「スラーダうめー」
星海でも有数の観光地、夢の地ピノコニー。ここに訪れる為に人生を掛ける者も、数えきれない程いる。
そんな大観光地に、俺のようなただの旅人がいる理由は───ロビンから招待を受けたからである
そう、あのロビン。ピノコニーの夢境を管理するファミリーの一員であり、銀河に名を轟かせる歌姫である。
彼女とは旅の途中で何度か出会ったことがある。気に入られてるのは分かってたけど、まさかセレモニーの大事な時期に直接招待をされるとは思わなかった
これはもう、あれだ
「──俺の事好きだろ」
「……?何か言ったか?」
調和セレモニー。当然ロビンにとってもかなりの大型案件。さらに、ロビンは俺をただ招待したわけじゃない
『ピノコニーに来たら私に会いに来て。いつ来ても予定は空けるから』
この多忙な時期に?あの歌姫ロビンが?特に何もない俺との時間を?わざわざ?空けてくれる?
「……ま、流石に今行くのは悪いかな」
「……桃が無くなってしまった。すまない、持っていないだろうか」
こんな機会は滅多にない。でも、だからこそ一旦時間を置くのだ。普通に忙しいだろうし
「やっぱりセレモニーが終わった後にすべきかなぁ。うーん……」
「すまない、桃を───」
「お前は何でいるんだよ!」
さっきから俺の横で一生桃を食べていた紫髪の女性。名を黄泉……巡海レンジャーらしい
彼女は迷子だ。基本的あらゆる場所で迷子になり、よくわからない場所で発見される。それは大抵俺の前であり、そしてその度俺は面倒を見るハメになる。
「……?私が貴方の隣にいることが、そんなに不思議だろうか」
「慣れたよ?お前が迷子して俺の隣に来るのはもう慣れたよ?でもね?場所が場所なの。お前ホテルに勝手に入ってきたんじゃないだろうな!?」
「私もセレモニーに招かれている。心配はしなくて良い」
「え、そうなの?」
確かに今回のセレモニーでは外部の人間を招いたと聞いたが……なるほど、巡海レンジャーから代表で黄泉ってわけか
「へえ、お前迷わずに来れたんだな。偉いじゃん」
「……私もいつも道に迷う訳ではない」
「嘘つけ迷子」
黄泉が迷子にならなかったところなんて見た事がない。運良くピノコニーには辿り着けたようだが、どうせ部屋を間違えたとかそんなトラブルがあったに決まってる
「……………」
「……あの、そんなじろじろ見られると恥ずかしいんだけど」
瞬きすらせず、ただひたすらに俺のことを見つめている。なんの脈絡もない行動に困惑していると、黄泉はそっと俺の頰を触った
「……この傷はどうした?」
「え?」
「誰にやられた?」
ずい、と黄泉の端正な顔が眼前に迫る。圧と言うか、迫力というか、とにかく俺は黄泉に気圧され後ずさった
「いや……ちょっと、その…ナイトメア劇団、だっけか。そいつらに絡まれちゃって」
「……そうか、わかった。私が向かおう」
迷いなく、自然に席を立った。黄泉は俺の頰の傷を見て、明らかに憤っていた
「ま、待て待て待て!」
「貴方に危害を加えるもの、貴方を不快にさせるもの、それら全ては私の敵だ。刀を抜くに値する」
「いいから!待って、黄泉さん待って!大丈夫だから!ホントに!」
「……何故だ?」
黄泉の手が、再び頬に伸びる。割れ物を扱うような、心の底から労わる手付きで、そっと俺の頰を撫でた
「何故も何も、こんな些細なことで怒らなくていいって」
「……些細なこと?」
「ただの切り傷だろ?こんなのほっとけば治るって」
そう言うと、黄泉の目には明らかな怒りが滲んだ。同時に、心做しか表情に悲壮感が漂っているような気もする
え、何この空気……マジで怖いんだけど……
「その考え方は改めた方がいい」
黄泉の手が頰から離れる。彼女はそのまま俺の手を握り───いや待って何この手?恋人繋ぎじゃんこれ
「貴方はもっと自分を大切にするべきだ」
「充分してると思うけど……」
「貴方が傷を負った。……あってはならない事だ。あってはならない事なんだ」
黄泉の手が、ぎゅっと力強く俺の手を握る。若干痛い。でも、それを言うほど空気が読めないわけじゃない
「貴方の旅への同行を、以前の貴方は断ったな」
「こ、断りましたね」
随分前だが、黄泉が俺の旅への同行を提案してきた事が一度だけある。一人の方が気楽でいいから断った。黄泉は最後まで納得していなかったが
「今決めた。貴方が何を言おうと、私は貴方についていく」
「はい?」
冗談を言っているようには見えなかったし、黄泉はそういうのあんまり得意じゃない黄泉は本気だ。本気で、俺と一緒に行動するつもりでいる
「私が貴方の刀になる。貴方はただ、斬れと命じるだけでいい。私の全ては、もう貴方のものだ」
「だから何言ってんだよ!?」
頭が追いつかない。黄泉に何が起きたんだ?何かがお前をそこまで焚きつけるのか? それに、と黄泉は続けて言った。まるで何かを思い出したかのように
「……貴方が傷を負った時……私の心臓にも、穴が空いたようだった」
「あ、空いたって……」
そんな大袈裟な。そんな言葉を挟む隙もなく、黄泉は強く俺を見つめて続けた
「私は貴方を守る為に生きている。貴方の為ならこの命など惜しくはない。だから、貴方を傷付ける全てから私は貴方を守る」
「……」
「一度は、貴方の意思を尊重した。だが今は、それだけは絶対に受け入れられない。今度は貴方の意思すら曲げてでも、私は貴方を守ると決めた」
黄泉が一気に俺の胸ぐらを掴む。そしてそのまま、有無を言わせず自らの顔を近付けた
……思いの丈を、熱く語ってくれた。普通なら、普通なら言われたことをしっかりと考えて、返事を返すべき場面
だけど─────
(顔良っっっっ!)
