進撃! 犬耳機動部隊   作:神谷萌

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Chapter-15

「Emergency! Emergency!!」

 警報音が鳴る。

「一体何が起きているんだ!?」

 攻撃輸送艦(APA)『プレジデント・ジャクソン』の艦内にも、緊急警報鳴っていた。だが、敵襲であること、それ以外の情報が伝わってこない。

『緊急出錨! 緊急出錨! 泊地を脱出する! 総員定位置に着け!!』

 ドォーン……

 ドォォーン…………

 まだ遠い、が確実に聞こえる砲声が、艦内にまで聞こえてくる。

 丁度、炎上するキャンベラが強引に左へ転舵し、ラピス・デル・プエルトとヴェンタ・トレドールがそれを回避してやはり左旋回を始めたところだった。

「敵襲か……大丈夫なんだろうな……」

「どうせ駆逐艦主体の小艦隊だろう……味方の巡洋艦部隊が追っ払ってくれるさ」

 乗組員達は、まだどこか緊張感しきれていない様子で、しかし作業を開始していた。

「チェストォオォォォッ!!」

 バキーッ!

「な、なに!?」

 1つの船室の扉が破られた。その扉の前に立っていた兵士が、慌てて手に持っていたM3グリースガンを構えようとするが、

「させるかっ!」

 艦内から飛び出してきた男の1人は、それより早く、日本語で声を上げながら、兵士の首に掴みかかるようにして、その後頭部を壁に叩きつけた。

「なんだこれは!? 日本軍の小銃とはぜんぜん違うぞ!?」

 船室から飛び出してきた4人組のうちの1人が、昏倒した兵士のM3グリースガンを拾い上げるが、困惑したように声を上げる。

「いや……こいつは機関短銃だな!」

 別の日本兵が、そう言って、最初に拾った日本兵からそれを受け取る。

「使い方がわかるのか?」

「ああ、上海でベルグマン式を使ったことがある。形状は違うが、弾をバラ撒くだけなら大丈夫だ」

「早速来たぞ!」

 最初に、見張りの兵士を昏倒させた日本兵が声を上げる。日本兵が脱走したと聞きつけて、数人の屈強な男が向かってきた。

「ジャップめ! 逃げ場はないぞ!!」

 英語でそう叫びながら向かってきた男たちはしかし、所詮は海軍の乗組員だった。白兵戦に長けた海兵隊の兵士はみんな上陸してしまい、艦内には作業担当の数名が残っているだけだった。

 日本兵に向かう彼らは、そのほとんどは拳銃すら持っていなかった。

 ダダダダダダッ

 M3グリースガンの掃射を浴び、米兵達はバタバタと倒れた。

 海兵隊兵士を昏倒させた日本兵は、その兵士からもうひとつ、拳銃を拾い上げる。コルトM1911『ガバメント』。

 他の2人も、その場に倒れた何人かが持っていた拳銃を奪い取った。

「とにかくどこでもいい、火を()けろ! ここに輸送船団がいる事が解るようにするんだ! 友軍艦隊はすぐ近くにいるぞ!」

 彼らは行動を開始した。船倉に押し入り、数人の兵士を射殺した。彼らのうちの1人も脚を撃たれて倒れ込んだ。

「構うな! 行ってくれ!」

 そう言いながら、倒れ込んだ日本兵は、また別に奪ったガバメントで、追手に撃ち返す。

「すまない!」

 そう言いつつ、残りの3人は行動を再開する。彼らもどうせ、生きて帰れるとは思っていなかった。

 米兵から奪ったオイルライターを破壊し、輸送物資と思われる箱にオイルを吸った綿とオイルを浴びせると、別のライターで火を点ける。そんな事を3度、4度と繰り返した。

 箱からは、獣皮が直火で焦げるときのような嫌な臭いを伴いつつ、煙が立ち上った。炎はまだ吹き出していなかったが、確実に燻り始めている。

 船倉内に煙が充満してきたのを確認すると、日本兵3人は上甲板へと向かった。甲板上でも火を起こしてやろうと突進する。

 倒した米兵からM3を奪っては、その乱射で米兵を薙ぎ払い、甲板に上る ────

「お、おおっ」

 彼らが甲板上に上がった時、丁度、松明のように燃え上がるキャンベラが雷撃を受けて、その構造が崩壊していくところだった。

 その炎に照らされた大型巡洋艦 ──── ラピス・デル・プエルトが、こっちへ向かっているように見えた。

「撃てぇーッ」

「船団はこっちだ! 構わず撃ってくれぇっ!!」

 彼らは、ラピス・デル・プエルトに向かって大声で叫んだ。聞こえるはずがないと解っていても、叫ばずにいられなかった。

 だが。

「あ、ああ……」

 頼みの大型巡洋艦は、彼らから向かって右に舵を切った。そばに別の敵艦がいる。そちらへ向かっていった。

「そんな……」

 彼らが悲嘆にくれかけた時 ────────

 グォオォォォン…………

 

