「…………ねぇ」
「んー?」
黒髪のツインテール、あり得んくらい顔が良い、性格に難あり。この三点だけ覚えておけば良い仮面の愚者───花火
そんな彼女は今、どういう訳かホテルレバリーの俺の部屋にいた
「多分何かの仕込みなのはわかるんだけどさ、俺の前でやってて良いの?」
「いーの。一人でやるのつまんなーい」
片手で自分を模した人形を手作りし、もう片手で数えきれない程ある謎のボタンを一つ一つ押してる。………薄々気づいてはいたけど、バグみたいな器用さしてるよなこいつ
「それより、体に変なとこあったりしない?」
「無いよ。珍しく素直で大人しいお前にびっくりしてるくらいには元気」
「あー!心配してあげてるのにそういう事言うんだー!もー知らない!」
「うぇ、ごめんて」
多分、普通に純粋な心配だ。夢境の中で目覚めたあの時、俺を起こしたのは花火だった。焦りという、花火が滅多に出さない筈の感情を剥き出しにしてたのがすごい印象的だったな
「……ほんと、心配かけさせないでよね。君は花火のお気に入り、終わりになんてさせてあげない」
「俺の人生好きにできる権利はお前には無いと思うんだけど………」
「そんなのいらなーい。大事なのはー、花火がどうしたいかだよー?」
こっちまでたじろぐほど穏やかな笑顔を浮かべて、俺の後ろまでやってくる。その位置のまま───
「んぇ」
「にっひひー!隙あり!」
後ろから抱きつかれた。背中に感じる柔らかい感触と、耳にかかる生暖かい息のダブルパンチだ。花火は見た目だけはとにかく良いので控えめに最高
「仕込み終わったの?」
「うん、おわったー」
俺の背中に顔をうずめて、ぐりぐりと押し付ける。何というか、こう、猫………
「本当に君って不思議、近くにいるだけでこーんなに愉しいんだもん!」
愉悦を求める仮面の愚者にとって、愉しいは最高の褒め言葉であり愛情表現。嬉しいけどなんか複雑だな
「………暇だしデート行くか」
「えー?そういうお誘い?君となら何しても楽しいしいいけど……別に今ここでやってもいいんだよー?」
「揶揄うな、普通にその辺歩きたいの」
「はぁーい。お供しまーす」
──────────────────
花火を側に侍らせながらピノコニーを歩く。時折手品っぽいのだったりけん玉だったり見せてくれるのでロビンにガイドしてもらった時と同じぐらい楽しませてくれるが、それはそれとして女連れは目立つ。おかげで周囲の視線が痛い
「あの記事が大分効いたかなー……」
「あのつまんない記事ー?失礼しちゃうよねー!君は花火のなのにね?」
「違うけどね?」
………ずっと思ってたけど、何で皆はこんなに俺の事好きなんだろ。考えても考えてもわからない……もうそういう星の元に生まれたって事で納得しとくか……
「折角のピノコニーなのに気が休まらん…どこぞのゴミ箱あさりを見つけた気分────」
「ねーねー、アレって芦毛ちゃんじゃない?」
上半身をゴミ箱の中に突っ込み、恐らく、本当に信じられないことだが恐らくゴミ箱を漁っているであろうその少女
ゴミ箱の侵略を受けて尚露出した脚部の艶めかしさは健在で、もう脚だけで顔の良い女なのが伝わってくる
………のに、だというのに
「相変わらずよくわかんないシュミしてるよね〜」
「流石の愉悦も守備範囲外だったか」
流石に放置も良くないので、ぶっちゃけあんまり関わりたくはないけれど仕方なく引っ張りに行く旨を伝えるべく花火に目を向ける
花火は俺が言葉を発するより早く、めっちゃくちゃ可愛い笑顔と頷きで反応してくれた。神かな?
「おし、花火ゴミ箱持って」
花火がゴミ箱を掴み、俺が妖怪ゴミ箱漁りこと開拓者改め星の腰を掴み、互いに反対方向に引っ張る
「うわっ」
結論引っ張り出す事はできたけど、俺が勢いに耐え切れず尻もちをついた。当然それは星も同じで、尻もちをついた俺の上に座るような姿勢に
「大胆だね」
「大胆にもゴミ箱漁ってる奴が言うと説得力が違うな」
下から見上げる星の顔。呆れるほどに滑らかで美しい銀髪と、ずっと見ていたくなるような金色の瞳は、ついさっきまでゴミ箱を漁ってた人間とは到底思えない
つまり、大変顔良
「お?」
花火が俺の上に乗ってた星を引き剥がした。なんかムスッとしてて非常に可愛い
「ゴミだらけの体で旅人ちゃんに触んないで。汚れちゃうでしょ?」
「う、正論……」
珍しくストレート正論花火様である。星はささっと俺の上から退き、倒れたままの俺に花火が手を差し伸べる
「大丈夫?」
「平気、ありがとな」
花火の手を借り立ち上がりつつ、所々ゴミを纏った星に目をやり尋ねる
「何でゴミ漁ってたの?」
「ゴミ箱は宇宙だし……」
「花火、翻訳できる?」
「むり〜」
愉悦もお手上げとなるともう無理だろうな。コイツの行動原理を理解するのは
「ていうか、あんたは花火と何してたの?」
「何してた、と言われると……」
うーん、暇だったからその辺歩き回るのに付き合ってもらってただけだし、別に特別何かをしていた訳ではない────
「───デートしてたんだ〜」
「───本当?」
体を押し付けながら、花火が囁く。星の目と声色が変わる
「……いや、その」
観光地を女性と2人で巡る。うん、立派なデートである
「ニュアンスの違いというか、やってる事はそうだけど微妙に違うというか」
「えー違うのー?花火の心を弄んだんだー!旅人ちゃんひど〜い!…………デート、してたよね?」
「私、あんたとデートなんてした事ないんだけど。花火とはするんだ?」
なんか、こう、すごい、デジャヴ!