目の前にある整い過ぎた顔面のせいで黄泉に言われた事全部忘れちゃった……
「……聞いているのか?」
「うぇ!?き、聞いてる!聞いてた!」
近い近い近い。胸が当たってるんだっての!心臓バクバクなるからやめてくれ!
俺の胸ぐらを掴んでいた黄泉の手が離れる。しかし今度は身体ごと迫って来て、俺は壁に押し付けられてしまった。逃げられないようにする為か、足と足が絡まる程に密着している
「ちょ、ちょっと、あの……」
「構わないな?」
な、何の話だったっけ?確かついてくるとか守るとかなんとか言ってたっけ?確かに旅の中で黄泉に守ってもらったことは何回かある。滅茶苦茶頼もしかった。
「早く。早く、答えてくれ。でないと─────」
瞬間、俺のポケットから鳴り響く高い電子音。スマホだ。誰からだろう、こんな時に………!?
「ろ、ロビン!?」
スマホに映った通知は、ロビンからのメッセージを告げていた。せめて通知から内容を確認せねばと画面を触った瞬間、鳴り響いた電話の着信音
「え、あっちょっと待ってて電話でなきゃってあれ繋がってる!?」
なるほど、夢境パワーか
まだ触ってないのに繋がった電話に驚きながらも、片手で黄泉を制して一旦ロビンへの対応を済ませることに
「も、もしもし?ロビン?」
『どうして来ないのかしら』
開口一番これかよ
『夢境にいることは把握しているわ。予定は空けているのだから、早く来てちょうだい』
「そ、それはわかってるけど……その今ちょっと立て込んでて……」
『へぇ?貴方の側にいる女性と関係があるのかしら』
「………な、何の事すかね?」
何で知ってるんだよクソが!
昔からそうだ!俺が女の人と一緒にいる時のロビンはやたらと怖いんだ!
『誤魔化さなくてもいいのよ?私との約束を放って、女性と二人でいる。そんなこと、ずっと前からわかって─────』
「えっあっ黄泉!?」
黄泉が俺のスマホを横からかっさらった。そのまま、明確な敵意を持った声質でロビンに応答する
「彼に付き纏うのはやめてもらおう。どこで、誰と、何をしようと、それは彼の自由だ」
『あら、付き纏っているのは貴女の方ではないかしら?私はただ彼に“話”があるだけ。貴女の事はどうでもいいの』
バチバチだ!黄泉とロビンがバチバチにやりあってる!頼むから喧嘩しないでくれ!
「貴女との会話の余地はないな。……全ては彼次第だが、斬られることを覚悟しておいた方がいい」
一方的に告げ、黄泉は電話を切ってしまった。ロビンもやばいだろうし、目の前の黄泉も間違いなくやばい。これ不味くない?
「……さぁ、命じてくれ。貴方のために、私はこの刀を振るう。……あの歌姫を斬れば、証明になるだろうか」
ファミリーの一員、銀河に名を轟かせる歌姫。そんなロビンを斬るだなんてことをすれば、一気に星核ハンター並のお尋ね者になってしまうだろう
だが、俺が命じれば黄泉は躊躇なくそれを実行するだろう。覚悟、愛情、色んなものを黄泉から感じて────
「あっちょっ顔良っじゃなくて!駄目だからねそんなことしたら!」
銀河を旅する中で出会う人は、どれも一癖も二癖もある人物ばかり。だが、そうだとしても────
「畜生──どいつもこいつも顔が良い!」
一般銀河旅人
顔がいい奴らに好かれる一般銀河旅人。戦闘能力は無いクソ雑魚。実は結構金欠なので誰かから金を借りたいと思っているが、そんな勇気は無い。石心の誰かの前か宇宙ステーションの所長の前でそんな事を言えば一生かけても使いきれないぐらいの金を渡される事に気づいていない