『こちら衣笠2号機、敵輸送船団推定位置。これより照明弾を投下する!』

『キャルヴェロン1号機へ、日本隊は電波警戒器がない! 吊光弾投下を実施して!』

 上空観測の為に飛行していた、衣笠に搭載されていた九四式水偵の判断と、同じくキャルヴェロンのSe6水偵への指示が、ほぼ同時に起こった。

 ガダルカナル島北岸の停泊地の南東側で、2機の水上偵察機は照明弾(吊光弾)を投下する。

 九四式水偵は1発の零式吊光照明弾、単フロートのSe6は両翼からCH-30-1アルミニウム・マグネシウム航空吊光弾2発を投下した。

 まばゆい3つの光球が、パラシュートに吊られて漂いながら、ガダルカナル島側の輸送船団とその護衛駆逐隊を照らし出している。

 

 もはや必死の状況だと言うのに、笑いが込み上げてくるのが止められなかった。

 すでに、見慣れたシルエットの巡洋艦が、対岸の船団の駆逐隊と撃ち合っている。先頭の駆逐艦が炎上した。

「弾切れだ!」

 彼の戦友が、忌々しげな口調で言い、弾倉が空になったM3グリースガンを敵兵に投げつけた。

「ジャップめ、これだけのことを……────」

 米兵の言いかけた言葉を、聞き取り切ることはできなかった。

 弾薬かガソリンでも搭載していたのだろう。船倉の火災の消火に失敗したプレジデント・ジャクソンは、自身の船体が宙に浮くほどの大爆発を起こした。

 彼らは海に投げ出された。しかし、それは脱出につながるものではなかった。

 彼は、海面に落下した時はまだ自覚があった。だが、爆発の衝撃波で体内はずたずたにされており、仮に拾い上げられても助かる可能性はなかった。それは自分でも解った。

「あ、ああ……」

 彼は、最後に意識を手放す直前、巡洋艦が自分達の方へ向かって転舵したのを見た。

 

「畜生! こんなのは聞いてねぇぞ!!」

 バッグレイ級駆逐艦『ヘンリー』は、ガダルカナル島側の輸送船団停泊地で、エスコート任務に着いていた。

 彼らが警戒していたのは、主に潜水艦だった。万一日本軍の水上艦部隊が突入してきても、東側の海峡入口の巡洋艦部隊が追い払ってくれるはずだった。

 だが、彼らに正式な警報が発信された時、すでにキャンベラは超大型巡洋艦からの一方的な射撃を浴びて炎上し、その炎が見えている状況だった。その後ろで、シカゴが後続の敵巡洋艦との砲撃戦を行っていた。

 やがて、シカゴが動かなくなった。キャンベラも、先頭の敵超大型巡洋艦の行く手を阻んで転舵したが、そこまでだった。超大型巡洋艦は北集団の方へ向かい、後続の敵艦隊はこちらへ向かってくる。

 そこへ、3発の吊光弾が、艦隊、船団の内陸側へ透過された。

「くそっ、くそっ! 何が監視塔(Watchtower)だ! 誰がこんな作戦思いついた! ニミッツか? それともマッカーサーか!?」

 先頭を行く、駆逐艦『ブキャナン』に、敵の射撃が集中する。ブキャナンは、この作戦に参加している駆逐艦の中では比較的新しいグリーブス級だったが、それはあまり意味がなかった。敵の8インチ砲弾が少なくとも3発は命中した、艦首を破壊されたブキャナンはつんのめるようにして速度を失いつつ、急速に沈み始める。

「右に転舵しろ! ブキャナンにぶつかるぞ!」

「アイ・サー!!」

 ヘンリーと後続の駆逐艦2隻は、ブキャナンを回避するため右に変針した。しかしその結果、3隻の駆逐艦は鳥海、衣笠、青葉が集中して砲火を浴びせられる位置に出てしまった。

 一方 ────

 

