかけたかっただけよ。」
その言葉にダフネは本から顔をあげて、パンジーが嫌味っぽく罵声を浴びせた。
「あら?聞き間違いかしら?マグル生まれのブサイクちゃんがうちのシャルロットに用?」
三人の口論はどんどん激しくなる。やがて苛立った様子でマダム・ピンスが椅子から立ちあがろうとしていた。
「ええ!私と彼女、友達なの!もういいかしら!?」
そのハーマイオニーの大声で、場がしんと静まり返った。そしてパンジーとドラコが声を上げて大笑いした。
ドラコが皮肉たっぷりに言葉をぶつけた。
「おやおや!グリフィンドール生は現実も見えないらしい!君に友達?冗談だろ?豚とダンスでも踊ってるのがお似合いさ!」
「そうねグレンジャー!あなたにぴったりなのは豚小屋よ!」
その罵倒に、ハーマイオニーは火が出そうなほど顔を真っ赤にして、振り向いて走り去っていった。
その瞳は、微かに光っていた気がした。
…今度会ったら無礼を謝っておかないといけないですね。まったく。
私は呆れてため息をついて本を閉じ、二人を嗜める。
「二人とも…品がないですよ。それに、純血たるもの、他者には優しくしないと…。」
その私の忠告の言葉に、ドラコは不愉快そうに眉を顰めて、私に問いかけてきた。
「君、まさかグレンジャーもロングボトムと同じく、僕たちと一緒だとか言い出すんじゃないだろうね?友達だとでも?」
私はそんな的外れなおかしな問いかけに思わずくすりと微笑して、いやいやと首を横に振って、肩をすくめて笑った。
「まさか。それはないです。私達と彼女は、違う存在ですから。」
その言葉に、ドラコは一転して満足げに頷いてみせた。それでこそ純血だと。パンジーもにこやかに同意した。
そうだ。純血たる私たちと、半純血のミリセントのような存在とも、彼女は違うのだ。
かのゲラート・グリンデンバルドの言った通り、『違う生き物』なのだ。
私たちは、正しい道を歩む、理性的な存在で…
「シャルロット、それとわしから一つ忠告じゃ。この世に"間違わん"者など居らん。…わしもかつて、魔法族が非魔法族を支配すれば世界は良くなると信じた、愚か者を知っておる。その愚か者は、結果的に大事な家族の一人を驕りの代償として失ったのじゃ。君にもその道を歩んで欲しくはない。」
…うるさいですね。
私は間違えない。間違えてはならない。
常に私は正しく、理知的であらねばならない。何故なら私こそが、スラグホーンなのだから。
ならば何故ダンブルドアの言葉がやけに頭に響くのか?
何故今世紀最高の魔法使いはそんな戯言を…
その答えは、未だ出ない。
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それから暫く経つと、私たちもホグワーツを母校だと思う実感が湧いてきた。
動き回る階段や罠のようなどこにも繋がらない扉もほぼ把握できたし、授業にも慣れてきた。飛行訓練だけは、どうしても慣れないのが恥ずかしくてたまらないのですが。
幸い、マダム・フーチがあの一件以来私のことはかなり気遣ってくれるが、それが逆に居た堪れなかった。
そんな10月の末に入りかけた頃、私は地下のスネイプ先生の実験室で、ついにその薬を完璧に煎じてみせた。
「…うむ。見事だ、ミス・スラグホーン。この歳で真実薬を完璧に調合してみせたのは、君が初めてだ。スリザリンに30点与える。」
そう緑に濁った薬が詰まった小瓶を観察して、スネイプ先生は珍しく嬉しそうに私を褒めてくれた。
「ありがとうございます、先生。ここまで早く上達したのは、先生のご指導が素晴らしかったからです。」
実際、スネイプ教授の技術と指導力は相当なものだった。クサカゲロウの天秤でも測れない分量の微細な違いや、大鍋の的確な混ぜ方。
教科書よりも遥かに優れた知識を彼は熟知していた。
心の底から感謝の念を伝えると、スネイプ先生はふっと微笑んで答えた。
「我輩の指導が優れているのは当然のことであるが、それを真に理解できるものばかりではない。君は数少ないそのうちの一人のようだ。」
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そして、ハロウィンを翌日に控えた日の授業後に、私はフリットウィック先生の授業のない隙間時間を狙って、空いた教室で基礎的な呪文を教わっていた。
「いいかい?これは基礎的ではあるが、それなりに危険の伴う内容だ。くれぐれも慎重にね。」
彼は小鬼の血が混じっているので、まあ私より持って生まれた才能はないと思われるが、それを補って余りある努力で埋めたのでしょう。
とにかくいずれ私は越えなければならないが、優れた教師には違いない。
「はい。お願いします先生。」
「宜しい。では手首をしなやかにして…インセンディオ!燃えよ!」
そう唱えると、フリットウィック先生の杖から火が噴き出て、蝋燭に火を灯してみせた。
「この呪文の良いところは、とにかく万能なところだね。暖炉に火を灯すもよし。決闘で相手の隙を作るために派手に燃やしてもよし。君もやってみなさい。」
私は慎重に呪文を唱えて、フリットウィック先生の手首の動きを丁寧に真似た。
集中しすぎて気づかなかったのだ。この手の呪文を私が何も考えずに唱えたらどうなるかを。
「インセンディオ!燃えよ!」
次の瞬間、爆炎が私の視界を覆った。
気がつくと、教室の私の後ろを除いた半分が焼けこげていた。
端にあった木でできた椅子や机などが煤になって崩れた。
蝋燭など焼き尽くされて影も形もない。
隣にいたフリットウィック先生が引き攣った顔で呟いた。
「………君にこの手の呪文を教えるときは、個別に外でした方がいいかもしれないね。」
それから、この焼け跡をどうするかと二人で悩んでいると、扉を開けてキラキラとした青目のダンブルドアが入ってきた。
「これはこれは。随分と派手にやったのう。それ。」
そして気軽に杖を一振りすると、まるで巻き戻されるかのように教室の焼け跡が完璧に直った。椅子や机まで丁寧に直っており、傷の一つもない。
「凄い…ありがとうございます。」
「ま、長生きすればこの程度はの。わしの方こそ驚いた。君の魔法はかなりのもののようじゃの。」
彼は人の良さそうな笑みでそう笑うと、チョコレートを懐から出して差し出した。
「お食べ。勉強熱心で感心じゃの。…君は自身の力を制御するのに難儀していると聞いておる。ヴォルデモートの…あの一件での。」
私はチョコレートを受け取って、警戒しながらどう答えるべきかと頭を巡らせる。本当に彼には全てを知られている気すらしてくる。
それに例のあの人の名前を気兼ねなく出してくるとは思わなかった。
ここは正直に答えてみることにする。
「ええ。そうですね。それが何か?」
「それ以外に何か変わったことはないかね?」
私は質問の意図が分からず困惑する。
何が言いたいのか分からない。
例のあの人のお母様に行われた実験なんて、知りたくもない。
「特にないですが。」
「……それならよかった。何事もないのが一番じゃからの。明日はハロウィンじゃ。存分に楽しみなさい。」
そう言って微笑んでうなずくと、彼は扉から立ち去っていった。…本当に、底の知れない老人だ。
それに、やたらと私に構ってくるのもよく分からなかった。
あの綺麗な青い目を見ていると、何もかも見透かされている気がしてならない。まるで、何かを探られているかのような…。
「…考えすぎですかね。」
そう呟いては見たものの、どうもこの予感は当たっている気がした。