こうなりゃ選択肢は一つ、三十六計逃げるに如かず!思い出せ、ターボババアだ!前旅した星に居たよくわかんない爆速ババアを思い出せ!
「あっ、逃げた──って速ぁ!?」
現実と見紛う程の広さの中を全力ダッシュで逃走だ。どういう訳かクソ速度出てるしまず追いつかれる事はないだろう。俺の旅に修羅場はいらない。いるのは新たな発見と顔の良い人だけだ
「へぶっ」
やべ、こけた
──────────────────
「……………」
逃げたのは正しい判断だったと思うけど、今となってはその判断を物凄く後悔している。ちくしょう、ここが俺の旅の終わりか……なんてね、夢の中だから痛いだけで済むけど
「………見逃してもらえたりとかは?」
「逃す訳ないだろ!お前が、お前がロビンさんを……!」
例の記事に充てられた厄介ファンに絡まれてしまった。目の前にはナイフ持った男が1人、俺クソ雑魚、全力疾走直後で体力も残ってない。詰んだ
「ほ、ほら、ここ夢境だし、こんな事しても意味ないと思うな〜なんて……だから見逃して……くれないよね、わかってた……」
「現実のお前も殺すに決まってるだろこの屑が!」
「やめといた方がいいんじゃないかな……」
現実の俺を殺すと言ってる以上、従業員の中にも協力者いたりするんだろうか。……まぁ今は俺の部屋花火いるし、そっちは心配しなくていい
「俺がロビンさんを守───ぶべっ!?」
「あ、夢境の中でも心配いらんかったな」
とんでもない速度で男の頬に飛来した一枚のカード。俺にとっては結構馴染み深いものだ、持ち主は───
「怪我はないかしら?」
「ばっちり元気だよ。ありがと」
「間に合ってよかったわ」
どこか占い師っぽい風貌のどエロお姉さん系メモキーパー、ブラックスワンである。例によって会うのは初めてじゃないし、助けてもらったのも同じく
「相変わらず苦労するわね、貴方は……そんな記憶もまた素晴らしいのだけれど」
「俺の記憶なら内容なんて気にしない癖に……」
メモキーパーらしく、ブラックスワンは記憶オタク的な一面がある。案の定俺の記憶は大好物みたいで、どんなにクソみたいな記憶でも喜んで貰おうとするのだ
「わかっているでしょうけど、貴方の記憶を貰えないかしら。対価は……お姉さんでどう?」
「安売りしないの」
「こんな事するのは貴方だけよ」
ちなみに、別に記憶を上げたからって記憶喪失になるとかそういうのは無い。つまりは完全にこっちに利しかない取引である。たまにこれで金たかってる
「く、そ…!」
「あら、少し浅かったかしら」
「急いでたもんな、しゃーないしゃーない」
ぶっ倒れてた男が復活を果たした。カードを構える、つまりは戦闘体制に入ったブラックスワンの背後に速攻隠れて───
「えい」
「ごふっ!?」
「後頭部フルスイング!?」
ここでまさかの銀河打者登場、見慣れたバットを暴漢の後頭部に叩きつけた。あの、容赦……
「旅人ちゃん速いよ〜!あれ?メモキーパーちゃんもいるじゃん!」
「花火さん……なるほど、相変わらずモテモテね」
星ちゃんに加え花火まで来た。そして男に目を落とすと、完全に白目をむいて気絶してる
「ちょっとちょっと!そんなの見てないで花火を見てよ〜!デートしてたんだからー!」
「それ、その話を詳しく聞いてない」
「デートの相手、花火さんで合っていたかしら?私だった気はしてこない?」
そんなわけ……あるわ。なんかブラックスワンとめちゃくちゃデートしてる記憶が湧き上がってきて………
「デートの話、早く教えて」
「早く花火と続きしようよー!も〜っと愉しいコト、教えてあげるから…!」
「そういえば、取引の返事をちゃんとしてもらってないわね。欲しいのは記憶、対価は私……どう?」
迫ってくる3人の美女美少女─────
「顔、良……」
ぼんやりと、そう呟く事しかできなかった
「これ、貴方にあげるわ」
「……?何このカード」
「メモキーパーとしての私の核よ。大事に持っていてね?」
「えっ」
「旅人ちゃ〜ん、これあげる!」
「何これ」
「花火の仮面!何に使っても、どう扱ってもいいよ〜!その方が愉しそうだし!」
「えっ」