「衝突する! 変針だ! 取舵25°」

 重巡洋艦『古鷹』は、このまま『加古』に続航した場合、敵駆逐艦 ──── ヘンリーに衝突する、艦長の荒木伝大佐にはそのように見えた。古鷹は左側へと大きく変針する。

「目標右舷側敵駆逐艦! 打ち方始め!」

 古鷹の前部2基の20サンチ砲が、ヘンリーに向かって火を吹いた。

 

「日本隊の最後尾、古鷹が左に変針します!」

「そちらに続航して!」

 ヴァレリアが下令する。キャルヴェロンは古鷹に続いて、左へ舵を切った。

「右舷側敵駆逐艦に照準、出来次第撃て!」

 古鷹より一瞬だけ遅れて、キャルヴェロン、さらに後続のヴァルヘイムも、20cm砲弾をヘンリーに向けて撃ち出し始める。

 

 古鷹は転舵の結果、敵からも味方からも少し離れた、海峡の中間付近に出てしまった。

「本隊に戻しますか?」

 荒木に対して、彼の副長は、そう訊ねたが、

「待て!」

 と、荒木は、前方を覗き込むようにしながら、それを制した。

「見張員、あの火災は何だ!?」

 彼らの前方視界の先で、炎 ──── プレジデント・ジャクソンの残骸が燃えながら漂流しているそれが見えた。

「……複数の艦が見えます! 敵です! 敵艦が脱出を試みています!!」

 双眼鏡を覗き込んでいた見張員が、興奮したような声でそう言った。

「キャルヴェロンに打電、『前方敵輸送船集団に突入する。速力24ノット。電波警戒器で規模を確認されたし。緊急時には指揮を乞う』」

 荒木はまず通信士にそう伝え、そして下令する。

「第3戦速! 前方砲戦準備! 目標、敵輸送船団!!」

 

 古鷹とチハーキュ隊本隊がツラギ島側の輸送船団への砲戦距離に達しようとしていた頃、日本隊本隊は残る2隻の駆逐艦を無力化し、ガダルカナル島側の輸送船団に肉薄しようとしていた。

「輸送船相手に魚雷は少し勿体ない気がするが、まぁいい、確実に仕留めてやれ! 魚雷、投射()ッ!」

 早川の下令で、鳥海の右舷側発射管から4本の九三式魚雷が発射される。同時に、衣笠、青葉、加古からも発射された。

「砲術長、どれを狙ってもいいぞ! 打ち方始め!!」

 すでにエスコートを喪った輸送艦に、鳥海以下の重巡洋艦は主砲でも狙いを合わせる。

 すでに吊光弾の光は消えていたが、燃える駆逐艦の残骸の先に、脱出を試みる輸送船団の姿が照らし出されていた。

「ははははは! こいつはいいぞ、手前から奥までびっしりと敵だらけだ! 狙いをつける必要もない、とにかく撃てば敵に当たるぞ!」

 興奮しきった様子の早川は高らかに笑う。彼の言う通り、次々と発射される20サンチ砲弾が、輸送艦を次々と破壊し、炎上させていく。

 輸送艦の殆どは、武装を持っていた。だが、その役割は上陸時の支援用で、軍艦相手に戦うための性格は持っていない。

 それでも、何隻かの武装輸送艦は英雄的行動を見せた。味方艦を逃がそうとしたのか、日本隊に舳先を向け、何発かの5インチ砲弾(約12.7cm)を発射した。

 だが、そこまでだった。

「魚雷到達、今!」

 水雷長の声とともに、鳥海の放った魚雷が、日本隊に一番近い位置にいた複数の艦で水柱を上げた。当たりどころによっては戦艦ですら行動不能に追い込む九三式魚雷だ、輸送艦はひとたまりもなかった。鳥海の魚雷は、最初、3本だけ水柱を上げた。外れたかと思ったが、わずか後にその奥側にいた別の輸送艦の艦尾に命中して破壊した。

 同様に、衣笠、青葉、加古から放たれた魚雷が、あちこちで水柱を上げる。

 ガダルカナル島側の輸送船団は、もはや壊滅というレベルを超えて、殲滅されようとしていた。

 

 北集団では、ヴィンセンスが息絶えようとしていた。リーフコール艦長の思惑通り、至近距離まで突撃する事に成功したが、そこはヴィンセンスにとっての地獄だった。2隻の超大型巡洋艦、特に2番艦 ──── ヴェンタ・トレドールは、24cm主砲だけではなく、射程に入り次第、16cm副砲、12.5cm両用砲まで使ってヴィンセンスを滅多打ちにした。

「わ、我々がやっているのは、20世紀の海戦なのか!?」

 ヴィンセンスに対して2番艦の位置にいた、ニューオーリンズ級重巡『クインシー』の艦橋から、その光景を見ていたサミュエル・N・ムーア艦長は、思わずそう言わずにいられなかった。

 ヴィンセンスに接近されたヴェンタ・トレドールは、それを回避するどころか、自分からさらに距離を詰め始めた。おそらく8インチを超える主砲、6インチ程度の副砲、5インチ程度の両用砲に加え、おそらく本来は対空用の3インチ程度の小口径砲、1・3/4インチ程度の機関砲までヴィンセンスに撃ち込み始めた。

 ── まるで、その艦が存在する事が許されない、1人も生かして帰さない、すべて破壊する ──── 海賊を見せしめに吊るすイギリス人のやり方のようじゃないか……!

 クインシーもすでに大破していた。相手の主砲弾が前部に命中し、前部の主砲塔は2基とも破壊されていて、満身創痍だった。

 ただ、なぜか敵はクインシーには大した執拗さを見せなかった。1番艦 ──── ラピス・デル・プエルトは、クインシーが大火災を起こしたのを見ると、主砲の目標を、さらに後続の、やはり同型の重巡『アストリア』に変えた。

 アストリアもすでに猛火に包まれており、そこへラピス・デル・プエルトが呵責のない追撃を加えていた。アストリアも多少反撃しているものの、ラピス・デル・プエルトは意に介していないかのように射撃を続けている。

 ── こいつに条約型巡洋艦では勝てない。

 ムーア艦長は、ヴィンセンス、アストリアを一方的に破壊していく敵超大型巡洋艦を睨みつつ、胸中で断固とした言葉を発する。

 ── こいつに勝つためには、あれが必要だ ────

 

 ── アラスカ級が!!

 

 ──────── チハーキュの技術界はその有用性を見出していないものの、ヴォルクスとフィリシスには、他の種族より鋭い “勘”、あるいは “第六感” が備わっていると言われている。

 例えばミッドウェイ海戦のときのアサギリがそうだ。彼女は小林機が空母ヨークタウンに突入しようとしていたのを感じ取っていた。

 また、ヴォルクスとフィリシスの間でも微妙に差異があって、ヴォルクスの “勘” は、連帯意識が強く働くことがある、と、魔法研究都市モスクラーの国立研究所はそのような観察論文を提出していた。無論、具体的かつ()()()()解明されているわけではない。

 クインシーに対して、ビクトリアやマグダレナが執着心を見せなかった ──── 逆に言えば、ヴィンセンスとアストリアが執拗に狙われた理由、それはこの3隻の戦歴を見れば、チハーキュ本国の者は納得したかも知れない。

 ヴィンセンスとアストリアは、ミッドウェイ海戦に参加していた。さらにヴィンセンスは、アメリカが空母に陸上双発爆撃機、ノースアメリカンB-25『ミッチェル』を搭載して行った、4月の東京爆撃にも参加していた。この時、爆撃は戦略目標とは認められない住宅地に及び、さらに学校の校庭に向かって機銃掃射を行った機体もあった。

 

 ズドォォォンッ!!

「!」

「アストリアが!」

 アストリアの左舷側に巨大な水柱が立った。SSB-55/200魚雷2本が命中していた。アストリアは崩れ落ちるように沈み始める。

 すでに、随伴の駆逐艦、バッグレイ級『ヘルム』とベンハム級『ウィルソン』も、ラピス・デル・プエルトの砲撃を浴びて、トーチのように炎上していた。2,000トンに満たない駆逐艦がここから、生き残れる可能性は限りなく低いだろう。

「変針右35°! 機関全速! 離脱する!」

「し、しかし、それでは輸送隊を見殺しにすることに……」

 ムーア艦長の下令に、乗組員が慌てたような声を出す。

「どうせ助からん。この作戦自体が失敗だった。近い内に我々はここから撤退することになるだろう」

 ムーアは確信をもってそう言った。彼はチハーキュ側の思惑を知らない。もっとも、その理由、膨大な損害、代償については、大きく外れているとは言えなかったが。

「我々は生き残らなければならない。生き残って、戦訓を伝える必要がある」

 ムーアは、自身が確信する “戦訓” を持ち帰るという使命に燃えていた。

 ──────── エセックス級空母の工期を順延してでも、アイオワ級戦艦、アラスカ級巡洋戦艦の建造を確実にするべきという “戦訓” を ────

 

 






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チハーキュ帝国海軍軍装、どちらがいい?(絵のリンクは Chapter-12 あとがき)

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